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次の縁談
お兄様が用意させたお茶を飲んで喉を潤し、説明を続けた。
「数ヶ月前 外出から戻ると、やけに寝所が整っていて、私が好むものではない花が飾ってあり、違和感を覚えました。
何故かとメイドに尋ねると、ジャミラ様が、”エリサ王女様のお世話をしっかりするように”と注意なさったと言いました。
そしてまた、ソレは起きたのです。
今度は3つの要素が合わさりました。
私の予定していた半日の外出、約束していないサージ様の訪問、寝所の違和感。
騒動になる1週間程前の外出から戻った日、メイドにカマをかけたのです。
“今日のサージ様は何時に帰ったの?”と聞くとメイドは“存じ上げません”と答えました。
本人は自分がどんな表情をしてその言葉を吐いたのか分かっていなかったので、私は些細な罠を仕掛けたのです。
騒動の日は神殿での奉仕活動をする定例日でした。
ですが前日に変更の手紙を出し、変更を誰にも告げずに翌日支度をして馬車に乗りました。
そしてお布施を忘れたと引き返させたのです。
私の部屋の前の護衛兵士は中に知らせようとしましたが、私は短剣を投げ付け、王族の権利を行使するため、身分を示す腕輪を見せたのです。
兵士は跪きました。
ドアを開けるとメイド達とジャミラ様付きの侍女が振り返りました。私と跪いた兵士の姿を見て悟ったのでしょう。跪きました。
その後は報告書の通りです」
「そうか」
「見合いとはいえ、いずれ伴侶となります。
私はサージ様を愛する努力をしてきたつもりです。
ですが無駄なことでした。ジャミラ様のような美の女神の化身に敵うはずもなく、彼はジャミラ様の愛人のまま、私と嫌々婚姻したでしょう。
美しく生まれなかった私は醜聞に塗れ、価値など無いに等しいですわ。
ですがいつまでも宮殿に居られないことは承知しております。
神の下女として仕えるか、どなたかの後妻にでも召し上げてくださいませ」
「……」
お兄様とお姉様は亡くなったお母様似、私はお父様似だ。
お兄様とお姉様は美男美女、私は凛々しいという言葉を使われる。可愛いとか美しいとか言ってくれたのはお母様だけだった。
「陛下?」
「私が好きに命じていいのだな?」
「陛下のお心のままに」
「……明日の午後3時にここに来てくれ」
「かしこまりました」
もう私は愛など求めない。
役割を果たすだけ。
支度をして神殿に行き、掃除や洗濯の手伝いをした。何事も無かったかのように受け入れてくれるが、私には空気が変わったことを感じ取っている。
王女の私がこのようなことをする必要はないのだけど、奉仕活動として子供の頃から続けてきた。
それも終わりにしようと下女を纏める神官に、今日限りで辞めると告げると“お待ち下さい”と言って慌てて奥へ下がってしまった。
待つとファラーク様が現れたので立ち上がり頭を下げた。
「お座りください」
「失礼します」
「神殿での活動を辞めると伺いました」
担当でもない偉い方が何故いらしたのだろう。
「元々私が来なくても困っておられません。
もう私に残っているのは王族の血だけ。
愛に縁のない私にできることなどございません」
「エリサ様、」
「それに、次を陛下が決めてくださることになりました。誰かの後妻か、地方支部の神殿下女か、どうなるのかは陛下次第ですが」
「それはいつの話ですか!」
「え?…今朝の話です」
「今日はこのままお引き取りを」
「はい…失礼いたします」
ファルーク様は慌てて部屋を飛び出した。
あの方のあのようなお姿は初めて拝見した。
ファルーク様は神罰を担当する部門のナンバー2で、まだ二十代半ばだ。
この国に、ある証を持って産まれる子は神の側で仕える資格があるとされ、成人まで神殿に通い教育を受ける。通えない者は住み込みだ。
証があっても不適合になる者も少なくない。信仰心や態度を観察され、試験も受からなければならない。
ファルーク様はその美しさから、一般の者が接しない部門に配属になったと話題の人物だった。
たまたま私の定期奉仕の日に用事があるのだろう。
奉仕に行くと必ずお姿を見かけた。
いつもありがとうとお声がけしてくださる方で、他の下女達は頬を染めていた。
しかも王女だからとお茶に誘ってくださる。
彼は奥にいるお方。下女が姿を拝めるのは稀なことなのだ。
翌日の3時に陛下を訪ねると軍部に行くと告げられた。陛下のエスコートで足を運んだ。
もしかしたらイメージ回復のために、仲の良さをアピールしたいのかもしれないなどと考えていた。
「エリサ、彼を覚えているか?」
「ハイダー将軍ですよね」
「引退が決まっている。父上と歳が近い。
指南役として役目を担うが時々だし、後妻は迎えていない」
「まさか、将軍の後妻ですか!?」
「嫌か」
「あの方は英雄です。私など畏れ多いことです」
「ハイダーがエリサを求めれば嫁ぐか?」
「将軍は王命と捉えるのではありませんか?
あのお方なら、もっと美しい令嬢をお迎えできますわ」
「エリサ。お前は美しい」
「…急にどうなさったのですか?」
どうしちゃったのかしらという目を向けると溜息を吐かれた。
「数ヶ月前 外出から戻ると、やけに寝所が整っていて、私が好むものではない花が飾ってあり、違和感を覚えました。
何故かとメイドに尋ねると、ジャミラ様が、”エリサ王女様のお世話をしっかりするように”と注意なさったと言いました。
そしてまた、ソレは起きたのです。
今度は3つの要素が合わさりました。
私の予定していた半日の外出、約束していないサージ様の訪問、寝所の違和感。
騒動になる1週間程前の外出から戻った日、メイドにカマをかけたのです。
“今日のサージ様は何時に帰ったの?”と聞くとメイドは“存じ上げません”と答えました。
本人は自分がどんな表情をしてその言葉を吐いたのか分かっていなかったので、私は些細な罠を仕掛けたのです。
騒動の日は神殿での奉仕活動をする定例日でした。
ですが前日に変更の手紙を出し、変更を誰にも告げずに翌日支度をして馬車に乗りました。
そしてお布施を忘れたと引き返させたのです。
私の部屋の前の護衛兵士は中に知らせようとしましたが、私は短剣を投げ付け、王族の権利を行使するため、身分を示す腕輪を見せたのです。
兵士は跪きました。
ドアを開けるとメイド達とジャミラ様付きの侍女が振り返りました。私と跪いた兵士の姿を見て悟ったのでしょう。跪きました。
その後は報告書の通りです」
「そうか」
「見合いとはいえ、いずれ伴侶となります。
私はサージ様を愛する努力をしてきたつもりです。
ですが無駄なことでした。ジャミラ様のような美の女神の化身に敵うはずもなく、彼はジャミラ様の愛人のまま、私と嫌々婚姻したでしょう。
美しく生まれなかった私は醜聞に塗れ、価値など無いに等しいですわ。
ですがいつまでも宮殿に居られないことは承知しております。
神の下女として仕えるか、どなたかの後妻にでも召し上げてくださいませ」
「……」
お兄様とお姉様は亡くなったお母様似、私はお父様似だ。
お兄様とお姉様は美男美女、私は凛々しいという言葉を使われる。可愛いとか美しいとか言ってくれたのはお母様だけだった。
「陛下?」
「私が好きに命じていいのだな?」
「陛下のお心のままに」
「……明日の午後3時にここに来てくれ」
「かしこまりました」
もう私は愛など求めない。
役割を果たすだけ。
支度をして神殿に行き、掃除や洗濯の手伝いをした。何事も無かったかのように受け入れてくれるが、私には空気が変わったことを感じ取っている。
王女の私がこのようなことをする必要はないのだけど、奉仕活動として子供の頃から続けてきた。
それも終わりにしようと下女を纏める神官に、今日限りで辞めると告げると“お待ち下さい”と言って慌てて奥へ下がってしまった。
待つとファラーク様が現れたので立ち上がり頭を下げた。
「お座りください」
「失礼します」
「神殿での活動を辞めると伺いました」
担当でもない偉い方が何故いらしたのだろう。
「元々私が来なくても困っておられません。
もう私に残っているのは王族の血だけ。
愛に縁のない私にできることなどございません」
「エリサ様、」
「それに、次を陛下が決めてくださることになりました。誰かの後妻か、地方支部の神殿下女か、どうなるのかは陛下次第ですが」
「それはいつの話ですか!」
「え?…今朝の話です」
「今日はこのままお引き取りを」
「はい…失礼いたします」
ファルーク様は慌てて部屋を飛び出した。
あの方のあのようなお姿は初めて拝見した。
ファルーク様は神罰を担当する部門のナンバー2で、まだ二十代半ばだ。
この国に、ある証を持って産まれる子は神の側で仕える資格があるとされ、成人まで神殿に通い教育を受ける。通えない者は住み込みだ。
証があっても不適合になる者も少なくない。信仰心や態度を観察され、試験も受からなければならない。
ファルーク様はその美しさから、一般の者が接しない部門に配属になったと話題の人物だった。
たまたま私の定期奉仕の日に用事があるのだろう。
奉仕に行くと必ずお姿を見かけた。
いつもありがとうとお声がけしてくださる方で、他の下女達は頬を染めていた。
しかも王女だからとお茶に誘ってくださる。
彼は奥にいるお方。下女が姿を拝めるのは稀なことなのだ。
翌日の3時に陛下を訪ねると軍部に行くと告げられた。陛下のエスコートで足を運んだ。
もしかしたらイメージ回復のために、仲の良さをアピールしたいのかもしれないなどと考えていた。
「エリサ、彼を覚えているか?」
「ハイダー将軍ですよね」
「引退が決まっている。父上と歳が近い。
指南役として役目を担うが時々だし、後妻は迎えていない」
「まさか、将軍の後妻ですか!?」
「嫌か」
「あの方は英雄です。私など畏れ多いことです」
「ハイダーがエリサを求めれば嫁ぐか?」
「将軍は王命と捉えるのではありませんか?
あのお方なら、もっと美しい令嬢をお迎えできますわ」
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