【完結】高給アクターは夢で癒す

ユユ

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懇願する瞳

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翌日は春翔さん達と都内の小児病棟を訪れた。
郡司さんは病院の関係者と話をしている。春翔さんは子供たちにボールの扱い方を教えていた。
私はというと、末期で苦しんでいて、特に咳に苦しむ子の元を訪れた。胸水貯留といって胸水が溜まることで咳が出ていると聞いた。

「あの有名な睡眠士の方がいらっしゃると聞いていたのですが、とてもお若いのですね」

莉子ちゃんのお母さんと廊下で挨拶をした後、軽く話をした。少しでも安心してもらうためだ。

「修練で身に付いたとかではなく、生まれ持っての得意技みたいなものと考えてください。
あの、今夜眠れなくなることも考慮してもらえますか」

「気にしないでください。いつもどの時間もよく眠れないんです。せめて眠っている間くらい苦しさや痛みを忘れさせてあげたいのに、私には何もしてあげられません」

「…分かりました。では病室にはいりますね」

個室のスライドドアを開けると、様々な機械に囲まれ管に繋がれ鼻に酸素吸入器を装着した女の子がベッドにいた。少し枕を高くして絵本を見ているけど、きっと長い入院生活の中で何度も読んで飽きてしまったのだろう。とても早くページをめくっていく。

「莉子ちゃん、こんにちは」

「…こん…ち…わ」

「私は楓というの。これ、お見舞いよ。
これは天井や壁に絵本を映し出す機械なの、寝たまま見ることができるわ。これは本よ。科学ワールドって書いてあるけど、もしかしたら莉子ちゃんには少し早いかもしれないけど、読んでみて」

「あり…がと」

「横になりましょうね」

枕を1つにして横になってもらった。6歳児の手は小さい。弱々しい声を聞くと祈らずにはいられない。

「莉子ちゃん、楽しい夢を見ましょうね」

「……」

大きな瞳はまるで懇願しているかのようだった。
いつも思う。人間も電池切れみたいにしてくれたらいいのにって。病気はせず電池が切れたら機能停止して天国に行ければって。点滅すると終活を始めて穏やかに死を迎えられる、そんな仕組みだったらって。

莉子ちゃんは目を閉じて眠りについた。莉子ちゃんのお母さんに機械おもちゃの説明をした。

「機械の方は音は消してください。オートオフ機能がありますから消し忘れを気にしなくて大丈夫です。お土産は雪嶋さんとスポンサーからです。私からはこれを」

「まあ、可愛い」

くっつく包帯で、苺、ハート、猫、犬、パンダのセットを渡した。管や針を固定したりするときに可愛い包帯だとどうかなと思って用意した。

「意外と便利ですよ。結束バントみたいに使うこともできますし」

「使わせていただきます、ありがとうございました」

莉子ちゃんが眠って30分、病室を出た。
他にもベッドから動けない子どもの患者さんにお見舞いを渡し、事前に睡眠士を希望した親をもつ患者こどもの手だけ握った。


病院内のカフェに寄って休憩をとった。時間をずらしたので少し空いている。周りに人が座っていない奥の席に3人で座った。

「あの、ちょっとご報告が。場合によっては活動を延期か止めなくてはならなそうです」

「何があったんですか?」

郡司さんは真剣な顔をしているし、春翔さんは不安そうにじっと私を見つめた。

「実は昨夜、依頼人に襲われまして」

「「はあ!?」」

「しーっ!」

「一体…」

「小さなお子さんを眠らせる依頼だったのですが、帰りに父親が駅まで送ると言い張って。父親の視線に違和感を覚えたので断ったんですけどついてきてしまったんです。案の定不倫のお誘いでした。断ると途中の公園のトイレに引き摺り込まれて。でも、少しボコって逃げたので手首に痣がある程度なんですけど。相手は『アクター』の恋人役は売りもやっていると思い込んでいて、しかも同意の上だと主張したんです。ついてきたときにボディカメラを作動させていたので動画を証拠として提出しました。逮捕になったので、多分今頃は動画を見て言い逃れができないと悟って勘違いで少し強引になったという主張をしているかもしれません。まあ、あの音声付きの動画があればその主張は通りにくいと思いますが。
担当の刑事さんは有罪になっても未遂ということもあって執行猶予がつくはずだとおっしゃっていました。あの父親の感じでは反省して大人しくしていてくれるのか分かりません。逆恨みで別の事件に発展するかもしれません。お二人を巻き込むわけにはいきませんので申し訳ありませんが、あの父親が解放されたらご一緒するのは難しいと思います」

「知り合いに相談してみる。俺、この間1日警察署長をしたんだ。何かできないか聞いてみるよ」

「私も伝手をあたります」

「いけません。春翔さんの仕事や慈善活動はイメージが大切です。あんな男に巻き込まれては駄目です」

「だけど!」

「そんなことになったら二度と春翔さんには会えません」

「…俺って本当に無力なんだな」

「そんなことはありませんよ。昨日の今日で憂鬱に過ごさなくちゃいけないところでしたけど気が紛れました」

手首の痣を隠していたリストバンドをずらし痣を見せると春翔さんは顔を歪めた。

「俺は馬鹿だな。リストバンドが流行り出したのか何かの願掛けかなんて思っていたよ。こういう使い方をすることもあるんだな」

包帯だといかにもなので、啓太さんのリストバンドを借りて付けていた。

「春翔さん、私以上に落ち込まないでください」

話さなきゃ良かったかな。でもしっかりとした理由がないと駄目だろうし、危機管理としては郡司さんも把握する必要があったと思う。

「春翔さんの1日署長の写真ありますか?」

郡司さんがスマホを取り出して見せてくれた。

「うわ、これじゃ女性の警察官に言い寄られちゃいますね。俳優さんみたいです。あ、ピーポくんもいたんですね」

「ピーポくんの中はおじさんだったよ」

「何で教えるんですか」

「え?」

「ピーポくんはピーポくんなんです」

「ご、ごめん」

「フハハッ」

郡司さんが声を出して笑ってるの初めて見た。
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