最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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10章「狩人たちの見る夢」

「醜い獣、ルドウイーク」戦、彼を導くは神秘の月光

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―――――――

…………とうとう醜い獣のHPが半分を切った。が、様子がおかしい。

俯いたまま、その濁った赤い瞳は自らの傷口から滴る血で作られる血痕に向いている。しかも攻撃をしてこない。それに戸惑った4人は攻撃の手を止め、様子を見守る。

頭を空に上げた獣の体が何かに感極まったかの如く震え、声が4人の耳に届いた。

「……………ああずっと、ずっと側にいてくれたのか
わが師、導きの月光よ………………」

「「「「!!!」」」」

低くよく通るしっかりとした人の声に4人が驚愕に目を見開く。

ばしゃあっと大きく血飛沫があがり、4人の視界は数瞬だけ赤黒い血の色に遮られた。


視界が晴れた時、4人の視界にいたのはもはや”醜い獣”ではなく…………




所々血で染まる、特別な真鍮細工の施された教会の狩人装束。

右手には血の滲む白布が巻かれた変形前の月光の聖剣。

夜空のような絶妙な色合いの黒い短髪と、狩人の証たる濁っていない赤い瞳。

身長は大体ヒビキたちと同じくらいか、少し高いぐらいか。

首に巻かれたひらひらとはためく透けた白い布が、穢れた月光を照り返し美しく輝く。

それはもう”醜い獣”―――――否、医療教会の始祖たる狩人、ルドウイークだった。

「………戻っ、た…………!?」

誰かが息をのむ。視界の先に立つ狩人は間違いなく、”正気を取り戻した”「聖剣の」ルドウイークだと感覚が言っていた。赤い瞳が見えたのは一瞬で、射干玉のように黒いヒビキの髪とは違い夜空のような黒い前髪の陰に隠れ見えなくなる。口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

次の瞬間、

「!!」
――――ガキィィイイ――ン!!

途轍もない速度で唐突に突き出された白帯の外れた発光モードの月光の聖剣を、咄嗟に弓剣の腹で受け止める。あまりの力に、腕が震えた。HPが衝撃で幾分か削れる。なんという能力値の高さ、なんという剣の重さか。
これの直撃を受ければ恐らく吹き飛ばされるどころか、背に剣の切っ先を生やして死ぬことになる。醜い獣形態の時とは違う、戦慄で一瞬身体が震えた。
知らず知らずのうち、対峙する4人にも笑みが浮かぶ。

「………………!神秘属性が全く通らねぇぞ!」

《精霊の抜け殻》を使って攻撃していたルクスが叫ぶ。横目で彼のHPを確認したが、確かに1ミリも減っていない。となると獣ではなくなったため炎と対獣属性も意味はあるまい。残るは………ノコギリ属性か。

「!!」

ヒュオッと風切り音が鳴り、クロノに投擲されたノコギリ槍が離れた位置から様子を窺うルドウイークを掠め床に落ちる。HPはミリ単位だが減った。つまりノコギリ属性は効くということだが……全く強化していないので正直クロノがやったように投擲ぐらいでしか活用できる気がしない。真っ向勝負で使うには決定的に火力不足だ。

「じゃ…真っ向勝負だ!ここはオレに任せてくれよな!」
「ちょ……ルクスさん!?」

中距離にいるヒビキと遠距離にいるクロノとアカが次の対応を取る前に、ルクスがルドウイークに斬りかかる。…逆にその方がいいのかもしれないと考えたヒビキも、隣の位置に動く。

クロノとアカは今まで通り遠距離から、今度は銃撃主体に移行するようだ。

「…………では、存分に楽しもうか」

元の始祖狩人に戻ったルドウイークを相手取り、後半戦が始まる。
左手を右肩に当て、右手の剣を構える様は実にらしいものだった。


――――
ルクスの選んだぴったり張り付いて真っ向勝負を挑むのは、結果的には間違っていなかった。変に中距離~遠距離にいると、光波飛ばしと最初してきたあの突きを多用してくるのだ。かといって油断していると足元を払われてからの両手持ち連撃→斬り上げに繋げられてしまいやすいので、突きをあまり使わないからといって気を抜いてはいけない。

「………………………………」
――――――キィィイイイ―――ン……

唐突にルドウイークが立ち止まり、聖剣を掲げる。その剣には徐々に暗い光が凝集し始め、見るからに危ない光量になっていくのを見て慌ててヒビキは大きく距離を取った。更に攻撃を続けようとするルクスの首根っこをひっつかみ、大きく距離を取り逃げる。ルドウイークはなんと壁を背にして溜め行動をやっているため、一番安全だと思われる背後には隙間がなく回り込めない。

「ッ…」

気づけばクロノとアカも射撃行動をやめ、じっとルドウイークの挙動を見つめている。

…数秒後。

―――ギィィン!!

「…………うおっ!?」
「……ッ!!」
「!」
「ぐっ!?」

強い光を纏った聖剣が大きく振られ、背後以外のほぼ全方位に巨大な暗い光波が飛ぶ!
ヒビキとルクスは咄嗟に伏せることで背中に若干血の滲む切り傷レベルに留まったが、2人より遠距離にいてタイミングがずれたのか反応しきれなかったアカとクロノは直撃だけは避けたもののもろに受けてしまう。

大きく吹き飛ばされ壁に激突し、その後2人は《気絶》してしまったようで動かない。HPを確認してみると殆ど空っぽでほんの数ミリだけ、根性を見せたかのように残っている。今の状態でルドウイークの攻撃を受ければ即座に死んでしまうだろう。

「アカー!?」
「気絶してるだけだ落ち着けルクス!俺らで何とか残り凌ぐぞ!今回復に走れば突きで背中からぶっすり刺されるのがオチだ!!」

動揺を隠せずアカの元に行こうとするルクスを抑え、無理矢理意識を引き戻す。実際、輸血液を使いに走れば隙だらけの背をあの高威力の突きで刺されて死ぬのは明白だ。というか、敵を前にしてむざむざ無防備な背中を晒すのは最もやってはいけない愚手の一つである。

「あ……ああ!」

ヒビキの発破で何とか持ち直したか、ルクスが頷く。銀の聖剣を構え、真っすぐ相手を見据える。ヒビキも弓剣を弓モードに変形し、血弾補充した水銀矢を番えた。変わらず薄く不敵に笑みを浮かべるルドウイークも、暗く発光する聖剣の切っ先を不敵にこちらに向ける。



――――その後数十分、緊迫した打ち合いは続いた。
ルクスは変形した大剣モードの銀聖剣をまるで直剣を振り回すように扱うので、攻撃速度は他の2人にも劣らない。ただ、2対1であるはずなのにヒビキとルクスに余裕は無い。月光の聖剣の直接剣撃と光波を巧妙に組み合わせ、斬り上げ、斬り下ろし、回すような一回転に横からの剣撃に斜めの剣撃、突きに薙ぎ払いなど、直接剣撃でもバリエーションが多い上に次に何が飛んでくるか直前まで予想できない。

一瞬でも隙を見せればそれらのコンボにハメられるので、相手の攻撃直後から次撃が来るまでの僅かな時間を突いて輸血液を使う。

「くそ、このままじゃあじわじわ削り切られるだけだぞ!?」
「………………っ!(回復に一瞬しか時間がかからねぇのは幸いだが……)」

リコード世界でのポーションは身体に振りかけるか直接飲むかで効果を発揮するのだが、と言っても一瞬で回復しきるわけではない。最上位のエリクサーですら、振りかけるか飲む→回復しきるまでに数秒かかる。逆に輸血液なら、身体に突き刺す→回復しきるまで1秒かかるか否かのレベルだ。

だがそれでも、あまりに隙が短すぎて輸血液の連続使用ができず、徐々に2人のHPは削られていく。装束に血が滲み、傷口から流れる血が床の血溜まりに落ちる。リゲインで幾許か回復しようにも、ルドウイークは回避もかなり機敏で攻撃が当たらない以上回復量も微々たるものでしかない。

「……ルクスは他の秘儀使えねぇのか?」
「………………使えねぇこともねぇ、けど……」

《エーブリエタースの先触れ》がギリギリ使えるレベルで、アカと比べると威力は遥かに落ちるとのこと。というかそもそも今のルドウイークに神秘属性は全く通用しない。が、ダメージよりその付随効果狙いなら話は変わる。

「じゃあ、《聖歌の鐘》を隙を見て鳴らしてくれ。一発でいい」
「…………?ああ、分かった」

ルクスが銀聖剣の変形を戻し、ポーチから小さな銀の鐘を取り出したのを確認するとヒビキはより注意を引くために更に曲剣を振るう。数秒後、ゴーン…ゴーンと手持ち鐘ハンドベルにしては低い音が響き、白い陣が一瞬だけ展開される。

「………っつ!」
「!」

ルクスの《聖歌の鐘》は回復量が少ない代わり何故か範囲がアカのより広かった。ヒビキとルクスのHPが幾許か回復し、気絶していたアカとクロノが復帰する。まだ痛そうな仕草を見せてはいるが、大きな問題はないようだ。

「ルクスさん!ヒビキさん!」
「……!」

復帰したアカとクロノは瞬く間に状況を察し、アカは《聖歌の鐘》と《彼方への呼びかけ》を同時使用、クロノはいつの間に手に入れていたのか《小さなトニトルス》を振り上げ青い雷光を落とす。

半分をギリギリ越していたルクスとヒビキのHPが一気に全快近くまで回復する。
どことなく落ちてきた青い雷が直線上を奔りルドウイークの動きを一瞬遅らせ、五芒星型に展開された10の星弾の内3つが命中する。無論星弾は神秘属性のためダメージなど殆ど無いが、動きはさらに数瞬止まった。

「……っ!今だっ!」

ヒビキとルクスが、残りの全気力を振り絞り武器を振りぬく。同時に、いつの間に溜めていたのかあの巨大な暗い光波がルドウイークの持つ月光の聖剣から発射された。

「………ッ!―――――!!」

真正面至近距離にいたヒビキとルクスは大光波の直撃を喰らう。その代わりに、2人の振るった刃もルドウイークの心臓部に届き、3人のHPは全く同時に………………


――――――0となった。

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