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真・らぶ・TRY・あんぐる 十九
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次の日、佑は普通に登校した。
前日の留美とのキスが効いたわけでもあるまいが、佑の体調は回復していたのである。
そろそろ振り回されるのにも慣れてきたのかもしれない。
慣れというのは怖いものである。
実際の話し、そんなに勉強が好きだというわけでもないし逆に劣等生というわけでもないのだが、1日の後れを取り戻そうとするかのように佑は真剣に授業を受けた。
根が真面目なのである。
それに、学校の勉強に集中していると『責任』のことも忘れていられたからだった。
悩んでも仕方がないことを悩むと昨日のようになる、といくらニブくても学習したわけだ。
ここまできてそれを学習しなかったら、どこかの国のバ官僚といい勝負だから、そうでないのは喜ばしい。
一般的に考えて、実態としてはそれほど酷くはないにせよう、彼の心境としては四面楚歌だった昨日だが、一夜置いた今日になって救いの手は思わぬところからやってきた。
いや、確かに『本当に救いの手で、本当に思わぬところからか?』と問われれば疑問は残るが、そこはあまりツッコまないで頂きたい。
「井沢先輩……確認をしておきたいんですけど……」
放課後、部室に来た佑は、先に来て一仕事すませ息抜きをしていたらしき井沢正に尋ねた。
「何かね?」
珍しく機嫌がよさそうである。 ほっとしつつ、
「『媚薬』の有効期限は」
「有効期限?」
「はい……急に来るんですか?」
そこで『いつまでなんですか?』と聞けないのが彼の限界でもある。
「いやそんなことはないな。 更に言えば」
「さ、更に言えば?」
「切れたからといってすぐに感情は変化しない。 君は人間の感情と言うものを軽く考え過ぎじゃないのかね?」
「そ、そんなこと言われても……」
本当なら『そりゃアンタや!』とかツッコミたいところだろうが、そんな度胸は薬にしたくともない。
「それにだ……アレを飲んだからといって、対象者が急に君に惹かれるわけではない。 それではあまりに不自然過ぎるだろう」
正の口から『不自然』などという言葉が出ては佑も絶句するしかない。 もともとよく絶句する性格ではあるが、今回はまた特別である。
「対象者……水瀬くんだったかね? 彼女を調べられないかね?」
急にそんなことを言い出した正。 驚いて尋ね返す。
「調べられないかって、どういう」
「もちろん、アレがどういうふうに作用しているか、だ」
ほとんどモルモットを見るような目つきで佑を見やり、更に続ける。
「一人一人調べるのは面倒」
思わず本音が出る。
「いやいや、不可能に近いが、対象者が特定できているのなら話は別だからな」
「でも、いったいどうやって調べるんですか?」
怪訝な表情で首をかしげる。 佑の得意分野は生化学ではないから仕方がない。
「本人を調べるのが一番手っ取り早いが、六〇年代アメリカのSF雑誌よろしく美少女をとっつかまえて実験をする……というのも絵的にまずかろう」
絵的にまずいだけではないだろう、それは。
「だから次善の策として」
次にどんなとんでもなく過激な台詞が発せられるか、つい身震いしてしまう佑。 だが、正の言った内容は予想したようなものではなかった。
「1本でいいんだが、水瀬くんの髪の毛を……出来れば三〇センチ以上の長さのものを」
「は?」
佑の目が点になる。
別に本当に点になったわけではない。 そう表現したくなるような表情をしたのだ。
「入手してもらいたい」
「ち、ちょっと待って下さい? 留美ちゃ、いえ水瀬さんの髪を?」
「そうだ。 君も知っているだろう? 水銀やヒ素などによる毒殺かどうかが髪の毛を調べればわかるということを」
それは知っている。 ナポレオンの遺髪からは水銀だかヒ素だかが多量に検出された、という話も聞いたことはある。
「最近では髪の毛から向精神薬も検出することができる」
向精神薬、というのは端的にわかりやすく言うと『麻薬』である。 それを服用していたかどうかを髪の毛を調べる事でわかるのだ。 ちなみに大麻吸引の証拠としても利用されているらしい。
「厳密にはアレは向精神薬ではないが、途中までとはいえ自分で調合したものだ。 それなりの性質は理解している」
ほくそ笑んでいるのを佑に見られないようにか、彼に背中を向けて続ける正。
「彼女がどのような状態なのか、そして前に君が言ったように」
真面目な表情を作り、向き直る。
「『どうにか』ならないかどうか……それが髪の毛でわかる」
もちろん向精神薬の痕跡を警察などで調べる場合は1本ではとても足りない。 二〇本位は必要なのだ。
だが、そこは『近所のマッド・サイエンティストエンジニアに弟子入りしている』井沢正だけのことはあった。 少なくとも、かなりの自信である。
「すると、うまくいけば?」
「そう、うまくいけば」
ほとんど悪魔の笑みで言葉をつぐ。
「ひょっとして、事態が好転するかもしれん」
「……わかりました」
佑にとっては虹をつかむかワラをもつかむかのような話だったが、さしあたり、原因であるところの正に頼るのが現実的なのであった。
ここに正と佑、二人の利害が一致し、留美は髪の毛を採取されることになったのである。
確かにそういう言い方をするといかがわしく聞こえるが、佑が考えたのはそれほどのことでもない。
そもそも想像でだって、そんなに過激なことができるかどうかあやしい佑である。
「肩にゴミが……」
とか言ってゴミごと肩にくっついている抜け毛を取る、という方法であった。
つきあっている彼女の制服についているゴミを取るのは別に問題のある行為ではない。
しかし考えてみると、やはり本質的にはいかがわしく、ほとんど『黒魔術』の世界であった。
だが佑はその日、目的を完遂することはできなかった。
今回は留美の思惑通りに彼女の家へ引っ張っていかれたからである。
比喩的な意味で。
前日の留美とのキスが効いたわけでもあるまいが、佑の体調は回復していたのである。
そろそろ振り回されるのにも慣れてきたのかもしれない。
慣れというのは怖いものである。
実際の話し、そんなに勉強が好きだというわけでもないし逆に劣等生というわけでもないのだが、1日の後れを取り戻そうとするかのように佑は真剣に授業を受けた。
根が真面目なのである。
それに、学校の勉強に集中していると『責任』のことも忘れていられたからだった。
悩んでも仕方がないことを悩むと昨日のようになる、といくらニブくても学習したわけだ。
ここまできてそれを学習しなかったら、どこかの国のバ官僚といい勝負だから、そうでないのは喜ばしい。
一般的に考えて、実態としてはそれほど酷くはないにせよう、彼の心境としては四面楚歌だった昨日だが、一夜置いた今日になって救いの手は思わぬところからやってきた。
いや、確かに『本当に救いの手で、本当に思わぬところからか?』と問われれば疑問は残るが、そこはあまりツッコまないで頂きたい。
「井沢先輩……確認をしておきたいんですけど……」
放課後、部室に来た佑は、先に来て一仕事すませ息抜きをしていたらしき井沢正に尋ねた。
「何かね?」
珍しく機嫌がよさそうである。 ほっとしつつ、
「『媚薬』の有効期限は」
「有効期限?」
「はい……急に来るんですか?」
そこで『いつまでなんですか?』と聞けないのが彼の限界でもある。
「いやそんなことはないな。 更に言えば」
「さ、更に言えば?」
「切れたからといってすぐに感情は変化しない。 君は人間の感情と言うものを軽く考え過ぎじゃないのかね?」
「そ、そんなこと言われても……」
本当なら『そりゃアンタや!』とかツッコミたいところだろうが、そんな度胸は薬にしたくともない。
「それにだ……アレを飲んだからといって、対象者が急に君に惹かれるわけではない。 それではあまりに不自然過ぎるだろう」
正の口から『不自然』などという言葉が出ては佑も絶句するしかない。 もともとよく絶句する性格ではあるが、今回はまた特別である。
「対象者……水瀬くんだったかね? 彼女を調べられないかね?」
急にそんなことを言い出した正。 驚いて尋ね返す。
「調べられないかって、どういう」
「もちろん、アレがどういうふうに作用しているか、だ」
ほとんどモルモットを見るような目つきで佑を見やり、更に続ける。
「一人一人調べるのは面倒」
思わず本音が出る。
「いやいや、不可能に近いが、対象者が特定できているのなら話は別だからな」
「でも、いったいどうやって調べるんですか?」
怪訝な表情で首をかしげる。 佑の得意分野は生化学ではないから仕方がない。
「本人を調べるのが一番手っ取り早いが、六〇年代アメリカのSF雑誌よろしく美少女をとっつかまえて実験をする……というのも絵的にまずかろう」
絵的にまずいだけではないだろう、それは。
「だから次善の策として」
次にどんなとんでもなく過激な台詞が発せられるか、つい身震いしてしまう佑。 だが、正の言った内容は予想したようなものではなかった。
「1本でいいんだが、水瀬くんの髪の毛を……出来れば三〇センチ以上の長さのものを」
「は?」
佑の目が点になる。
別に本当に点になったわけではない。 そう表現したくなるような表情をしたのだ。
「入手してもらいたい」
「ち、ちょっと待って下さい? 留美ちゃ、いえ水瀬さんの髪を?」
「そうだ。 君も知っているだろう? 水銀やヒ素などによる毒殺かどうかが髪の毛を調べればわかるということを」
それは知っている。 ナポレオンの遺髪からは水銀だかヒ素だかが多量に検出された、という話も聞いたことはある。
「最近では髪の毛から向精神薬も検出することができる」
向精神薬、というのは端的にわかりやすく言うと『麻薬』である。 それを服用していたかどうかを髪の毛を調べる事でわかるのだ。 ちなみに大麻吸引の証拠としても利用されているらしい。
「厳密にはアレは向精神薬ではないが、途中までとはいえ自分で調合したものだ。 それなりの性質は理解している」
ほくそ笑んでいるのを佑に見られないようにか、彼に背中を向けて続ける正。
「彼女がどのような状態なのか、そして前に君が言ったように」
真面目な表情を作り、向き直る。
「『どうにか』ならないかどうか……それが髪の毛でわかる」
もちろん向精神薬の痕跡を警察などで調べる場合は1本ではとても足りない。 二〇本位は必要なのだ。
だが、そこは『近所のマッド・サイエンティストエンジニアに弟子入りしている』井沢正だけのことはあった。 少なくとも、かなりの自信である。
「すると、うまくいけば?」
「そう、うまくいけば」
ほとんど悪魔の笑みで言葉をつぐ。
「ひょっとして、事態が好転するかもしれん」
「……わかりました」
佑にとっては虹をつかむかワラをもつかむかのような話だったが、さしあたり、原因であるところの正に頼るのが現実的なのであった。
ここに正と佑、二人の利害が一致し、留美は髪の毛を採取されることになったのである。
確かにそういう言い方をするといかがわしく聞こえるが、佑が考えたのはそれほどのことでもない。
そもそも想像でだって、そんなに過激なことができるかどうかあやしい佑である。
「肩にゴミが……」
とか言ってゴミごと肩にくっついている抜け毛を取る、という方法であった。
つきあっている彼女の制服についているゴミを取るのは別に問題のある行為ではない。
しかし考えてみると、やはり本質的にはいかがわしく、ほとんど『黒魔術』の世界であった。
だが佑はその日、目的を完遂することはできなかった。
今回は留美の思惑通りに彼女の家へ引っ張っていかれたからである。
比喩的な意味で。
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