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第1章:魔法学院入学編

第39話:最強賢者は推理する

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 侵入者の男を氷漬けにしてもなお、ゴブリンの召喚は止まらなかった。
 LLOとは違い、聖騎士が魔物をテイムできる――という線は消えた。そもそも、このゴブリンはテイムされていない。ダンジョンに生息する魔物を外に持ち出したことはないが、別の階層から別の階層へ連れて行ったことがある。その時はプレイヤーからのターゲットが外れると、自動的に元の階層に戻っていった。

 LLOと同じ習性ならば、このゴブリンはダンジョンに戻ろうとしているという事になるだ。
 ……となると、どこかから【空間転移ゲート】のような魔法を使ってダンジョンから連れ出したゴブリンを送り込んでいると考えれば辻褄が合う。
 渦が出ていないという事は【空間転移】でないことは確かだが、同様の性質を持つ魔法、あるいは魔道具はある。

 問題はどこからこの無尽蔵のゴブリンを送り込んでいるかということだ。

「リーナ、この近くで大量の魔物を飼育できるような場所ってあると思うか?」

「し、飼育!?」

「ああ、このゴブリンの動きを見ていると、ダンジョンから連れ出した魔物を一旦どこかに閉じ込めているように見える。どこから来ているかわかればなんとかできるかもしれないんだが……」

「と言われてもゴブリンなんて飼ってたら目立ってしかないからこの近くではありえないと思うけど……」

「そうなんだが、近くないとこの量は……」

 どんな魔法を使うにせよ距離が離れれば離れるほど転送には魔力の消費が激しくなったり、そもそもレベルが足りていなかったりといったも問題が発生する。

 ダンジョンから連れ出す際に距離が離れているととんでもない魔力を消費するのだ。
 転送者がダンジョン内に潜伏しているという可能性は――ないな。
 そうだとしたら侵入者の男たちがここに向かう理由がない。
 魔道具を使えば遠くからでも転送可能かもしれないが、町を隔てて転送できるほどの高レアリティのアイテムをポンポンと使えるのだろうか?

「あれ……? ゴブリンって目立つんだよな?」

 何か閃きそうな気がした。
 喉まで出かかっているのに、あと少しのところで思い出せない。

「そりゃあゴブリンじゃなくても魔物なんて飼ってたら目立つでしょ……」

「なんで目立つと思うんだ?」

「喚いたり、暴れたりするでしょ? 檻に閉じ込めたりなんかしたら一日中叩いてそうだし……」

 リーナの言う通りだ。
 魔物を捕まえてどこかに閉じ込めたりすればうるさい。日本のような防音設備が整っていれば別だが……。

「地下なら……地下に閉じ込めておけば騒音は気にならなくなるんじゃないか?」

「地下を掘るなんて王都じゃ無理よ。少しくらいなら掘れるけど……ダンジョンの魔力で強固になった地面を掘るなんて無理だと思ったほうが良いわ」

「だとすればだだっぴろい家くらいで……」

 堂々巡りだ。
 家の中にゴブリンなんて閉じ込めておけばうるさくて……。
 いや、待てよ。
 うるさくなきゃ……例えば封印しておけば保管することも可能だ。
 となれば、広い家ならゴブリンを置いておくことができるのだ。

「洋館……かもしれない」

 ここしかありえない。この町で民家としてだだっ広い広さを持つのはあそこしかないのだ。

「洋館って土日にクエストで行ったところ? あんな住宅街のど真ん中でそんなの無理よ」

「いや……無理じゃない。封印状態で保管しておけば騒音は回避できる。それに、転送のための魔力の辻褄も合う」

 おそらく、転送者は魔力の総量がそれほど多くないのだ。だから、ゴブリンの転送には魔道具を使っているのだろう。そして、もしダンジョンから洋館に転送するための魔道具を節約したのだとしたら……。
 ……ギルドまでの短距離を運ぶくらいなら、極少量の魔力で済む。

「俺たちがクエストで運んだ荷物だが……あれの中身が気にならないか?」

「あれはただの箱で……」

「なんの変哲もないただの箱だったきがするけど……」

 リーナとエリスはまだ気づいていないのだ。

「おそらく、ゴブリンを何らかの魔法か魔道具を使って動けない状態にしたんだと思う。そして、冒険者に洋館まで運ばせた。……リーナ、土曜日の一回目の配達の時に荷物が動いたって話してなかったか?」

「そういえば……荷物に引っ張られるようにして転んじゃって……」

「あれはゴブリンを縛る封印魔法が一時的に解除されたんじゃないかと思う。いまのところ、そうとしか考えられない」

「そんなこと……ありえるの?」

 リーナはまだ疑っているようだ。

「探してみる価値はあると思う」

 と、エリス。

 俺たちが土日で運んだだけでも三人で三十個。一箱に一体とは限らない。その荷物は俺たち以外にも配達している人はたくさんいた。何百……もしかしたら何千というゴブリンが運び込まれたのかもしれない。
 もしそうなら、たとえ雑魚が相手であっても教員側が負ける可能性もある。

「そこに行って確認すればわかることだ。【空間転移ゲート】を使えばすぐに移動できる。俺はいくぞ」

 そう宣言し、俺は【空間転移】を発動。
 目的地は洋館の前。洋館の前と現在地を繋ぎ、渦が発生する。
 俺が渦をくぐり移動すると、リーナとエリスもついてきた。

 見た目はいつも通りの平穏そのものの住宅街である。

「さてと、中に入るか……」
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