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そのろくじゅういち
踏ませて欲しいと言ってくれ
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何故ついてくるんだ、来るのが早過ぎるとリシェは不満げにラスに言った。
一日の授業を終わらせ、個人的な提出物を担任教師であるオーギュスティンに渡そうとしていた彼は、授業が終わるなりすぐ一年の教室にやってきた同居人を鬱陶しげに見上げていた。
随分と早く来たものだ。
授業終了と共に、五分とたたずに「先輩!」と教室に侵入してきたのだから。
どう見てもラスが先輩なのに、リシェに対して先輩呼びする事にも既にクラスメートらは慣れ切っていた。むしろ実はリシェは三年生なのではと変な噂が飛び交う始末。
外見の儚さのせいで、余計な妄想を捗らせて実は病弱で数年間学校生活を送れなかったのではないかとか、全く想像もしていない話が本人の知らぬ場所で流れている位だ。
「先輩、今日も上に行くんでしょ?」
いつもの屋上に誘っている。
「俺が断っても連れて行くくせに」
「えへへぇ…」
照れ臭そうにラスは笑っていた。
提出物を胸元に抱え、学生鞄を肩にかけたリシェはラスをスルーするかのように教室を出て職員室へと向かう。
「先輩、今日も変な奴らに絡まれたりしてないですよね?デートのお誘いとかされなかったですか?」
「無いよ…」
ある訳ないだろう、と呆れながら職員室へ繋がる廊下に出た。
ラスは一方的にべらべらと知らない相手について行く事に関しての危険性を話している。
よく喋り続けられるなと呆れながら足を進めて行くと、丁度職員室の廊下でオーギュスティンの姿を見つけた。ほっそり体型だが、しなやかなスーツ姿がやたら目立つのですぐに分かってしまうのだ。
丁度良かったとリシェは早歩きするが、彼の前には他の人間が立ち塞がっていた。それを知り、リシェの足が止まった。
…オーギュスティンは目の前に居る大柄な男に侮蔑の視線を向けている。相手は切羽詰まったような顔で、恥ずかしそうにしながらこちらを見下ろしていた。
最近こちらを見てはやけにそわそわしていると思ったら。
「何馬鹿な事を言ってるんですか」
「じ、冗談で言ってるんじゃねぇんだよ。俺だってまさか…あれがきっかけで嗜好が変な方向に行くとか思ってなかったし」
ヴェスカは体に似合わないレベルでもじもじしていた。
「しかもほら、こんな所で話す話題でも無いんだけどさあ…忘れられねぇんだよ。あんたの顔を見ると嫌でも思い出してしまう」
「では座席変えをお願いしてきますよ」
「だ、ダメだってば!あんたを見れないなんてそれこそ悶々としてしまう!また一回だけでいいからさ」
生徒達が行き交う中で何を言い出すのか、とオーギュスティンは断るとヴェスカに告げて職員室へと戻ろうとした。だがヴェスカは彼の腕をしっかり掴んで静止させる。
強い力に阻まれ、オーギュスティンはカッとなり「何なんですか!」と怒った。
「頼む」
切実にヴェスカは彼に懇願した。やけに大きな声で。
「…俺をまた、この前みたいに踏んでくれ!!!」
それは周辺の人々の耳に届いていた。
その低く切実な懇願の叫びを耳にするなり、リシェは固まっていた。
この前みたいにというフレーズで、前に目撃したあの光景が嫌でも思いださせられてしまう。
…オーギュスティンがヴェスカを踏んでいた時のあれ。
「なっ…何ですか、あれは単なるマッサージでしょうがあ!!」
叫ばれたオーギュスティンはヴェスカに対して焦りながら怒鳴る。誤解させるような事を吐くなと。
しかしヴェスカは「ダメなんだよ」と食ってかかってきた。
「あんたのあの踏み方、俺の体がめちゃくちゃ反応してしまって…思い出すだけでこう、興奮するっていうか」
「私はそんな踏み方をしてません!!」
「その日俺、何発抜いたと思ってんだよ!?」
「知るか変態!!近寄るな!!」
「俺を踏んでくれ、オーギュスティン先生!!」
「嫌です!絶対嫌!!」
二人の様子を見ながら、周囲の生徒らは好奇とドン引きするように廊下を通過して行く。
固まるリシェの横でラスも「わああ」と苦笑いしていた。
「マジかぁ、ヴェスカ先生…見かけに寄らないなあ」
ヴェスカを避け、オーギュスティンはくるりと振り返り数歩進む。同時にリシェの姿を見つけてしまい、うっとたじろいだ。
またこんな場面に遭遇するとはと。
やはり彼はびくびくと怯えながら、自分に提出物のノートを突き出してきた。
「り…リシェ?」
「あ、あの、これ…まだ出してなかったノートです…」
「は…はい。ありがとうございます。…あの」
「俺、何も聞かなかった事にしますから。ほんとに、何も」
聞いてるじゃないかとオーギュスティンは冷や汗を流す。ノートをリシェから受け取ると、彼はそれではと怯えながら後退りして脱兎の如く逃げ出してしまった。
ラスも先輩!と言いながら後を追う。
残されたオーギュスティンは脱力しそうになりながら、また変な誤解をされてしまったとショックを受けた。
「オーギュスティン先生!頼むよ!俺を踏ん付けて…」
ヴェスカは性懲りもなくオーギュスティンに迫る。
全ての元凶はこいつからなのだと怒りが底から湧き上がり、再び向き直ると彼の鳩尾にドスリと拳を突き入れていた。
「うごっ!!」
「どうしてくれるんですか、この変態!!また誤解されたじゃないですか!」
深く腹にパンチされたヴェスカは、その場で崩れ落ち「ゾクゾクする…」と恍惚感に満ち溢れた顔をしていた。
一日の授業を終わらせ、個人的な提出物を担任教師であるオーギュスティンに渡そうとしていた彼は、授業が終わるなりすぐ一年の教室にやってきた同居人を鬱陶しげに見上げていた。
随分と早く来たものだ。
授業終了と共に、五分とたたずに「先輩!」と教室に侵入してきたのだから。
どう見てもラスが先輩なのに、リシェに対して先輩呼びする事にも既にクラスメートらは慣れ切っていた。むしろ実はリシェは三年生なのではと変な噂が飛び交う始末。
外見の儚さのせいで、余計な妄想を捗らせて実は病弱で数年間学校生活を送れなかったのではないかとか、全く想像もしていない話が本人の知らぬ場所で流れている位だ。
「先輩、今日も上に行くんでしょ?」
いつもの屋上に誘っている。
「俺が断っても連れて行くくせに」
「えへへぇ…」
照れ臭そうにラスは笑っていた。
提出物を胸元に抱え、学生鞄を肩にかけたリシェはラスをスルーするかのように教室を出て職員室へと向かう。
「先輩、今日も変な奴らに絡まれたりしてないですよね?デートのお誘いとかされなかったですか?」
「無いよ…」
ある訳ないだろう、と呆れながら職員室へ繋がる廊下に出た。
ラスは一方的にべらべらと知らない相手について行く事に関しての危険性を話している。
よく喋り続けられるなと呆れながら足を進めて行くと、丁度職員室の廊下でオーギュスティンの姿を見つけた。ほっそり体型だが、しなやかなスーツ姿がやたら目立つのですぐに分かってしまうのだ。
丁度良かったとリシェは早歩きするが、彼の前には他の人間が立ち塞がっていた。それを知り、リシェの足が止まった。
…オーギュスティンは目の前に居る大柄な男に侮蔑の視線を向けている。相手は切羽詰まったような顔で、恥ずかしそうにしながらこちらを見下ろしていた。
最近こちらを見てはやけにそわそわしていると思ったら。
「何馬鹿な事を言ってるんですか」
「じ、冗談で言ってるんじゃねぇんだよ。俺だってまさか…あれがきっかけで嗜好が変な方向に行くとか思ってなかったし」
ヴェスカは体に似合わないレベルでもじもじしていた。
「しかもほら、こんな所で話す話題でも無いんだけどさあ…忘れられねぇんだよ。あんたの顔を見ると嫌でも思い出してしまう」
「では座席変えをお願いしてきますよ」
「だ、ダメだってば!あんたを見れないなんてそれこそ悶々としてしまう!また一回だけでいいからさ」
生徒達が行き交う中で何を言い出すのか、とオーギュスティンは断るとヴェスカに告げて職員室へと戻ろうとした。だがヴェスカは彼の腕をしっかり掴んで静止させる。
強い力に阻まれ、オーギュスティンはカッとなり「何なんですか!」と怒った。
「頼む」
切実にヴェスカは彼に懇願した。やけに大きな声で。
「…俺をまた、この前みたいに踏んでくれ!!!」
それは周辺の人々の耳に届いていた。
その低く切実な懇願の叫びを耳にするなり、リシェは固まっていた。
この前みたいにというフレーズで、前に目撃したあの光景が嫌でも思いださせられてしまう。
…オーギュスティンがヴェスカを踏んでいた時のあれ。
「なっ…何ですか、あれは単なるマッサージでしょうがあ!!」
叫ばれたオーギュスティンはヴェスカに対して焦りながら怒鳴る。誤解させるような事を吐くなと。
しかしヴェスカは「ダメなんだよ」と食ってかかってきた。
「あんたのあの踏み方、俺の体がめちゃくちゃ反応してしまって…思い出すだけでこう、興奮するっていうか」
「私はそんな踏み方をしてません!!」
「その日俺、何発抜いたと思ってんだよ!?」
「知るか変態!!近寄るな!!」
「俺を踏んでくれ、オーギュスティン先生!!」
「嫌です!絶対嫌!!」
二人の様子を見ながら、周囲の生徒らは好奇とドン引きするように廊下を通過して行く。
固まるリシェの横でラスも「わああ」と苦笑いしていた。
「マジかぁ、ヴェスカ先生…見かけに寄らないなあ」
ヴェスカを避け、オーギュスティンはくるりと振り返り数歩進む。同時にリシェの姿を見つけてしまい、うっとたじろいだ。
またこんな場面に遭遇するとはと。
やはり彼はびくびくと怯えながら、自分に提出物のノートを突き出してきた。
「り…リシェ?」
「あ、あの、これ…まだ出してなかったノートです…」
「は…はい。ありがとうございます。…あの」
「俺、何も聞かなかった事にしますから。ほんとに、何も」
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「オーギュスティン先生!頼むよ!俺を踏ん付けて…」
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全ての元凶はこいつからなのだと怒りが底から湧き上がり、再び向き直ると彼の鳩尾にドスリと拳を突き入れていた。
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