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もう一つの狂気
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【 パトリック王子の視点 】
王宮へ連れ戻され、謁見の間で膝を付かされたまま1時間近くが経った。横ではカレンが止血を施され、床に転がされている。
ギィ…
大きな両開きのドアを近衛兵が開けると、国王陛下が宰相と法務部の責任者と、裁判所に同行した法務官と一緒に現れた。
父上は近衛兵から剣を受け取ると、カレンの首を刎ねた。
無だ。
バルド侯爵は怒りの炎を滲ませながら躊躇いもなく次々と4人の首を刎ね、冷ややかに遺体を見下ろしていた。
父上の場合は無だ。
剣を近衛兵に返すと、椅子に座った。国王だけが座ることを許された椅子に。
「おまえは証拠があると言わなかったか?パトリック」
「…はい」
「婚約者のオルドレイ公女は複数の男と寝ている淫乱で、妃に相応しくないと言ったな。
その目で目撃したし、証人もいると」
「…はい」
「学園の警備兵は明らかな強姦未遂だと証言しているし、学園の医務官も公女の怪我を抵抗の証と証言しているでなはいか」
「……」
「婚約者のオルドレイ公女が執拗に女生徒を虐めている、淫乱で心の醜い女は妃に相応しくないと言ったな」
「はい」
「全部 そこの屍の自作自演ではないか」
「…はい」
「そこの屍の言葉だけを鵜呑みにして、調査をしていなかったとは。
てっきり多くの目撃者の証言をもらっているものだと思っていた」
「私が未熟でした」
「男爵家の庶子と不貞?騙される以前の話だ」
「申し訳ございません」
「バルドなんか怒らせおって。
女癖が悪かったが、近衞騎士にしていたのは、その良くない部分を気にさせないほどの実力と冷淡さがあったからだ。法廷で冷たい炎を感じたか?」
「はい、感じました」
「処分は検討する。自室で謹慎せよ」
「はい、陛下」
「君、そこの屍は公開処刑台に晒せ」
「かしこまりました」
自室で思い起こしていた。強姦されかけたラヴィアの表情を。
喜んで男を受け入れていた表情ではない、ラヴィアは怯えていた。
なのに何故……そうだ、カレンが大騒ぎしたんだ。
“乱交だなんて不潔!”とか何とか…
学園に通う前、ラヴィアとの交流やラヴィアが王子妃教育を頑張っている姿を思い出す。
そうだ、私はラヴィアが好きだった。美しく、照れて頬を染めるラヴィアが、私の妻になるべく努力するラヴィアが。
なのに……
私は紐を手にして椅子の上に立ち、ベッドの四柱のうちの一つに巻きつけて紐の輪に頭を入れた。
後は椅子を蹴るだけ。
なのに怖くて出来なかった。
ラヴィアはこれをやってしまうほど生きているのが嫌になったんだ。
私はラヴィアになんてことを…
視界が涙で歪んだ。
紐の輪から外そうとしたとき、足が滑り椅子から落ちてしまった。
ガタン! ゴン!
紐から外れたはいいが床に叩きつけられた。
身体が動かない…
見張りの兵士が部屋の中に入り私を抱えてベッドに乗せた。
「瞳孔が開きかけている」
「早く医者を!」
頭が痛い…
「目を開けると、白衣を着た男が覗き込んだ」
「パトリック王子殿下、分かりますか」
パトリック?そうだパトリックだ。
だけど小田中 陸だ。どっちの記憶もある。
「ああ、分かる。心配かけて済まなかった。
俺は怪我をしたのか?」
「頭を強く打ったようで、昏睡なさいました。
少し動作確認をさせてください」
こいつは宮廷医だ。記憶がある。
「字も書けますし立って歩くことも片足を上げて立つこともできます。ご無事ということですが、念のために安静にしてください」
「ご苦労、先生」
「……失礼します」
ラヴィア…
隣の物入れから肖像画を拾った。
入学のときにパトリックがラヴィアと一緒に描いてもらったものだ。
似ている。陸の恋人の愛に似ている。部下で恋人だった愛に…。
ランチに誘い告白した。
後日、デートをした。4回目で一度寝た後に別れを切り出された。“私達は合わない”と。
愛に、何度も連絡を入れた。具体的な原因を知って直せばいい、別れる必要はないと思った。
帰りに外で待っていると愛は怒り、次は走って逃げ、その後は同僚や誰かと帰るようになった。
隙を見て、鞄を探って住所を知った。そして待ち伏せた。
“警察に行きますよ”
だから刺した。
俺を馬鹿にしやがって。
ラヴィアは未だ純潔だと言ったな。
そうか。ならそれは俺がもらってやる。
泣いて謝ったら側に置いてやる。
まだ拒否をするなら また殺してやる。
王宮へ連れ戻され、謁見の間で膝を付かされたまま1時間近くが経った。横ではカレンが止血を施され、床に転がされている。
ギィ…
大きな両開きのドアを近衛兵が開けると、国王陛下が宰相と法務部の責任者と、裁判所に同行した法務官と一緒に現れた。
父上は近衛兵から剣を受け取ると、カレンの首を刎ねた。
無だ。
バルド侯爵は怒りの炎を滲ませながら躊躇いもなく次々と4人の首を刎ね、冷ややかに遺体を見下ろしていた。
父上の場合は無だ。
剣を近衛兵に返すと、椅子に座った。国王だけが座ることを許された椅子に。
「おまえは証拠があると言わなかったか?パトリック」
「…はい」
「婚約者のオルドレイ公女は複数の男と寝ている淫乱で、妃に相応しくないと言ったな。
その目で目撃したし、証人もいると」
「…はい」
「学園の警備兵は明らかな強姦未遂だと証言しているし、学園の医務官も公女の怪我を抵抗の証と証言しているでなはいか」
「……」
「婚約者のオルドレイ公女が執拗に女生徒を虐めている、淫乱で心の醜い女は妃に相応しくないと言ったな」
「はい」
「全部 そこの屍の自作自演ではないか」
「…はい」
「そこの屍の言葉だけを鵜呑みにして、調査をしていなかったとは。
てっきり多くの目撃者の証言をもらっているものだと思っていた」
「私が未熟でした」
「男爵家の庶子と不貞?騙される以前の話だ」
「申し訳ございません」
「バルドなんか怒らせおって。
女癖が悪かったが、近衞騎士にしていたのは、その良くない部分を気にさせないほどの実力と冷淡さがあったからだ。法廷で冷たい炎を感じたか?」
「はい、感じました」
「処分は検討する。自室で謹慎せよ」
「はい、陛下」
「君、そこの屍は公開処刑台に晒せ」
「かしこまりました」
自室で思い起こしていた。強姦されかけたラヴィアの表情を。
喜んで男を受け入れていた表情ではない、ラヴィアは怯えていた。
なのに何故……そうだ、カレンが大騒ぎしたんだ。
“乱交だなんて不潔!”とか何とか…
学園に通う前、ラヴィアとの交流やラヴィアが王子妃教育を頑張っている姿を思い出す。
そうだ、私はラヴィアが好きだった。美しく、照れて頬を染めるラヴィアが、私の妻になるべく努力するラヴィアが。
なのに……
私は紐を手にして椅子の上に立ち、ベッドの四柱のうちの一つに巻きつけて紐の輪に頭を入れた。
後は椅子を蹴るだけ。
なのに怖くて出来なかった。
ラヴィアはこれをやってしまうほど生きているのが嫌になったんだ。
私はラヴィアになんてことを…
視界が涙で歪んだ。
紐の輪から外そうとしたとき、足が滑り椅子から落ちてしまった。
ガタン! ゴン!
紐から外れたはいいが床に叩きつけられた。
身体が動かない…
見張りの兵士が部屋の中に入り私を抱えてベッドに乗せた。
「瞳孔が開きかけている」
「早く医者を!」
頭が痛い…
「目を開けると、白衣を着た男が覗き込んだ」
「パトリック王子殿下、分かりますか」
パトリック?そうだパトリックだ。
だけど小田中 陸だ。どっちの記憶もある。
「ああ、分かる。心配かけて済まなかった。
俺は怪我をしたのか?」
「頭を強く打ったようで、昏睡なさいました。
少し動作確認をさせてください」
こいつは宮廷医だ。記憶がある。
「字も書けますし立って歩くことも片足を上げて立つこともできます。ご無事ということですが、念のために安静にしてください」
「ご苦労、先生」
「……失礼します」
ラヴィア…
隣の物入れから肖像画を拾った。
入学のときにパトリックがラヴィアと一緒に描いてもらったものだ。
似ている。陸の恋人の愛に似ている。部下で恋人だった愛に…。
ランチに誘い告白した。
後日、デートをした。4回目で一度寝た後に別れを切り出された。“私達は合わない”と。
愛に、何度も連絡を入れた。具体的な原因を知って直せばいい、別れる必要はないと思った。
帰りに外で待っていると愛は怒り、次は走って逃げ、その後は同僚や誰かと帰るようになった。
隙を見て、鞄を探って住所を知った。そして待ち伏せた。
“警察に行きますよ”
だから刺した。
俺を馬鹿にしやがって。
ラヴィアは未だ純潔だと言ったな。
そうか。ならそれは俺がもらってやる。
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まだ拒否をするなら また殺してやる。
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