【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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異母妹の葛藤

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【 異母兄 リアムの視点 】


アイリーンはユーリ、公爵、伯爵、ジュエルと踊り終えたので私がダンスに誘った。
戸惑いながら私の手を取った。

「アイリーン。まだ妹だという実感はないけど君は妹だ。君には腹違いの弟が3人いる。彼らにも会って欲しい」

「私の弟はジュエルです」

「アイリーン」

「子供の頃からずっと私の側にいて守ってくれました。いつも励ますジュエルも、婚約者が亡くなった時だけは一緒に引きこもって悲しんでくれました。半年もですよ?ずっと私から離れずにいてくれたんです。その後の半年も一緒に引きこもり猛勉強に付き合ってくれました。
婚家から逃げた時もジュエルといるだけで安心できましたし、今回の家出もジュエルが味方になってくれています。

こんな素敵な弟はこの世にジュエルしか存在しません」

「張り合うつもりはないよ。だが君に兄弟がいることは事実だ。会って欲しい」

「いつか、」

「弟達は散り散りになるだろう。今の感じだと3人とも婿入りだ。
だから簡単にまとめて会えるのは今のうちになんだ。君が階段から落ちたように、私達にも何が起きるか分からない。病とか落馬とか馬車の事故とか、崖崩れとか…暗殺とかね。

私達王族は兵士や毒味係に守られはするが、完全には防げない」

「でもペルランに行きたくありません。
コンドラー港だってまだ、」

「アイリーン。君は家出中だから自由だろう?
それにコンドラー港は完成を待っている状態だ。
その間に来てくれないか」

「そんなに会いたいなら来てくれたらいいと思います」

「王族が何人もゾロゾロと?」

「そんなことを言うなら私も言わせていただきますが、道中の私の身は100%安全ですか?
殿下の言う馬車の事故や崖崩れや暗殺に遭ったりしないと?
保証してくださるなら誰の命を掛けてくださいますか?」

「そうだな。失言だった。私が悪かった」

「私にとって“血が繋がれば家族”ではないのです。
王太子殿下が私の父だったとしても、もはや他人以下です。
リアム殿下を含めた4人の兄弟殿下も他人なのです」

「そうか。他人なら求婚しても構わないか」

「はい?」

「アイリーンの言う家族だった男が夫となったのに逃げてるんだろう?」

「…なかなか意地悪ですね」

「君の言った通り、全ての非は父上にある。
だが、勝手でも ずっと娘のアイリーンのことを想って生きてきた人だということは間違いない。
産まれたときから5歳までの肖像画を毎日眺めて、遠くの空を見て君のことを考えている。
父上は妊娠が判ったときから引き取って手元で育てたがった。叶わぬと分かるとアイリーンの誕生日に贈り物を贈ることと肖像画をもらうことを生き甲斐にしていた。

いつか会えると信じて、その時こそ身を引かなくて済むよう必死で国を強く大きくした。
だがアイリーンが実子ではないと知ったときに面会を断られ、父上は悲観した。

私も弟達も父上の息子だけど、父上の心はアイリーンにしか向いていない。
子供の頃から私達に当たり障りなかったからそれが普通だと思っていたけど、最近異母妹の存在を知って違うと知った。

アイリーンは幼い間に実母、祖父の友人、ベロノワ伯爵家と預かり先が代わり不安で悲しかったかも知れない。だけど父上の愛情のほとんどが妹に取られていたなんて私も寂しいよ」

「……ごめんなさい」

「アイリーンのせいじゃない。全て父上のせいだ。
次は父上の元に連れて行くから、私達兄弟の分まで もっとネチネチネチネチたっぷりと虐めてやってくれ。
そしてダンスをしながら足を踏むといい」

「ふふっ」

「……明日は港を案内してくれないか。
弟達に会えないなら“うちの妹はすごかったぞ”って土産話をしないとならないからな」

「止めください。すごくないです」

「アイリーンは可愛いな。帰国までたっぷり愛でたいな」

「愛でるってなんですか」

曲が終わり足が止まった。

「私が3歳のときから出来ていただろうことを、短い間でさせてもらうよ」

チュッ

「んなっ!」

額にキスをしたら狼狽えた。

「おっと…番犬ジュエルが牙を剥かないうちに父上に託そう」

アイリーンを父上の元に届けると、アイリーンは父上の手を取った。

父上のあんな嬉しそうな顔を見たことがない。

私はジュエルの側に行き、内緒話をした。

「ジュエル。そんな顔を見せていてはアイリーンに勘付かれるぞ」

「……」

「アイリーンは妹だ」

そう。彼女の様々な表情に目を奪われ、初めての微笑みに胸が締め付けられても、握った手の柔らかさに彼女の香りに独占欲が沸いても。

「知っています」

「敵じゃない。父上は失敗してしまったが、会えぬ我が娘にずっと思いを寄せてきた。
父上達はペルランを大国と言われるまでに押し上げたのは娘と会うためだ。
アイリーンが今のように自由に振る舞うにはその庇護が必要だ。ベロノワの力が及ばない高位貴族や王族が現れたときの武器となる。君のように」

異母妹アイリーンを私は娶ることはできない。
父上がアイリーンそっくりの王女に惚れたように、私もアイリーンに一目惚れをしてしまったようだ。
彼女の強さや賢さや弱さを知ると、より惹かれてしまう。

「……」

私は父上に似たのだな。

「君がいかに大切な存在なのかアイリーンが熱弁していたよ。アイリーンを愛しているんだな」

「……」

「アイリーンは君を選べば良かったのに」

「止めてください」

「君がアイリーンを娶ってペルランで暮らす選択肢もある。王女と公表し、君に爵位を与えよう。
どうするかの決断を口にする前にアイリーンと一緒にペルランへ視察にきてくれ。
彼女の逃避先は確保した方がいいと思うぞ」

「僕はアイリーンが望むことの手助けをするだけです」

「アイリーンがオベール・ベロノワを見限って他の男に恋をする前に手に入れろ」

「殿下!」

「君が義弟なら大歓迎だよ、ジュエル。

別に君は兄君を裏切る訳じゃない。アイリーンを悲しませる男から保護するだけだ。そうだろう?
ユーリ・コンドラーもいい子だが、私は君の方が好きだ。
公子はアイリーンを好きだろうが、元々は私利私欲的な部分を隠してアイリーンに近付いたのだろう。
その点、ジュエルは純粋だ。ただアイリーンのために動く。アイリーンが心配でアイリーンの笑顔のために。そうだろう?」

「…貴方は一体」

「アイリーンの弟なら私の弟でもある。そのうち兄上と呼んで欲しい。

なあジュエル。父上との蟠りが解けたら彼女はもっと笑顔でいられると思わないか?」

「……」

「アイリーンが笑顔でいてくれるなら、私もジュエルも、父上も伯爵も伯爵夫人も本望のはずだ」

「視察に行く気になったとしても拘束したりしませんよね」

「そんな嫌われるようなことをしたら、アイリーンが言葉のナイフで父上を滅多刺しにするだろう。
私だって可愛い妹から怨みを買いたくない」

「アイリーンが行きたいと言ったら」

「ありがとう、ジュエル。

ハハッ!本当に父上の足を踏んでるぞ」

「アイリーンに踏まれても痛くありません」

「重症だな」

「なんとでも」


ジュエルの警戒は和らいだ。
こんなに簡単に警戒を解くのはちょっと心配だが、こちらとしてはありがたい。

今の夫と離縁して単身で来てくれたら父上と私が面倒を見る。
だが、余程のことがなければそれは無い。
ならジュエルを味方に付ける方が少しは可能性がある。

頼むぞジュエル。

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