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情に訴える妻
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翌日、事務所で咲希さんと聡さんと大輝くん立ち会いで面会が実現した。
私を襲った中村航平の妻優実さんが昨日から面会を求めていたらしい。
彼女は子供を連れて現れた。子供は真里子さんが相手をしてくれている。
「夫がご迷惑をおかけしました」
「奥様も大変でしたね」
咲希さんの営業スマイルが、優実さんの緊張を解いた。
「…証拠の動画があると刑事さんから聞きました。夫が悪いのは分かっています。でも、示談に応じてくださいませんか」
「ご主人は執拗なタイプと見受けられます。それに会社の名誉も汚しました。うちは風俗嬢の派遣なんかしていないんですよ?」
「申し訳ありません。ですが、小さな娘がいるんです。父親が性犯罪者だなんて困るんです…更生させます、ですから」
「残念ですがご主人の性格は歪んでいます。事実無根の噂を立てる可能性があります。そのときに示談になったことを利用するかもしれません、“示談目的の女の狂言だった”と。ご主人は事件のときもその後も『アクター』について風俗的な行為をしている会社だと主張していました。目の前でお子さんを寝かしつけた睡眠士の楓にさえそう思い込んでいました。まあ、違うと分かっていたけど楓への欲が抑え切れず、そう思い込みたかった可能性もあります。これは楓の名誉と弊社の名誉を守るためでもあるんです。つまり有罪判決は必須なんです」
「仕事をクビになったらどうやってローンを払えばいいんですか?名前が記事に出たら私達は…」
「奥様、ご主人はそんなことは重々承知だったはずです。詳しくは分からなくとも拒否した女性とは不倫関係にはなれないことも、腕を掴み公園のトイレに引き摺り込んで欲望を満たそうとすればどうなるかも。同じことを優香ちゃんがされたら許せないでしょう?楓だって親も友人も恋人も仲間もいるんですよ。分かりますか?みんな怒っているんです」
「でも…でも…」
「これ以上は無駄ですね。お引き取りください。
それと、ご主人が次に何かしないよう見張って止めるのも妻の役目ですよ。うちは営業妨害をされたら金銭的な制裁を確実に行います。ホームページに実例を載せていますのでご覧になってください」
社長が立ち上がると真里子さんが優香ちゃんを連れてきて優実さんに返した。
優実さんは泣きながら土下座をして懇願しだしたけど、大輝くんたちが強制的に外へ出した。もちろん念のために録画中。
戻って来た大輝くんが花束を抱えていた。
「楓、下に降りたら配達の人が持って来た。雪嶋さんからだって」
「まあ、綺麗じゃない」
咲希さんは花束を見て喜んでいた。
ピンクや黄色や白い花の花束は目にも華やかにうつり憂鬱な気分を緩和させた。
「事件のことを話したのでお見舞いだと思います」
「雪嶋春翔くん、いい男ね」
「そうですね」
「楓」
大輝くんが慌てた。
「それ(春翔さんへの評価)と恋愛は別ですよ」
大輝くんと交際していなければ春翔さんの気持ちを受け入れていたかもしれない。本当にいい人だもの。吉岡さんもいい人だけど。
優香さんの懸念通り、新聞やネット記事に事件の記事が載った。
数日後、会社に突然訪ねて来たのは…
「二条楓の母、二条さおりと申します。この度は娘のことでご尽力いただきありがとうございました」
「社長を務めております平松咲希と申します。今回のことは仕事中に起きた事件です。なんとお詫びすればよいものか」
「娘が選んだ仕事ですから。ですが対策の見直しは必要ですね。今日は少し報告がありまして約束も取り付けずにまいりました。約束すると娘が逃げそうでしたので」
逃げないってば。
「楓、体は大丈夫なの?」
「掴まれた痣と引っ掻き傷はじきに治ります」
「管轄の警察署に行って署長さんに会ってきたわ。くれぐれもよろしくと1時間念をおしたから」
うわぁ…
「楓の依頼人は法曹界にもいるのね。くれぐれもよろしくと言いに行ったら、既に事件のことをご存知で末広さんが任せるようにとおっしゃっていたわよ」
「え!?」
一番偉い人じゃない…。
仕事のせいで悪夢に悩まされたり睡眠障害になる人は少なくない。上司からの叱責、就活の不安、失敗のトラウマなど人の心には様々なことが影響する。
消防士は焼死体や練炭自殺など悲惨な現場を目にしてトラウマになる人もいる。救急隊は怪我や病気の現場に駆けつけるけど、医師のように大学や研修先で少しずつ人体を勉強していくわけではない。リストカット、指の切断、交通事故や転落などによる肢体欠損や内臓の露出や脳脱、大火傷、大量吐血などの傷病者をその手に掴み担架やストレッチャーに乗せ運ぶ。場所によっては背負う。警察官や鑑識は事故や犯罪現場を調べるし、裁判官達はその資料を無数に見続ける。殺傷事件なら犯人の狂気も目の当たりにする。騙し殺しバラバラにしてクーラーボックスなどに詰める犯人の心理、証拠写真。無差別轢死事件や洗脳殺人事件などと向き合うことでトラウマになる人もいる。
だから法曹界にも依頼人はいる。一番偉い人はトラウマは克服したけど安眠できないと依頼をもらったことがある。末広さんは、別の裁判官の紹介だった。何人かの裁判官や書記官も私に依頼したことがあると知って真偽を見定めたかったのだろう。翌日の評価とコメントに、“本当だったので驚きました。これからもご活躍を祈念しております”と書き込んでくれていた。
「…他には?」
「交番とコンビニにはお礼に伺ったわ」
「ありがとうございます」
でも判例というものがあるのだから執行猶予は付くはず。仮に収監されても直ぐに出てくるからどうしようもない。
「楓、裁判に出るわよ」
「え?」
私を襲った中村航平の妻優実さんが昨日から面会を求めていたらしい。
彼女は子供を連れて現れた。子供は真里子さんが相手をしてくれている。
「夫がご迷惑をおかけしました」
「奥様も大変でしたね」
咲希さんの営業スマイルが、優実さんの緊張を解いた。
「…証拠の動画があると刑事さんから聞きました。夫が悪いのは分かっています。でも、示談に応じてくださいませんか」
「ご主人は執拗なタイプと見受けられます。それに会社の名誉も汚しました。うちは風俗嬢の派遣なんかしていないんですよ?」
「申し訳ありません。ですが、小さな娘がいるんです。父親が性犯罪者だなんて困るんです…更生させます、ですから」
「残念ですがご主人の性格は歪んでいます。事実無根の噂を立てる可能性があります。そのときに示談になったことを利用するかもしれません、“示談目的の女の狂言だった”と。ご主人は事件のときもその後も『アクター』について風俗的な行為をしている会社だと主張していました。目の前でお子さんを寝かしつけた睡眠士の楓にさえそう思い込んでいました。まあ、違うと分かっていたけど楓への欲が抑え切れず、そう思い込みたかった可能性もあります。これは楓の名誉と弊社の名誉を守るためでもあるんです。つまり有罪判決は必須なんです」
「仕事をクビになったらどうやってローンを払えばいいんですか?名前が記事に出たら私達は…」
「奥様、ご主人はそんなことは重々承知だったはずです。詳しくは分からなくとも拒否した女性とは不倫関係にはなれないことも、腕を掴み公園のトイレに引き摺り込んで欲望を満たそうとすればどうなるかも。同じことを優香ちゃんがされたら許せないでしょう?楓だって親も友人も恋人も仲間もいるんですよ。分かりますか?みんな怒っているんです」
「でも…でも…」
「これ以上は無駄ですね。お引き取りください。
それと、ご主人が次に何かしないよう見張って止めるのも妻の役目ですよ。うちは営業妨害をされたら金銭的な制裁を確実に行います。ホームページに実例を載せていますのでご覧になってください」
社長が立ち上がると真里子さんが優香ちゃんを連れてきて優実さんに返した。
優実さんは泣きながら土下座をして懇願しだしたけど、大輝くんたちが強制的に外へ出した。もちろん念のために録画中。
戻って来た大輝くんが花束を抱えていた。
「楓、下に降りたら配達の人が持って来た。雪嶋さんからだって」
「まあ、綺麗じゃない」
咲希さんは花束を見て喜んでいた。
ピンクや黄色や白い花の花束は目にも華やかにうつり憂鬱な気分を緩和させた。
「事件のことを話したのでお見舞いだと思います」
「雪嶋春翔くん、いい男ね」
「そうですね」
「楓」
大輝くんが慌てた。
「それ(春翔さんへの評価)と恋愛は別ですよ」
大輝くんと交際していなければ春翔さんの気持ちを受け入れていたかもしれない。本当にいい人だもの。吉岡さんもいい人だけど。
優香さんの懸念通り、新聞やネット記事に事件の記事が載った。
数日後、会社に突然訪ねて来たのは…
「二条楓の母、二条さおりと申します。この度は娘のことでご尽力いただきありがとうございました」
「社長を務めております平松咲希と申します。今回のことは仕事中に起きた事件です。なんとお詫びすればよいものか」
「娘が選んだ仕事ですから。ですが対策の見直しは必要ですね。今日は少し報告がありまして約束も取り付けずにまいりました。約束すると娘が逃げそうでしたので」
逃げないってば。
「楓、体は大丈夫なの?」
「掴まれた痣と引っ掻き傷はじきに治ります」
「管轄の警察署に行って署長さんに会ってきたわ。くれぐれもよろしくと1時間念をおしたから」
うわぁ…
「楓の依頼人は法曹界にもいるのね。くれぐれもよろしくと言いに行ったら、既に事件のことをご存知で末広さんが任せるようにとおっしゃっていたわよ」
「え!?」
一番偉い人じゃない…。
仕事のせいで悪夢に悩まされたり睡眠障害になる人は少なくない。上司からの叱責、就活の不安、失敗のトラウマなど人の心には様々なことが影響する。
消防士は焼死体や練炭自殺など悲惨な現場を目にしてトラウマになる人もいる。救急隊は怪我や病気の現場に駆けつけるけど、医師のように大学や研修先で少しずつ人体を勉強していくわけではない。リストカット、指の切断、交通事故や転落などによる肢体欠損や内臓の露出や脳脱、大火傷、大量吐血などの傷病者をその手に掴み担架やストレッチャーに乗せ運ぶ。場所によっては背負う。警察官や鑑識は事故や犯罪現場を調べるし、裁判官達はその資料を無数に見続ける。殺傷事件なら犯人の狂気も目の当たりにする。騙し殺しバラバラにしてクーラーボックスなどに詰める犯人の心理、証拠写真。無差別轢死事件や洗脳殺人事件などと向き合うことでトラウマになる人もいる。
だから法曹界にも依頼人はいる。一番偉い人はトラウマは克服したけど安眠できないと依頼をもらったことがある。末広さんは、別の裁判官の紹介だった。何人かの裁判官や書記官も私に依頼したことがあると知って真偽を見定めたかったのだろう。翌日の評価とコメントに、“本当だったので驚きました。これからもご活躍を祈念しております”と書き込んでくれていた。
「…他には?」
「交番とコンビニにはお礼に伺ったわ」
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「え?」
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