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そのはちじゅうよん
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窓辺に大量に吊り下げられていたお面が色褪せてきましたね、とラスは言う。それはひたすら日に浴びているので白さが増し、同時に劣化していた。
リシェは再び実家から届いた荷物の開封をしている。
「もう夏も終わりですからね。どうにかしてお面を調達しないと」
どうしてもお面を吊り下げないといけないのだろうか。
「夏祭りもやらないだろう。涼しくなってきたし」
「そうなんですよね。気軽に調達しにくいから通販で買おうかな…」
逆にここにリシェがいますと言うアピールをしている結果になるのだが、ラスはそこまで考えていないらしい。
よいしょ、と段ボールからリシェは中身を取り出す。
「んあ?」
ビニール袋で更に梱包されたものを引き剥がした後で変な声を上げた。同時に振り向くラス。
「何ですか?それ…」
「さあ…何だか鬼のようなお面だ。木彫りだなこれ」
リシェが説明する通り、彼の手には木彫りで作られた鬼の面。表情は目が吊り上がっている事から怒りの表情をしているのだろうか。詳細は分からないが、勢いを感じさせられる。
そして一緒に同封されていた手紙を引っ張り、いつものように読み上げてみた。
「『旅行先で見つけた面白いお面を買いました。肝試しに丁度良いかと思います』」
リシェは手紙を読んだ後、静かにそれを閉じる。
「何で?って言いたいと思いますけど、俺も同意見なので言わなくても大丈夫ですよ」
いつもと同じパターンなのは十分分かっている。
リシェはぐぬぬと言葉を詰まらせた。多分言いたかったのだろう。
「どう反応したらいいのだ」
改めて木彫りのお面を手にした。
顔面が赤く塗られ、眼球の白い部分は黄色い。荒々しさを模したような表情はいかにも鬼気迫る迫力だ。
「どこに置けと言うんだ…」
毎度反応に困るものを送られてもこちらは困る。
「先輩の親御さんってよく旅行に行きますねえ」
「仕事柄仕方無いんだ。旅行って言うか仕事の関係なんじゃないかな…どうせなら実用性のあるものにして欲しい」
うーん、と悩むリシェ。
ラスは「あ」と顔を上げた。
「なら、それを窓に吊り下げるってのはどうです?」
「窓に?やけにお前はお面を吊り下げたがるな…」
「そりゃあ…」
変態…もといロシュ避けになるものが欲しい所なのだ。
しかもこれだけ精巧に作られた本格的な怒りのお面なら効果絶大なのではないだろうか。
「吊り下げるだけじゃ物足りないなあ…どうしようかな。どうせならもっと効果ありそうな物にしたい」
「………」
そう言い、ラスは携帯電話でおもむろに検索を開始する。
リシェは無言でそんな彼を見ていた。
数日後。
ラスの居る教室に、突然顔を引き攣らせながら保健医のロシュがやってきた。次の授業までの休憩時間を利用し友人達と駄弁っていた彼は、その表情を見るなり意地悪く笑うと「あっれぇ?」と首を傾げる。
ロシュは髪を乱し、美しい顔を真っ赤にしながらそのままラスに一直線に詰め寄った。
「何ですかあれは!!」
「あれって…何ですかね?」
わざとらしくとぼけた。
「ベランダに変なものを置きましたねあなた!あんなものを置いて良いと思ってるんですか!?」
早速確認したのだろう。
覗き魔のロシュの事だ。部屋から見えた鬼のお面に気付き度肝を抜いたに違い無い。
「見るの早っ…流石ですねー」
ロシュは舌打ちする。
「ベランダにあんなものを置くのはあまり宜しくは無いと思いますがね?何故置いているんです?送られて来たんですか?周りの生徒達もびっくりするでしょうが!」
彼の話を聞いていたキリルは、首を傾げながらラスを見た。
「今度は何飾ってんの?」
キリル達はラスの部屋に吊り下げられていたお面の存在は理解していたが、これだけロシュが訴えているのは相当変な物を設置したのだろうと察する。
「俺、ベランダには置いて無いですよぉ。外に出してませんもん。先輩が実家から送られた鬼の木彫りのお面に、白装束を着せたマネキンを窓辺に置いただけです。頭にはLEDの蝋燭を装備させて」
その話を聞くと、キリルを始め、他のベルンハルドとノーチェは引き気味に気持ち悪、と思わず呟いていた。
満足げなラス。
「だって覗き魔が居るならこちらもちゃんと対処しとかないといけないじゃないですかぁ。それにお面は先輩の私物なんですよぉ。俺は借りて飾りつけただけ。何も悪い事してませんって」
にっこりと無邪気な笑みを向け、ラスはロシュに言った。
ぐぬぬと唸るロシュ。
「ほら、キモさにはキモさでお返ししないと。ねっ、ロシュせんせ?」
「何と悪趣味な人だ!どこまでも私の邪魔をするんですねあなたはっ!」
珍しく感情的になるロシュを前に、どっちが悪趣味なんだかと呆れる。どちらも大差無い気がするが、お互い相手が悪趣味だと思い込んでいた。
同時に次の授業が始まる合図が校舎内に鳴り響いた。まだ言い足りなさそうな彼はぐっと言葉を押さえた後、吐き捨てるようにラスに怒鳴る。
「覚えていなさい!!」
そう言いながら教室を飛び出そうとするロシュ。色々文句を言ってやりたかったのか悔しさを滲ませていた。
そんな彼に対し、「速攻忘れてやる!!」とラスも負けじと言い返していた。
リシェは再び実家から届いた荷物の開封をしている。
「もう夏も終わりですからね。どうにかしてお面を調達しないと」
どうしてもお面を吊り下げないといけないのだろうか。
「夏祭りもやらないだろう。涼しくなってきたし」
「そうなんですよね。気軽に調達しにくいから通販で買おうかな…」
逆にここにリシェがいますと言うアピールをしている結果になるのだが、ラスはそこまで考えていないらしい。
よいしょ、と段ボールからリシェは中身を取り出す。
「んあ?」
ビニール袋で更に梱包されたものを引き剥がした後で変な声を上げた。同時に振り向くラス。
「何ですか?それ…」
「さあ…何だか鬼のようなお面だ。木彫りだなこれ」
リシェが説明する通り、彼の手には木彫りで作られた鬼の面。表情は目が吊り上がっている事から怒りの表情をしているのだろうか。詳細は分からないが、勢いを感じさせられる。
そして一緒に同封されていた手紙を引っ張り、いつものように読み上げてみた。
「『旅行先で見つけた面白いお面を買いました。肝試しに丁度良いかと思います』」
リシェは手紙を読んだ後、静かにそれを閉じる。
「何で?って言いたいと思いますけど、俺も同意見なので言わなくても大丈夫ですよ」
いつもと同じパターンなのは十分分かっている。
リシェはぐぬぬと言葉を詰まらせた。多分言いたかったのだろう。
「どう反応したらいいのだ」
改めて木彫りのお面を手にした。
顔面が赤く塗られ、眼球の白い部分は黄色い。荒々しさを模したような表情はいかにも鬼気迫る迫力だ。
「どこに置けと言うんだ…」
毎度反応に困るものを送られてもこちらは困る。
「先輩の親御さんってよく旅行に行きますねえ」
「仕事柄仕方無いんだ。旅行って言うか仕事の関係なんじゃないかな…どうせなら実用性のあるものにして欲しい」
うーん、と悩むリシェ。
ラスは「あ」と顔を上げた。
「なら、それを窓に吊り下げるってのはどうです?」
「窓に?やけにお前はお面を吊り下げたがるな…」
「そりゃあ…」
変態…もといロシュ避けになるものが欲しい所なのだ。
しかもこれだけ精巧に作られた本格的な怒りのお面なら効果絶大なのではないだろうか。
「吊り下げるだけじゃ物足りないなあ…どうしようかな。どうせならもっと効果ありそうな物にしたい」
「………」
そう言い、ラスは携帯電話でおもむろに検索を開始する。
リシェは無言でそんな彼を見ていた。
数日後。
ラスの居る教室に、突然顔を引き攣らせながら保健医のロシュがやってきた。次の授業までの休憩時間を利用し友人達と駄弁っていた彼は、その表情を見るなり意地悪く笑うと「あっれぇ?」と首を傾げる。
ロシュは髪を乱し、美しい顔を真っ赤にしながらそのままラスに一直線に詰め寄った。
「何ですかあれは!!」
「あれって…何ですかね?」
わざとらしくとぼけた。
「ベランダに変なものを置きましたねあなた!あんなものを置いて良いと思ってるんですか!?」
早速確認したのだろう。
覗き魔のロシュの事だ。部屋から見えた鬼のお面に気付き度肝を抜いたに違い無い。
「見るの早っ…流石ですねー」
ロシュは舌打ちする。
「ベランダにあんなものを置くのはあまり宜しくは無いと思いますがね?何故置いているんです?送られて来たんですか?周りの生徒達もびっくりするでしょうが!」
彼の話を聞いていたキリルは、首を傾げながらラスを見た。
「今度は何飾ってんの?」
キリル達はラスの部屋に吊り下げられていたお面の存在は理解していたが、これだけロシュが訴えているのは相当変な物を設置したのだろうと察する。
「俺、ベランダには置いて無いですよぉ。外に出してませんもん。先輩が実家から送られた鬼の木彫りのお面に、白装束を着せたマネキンを窓辺に置いただけです。頭にはLEDの蝋燭を装備させて」
その話を聞くと、キリルを始め、他のベルンハルドとノーチェは引き気味に気持ち悪、と思わず呟いていた。
満足げなラス。
「だって覗き魔が居るならこちらもちゃんと対処しとかないといけないじゃないですかぁ。それにお面は先輩の私物なんですよぉ。俺は借りて飾りつけただけ。何も悪い事してませんって」
にっこりと無邪気な笑みを向け、ラスはロシュに言った。
ぐぬぬと唸るロシュ。
「ほら、キモさにはキモさでお返ししないと。ねっ、ロシュせんせ?」
「何と悪趣味な人だ!どこまでも私の邪魔をするんですねあなたはっ!」
珍しく感情的になるロシュを前に、どっちが悪趣味なんだかと呆れる。どちらも大差無い気がするが、お互い相手が悪趣味だと思い込んでいた。
同時に次の授業が始まる合図が校舎内に鳴り響いた。まだ言い足りなさそうな彼はぐっと言葉を押さえた後、吐き捨てるようにラスに怒鳴る。
「覚えていなさい!!」
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