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真・らぶ・TRY・あんぐる 三十
しおりを挟む「階段は走っちゃ」
注意しかけた情報局ナンバー4こと大部正明は、相手が普通そんなことをまるでしそうにない水瀬留美だと気がついて首をかしげた。
佑が留美の実態を喧伝していないので、彼も留美のことを未だ『気立てが良く、かよわい美少女』だと思っているのだ。
佑や留美、由香と交友がない一般生との場合は、更に加えて『深窓の令嬢』というような脳内設定まで盛っていたりするので一概に正明を責められない。
「あれ、水瀬さん? そんなに慌ててどうしたの?」
「佑が」
焦りのため、自分が彼を呼び捨てにしていることに気付いていない留美。 正明もあえて咎めだてしない。
「佑が、佑とユカが大変なの!」
「え、育嶋と立村さんが?」
正明の行動と、身のこなしは速かった。
それは、由香が以前、情報局室で見たとおりである。
彼は親友を救うため、まるで風速二十メートルの風のように走りだしていた。
留美は後ろから大声で叫ぶ。
「学校の右手の公園よ!」
それを聞いた正明は2階南の窓から飛びだした。(註・真似しないで下さい)
「大部くん?」
驚いて同じ窓から身をのり出し、安否確認しようとする。
と、正明は自分の体を器用に丸めゴムマリのように校庭に達すると、軽々と転がるようにダッシュし、校庭から飛び出していった。
校門から飛び出してくる正明の姿を目にしたならずものの群れは
「く、くそう、人が来やがった……仕方ない、逃げるぞ」
「あ、ああ」
口々にそう言いつつ逃げ出した。
あきれ返った卑怯者どもであった。
「待て!」
そんなことを言われて待つ奴はいないと昔から相場は決まっている。
だが、それでも正明には逃げた相手が何者かが確認できた。
名だたる情報局ナンバー4こと情報局書記だけのことはある。
「あいつら……」
悪漢どもの顔をまるで写真のように記憶にファイルすると正明は追いかけるのをやめた。
「体力のムダだな。 後で局長に報告だ」
そうひとり言をいうと踵を返した。
「それより育嶋!」
あんな奴らを相手にする暇はない。
正明にとって、今、大事で気になるのは、暴行を受け痛手を被った親友の安否だった。
「佑くん、ごめんね、佑くん……あたしと……留美のために……こんな」
「い………………い……んだ……僕は……大丈夫だから……泣かないで」
「……血が出てる…………」
佑の唇が切れているのを見て、由香は反射的に自分のそれを押し当てていた。
そのとき彼女としては、その行為の半分近くが応急的な止血と消毒のためであったが、佑がそれをどうとったかは別である。
そして、由香が倒れた佑を医務室へ運ぼうと努力をし始めたとき、ちょうど正明が戻ってきた。
正明は、由香に声をかけ
「ぼくにまかせて。 女の子にはそんなことさせられないよ」
そう言ったが、自分と同じくらいの体格である佑を『お姫様抱っこ』できるほどの腕力は正明にもない。
結果として佑に肩を貸すことにし、医務室へと向かうのだった。
「ゴメンね、育嶋……僕がもっと早く気づけば」
「う、ううん……大部のせいじゃないよ、僕が勝手にやったんだ……」
「育嶋」
ついつい流れる涙をブレザーの袖で拭う正明だった。
「ぼく……育嶋が親友だってこと……誇りに思うよ」
「やだな……僕だって、大部が親友なの誇りにおもってるよ……」
心配そうについてきている由香は涙を流していた。
佑の献身的な行為と、二人の友情に、である。
(留美が彼を好きになったの……わかる気がする……)
戻ってきた留美が途中で合流し、レースで縁どられたハンカチを佑とそして由香に渡す。
前者は血を拭うため、後者は涙をふくためにである。
彼女はいつも複数の清潔なハンカチを持ち歩いているのだ。
自衛官の娘としては当然かもしれない。
「佑クン、大丈夫?」
涙をこらえ、もう一枚のハンカチを取り出して彼の手の届かない部分の血をふき取る。
「とても……眠いんだ……おやす……」
佑の体から力が抜け、急に重くなるのを正明は感じた。
「育嶋!」
「佑クン!」
「佑くんっ!」
「育嶋……」
次の瞬間、佑は軽いイビキをかいていた。
ここのところ寝不足だったのだ。
何故かは大体わかると思う。
「育嶋……この!」
ほっとしたのも手伝って佑の頭をぶつジェスチャーをする。
「びっくりさせやがって」
そう言いながら、正明は目を潤ませつつも微笑んでいた。
そして、医務室。
医務室附きの派遣医・楠木円によれば
「全治1週間」
であった。
佑は、かなりタフである。
少なくとも、あれだけの暴行を加えられたら一般人なら全治1ヶ月だろうからだ。
由香の『応急処置』が効いたのかもしれないが。
それでも全身包帯だらけではあった。
別に、円がやったわけではない。
将来の義弟、つまり現フィアンセ大部正一の弟・正明の親友とはいえ、そんな資源の無駄使いにして過剰な手当を積極的におこなう円ではない。
佑は円の好みからあさっての方向にズレていたが、そういうことが原因でもない。
職業倫理がキチンとしているのである。
包帯ぐるぐる巻きをやったのは留美だ。
円が目を離した隙にそういうことをしてしまったのである。
佑が運び込まれてから5分ばかり
『事情を訊く』
という名目で、夢中になって正明と『お話』をしていたのだ。
ケガ人をほったらかしにしていた円にも問題はあったが、留美も極端だった。
彼女は彼女なりに、佑のことが心配でならなかったのだろう。
「水瀬さん、だったかな?」
「はい、水瀬留美です」
「キズはハデだけどね、骨にも内臓にも損傷はほとんどないんだからそんなにホータイ使わないでくれると嬉しいんだけど」
「で、でも万が一」
「万が一にも、億が一にも命に別状はないから安心して。 円さんの腕を信用しておきなさいって」
ずりおち気味のクロブチ眼鏡を指先で持ち上げ、自信たっぷりに円は言った。
「お大事にと育嶋に伝えといてね水瀬さん? それじゃ楠木先生失礼します、ぼくこれから局長に報告しなきゃいけないから」
円から逃げるようにして正明は医務室を出ていこうとした。
円は渋い表情をしながら
「仕方がないわねー。 それじゃスーザンに言っといて。 『たまには顔見せにこい』ってね」
ちなみに『スーザン』というのは服部数三のニックネームである。
「はい、それじゃ」
円に一礼した正明は、廊下を走らない程度に、急いで情報局室に向かった。
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