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真・らぶ・TRY・あんぐる 九
しおりを挟む育嶋佑は部活に来ていた。
今回は、部室が開いていて、目当ての人物もしっかりと在室していたのである。
親友二人の、追求というかお節介というか……をなんとか振り切って、部室にたどり着いた佑は事態の収拾を懇願していた。
「井沢先輩、どうにかしてくださいよ~」
佑は今にも泣き出しそうだ。
「ムリだな」
にべもなく言い放つ井沢正。
彼がサイエンスクラブ略称S・Cの副会長にして、以前に佑が面会しようとしていた相手であった。
何か言おうとする佑だが、機先を制して正が
「どうにもならん」
と告げる。
更に
「手のつけようがない」
そして
「お手上げだ」
表情も変えずに否定的なことの連続である。
これには佑もめげた。
もっとも、いつものことだろう、という意見もある。
「とはいうものの」
今までとは違った展開をつい期待する佑。 しかし、つぎの正の言葉でまたもや打ちのめされた。
「時間がすべて解決してくれることだろう」
佑はどんどんと机を叩いて訴えた。 彼にしてはかなり珍しい。
「先輩っ! そんな無責任なっ!」
しかし、正は持ちまえの冷静さを保ち、これ以上はないぐらい冷静に答える。 さすがはS・Cの副会長だけのことはある。 はっきりいって、佑とは役者が数段ちがう。
「無責任?」
銀縁メガネの奥から、じろり、と佑を見やって続ける。
「この状態で、なんらかの希望的観測を言う方がよっぽど簡単かつ無責任だと思うがね」
確かにそれは正論である。
しかし、佑としては引き下がる訳にはいかない。 いくら相手が馬の耳に念仏で、糠に釘で、暖簾に腕押しを絵に描いたような相手でもそれに屈する訳にはいかないのである。
「だいたい、無断で未完成の薬を飲んでしまった君がそもそもいかんのだよ、育嶋くん」
実際のところ、佑には『君がそもそもいかんのだ』などと言われる筋合いはない。
「無断って……あれは」
佑がそう抗議しようとしたとき、いつのまにか現れていたS・C会長の浅間浩が口を挟んだ。
「そうそう、あれは育嶋には罪はない」
相変わらずどこか軽い。
これでも熱烈に思われている許嫁がいるのだから、世の中というのは油断がならない。
「いつものお茶目な軽~い軽~い冗談だったんだから。 いっちゃんも寛大な心で許してあげたまえよ。 うん」
誰を許せというのか全然わからない物言いである。
少なくとも、浩本人を、というのではないようだ。
「しかし会長、『いかんということはしがたい』といいますからね」
あきらかに間違った使い方である。
どうやら『いけない』という意味の『いかん』と『如何に』の『如何』を混同しているらしい。
(い、井沢先輩が国語があまり得意ではないって知ってたけど……これはあんまりじゃないだろうか……」
佑は『それは如何ともし難い』じゃないか、ということができない。 早くも屈しそうである。
気を取り直して
(ど、どう考えてもあれが原因なんだろうな……)
というわけで、あらためて佑は原因となった『あれ』即ち事件のことを思い出していた。
さて、いよいよ佑が悩んでいる理由を明かす時が来たようだ。
話は留美の告白から1週間前にさかのぼる――。
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