106 / 120
10章「狩人たちの見る夢」
謎の石と神秘と
しおりを挟む
――――――――
全員が作業を終え、禁域の森へ転移する。無論ルクスとアカは梟形態に戻って、それぞれ定位置についている。すると、森にある民家のランプ全ての色が赤くなっていた。薄い赤のランプは確か、住人のいる民家の印だったはずだが……。
「………………?」
「俺は周りを警戒してるから、話しかけてきてくれねぇか?多分どこでもいいはずだ…」
「はい………?」
訝し気な声で返答したアカが、人形態に戻って近くの民家に寄っていく。暫く何かやり取りをしていたようだが、何かを手に持って戻ってきた。どうやら話し相手がくれたものらしい。
その石は網目が張っていて、黒い靄を薄く纏い、手放しがたい妙な引力を持っていた。名前を、《扁桃石》というそうだ。何に使うものかもわからないので、取り合えず持っておくことにする。妙な雰囲気は感じるが危険物ではなさそうだ。
「先へ進むのか?」
「……とにかくここの領域主を倒してから考えることにする」
「わかった!」
機嫌よさそうに羽をバタバタしているルクスを横目に、以前既に辿った道をもう一度辿る。やはり以前一度通っているため、あまり苦労せず奥まで辿り着くことができた。その間、この森の先にあるというビルゲンワースの学び舎について色々話を交わす。
「傍から見ていれば聖歌隊以上に狂的に上位者への進化を探究していた組織です。今俺が持っている秘儀の中にも幾つか、ビルゲンワースが発端となったものがあります」
そういって《夜空の瞳》と《エーブリエタースの先触れ》を取り出して見せ、言い終わるとまた仕舞った。
「……………………オレは、ビルゲンワースはこの街を聖地たらしめた最初の場所だって聞いてるぞ。でももう半ばまで悪夢に侵されて、学び手たちもどれほどが生き残っているかは分かんねぇ」
「学長ウィレームは人の思索の在り方に絶望し『脳の内に思考の瞳を欲した』とか…」
「事実です。人として到達できる極致まで行ってしまったからこそ、今も生きているのでしょうが」
曰く、学長ウィレームは始祖狩人たちより更に前の時代からいたらしい。また、”思考の瞳”とは実際の瞳ではなく、上位者の思索の在り方に近づこうとしたという意味なんだとか。……相変わらず、啓蒙関連は哲学のようで理解が難しい。アカが言うに「ルクスさんもあまり考えすぎると頭がショート起こしてしまうんですから、考えるのは俺に任せておいてください」だと。やはり理解が追っつかないのは同じらしい。
…
―――――
取り合えず前半エリアは踏破し、エレベーターで後半エリアへ降りる。
やはりそこに広がっていたのは、鬱蒼とした薄暗い森の光景だった。似たような景色ばかりで迷いそうなので、いっそ左側の崖沿いに進むことにする。無論目印は倒した敵の亡骸で。
それだけでなく、あちこちにかがり火もあった。一緒に目印にできそうだ。
これは倒した敵が黒ガラスに変じて砕け散るリコード世界では決してできないことだ。が、一部のゲームをやったことのある人なら分かるかもしれない。
フクロウ形態のルクスとアカはそれぞれヒビキの頭上、クロノの肩に留まって大人しく周囲を見回し警戒している。留まられている側の2人も周囲の警戒は怠らない。
森の薄暗がりに紛れて、断続的に敵が襲い掛かってくるのだ。
―――パァァ…ン!
銃槍が火を噴き、多数の蛇が団子状に絡み合った「蛇玉」を吹き飛ばす。同時に側面にいた頭部が蛇の群衆「蛇憑き」はクロノの持つ聖剣に屠られた。左手側の崖を視野に入れながら、先に進む。途中、蛇の毒吐き攻撃で10回以上は全員【遅効毒】を発症したものの、大量に残っていた《白い丸薬》が大いに役に立った。
また、敵の中に紛れていた特に大きな蛇に対しては……
「ちょっと避けてくれよー!」
――パリン!
人形態に戻ったルクスが真っ先に《火炎瓶》をぶん投げ、対処していた。どうやら弱点だったらしく、その火炎瓶のひと投げで大蛇は焼け死んでいく。一方アカの方は、こっそりと持っていた《輝く硬貨》を目印に落としたり落ちていたアイテムを拾ってきたり、実は一番働いているのかもしれない。
そんな調子で道なりに下り坂を進んでいくと。
「?」
「引き返すか?」
行き止まりだった。通ってきた道以外、樹々と草と蔦が複雑に絡み合っておりどこにも道はない。
「それしかないですね」
ということで特に反対も無く引き返すことになった。
…
引き返す道中でアカが落とした《輝く硬貨》が目印になり、”もと来た道を逆戻り”にはならなかったものの…
十数分後。
「迷った?」
「迷いましたね…」
「迷ったー…」
「…………」
見事に道に迷っていた。いや、この森は馬鹿みたいに広い上迷路の如く獣道が入り組んでおり、敵の死骸を目印にしてもなお、迷ったのだ。ルクスはへたり気味だし、そこまででなくても他3人の顔にも疲労が見られる。
疲れ始めて重くなった足を引きずりつつ、まだ行っていない道へ足を踏み入れる。
…………更に数十分後、4人は道中で最低部と思われる蛍が飛ぶ水場を見つけてそこでへたりこんでいた。水場からは、紫色の光を零す灯りの花が目印のように並んでいる登り坂が伸びている。
「先はあの大砲があった建物につながってるエレベーターがあるみたいだぞー…」
「あんがとさん………ショートカットか……休んだら行こうか……」
「了解です…」
「……………」
全員肩で息をしている。報告し終えるや否やルクスとクロノはもう眠りの世界に旅立っていた。アカも樹に寄り掛かって座り、今にも寝そうにうとうとしている。そういうヒビキ自身も、意識を保つので精一杯なほど眠い。……しかし程なく全員が眠りについた。
…
―――――???
視界に映るのは少なくとも自分は見覚えのない広い空間。”月の魔物”と”狩人の夢”を象った巨大ステンドグラスに大きな祭壇、祭壇に片膝を立てた姿勢で腰掛ける朧な人影。
夜空のような絶妙な色合いの短髪に、赤い瞳、真鍮細工の狩人装束に、白い帯が巻かれた月光の聖剣。その人影はルドウイークであった。それに加え、祭壇の周りには銀剣を持った同じ真鍮細工の狩人装束を纏った人影が、何人も見える。
祭壇の周りを固める彼らは皆、銀色に輝く剣の柄を象った狩人証を下げている。
祭壇に飾られている夜空を映し込んだミニドームのようなものが、ぼんやりとした不思議な光を明滅させている。よくよく目を凝らすと、その不思議な光とルドウイークの間に何か薄っすら繋がりが見えた。
自分の手を見下ろすと、左手には月光の聖剣、右手には銀大剣が握られていた。銀大剣に施された精緻なレリーフに、細く白い光が脈のように這っている。それは右手にも及んでいるが、悪意は全く感じられない。
「………………何故、こんなことを?」
独白は誰にも聞こえない。
『……………………』
祭壇の周りにいる人影は各々互いに話しているようだが、声は聞こえない。夜空色の短髪の下から覗く、優しくも悲しげで冷たい赤い瞳が優しさを伴って細められる。
同時に自分の意識は薄れていった。
―――――???
視界に映るのは天井の見えないほど巨大な空間。壁は無機質な灰色だが、床には淡い色彩で複雑で大きな花の模様が描かれている。ふわふわと宙に幾つか浮かんでいるものはなんと、上面と側面に本がぎっちり詰まった本棚のようだ。それに紛れて、布が巻かれた狩り武器が浮かんでいる。
「……………………」
《彼方からの呼びかけ》を待機状態にして、周りを見回す。すると壁の上の方…といってもその全貌が見えるぐらいの位置に、これまた巨大な時計があった。藍地に白抜きで数字が描かれ、鈍く輝く金で数々の星座のレリーフが施され、時計の左上に時計の背後に重なるようにして赤い月の飾りもついていた。
「…………?」
その星見時計を見上げるようにして、誰かの朧な人影が現れる。独特な狩人装束を纏い、後ろ姿しか見えないが体形からして女性のようだ。腰には刀が一振り吊り下げられている。
―カチャッ
丁度真上の浮遊本棚から何かが落ちてきた。慌てて右手で受け止めると、それは細い金の鎖で首にかけられるようにしてある星見時計だった。壁の時計と同じく星見盤を文字盤代わりに、精緻な細工が施されている。しかし、その時計を手に取った途端に異変が起きた。
「………………!!」
音もなく更に多数の人影が現れる。獣でも人でもない奇妙な化物に姿を変えられてしまったはずの旧知の人々の朧な人影だ。ただ、彼らは普通の姿ではなかった。両目から、傷口から、血を流しながらもこちらに悲しげな優しげな笑顔を向けてきている。
「………皆さんっ………!!」
手を伸ばそうとした。が、彼らは首を横に振ると、しっかとした意思のある瞳でこちらを見てくる。同時に細く白い脈のような光が、伸ばした手に接し腕を這う。悪意は感じない。それより…………
『…………ごめんなさい』
誰かの声が微かに届く。
流れる血が床を這う。
床の花模様が赤く染まる。
そうなるにつれ、意識が薄れていった。
――――――???
沢山の武器が壁に寄りかけられ、床に散乱している。
視界は白く濃い霧のようなノイズで殆ど占有されていて、まともに見えない。
掠れて風化した記憶と同期しているかのように、ノイズは時折一瞬薄くなったりより濃くなったり不安定な様相を呈している。
ノイズの向こうに、感情を殺して死んだ瞳をした自分の、朧な影が見える。魔法仕掛けの小銃を片手で立て、どこを見るでもなくその瞳は焦点が合っていない。
周波数1.76MHz、悲鳴、絶叫、断末魔、縛られた意識。
「……………………!!」
気づけば、足元は音もなく赤黒い血の海で満たされていた。
…………唐突にノイズが晴れる。
血の海の中に立つ朧な人影は、いつの間にか自分のものでは無くなっている。後ろを向いた男性の狩人らしきその影は、青い官憲装束を纏い、下げた片手に鈍器のような回転ノコギリを持ち、骨が燃え尽きた後のような絶妙な灰色の短髪だった。しかも、凄まじい返り血を帯びている。
ふと月光の聖剣を持つ右手を見ると、細く白い光が脈のように剣を這い、手にまで及んでいる。しかし悪意は感じない。暫く唖然とした目で見ていると、月光の聖剣を持つ手にかかる重みが増えたような気がした。
視線を戻すと、その男性狩人の姿は消えてしまっており、ふと意識も薄れていった。
――――――???
冷たい雨が降っている。極夜の空にはぽっかりと紫色の月が妖しく浮かんでいる。
見知らぬ狩人たちが、周りで血塗れの姿で息絶えている。血の海の中に武器や銃器が沈んでいる。その中にしゃがみ込む、自分とそっくりの姿をした朧な人影がいた。しかしその瞳にはぱっと見て感情が無い。非常に無機質なものだった。
血質が高いのか、首には黒い笛のようなもの……秘儀アイテム《マダラスの笛》が下がっている。返り血に塗れたその姿を暫く茫然と見ていると、ふと唐突に虚空に溶けるように姿が消えた。
「………………?………!!あれは…」
代わりに滲むように現れたのは、トップハットが特徴的な独特の狩人装束を纏った男性狩人。少々歪な長柄の、黒い刃の大鎌を両手で握っている。目はトップハットに隠れて見えず、髪色はほぼ白に近い灰色。同じ朧な影の襲い来る獣の群れをきびきびとした仕草で滑らかに迎撃する様は、まるで葬送者のようだ。
ただ、その狩人は明らかに右足が欠けている……。
不意に両手を見ると、細く白い光がまるで脈のように腕を這っていた。悪意は感じない。暫く茫然としていると、すぐ前の血の海の中に、視界の先で男性狩人が振るっているのと同じ大鎌の、幻影が現れた。
意識が薄れる。完全に意識が途切れる前、葬送者のようなその狩人の紅い瞳がこちらを見た気がした。
【拾ったアイテム】
・血石の二欠片×16
・輝く硬貨×8
・狂気の死血【7】×3
・狂人の智慧×2
・血石の塊
・狩人装束「墓守」
・濃厚な死血【6】
・狂気の死血【8】
・カレル文字「深海」Lv2
・カレル文字「澄んだ深海」Lv1
******
森のエリア主戦(vs真っ黒装束の3人組)は次に。
ここまでの話の中に、4人の夢に出た名前が出てない朧な幻影がそれぞれ誰なのか予測できるまでの答えはあります。
おまけ
ある日のこと。
「アカー!」
ごすっ(ルクスがタックルする勢いでアカに飛びついた拍子に聖剣の柄の石突き部分がアカの横腹に当たる)
「うっ」
「……あ!ごめんっ!!」
「…………自分だからまだいいですけど、他の人にそれをやるのはやめて下さいよ?」
「わかってるって!」
2人はとっても仲がいいです。
全員が作業を終え、禁域の森へ転移する。無論ルクスとアカは梟形態に戻って、それぞれ定位置についている。すると、森にある民家のランプ全ての色が赤くなっていた。薄い赤のランプは確か、住人のいる民家の印だったはずだが……。
「………………?」
「俺は周りを警戒してるから、話しかけてきてくれねぇか?多分どこでもいいはずだ…」
「はい………?」
訝し気な声で返答したアカが、人形態に戻って近くの民家に寄っていく。暫く何かやり取りをしていたようだが、何かを手に持って戻ってきた。どうやら話し相手がくれたものらしい。
その石は網目が張っていて、黒い靄を薄く纏い、手放しがたい妙な引力を持っていた。名前を、《扁桃石》というそうだ。何に使うものかもわからないので、取り合えず持っておくことにする。妙な雰囲気は感じるが危険物ではなさそうだ。
「先へ進むのか?」
「……とにかくここの領域主を倒してから考えることにする」
「わかった!」
機嫌よさそうに羽をバタバタしているルクスを横目に、以前既に辿った道をもう一度辿る。やはり以前一度通っているため、あまり苦労せず奥まで辿り着くことができた。その間、この森の先にあるというビルゲンワースの学び舎について色々話を交わす。
「傍から見ていれば聖歌隊以上に狂的に上位者への進化を探究していた組織です。今俺が持っている秘儀の中にも幾つか、ビルゲンワースが発端となったものがあります」
そういって《夜空の瞳》と《エーブリエタースの先触れ》を取り出して見せ、言い終わるとまた仕舞った。
「……………………オレは、ビルゲンワースはこの街を聖地たらしめた最初の場所だって聞いてるぞ。でももう半ばまで悪夢に侵されて、学び手たちもどれほどが生き残っているかは分かんねぇ」
「学長ウィレームは人の思索の在り方に絶望し『脳の内に思考の瞳を欲した』とか…」
「事実です。人として到達できる極致まで行ってしまったからこそ、今も生きているのでしょうが」
曰く、学長ウィレームは始祖狩人たちより更に前の時代からいたらしい。また、”思考の瞳”とは実際の瞳ではなく、上位者の思索の在り方に近づこうとしたという意味なんだとか。……相変わらず、啓蒙関連は哲学のようで理解が難しい。アカが言うに「ルクスさんもあまり考えすぎると頭がショート起こしてしまうんですから、考えるのは俺に任せておいてください」だと。やはり理解が追っつかないのは同じらしい。
…
―――――
取り合えず前半エリアは踏破し、エレベーターで後半エリアへ降りる。
やはりそこに広がっていたのは、鬱蒼とした薄暗い森の光景だった。似たような景色ばかりで迷いそうなので、いっそ左側の崖沿いに進むことにする。無論目印は倒した敵の亡骸で。
それだけでなく、あちこちにかがり火もあった。一緒に目印にできそうだ。
これは倒した敵が黒ガラスに変じて砕け散るリコード世界では決してできないことだ。が、一部のゲームをやったことのある人なら分かるかもしれない。
フクロウ形態のルクスとアカはそれぞれヒビキの頭上、クロノの肩に留まって大人しく周囲を見回し警戒している。留まられている側の2人も周囲の警戒は怠らない。
森の薄暗がりに紛れて、断続的に敵が襲い掛かってくるのだ。
―――パァァ…ン!
銃槍が火を噴き、多数の蛇が団子状に絡み合った「蛇玉」を吹き飛ばす。同時に側面にいた頭部が蛇の群衆「蛇憑き」はクロノの持つ聖剣に屠られた。左手側の崖を視野に入れながら、先に進む。途中、蛇の毒吐き攻撃で10回以上は全員【遅効毒】を発症したものの、大量に残っていた《白い丸薬》が大いに役に立った。
また、敵の中に紛れていた特に大きな蛇に対しては……
「ちょっと避けてくれよー!」
――パリン!
人形態に戻ったルクスが真っ先に《火炎瓶》をぶん投げ、対処していた。どうやら弱点だったらしく、その火炎瓶のひと投げで大蛇は焼け死んでいく。一方アカの方は、こっそりと持っていた《輝く硬貨》を目印に落としたり落ちていたアイテムを拾ってきたり、実は一番働いているのかもしれない。
そんな調子で道なりに下り坂を進んでいくと。
「?」
「引き返すか?」
行き止まりだった。通ってきた道以外、樹々と草と蔦が複雑に絡み合っておりどこにも道はない。
「それしかないですね」
ということで特に反対も無く引き返すことになった。
…
引き返す道中でアカが落とした《輝く硬貨》が目印になり、”もと来た道を逆戻り”にはならなかったものの…
十数分後。
「迷った?」
「迷いましたね…」
「迷ったー…」
「…………」
見事に道に迷っていた。いや、この森は馬鹿みたいに広い上迷路の如く獣道が入り組んでおり、敵の死骸を目印にしてもなお、迷ったのだ。ルクスはへたり気味だし、そこまででなくても他3人の顔にも疲労が見られる。
疲れ始めて重くなった足を引きずりつつ、まだ行っていない道へ足を踏み入れる。
…………更に数十分後、4人は道中で最低部と思われる蛍が飛ぶ水場を見つけてそこでへたりこんでいた。水場からは、紫色の光を零す灯りの花が目印のように並んでいる登り坂が伸びている。
「先はあの大砲があった建物につながってるエレベーターがあるみたいだぞー…」
「あんがとさん………ショートカットか……休んだら行こうか……」
「了解です…」
「……………」
全員肩で息をしている。報告し終えるや否やルクスとクロノはもう眠りの世界に旅立っていた。アカも樹に寄り掛かって座り、今にも寝そうにうとうとしている。そういうヒビキ自身も、意識を保つので精一杯なほど眠い。……しかし程なく全員が眠りについた。
…
―――――???
視界に映るのは少なくとも自分は見覚えのない広い空間。”月の魔物”と”狩人の夢”を象った巨大ステンドグラスに大きな祭壇、祭壇に片膝を立てた姿勢で腰掛ける朧な人影。
夜空のような絶妙な色合いの短髪に、赤い瞳、真鍮細工の狩人装束に、白い帯が巻かれた月光の聖剣。その人影はルドウイークであった。それに加え、祭壇の周りには銀剣を持った同じ真鍮細工の狩人装束を纏った人影が、何人も見える。
祭壇の周りを固める彼らは皆、銀色に輝く剣の柄を象った狩人証を下げている。
祭壇に飾られている夜空を映し込んだミニドームのようなものが、ぼんやりとした不思議な光を明滅させている。よくよく目を凝らすと、その不思議な光とルドウイークの間に何か薄っすら繋がりが見えた。
自分の手を見下ろすと、左手には月光の聖剣、右手には銀大剣が握られていた。銀大剣に施された精緻なレリーフに、細く白い光が脈のように這っている。それは右手にも及んでいるが、悪意は全く感じられない。
「………………何故、こんなことを?」
独白は誰にも聞こえない。
『……………………』
祭壇の周りにいる人影は各々互いに話しているようだが、声は聞こえない。夜空色の短髪の下から覗く、優しくも悲しげで冷たい赤い瞳が優しさを伴って細められる。
同時に自分の意識は薄れていった。
―――――???
視界に映るのは天井の見えないほど巨大な空間。壁は無機質な灰色だが、床には淡い色彩で複雑で大きな花の模様が描かれている。ふわふわと宙に幾つか浮かんでいるものはなんと、上面と側面に本がぎっちり詰まった本棚のようだ。それに紛れて、布が巻かれた狩り武器が浮かんでいる。
「……………………」
《彼方からの呼びかけ》を待機状態にして、周りを見回す。すると壁の上の方…といってもその全貌が見えるぐらいの位置に、これまた巨大な時計があった。藍地に白抜きで数字が描かれ、鈍く輝く金で数々の星座のレリーフが施され、時計の左上に時計の背後に重なるようにして赤い月の飾りもついていた。
「…………?」
その星見時計を見上げるようにして、誰かの朧な人影が現れる。独特な狩人装束を纏い、後ろ姿しか見えないが体形からして女性のようだ。腰には刀が一振り吊り下げられている。
―カチャッ
丁度真上の浮遊本棚から何かが落ちてきた。慌てて右手で受け止めると、それは細い金の鎖で首にかけられるようにしてある星見時計だった。壁の時計と同じく星見盤を文字盤代わりに、精緻な細工が施されている。しかし、その時計を手に取った途端に異変が起きた。
「………………!!」
音もなく更に多数の人影が現れる。獣でも人でもない奇妙な化物に姿を変えられてしまったはずの旧知の人々の朧な人影だ。ただ、彼らは普通の姿ではなかった。両目から、傷口から、血を流しながらもこちらに悲しげな優しげな笑顔を向けてきている。
「………皆さんっ………!!」
手を伸ばそうとした。が、彼らは首を横に振ると、しっかとした意思のある瞳でこちらを見てくる。同時に細く白い脈のような光が、伸ばした手に接し腕を這う。悪意は感じない。それより…………
『…………ごめんなさい』
誰かの声が微かに届く。
流れる血が床を這う。
床の花模様が赤く染まる。
そうなるにつれ、意識が薄れていった。
――――――???
沢山の武器が壁に寄りかけられ、床に散乱している。
視界は白く濃い霧のようなノイズで殆ど占有されていて、まともに見えない。
掠れて風化した記憶と同期しているかのように、ノイズは時折一瞬薄くなったりより濃くなったり不安定な様相を呈している。
ノイズの向こうに、感情を殺して死んだ瞳をした自分の、朧な影が見える。魔法仕掛けの小銃を片手で立て、どこを見るでもなくその瞳は焦点が合っていない。
周波数1.76MHz、悲鳴、絶叫、断末魔、縛られた意識。
「……………………!!」
気づけば、足元は音もなく赤黒い血の海で満たされていた。
…………唐突にノイズが晴れる。
血の海の中に立つ朧な人影は、いつの間にか自分のものでは無くなっている。後ろを向いた男性の狩人らしきその影は、青い官憲装束を纏い、下げた片手に鈍器のような回転ノコギリを持ち、骨が燃え尽きた後のような絶妙な灰色の短髪だった。しかも、凄まじい返り血を帯びている。
ふと月光の聖剣を持つ右手を見ると、細く白い光が脈のように剣を這い、手にまで及んでいる。しかし悪意は感じない。暫く唖然とした目で見ていると、月光の聖剣を持つ手にかかる重みが増えたような気がした。
視線を戻すと、その男性狩人の姿は消えてしまっており、ふと意識も薄れていった。
――――――???
冷たい雨が降っている。極夜の空にはぽっかりと紫色の月が妖しく浮かんでいる。
見知らぬ狩人たちが、周りで血塗れの姿で息絶えている。血の海の中に武器や銃器が沈んでいる。その中にしゃがみ込む、自分とそっくりの姿をした朧な人影がいた。しかしその瞳にはぱっと見て感情が無い。非常に無機質なものだった。
血質が高いのか、首には黒い笛のようなもの……秘儀アイテム《マダラスの笛》が下がっている。返り血に塗れたその姿を暫く茫然と見ていると、ふと唐突に虚空に溶けるように姿が消えた。
「………………?………!!あれは…」
代わりに滲むように現れたのは、トップハットが特徴的な独特の狩人装束を纏った男性狩人。少々歪な長柄の、黒い刃の大鎌を両手で握っている。目はトップハットに隠れて見えず、髪色はほぼ白に近い灰色。同じ朧な影の襲い来る獣の群れをきびきびとした仕草で滑らかに迎撃する様は、まるで葬送者のようだ。
ただ、その狩人は明らかに右足が欠けている……。
不意に両手を見ると、細く白い光がまるで脈のように腕を這っていた。悪意は感じない。暫く茫然としていると、すぐ前の血の海の中に、視界の先で男性狩人が振るっているのと同じ大鎌の、幻影が現れた。
意識が薄れる。完全に意識が途切れる前、葬送者のようなその狩人の紅い瞳がこちらを見た気がした。
【拾ったアイテム】
・血石の二欠片×16
・輝く硬貨×8
・狂気の死血【7】×3
・狂人の智慧×2
・血石の塊
・狩人装束「墓守」
・濃厚な死血【6】
・狂気の死血【8】
・カレル文字「深海」Lv2
・カレル文字「澄んだ深海」Lv1
******
森のエリア主戦(vs真っ黒装束の3人組)は次に。
ここまでの話の中に、4人の夢に出た名前が出てない朧な幻影がそれぞれ誰なのか予測できるまでの答えはあります。
おまけ
ある日のこと。
「アカー!」
ごすっ(ルクスがタックルする勢いでアカに飛びついた拍子に聖剣の柄の石突き部分がアカの横腹に当たる)
「うっ」
「……あ!ごめんっ!!」
「…………自分だからまだいいですけど、他の人にそれをやるのはやめて下さいよ?」
「わかってるって!」
2人はとっても仲がいいです。
0
あなたにおすすめの小説
召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
魔物討伐を生業とする冒険者に憧れる俺は、十五歳の誕生日を迎えた日、一流の冒険者になる事を決意して旅に出た。
旅の最中に「魔物を自在に召喚する力」に目覚めた主人公が、次々と強力な魔物を召喚し、騎士団を作りながら地域を守り続け、最高の冒険者を目指します。
主人公最強、村人の成り上がりファンタジー。
※小説家になろうにて、990万PV達成しました。
※以前アルファポリスで投稿していた作品を大幅に加筆修正したものです。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ダンジョン配信ですよ、我が主 ~いや、貴女が配信したほうが良いような~
志位斗 茂家波
ファンタジー
…ある日突然、世界中にダンジョンと呼ばれる謎のものが出現した。
迷宮、塔、地下世界…そして未知のモンスターに、魔法の道具等、内包する可能性は未知数であり、世界は求めていく。
とはいえ、その情報がどんどん出てくれば、価値も少しづつ薄れるもので…気が付けば、一般向けに配信者が出てきたりと、気軽な存在になっていた。
そんな中である日、小遣い稼ぎとして配信を始めて行おうとしたとある少年が、ダンジョン内で巡り合ってしまった…魔法の道具…もとい、何故かメイドの彼女との運命が、世界を混沌へ堕としこむのだが…
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ミックスブラッドオンライン・リメイク
マルルン
ファンタジー
ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。
たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる