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2章「鳥人族(ディーヴァ)の暮らす都市」
歌壇の王
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―タイルをどかすと、現れたのは地下へ続く階段。
階段脇の壁には所々に青系の光を放つ光精石による松明が据え付けられており、光源には困らない。
「こっちこっち」
彼はその階段をリズミカルな音を立てて降りていく。
ついて行って降りた先にあるのは、広い部屋だった。壁にも床にも天井にも、暗めの水色の光が揺らめいている。
「ここは普段、僕しか入れないんだけどね。今回は特別だよ」
階段があるのと反対側に、灰色の石で囲まれた泉があった。泉からは滾々と水が湧き出ており、泉の底の床が見える程に水は純粋なガラスの如く清らかだった。
見たところ、巨大な水精石が床に埋まっているようだ。
泉から溢れた水は溝に流れ込み、その溝の端の管はどこかへ通じている。
そしてその泉のある壁の左側の壁に、上へと通じる階段があった。
「あの階段が?」
「ホールの舞台裏に通じてるんだよ」
「その恰好はどうすんだ?」
「…それは秘密」
彼の恰好は、言っちゃ悪いが地味だ。それと鳥人族の証である一対の翼も見えない。
「ま、暫く待ってて」
―十数分ほどが過ぎた。
「上に行くよ」
その一言を残して彼は左側の階段を上がっていく。ついていくと、本当に舞台裏(らしき)ところに通じていた。
幕の隙間からは、大勢の観客(主に鳥人族)の姿が見える。
やわらかな光が舞台を包んでいるが、舞台には誰もいない。
観客がざわざわとざわめいているのが感じられた。
「大丈夫なのか?これ」
ヒビキが言った傍で、彼が舞台上にとびだした!
舞台の表にとびだした彼の恰好は、一瞬で変化していた。
鮮やかな赤を基調とした衣装、背に生えているのは他の鳥人族とは違うカラフルな淡い虹色をした一対の翼。
左頬には何かの花を象った文様が浮かんでいる。
明らかに舞台の壇上に立つ者の衣装であり、また、纏う雰囲気もそうであった。
「―――――♪」
響き渡るのは、少し低い澄んだ歌声。
歌声が周囲の空気に溶ける魔力を激しく震わせ、それを聴く生けるものの精神をも震わせる。
「……すげぇな」
実は彼の姿を見た時から、ステータス覧を映すカーソルがヒビキの視界に現れていた。
こんな感じに。
【NAME】アンテル・シード
【Lv】703
【種族】鳥人族
【職業】歌唱者/聖歌の主
【ステータス】
HP:80130
MP:56720
STR:774
VIT:893
INT:939
DEX:941
AGI:834
WIS:980
LUC:731
【属性称号(変更不可能)】
「歌壇の頂に至りし魔歌の王」
【状態異常】
まあ3人には効力がないものの、並大抵の精神の持ち主では簡単に彼―アンテルの魔歌の力を受けてしまうだろう。
実際、観客は9割9分の人が彼の歌に聴き入っている。
―歌は、数十分ほど続いた。
部屋に戻ってきたアンテルは、手にペンダントらしきものを握っていた。
「これ、僕からのお礼」
ペンダントの細い銀の鎖には、部屋の泉に埋まっている水精石と同じ青い光を宿す涙雫型の宝石がついている。その宝石には何かの紋章が刻まれていた。
「これがあれば、大体のところに入れるよ。聖女のいる神殿とかにも。まあ他にもあるけど」
この発言からして、強力な通行証になるらしい。…それだけでもなさそうだが。
「もちろん、悪用とかは、もってのほかだから」
アンテルは笑顔である。否、「威圧的なオーラを纏った」笑顔である。
顔は笑っているけど目は真剣な、に該当する笑顔だ。
「あぁ、分かってる」
ペンダントをインベントリにしまい、ヒビキも軽い威圧をかけた笑顔で返した。
そして街の門でアンテルと別れ、3人は転移でアステリスクへと戻る。
****
―――――帰ってから暫く時が過ぎた。ヒビキは一人で人族の居地街を歩いている。無論フードを深くかぶり顔は見えないようにしてあるが、その姿自体が売れてきているのかちらちらと視線は向けられていた。
特に当てもなく大通りを歩いていると、声をかけられた。
「あの、少し聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?」
そちらに向き直ると、そこにいたのは女性の2人組プレイヤー。レベルと装備からして、まだ始めて間もないのだろうと心の中で当たりを付ける。
「ああ、いいよ。聞きたいことって?」
ヒビキも失礼にならないように、なるべく棘のない態度で接する。
「私たち、始めたばかりなんですけど…」
「何をしていいか、分からなくなってしまって……」
「……ああ、なるほどね」
このゲームは非常に自由度が高い。職業も星の数ほどあるし、スキルに至ってはそれを遥かに越す。モンスターと戦って名声を得るもよし、彼らや住人達を支える生産者になってもよし、家とか建物を建ててもいい、神殿のような場所で神職に就くことも可能だ。それは逆に言えば目標が明確に定まってないと、今目の前にいる2人のように何をしていいか戸惑うことになる。
「じゃ、幾つか質問するけど、答えたくなければ答えたくないでいいからね。――――まず、君たちの他にも一緒に遊ぶ予定か、もう一緒に遊ぶことになっている人はいる?」
「…はい、私たちのほかに2人いるんですけど、今日は来られないみたいで」
あらら、それは残念。
「んーと、じゃあこの世界で大まかに何がやりたい?モンスターを倒して稼ぐ冒険者か、それとも料理とか薬、装備を作る生産者か。この世界だと両方兼任することもできるから、好きなものでいいよ」
「え、そうなんですか…、……私は……両方、です」
「えっと、自分は冒険者がしたいです。………不器用ですし」
「成程……次にまずそっちの君に聞くけど、何を作りたい?候補としては料理、薬、鍛治、裁縫、錬金、革職人、木工、細工……あたりかな」
「細工、とは?」
「金属とか木材とかに細工を施して、アクセサリーや特殊な道具にする職業」
両職兼任だと、序盤はまず一つの生産分野に絞った方がいい。下手にブレるとその分生産者として弱くなりかねない。安定してきたら、他にやってみたい生産に職替えして鍛えればいい。
「……薬づくりにしようと思います。やっぱりポーションなんかを自分で作れれば便利かなーって……」
確かにそうだ。回復は基本魔法で行うが、やはり緊急時にはポーションが必要になる。そういう出費を抑えれるのは魅力的だろう。
「うん、じゃあ2つある職のうち片方は《薬士》になるね。…………職業に就けば、大体必要なスキルは揃ってるからその分の心配は当分いらないよ」
「あの、回復ポーション以外にも作れるものってあるんですか?」
「回復、状態異常解除、攻撃用、まあ色々。アイデア次第で薬品ならなんでも作れる」
「凄いですね……」
「そうだね…じゃ、今度は2人に聞くけど、戦い方はどうしたい?近くでモンスターと戦うのか、ちょっと離れて戦うのか、だけど」
要するに、近距離職か遠距離職かの2択だ。職を修めていけば両方のいいとこどりした戦いができるが、最初はそんなことできはしない。
「友達はそれぞれ、回復するーって言う子とタンカーするって言う子がいるんで…私は近くで戦いたいです」
「自分は……離れて戦うかなー」
「成程、いいと思う。近距離なら武器は片手剣、大剣、片手斧、両手斧、槍、ナックル、短剣、メイスにあとは補助で盾。他にも特大剣とかの派生はあるけど取り合えずそれは置いておくよ。遠距離なら天翼、魔法、弓あたりかな。言っておくけど、どの武器も強くて、どれが役立たずのゴミとか言う事はないから、安心して」
「「うーん………」」
そういうと2人は悩み始めた。悩むのはいいことだ。人にお勧めされたからーってすると意外に途中で挫折しやすいとか聞くし、人は自分の口で言ったことは成し遂げようとするものだから。
「あの……」
「なんだい?」
「魔法って、複数属性を最初から扱えたりとかします?」
「うーんと、一応できるよ。職業のスキルとして一通りはあるから。だけどその分スキルレベルを上げるのが大変になっちゃうけどな。ついでに、適性がある属性なら魔法の威力が上がったりとかもする」
「成程………」
「こっちも聞きたいんですけど、武器と魔法の併用、とかっていけますか?」
「できる。けど難しいかもしれないな」
「そうですか。うーん…」
十数分後、薬士を取ることにした女性プレイヤーは槍を、もう片方の女性プレイヤーは魔法と弓を取ることにしたようだ。弓は扱いが難しいよ?と言うと、実は動画で見た弓使いの人に憧れが……とのこと。ちょっと聞いてみると間違いなく、ヒビキのフレンドのエヴァンの事だった。やっぱり弓師の先駆者として、尊敬は集めているらしい。
「槍を使うならまず職業は《槍士》か。魔法は《魔法士》と弓は《弓使い》だ。ついでに、どの弓を使いたいかは決まってるかい?」
「どの弓……とは?」
「平たく言うと、大きさが小振りな弓、中ぐらいの弓、大きな弓の3種類。小振りな弓は威力と射程は低いけど取り回しが利くし、大きな弓は威力と射程が高いけどその代わり重いし取り回しにくい。中ぐらいの弓は大きさ通りその中間」
「それはこれからそれぞれ使って決めることにします」
「OK。焦らないのはいいことだ。じゃ、これで大体定まったものだから、あとは補助的なスキルとこの世界と種族、訓練所とギルドについて教えたら取り合えずお終いか」
ヒビキが職業を断定した理由はただ一つ、初期職業でその武器を扱えるものがそれしかないからである。
…
立ちっぱなしもなんだということで広場の向い合せのベンチに招き、腰を下ろして話を続ける。
「近接職ならまず筋力、頑強さ、生命力を上げるスキル。無論威力を上げるためと、生き残りやすくするためだ。頑強さは後回しでもいい。魔法なら魔力量…まあMPと、魔力強度、知力。弓なら器用さと運を上げるスキルだ。これも同じ理由だな。ああ、必須なのは《解析》と《罠感知》だ。これは取っておくべきで、無いと凄い困る。あとはおいおい、決めていったらいい。この世界にはスキル枠という制限はないからな」
話を続ける。2人は真剣に聞いているようだ。
「次にこの世界と種族についてだが……お二人とも、茨の道を行くみたいだな。まあ、頑張ってくれよ」
「いえ、その…人族ってそんなに弱いんですか?」
「Wikiには「可能性の高い種族」としかなくて……」
「ああまあ、最初は苦労すると思う。なんせ魔法じゃエルフに、近接じゃドラグニアに、身軽さじゃウェンティやミグミィに劣る。俺も実際そうだった。でも諦めずにレベルを上げていけば、ある時点から他の種族なんか目じゃないぐらいにいきなりとんでもなく強くなるから。その期待はしてていい」
「成程……」
「次にこれは大事なことだが、この世界の住人達をただのNPCと思わない方がいい。まあ、現実世界で他人と接するように威張らずに対等に、礼儀を以て接せということだ。そうしたらトラブルになることもまずはない」
「確かに、周りの人たちに話しかけてもあまり違和感ありませんよね。驚きました」
「このゲームを動かしてるサーバも気になるところだがまあそれは置いておいて、あとは訓練所と冒険者ギルドについてかな……ちょっと、ついてきてくれるか?」
訓練所に向かう道中で、冒険者ギルドについて話を交わす。
「お二人さんとも、冒険者ギルドに登録はしてあるよな?」
「あ、はい。それぐらいは」
「ならあとはギルドの人に訊けば大体のことはわかる。だが、ギルドの依頼の中には犯罪につながるものとか、ランク関係なしに受けられる非常に難しい依頼とかが混じってるからそのあたりの見極めは大事。特に”あ、コイツヤバい悪い奴だ”って確信できたら一番に逃げてスクショ取ってギルドの人に報告するんだ」
「依頼受けた後で逃げると色々困るのでは?」
「悪事に関わる依頼だったと証明できればお咎めはない。それ以外の理由はとんでもないハプニングが起きたとかでない限り基本認めてくれないけどな」
「わかりました」
「ランクA以上になれば、さらにハイリスクハイリターンな依頼が解禁されるから、頑張れよ。………っと、訓練所についたな。あとは中の教官に訊いたり、自分で好きなように訓練できる」
「ありがとうございました。…………最後に一つ、訊いてもいいですか?」
「?」
「この道中、妙に注目されてたんですが…………貴方は何者なんですか?」
確かに道中、周りから尊敬と憧憬混じりの視線が多数ビシバシ突き刺さってきていたが。
「…………まあプレイしていれば嫌でも耳に入るだろうし……俺もプレイヤーだ。ただこのゲームが始まったころからいただけのな。プレイヤーの中じゃ結構名が売れてると自負している。ギルド【蒼穹】の【黒の紋章主】だ。まあ一応、頭の隅ぐらいで覚えていてくれると嬉しい。………じゃあ俺はこれで失礼する。頑張れよ」
呆気にとられている女性プレイヤー2人組を訓練所前に残し、ヒビキはコートの裾を翻してその場を去った。
階段脇の壁には所々に青系の光を放つ光精石による松明が据え付けられており、光源には困らない。
「こっちこっち」
彼はその階段をリズミカルな音を立てて降りていく。
ついて行って降りた先にあるのは、広い部屋だった。壁にも床にも天井にも、暗めの水色の光が揺らめいている。
「ここは普段、僕しか入れないんだけどね。今回は特別だよ」
階段があるのと反対側に、灰色の石で囲まれた泉があった。泉からは滾々と水が湧き出ており、泉の底の床が見える程に水は純粋なガラスの如く清らかだった。
見たところ、巨大な水精石が床に埋まっているようだ。
泉から溢れた水は溝に流れ込み、その溝の端の管はどこかへ通じている。
そしてその泉のある壁の左側の壁に、上へと通じる階段があった。
「あの階段が?」
「ホールの舞台裏に通じてるんだよ」
「その恰好はどうすんだ?」
「…それは秘密」
彼の恰好は、言っちゃ悪いが地味だ。それと鳥人族の証である一対の翼も見えない。
「ま、暫く待ってて」
―十数分ほどが過ぎた。
「上に行くよ」
その一言を残して彼は左側の階段を上がっていく。ついていくと、本当に舞台裏(らしき)ところに通じていた。
幕の隙間からは、大勢の観客(主に鳥人族)の姿が見える。
やわらかな光が舞台を包んでいるが、舞台には誰もいない。
観客がざわざわとざわめいているのが感じられた。
「大丈夫なのか?これ」
ヒビキが言った傍で、彼が舞台上にとびだした!
舞台の表にとびだした彼の恰好は、一瞬で変化していた。
鮮やかな赤を基調とした衣装、背に生えているのは他の鳥人族とは違うカラフルな淡い虹色をした一対の翼。
左頬には何かの花を象った文様が浮かんでいる。
明らかに舞台の壇上に立つ者の衣装であり、また、纏う雰囲気もそうであった。
「―――――♪」
響き渡るのは、少し低い澄んだ歌声。
歌声が周囲の空気に溶ける魔力を激しく震わせ、それを聴く生けるものの精神をも震わせる。
「……すげぇな」
実は彼の姿を見た時から、ステータス覧を映すカーソルがヒビキの視界に現れていた。
こんな感じに。
【NAME】アンテル・シード
【Lv】703
【種族】鳥人族
【職業】歌唱者/聖歌の主
【ステータス】
HP:80130
MP:56720
STR:774
VIT:893
INT:939
DEX:941
AGI:834
WIS:980
LUC:731
【属性称号(変更不可能)】
「歌壇の頂に至りし魔歌の王」
【状態異常】
まあ3人には効力がないものの、並大抵の精神の持ち主では簡単に彼―アンテルの魔歌の力を受けてしまうだろう。
実際、観客は9割9分の人が彼の歌に聴き入っている。
―歌は、数十分ほど続いた。
部屋に戻ってきたアンテルは、手にペンダントらしきものを握っていた。
「これ、僕からのお礼」
ペンダントの細い銀の鎖には、部屋の泉に埋まっている水精石と同じ青い光を宿す涙雫型の宝石がついている。その宝石には何かの紋章が刻まれていた。
「これがあれば、大体のところに入れるよ。聖女のいる神殿とかにも。まあ他にもあるけど」
この発言からして、強力な通行証になるらしい。…それだけでもなさそうだが。
「もちろん、悪用とかは、もってのほかだから」
アンテルは笑顔である。否、「威圧的なオーラを纏った」笑顔である。
顔は笑っているけど目は真剣な、に該当する笑顔だ。
「あぁ、分かってる」
ペンダントをインベントリにしまい、ヒビキも軽い威圧をかけた笑顔で返した。
そして街の門でアンテルと別れ、3人は転移でアステリスクへと戻る。
****
―――――帰ってから暫く時が過ぎた。ヒビキは一人で人族の居地街を歩いている。無論フードを深くかぶり顔は見えないようにしてあるが、その姿自体が売れてきているのかちらちらと視線は向けられていた。
特に当てもなく大通りを歩いていると、声をかけられた。
「あの、少し聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?」
そちらに向き直ると、そこにいたのは女性の2人組プレイヤー。レベルと装備からして、まだ始めて間もないのだろうと心の中で当たりを付ける。
「ああ、いいよ。聞きたいことって?」
ヒビキも失礼にならないように、なるべく棘のない態度で接する。
「私たち、始めたばかりなんですけど…」
「何をしていいか、分からなくなってしまって……」
「……ああ、なるほどね」
このゲームは非常に自由度が高い。職業も星の数ほどあるし、スキルに至ってはそれを遥かに越す。モンスターと戦って名声を得るもよし、彼らや住人達を支える生産者になってもよし、家とか建物を建ててもいい、神殿のような場所で神職に就くことも可能だ。それは逆に言えば目標が明確に定まってないと、今目の前にいる2人のように何をしていいか戸惑うことになる。
「じゃ、幾つか質問するけど、答えたくなければ答えたくないでいいからね。――――まず、君たちの他にも一緒に遊ぶ予定か、もう一緒に遊ぶことになっている人はいる?」
「…はい、私たちのほかに2人いるんですけど、今日は来られないみたいで」
あらら、それは残念。
「んーと、じゃあこの世界で大まかに何がやりたい?モンスターを倒して稼ぐ冒険者か、それとも料理とか薬、装備を作る生産者か。この世界だと両方兼任することもできるから、好きなものでいいよ」
「え、そうなんですか…、……私は……両方、です」
「えっと、自分は冒険者がしたいです。………不器用ですし」
「成程……次にまずそっちの君に聞くけど、何を作りたい?候補としては料理、薬、鍛治、裁縫、錬金、革職人、木工、細工……あたりかな」
「細工、とは?」
「金属とか木材とかに細工を施して、アクセサリーや特殊な道具にする職業」
両職兼任だと、序盤はまず一つの生産分野に絞った方がいい。下手にブレるとその分生産者として弱くなりかねない。安定してきたら、他にやってみたい生産に職替えして鍛えればいい。
「……薬づくりにしようと思います。やっぱりポーションなんかを自分で作れれば便利かなーって……」
確かにそうだ。回復は基本魔法で行うが、やはり緊急時にはポーションが必要になる。そういう出費を抑えれるのは魅力的だろう。
「うん、じゃあ2つある職のうち片方は《薬士》になるね。…………職業に就けば、大体必要なスキルは揃ってるからその分の心配は当分いらないよ」
「あの、回復ポーション以外にも作れるものってあるんですか?」
「回復、状態異常解除、攻撃用、まあ色々。アイデア次第で薬品ならなんでも作れる」
「凄いですね……」
「そうだね…じゃ、今度は2人に聞くけど、戦い方はどうしたい?近くでモンスターと戦うのか、ちょっと離れて戦うのか、だけど」
要するに、近距離職か遠距離職かの2択だ。職を修めていけば両方のいいとこどりした戦いができるが、最初はそんなことできはしない。
「友達はそれぞれ、回復するーって言う子とタンカーするって言う子がいるんで…私は近くで戦いたいです」
「自分は……離れて戦うかなー」
「成程、いいと思う。近距離なら武器は片手剣、大剣、片手斧、両手斧、槍、ナックル、短剣、メイスにあとは補助で盾。他にも特大剣とかの派生はあるけど取り合えずそれは置いておくよ。遠距離なら天翼、魔法、弓あたりかな。言っておくけど、どの武器も強くて、どれが役立たずのゴミとか言う事はないから、安心して」
「「うーん………」」
そういうと2人は悩み始めた。悩むのはいいことだ。人にお勧めされたからーってすると意外に途中で挫折しやすいとか聞くし、人は自分の口で言ったことは成し遂げようとするものだから。
「あの……」
「なんだい?」
「魔法って、複数属性を最初から扱えたりとかします?」
「うーんと、一応できるよ。職業のスキルとして一通りはあるから。だけどその分スキルレベルを上げるのが大変になっちゃうけどな。ついでに、適性がある属性なら魔法の威力が上がったりとかもする」
「成程………」
「こっちも聞きたいんですけど、武器と魔法の併用、とかっていけますか?」
「できる。けど難しいかもしれないな」
「そうですか。うーん…」
十数分後、薬士を取ることにした女性プレイヤーは槍を、もう片方の女性プレイヤーは魔法と弓を取ることにしたようだ。弓は扱いが難しいよ?と言うと、実は動画で見た弓使いの人に憧れが……とのこと。ちょっと聞いてみると間違いなく、ヒビキのフレンドのエヴァンの事だった。やっぱり弓師の先駆者として、尊敬は集めているらしい。
「槍を使うならまず職業は《槍士》か。魔法は《魔法士》と弓は《弓使い》だ。ついでに、どの弓を使いたいかは決まってるかい?」
「どの弓……とは?」
「平たく言うと、大きさが小振りな弓、中ぐらいの弓、大きな弓の3種類。小振りな弓は威力と射程は低いけど取り回しが利くし、大きな弓は威力と射程が高いけどその代わり重いし取り回しにくい。中ぐらいの弓は大きさ通りその中間」
「それはこれからそれぞれ使って決めることにします」
「OK。焦らないのはいいことだ。じゃ、これで大体定まったものだから、あとは補助的なスキルとこの世界と種族、訓練所とギルドについて教えたら取り合えずお終いか」
ヒビキが職業を断定した理由はただ一つ、初期職業でその武器を扱えるものがそれしかないからである。
…
立ちっぱなしもなんだということで広場の向い合せのベンチに招き、腰を下ろして話を続ける。
「近接職ならまず筋力、頑強さ、生命力を上げるスキル。無論威力を上げるためと、生き残りやすくするためだ。頑強さは後回しでもいい。魔法なら魔力量…まあMPと、魔力強度、知力。弓なら器用さと運を上げるスキルだ。これも同じ理由だな。ああ、必須なのは《解析》と《罠感知》だ。これは取っておくべきで、無いと凄い困る。あとはおいおい、決めていったらいい。この世界にはスキル枠という制限はないからな」
話を続ける。2人は真剣に聞いているようだ。
「次にこの世界と種族についてだが……お二人とも、茨の道を行くみたいだな。まあ、頑張ってくれよ」
「いえ、その…人族ってそんなに弱いんですか?」
「Wikiには「可能性の高い種族」としかなくて……」
「ああまあ、最初は苦労すると思う。なんせ魔法じゃエルフに、近接じゃドラグニアに、身軽さじゃウェンティやミグミィに劣る。俺も実際そうだった。でも諦めずにレベルを上げていけば、ある時点から他の種族なんか目じゃないぐらいにいきなりとんでもなく強くなるから。その期待はしてていい」
「成程……」
「次にこれは大事なことだが、この世界の住人達をただのNPCと思わない方がいい。まあ、現実世界で他人と接するように威張らずに対等に、礼儀を以て接せということだ。そうしたらトラブルになることもまずはない」
「確かに、周りの人たちに話しかけてもあまり違和感ありませんよね。驚きました」
「このゲームを動かしてるサーバも気になるところだがまあそれは置いておいて、あとは訓練所と冒険者ギルドについてかな……ちょっと、ついてきてくれるか?」
訓練所に向かう道中で、冒険者ギルドについて話を交わす。
「お二人さんとも、冒険者ギルドに登録はしてあるよな?」
「あ、はい。それぐらいは」
「ならあとはギルドの人に訊けば大体のことはわかる。だが、ギルドの依頼の中には犯罪につながるものとか、ランク関係なしに受けられる非常に難しい依頼とかが混じってるからそのあたりの見極めは大事。特に”あ、コイツヤバい悪い奴だ”って確信できたら一番に逃げてスクショ取ってギルドの人に報告するんだ」
「依頼受けた後で逃げると色々困るのでは?」
「悪事に関わる依頼だったと証明できればお咎めはない。それ以外の理由はとんでもないハプニングが起きたとかでない限り基本認めてくれないけどな」
「わかりました」
「ランクA以上になれば、さらにハイリスクハイリターンな依頼が解禁されるから、頑張れよ。………っと、訓練所についたな。あとは中の教官に訊いたり、自分で好きなように訓練できる」
「ありがとうございました。…………最後に一つ、訊いてもいいですか?」
「?」
「この道中、妙に注目されてたんですが…………貴方は何者なんですか?」
確かに道中、周りから尊敬と憧憬混じりの視線が多数ビシバシ突き刺さってきていたが。
「…………まあプレイしていれば嫌でも耳に入るだろうし……俺もプレイヤーだ。ただこのゲームが始まったころからいただけのな。プレイヤーの中じゃ結構名が売れてると自負している。ギルド【蒼穹】の【黒の紋章主】だ。まあ一応、頭の隅ぐらいで覚えていてくれると嬉しい。………じゃあ俺はこれで失礼する。頑張れよ」
呆気にとられている女性プレイヤー2人組を訓練所前に残し、ヒビキはコートの裾を翻してその場を去った。
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鳥山正人
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デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
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自筆です。
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