『真・らぶ・TRY・あんぐる』

倉智せーぢ

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真・らぶ・TRY・あんぐる 二十七

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「近頃、何か悩んでいるようだね?」
夕飯のとき、父・真澄にそう尋ねられ、由香はドキッとするとともに、なんとなくホッとした。
「や、やっぱり判る?」
「もちろんだとも。 僕は君の父親だし、それに牧師でもあるからね? 迷える仔羊を導くのは義務だし仕事でもあるんだよ」
そう言いながら、自分の顎の前で両手を重ね、少しうつむく。 それは祈りの姿であった。
「パパ……」
涙がこぼれそうになるのを堪え、悔い改めようとするかのように真澄と同じような姿勢をとって由香は話しだした。

由香が真澄に悩みをうちあけている間、彼は頷きながら黙って聞いていた。
そして、由香の懺悔にも似た相談内容を聞き終わると優しく語りかけた。
「君はどうしたいの? 自分に芽生えた気持ちを相手に知って欲しい、そうは思わないのかい?」
「急にこんなこと……打ち明けると向こうでも困るだろうから……」
真澄は優しく微笑んで
「それは、告白に求愛も含まれていたなら相手も困るかもしれないね。 でも伝えるだけなら違うと思うよ」
真澄はそのダンディな容姿に敬虔な牧師の態度を宿し、娘に助言する。
「由香、僕は君を愛しているよ」
唐突にそんなこと言う父に由香はビックリして聞き返した。
「え、何なの急に?」
「君は今困ったかい? 不快になったかい?」
教会が、日曜日ごとにホストクラブも同然となっているという噂の原因の甘い微笑みを娘に向けて尋ねる。
「困ったり不快になったりする訳ないでしょう?」
「どうして?」
「だって……パパだもの」
「同じだよ」
「同じ?」
「由香が本当にその相手に慈しみと愛情をもっているのなら、相手は決して困ったり不快になったりはしないよ?」
納得の行かない顔をしている愛娘に今度は
「今、僕は慈しみの心で言った。 ではこれはどうだい?」
一拍おいて
「君を愛している」
ほとんど同じ言葉だったが、声に含まれたふしだらな『男』の印象に由香は一瞬、逃げ出そうと思った。
が、次の瞬間には真澄は元の牧師で父に戻っていた。
由香はほっとしたのも手伝って
「パパ、もしかして今アクターのテクニック使ったんでしょう?」
と尋ねる。
「その通りだよ。 自分の気持ちに欲望を不必要なくらいにこめる、そういうことをやったのさ」
現役のアクター、つまり映画俳優でもある真澄は、娘に頭を下げながら
「申し訳ないね、由香。 でも君ならこれでわかったと思う」
娘から見ても充分以上に魅力的なスマイルを見せ
「求愛を含まなければ大丈夫ってことがね」
と教えた。

「それに」
娘の瞳の奥を覗きこむように
「心の中で一人で悩むよりも、言ってしまった方が案外すっきりするものだよ。 そしてそれに相手も君のことが……という可能性もあるだろう?」
事実、父に話を聞いて貰っただけでも由香の心は大分軽くなっていた。 その後の実演含んだ説教――叱る、という意味でなく、教えを説くと言う意味の――で
「告白してみよう」
そう思ったのだ。
(ダメでもともとよ! 人生は賭けだ!って言ったの誰だったっけ?)
聖職者の子としては相応しくないが、俳優の娘としては似つかわしいようなことを胸中に呟き、牧師兼父にお礼をする。
「ありがとうございました」
真澄は近所のマダムの間で『百万ドルの微笑み』と称されている笑みをみせて
「今こそ天国への道は開けました。 悔い改めなさい」
そして今度は『パパ』の微笑を見せた。
「相談してくれて嬉しいよ、由香」
「パパ……思いきって相談して良かった……やっぱりパパね」
「そう言われると照れくさいね」
娘に言われ、真澄は父親冥利に尽きる気分であった。
「うまくいったら紹介しておくれね? 大事な娘の大切な相手に挨拶しておきたいからね?」
「うん、うまくいったら……ね」
後になって由香は、そのとき自分が複雑な表情をしていただろうなー、と思った。

由香が自分の部屋へ戻った後、彼は亡き妻の遺影を取り出して眺めながら
「君の娘は……いい子に育ってくれたよ。 君にも見せてあげたかったな……」
そう報告し、そのダンディな顔で微笑んだ。 両の目には涙が浮かんでいた。



父に相談し気持ちの整理はつけて後は実行するだけのはずだったが、それでも当事者である由香としてはどうしても言い淀んだ。 目の前に立ち、告白すると思っただけで舌がもつれてしまう。
仕方のない事だろう。
まだ由香は十六歳になったばかりなのである。 留美に比べれば大人びて見える由香だが、特に浪人もしていないし早生まれでもないので留美と同じ年に生まれたのは間違いない。
そして由香は、恋愛関係では積極的な留美とは逆に恋愛に対して臆病な部分があるのだ。 告白がのびのびになっているのも無理からぬことだった。
「告白しよう」
そう思ってから今日で何日目か、由香も覚えてはいない。 だが、1週間は経っていないはずだ。
二人きりになり、今日こそ、いや今度こそ言おうと決意する。
やはりどうしても本人を目の前にすると言いづらくなる。 胸のドキドキがおさまらない。 顔が火照る。
しかし、それでも由香は決死の覚悟で、ついに言った。


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