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気が気じゃない王子
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【 ヴラシスの視点 】
謁見が長引いて昼食の時間がズレた。
『ヴラシス殿下、リンデくんと一緒に昼休憩に行ってきてください』
『分かりました、行ってきます』
リンデくんと呼ばれる令嬢はリンデ伯爵家の三女ルビー。彼女は訳ありで嫁ぐより働くことを選んだ令嬢だ。俺と同じ歳で、俺が最終学年をもう一度通う間に彼女は先に就職して見習いを始めていた。今年度から王太子妃の公務の補佐室に配属されて見習いをしていた。
今日の謁見はたまたま王太子夫妻も同席していたため彼女もいた。
『ヴラシス殿下は王子として残らずに子爵家に婿入りするのですか?』
『その予定だ』
『王子として残る方が条件が良かったのではありませんか?』
『俺はエリシアを選んだんだ。他のことは些細な差だよ』
『王子としてキュアノス嬢を娶ることも可能だったのではありませんか?』
『王子として残ると煩わしいことが出てくるし、エリシアは王子妃として閉じ込めるにはもったいない子なんだ。俺はキュアノス家でのびのび育ったエリシアを好きになったんだ』
『お二人が羨ましいです』
『君だってきっといい出会いがあるよ』
そんな話をしながら食事を終えて戻る途中、彼女がつまずいて俺の腕に抱き付くように捕まった。
『申し訳ありません』
『大丈夫か?』
『ちょっと足を捻ったようです』
彼女の職場の部屋のドアを開けてあげた。
『手当てをしてもらうんだぞ』
『ありがとうございます』
彼女と別れて国王執務補佐室に入るとキュアノス子爵がクッキーを食べていた。
『あれはお嬢様の差し入れですよ』
『え?エリシアが来ていたんですか?』
『そういえば、殿下はどこか聞いていたのに帰ってしまったな』
そのときは用事があって待つ時間はなかった程度にしか思っていなかった。
だけど、翌日の午前中を急遽休んだキュアノス子爵は午後から出てはきたが様子がおかしい。
数日後、2日後の休日はキュアノス邸に行く予定だったので子爵に声を掛けた。
『しばらくエリシアは不在です』
『しばらく?どこへ行ったんですか?』
『……』
『義父上』
『…ベルデマレ』
『は!?』
『突然置き手紙を置いて出発していました。私兵達の話ではベルデマレに向けた護衛隊を組ませていたことは間違いないです。国境を越えたのか早馬を送らせて確認しているところです』
『いつのことですか』
『先日、執務補佐室に来た後に屋敷に戻り急がせたらしいのです。私はここにいたし妻は友人の屋敷にいて知りませんでした』
『いつ戻るか書いていなかったんですか?』
『書いていなかったんです』
『俺が迎えに行ってきます』
『ベルデマレの何処に向かったのか分からない以上動けないんです。特に殿下は』
置き手紙で隣国へ行くなんて何かあったはずだ。
『ベルデマレから来いという手紙は来ていましたか?』
『招待はありません。本当に思い立ったと同時に出て行ってしまったのです。屋敷内で変わったことはありません。訪問もありません』
あの日に何かがあった?
『エリシアはここに来たんですよね。義父上に会いに来たんですよね』
そこで別の補佐官が話に入ってきた。
『キュアノス嬢は殿下を訪ねていらしたんです。普通なら昼休憩が終わる10分前にここにいらしたのですが、休憩時間がズレて食事に出ているとお伝えしたんです。しばらく時々廊下を覗きながら待っていらしたのですが、急に帰るとおっしゃって』
謁見で時間がズレて…リンデ補佐見習いと食事に…
『あ…』
彼女がつまずいて俺の腕にしがみついた…それか!
『殿下?』
『義父上、エリシアは誤解をしたのかもしれません』
あの日のことを話すとキュアノス子爵は溜息を吐いた。
『参ったな。陛下に相談しなくては』
2日後、国境に向かったキュアノスの私兵が戻って来た。確かに国境を越えていた。以前2度も国賓としてベルデマレを訪れたエリシアの身分証を見て、ベルデマレの国境警備が王宮に先回りして連絡を入れたらしい。エリシアの目的地はベルデマレの王宮だった。
ひとまず無事だということがわかってホッとした。国境から連絡が入ったのに王宮に到着していなかったら騒ぎになっているはずだから。
すぐに迎えに行きたかったが、ベルデマレの王宮から早馬が到着し、王妃とアイリス王太子妃の手紙を届けに来た。王妃からは子爵宛に、アイリス王太子妃からはうちの王妃宛に。
ソワソワしていると王妃から呼び出された。
「ヴラシス。浮気は駄目だと言ったじゃないの」
「していませんよ!」
「アイリスがそう書いているもの」
「本当に浮気なんかしていません!誤解したのであればつまずいた女性補佐見習いが俺の腕に掴まったことくらいです」
「…良かったじゃない」
「何がですか」
「片想いじゃなくて」
「…そう思われますか?」
「ヴラシス、相当気を付けなくては駄目よ」
「次は避けるか女性と行動しません」
「それは難しそうね。かといってエリシア付きで仕事をするわけにはいかないものね」
「辞めようかな…」
「とにかく、アイリスは大喜びしているわ。“浮気者に返すよりこっちで嫁入り先を探してあげてもいいですよね”なんて書いてあるから、陛下にお願いして迎えに行きなさい」
「っ!! 失礼します!」
そんなの駄目だ!エリシアは俺の妻だ!
謁見が長引いて昼食の時間がズレた。
『ヴラシス殿下、リンデくんと一緒に昼休憩に行ってきてください』
『分かりました、行ってきます』
リンデくんと呼ばれる令嬢はリンデ伯爵家の三女ルビー。彼女は訳ありで嫁ぐより働くことを選んだ令嬢だ。俺と同じ歳で、俺が最終学年をもう一度通う間に彼女は先に就職して見習いを始めていた。今年度から王太子妃の公務の補佐室に配属されて見習いをしていた。
今日の謁見はたまたま王太子夫妻も同席していたため彼女もいた。
『ヴラシス殿下は王子として残らずに子爵家に婿入りするのですか?』
『その予定だ』
『王子として残る方が条件が良かったのではありませんか?』
『俺はエリシアを選んだんだ。他のことは些細な差だよ』
『王子としてキュアノス嬢を娶ることも可能だったのではありませんか?』
『王子として残ると煩わしいことが出てくるし、エリシアは王子妃として閉じ込めるにはもったいない子なんだ。俺はキュアノス家でのびのび育ったエリシアを好きになったんだ』
『お二人が羨ましいです』
『君だってきっといい出会いがあるよ』
そんな話をしながら食事を終えて戻る途中、彼女がつまずいて俺の腕に抱き付くように捕まった。
『申し訳ありません』
『大丈夫か?』
『ちょっと足を捻ったようです』
彼女の職場の部屋のドアを開けてあげた。
『手当てをしてもらうんだぞ』
『ありがとうございます』
彼女と別れて国王執務補佐室に入るとキュアノス子爵がクッキーを食べていた。
『あれはお嬢様の差し入れですよ』
『え?エリシアが来ていたんですか?』
『そういえば、殿下はどこか聞いていたのに帰ってしまったな』
そのときは用事があって待つ時間はなかった程度にしか思っていなかった。
だけど、翌日の午前中を急遽休んだキュアノス子爵は午後から出てはきたが様子がおかしい。
数日後、2日後の休日はキュアノス邸に行く予定だったので子爵に声を掛けた。
『しばらくエリシアは不在です』
『しばらく?どこへ行ったんですか?』
『……』
『義父上』
『…ベルデマレ』
『は!?』
『突然置き手紙を置いて出発していました。私兵達の話ではベルデマレに向けた護衛隊を組ませていたことは間違いないです。国境を越えたのか早馬を送らせて確認しているところです』
『いつのことですか』
『先日、執務補佐室に来た後に屋敷に戻り急がせたらしいのです。私はここにいたし妻は友人の屋敷にいて知りませんでした』
『いつ戻るか書いていなかったんですか?』
『書いていなかったんです』
『俺が迎えに行ってきます』
『ベルデマレの何処に向かったのか分からない以上動けないんです。特に殿下は』
置き手紙で隣国へ行くなんて何かあったはずだ。
『ベルデマレから来いという手紙は来ていましたか?』
『招待はありません。本当に思い立ったと同時に出て行ってしまったのです。屋敷内で変わったことはありません。訪問もありません』
あの日に何かがあった?
『エリシアはここに来たんですよね。義父上に会いに来たんですよね』
そこで別の補佐官が話に入ってきた。
『キュアノス嬢は殿下を訪ねていらしたんです。普通なら昼休憩が終わる10分前にここにいらしたのですが、休憩時間がズレて食事に出ているとお伝えしたんです。しばらく時々廊下を覗きながら待っていらしたのですが、急に帰るとおっしゃって』
謁見で時間がズレて…リンデ補佐見習いと食事に…
『あ…』
彼女がつまずいて俺の腕にしがみついた…それか!
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あの日のことを話すとキュアノス子爵は溜息を吐いた。
『参ったな。陛下に相談しなくては』
2日後、国境に向かったキュアノスの私兵が戻って来た。確かに国境を越えていた。以前2度も国賓としてベルデマレを訪れたエリシアの身分証を見て、ベルデマレの国境警備が王宮に先回りして連絡を入れたらしい。エリシアの目的地はベルデマレの王宮だった。
ひとまず無事だということがわかってホッとした。国境から連絡が入ったのに王宮に到着していなかったら騒ぎになっているはずだから。
すぐに迎えに行きたかったが、ベルデマレの王宮から早馬が到着し、王妃とアイリス王太子妃の手紙を届けに来た。王妃からは子爵宛に、アイリス王太子妃からはうちの王妃宛に。
ソワソワしていると王妃から呼び出された。
「ヴラシス。浮気は駄目だと言ったじゃないの」
「していませんよ!」
「アイリスがそう書いているもの」
「本当に浮気なんかしていません!誤解したのであればつまずいた女性補佐見習いが俺の腕に掴まったことくらいです」
「…良かったじゃない」
「何がですか」
「片想いじゃなくて」
「…そう思われますか?」
「ヴラシス、相当気を付けなくては駄目よ」
「次は避けるか女性と行動しません」
「それは難しそうね。かといってエリシア付きで仕事をするわけにはいかないものね」
「辞めようかな…」
「とにかく、アイリスは大喜びしているわ。“浮気者に返すよりこっちで嫁入り先を探してあげてもいいですよね”なんて書いてあるから、陛下にお願いして迎えに行きなさい」
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