【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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対峙

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ついに過去に対峙する日がやってきた。

「アイリーン!」

ベロノワ伯爵おとうさまとオベール兄様が港まで迎えに来ていた。

タラップを降りた私の前に駆け寄るが、リアム兄様とジュエルが私を隠した。

パパ「先ずはベロノワ伯爵邸までご案内いただけますか」

父「大変失礼いたしました。
彼は長男のオベールでございます。
馬車はこちらです」

お父様が間に入り、オベール兄様を遠ざけた。



屋敷に到着するとカトリス侯爵夫妻もいた。

私「いらしていたのですね!」

夫「久しぶりね。会いたかったわ」

侯「この方が効率がいいだろうからな」

「ありがとうございます」

パパ達とお母様とオベール兄様とカトリス夫妻の挨拶を終えるとパパが本題に入った。

パ「アイリーンとご子息の離縁は済んでるということで間違いありませんか」

父「はい」

パ「アイリーンの実母のイレーネが、婚家から外れてカスカードに戻っています。
そこで私は王太子の座を降りて公爵位を賜ります。
そしてイレーネと再婚し、アイリーンと暮らすことを提案しました。アイリーンも同意してくれたのでご挨拶に伺いました。

ベロノワ伯爵家にはアイリーンを育てていただき感謝しております。
カトリス侯爵家にもアイリーンの受け入れ先になっていただき感謝しております。

私の愚行から多くの方々にご迷惑をおかけしました。心よりお詫びします」

ア「思うこともありますが、これが今できる解決策だと思います。お父様、お母様、オベール兄様、お義父様、お義母様、ありがとうございました」

父「そうか。寂しくなるな」

母「いつでも遊びに来てちょうだい」

侯「また困ったらいつでも頼ってきなさい」

夫人「手紙を送ってね」

オ「アイリーン、やり直せないのか」

私「はい」

ジュ「父上、母上。愛するアイリーンと一緒に移住します」

父「もしかして」

ジュ「はい。受け入れてもらえました」

父「そうか」

オ「アイリーンとジュエルが!?」

ジュ「はい、兄上」

オ「アイリーンとペルランで暮らすというのか」

ジュ「はい。婚姻はアイリーンの心の準備が整えば。今は恋人として交際中です」

オ「アイリーンは私の妻だったんだぞ」

ジュ「離縁しましたし、アイリーンが復縁しないと言っている以上、俺は遠慮しません」

リ「私も二人の交際には賛成です。
ジュエル殿ならアイリーンを守れるでしょう」

そこでリアム兄様が襲撃のときの話をして、パパがお礼と、ジュエルがペルランから褒章を受け取ったという説明をした。

パ「勲功爵を授け、私が管理する領地の中に屋敷を用意しようと思いましたが、この感じでは離れないでしょうから同居になることでしょう。
恩給が出ていますが、屋敷の代わりに別途追加の恩給を用意させます。
アイリーンと婚姻すれば彼は入婿として跡を継いでもらいます」

初めて聞いたわ。…まあ、そうなるわね。

私「あと、ベロノワ領内の私が所有する物件はベロノワに寄贈しようと思います」

父「持っていていいんだ。アイリーンの店じゃないか」

私「ペルランに移住したらお店の面倒は見れませんのでお父様が要らないと仰るなら売却します」

父「分かった。受け取ろう。他領の投資物件はそのままだな?」

私「はい。配当だけですので」

父「分かった」

母「本当に寂しくなるわ」

私「隠居後に遊びに来てくださるのを楽しみにしております」

母「そうよね。そう遠くない未来にお邪魔するわ」

父「結婚式は呼んでくれよ」

ジュ「必ず招待します」

オ「信じられない…また戻ってくると思っていたのに」

母「アイリーンの心には、避けるあなたの姿がはっきり残っているのよ。胸の痛みと一緒にね。精巧な肖像画のように脳裏に刻まれてしまったの。貴方がいくら二度としないと言っても、心に負った傷の痛みや またそうなるんじゃないかという不安や 次はどんな風に傷付けられるのかという疑念は薄まったとしてもそう簡単に消えないの。

された方は貴方がどんな思いだったかなんて関係ない。10年以上信頼してきた貴方がしたことなのよ。一瞬でも辛いのに 二ヶ月以上は長過ぎるわ。
アイリーンはずっと隔離されて一緒に暮らしてきた実母に ある日突然去られたの。事情はどうあれアイリーンにとってはそういう認識だった。
その傷を貴方は上から抉ったの」

オ「アイリーン」

私「オベール兄様。私はもうジュエルの手を取ったの。ごめんなさい」

オ「失礼」

オベール兄様は部屋から出てしまった。

父「レナード王太子殿下、リアム殿下、申し訳ございません。涙を見せたくなかったのでしょう」

パ「残念ですね。愛する女性を妻として手に入れておいて自ら壊すだなんて。愛し合っていても娶れない者もいるのに」

リ「オベール殿も時間が必要でしょう。
カトリス侯爵家にも友好の証としてこちらをご用意しました」

リアム兄様がテーブルに出したのはペアのブローチだった。花の彫金に大きな宝石のついた物だった。

パ「この花はペルランの国花です。これを付けて入国なされば丁重な応対を受けられます」  

侯「光栄に存じます」

夫人「拝受いたします。とても美しいですわ」

私「クリストファー様はお元気ですか」

夫人「元気よ。一緒に来たがっていたわ……ジュエル様、クリストファーは敵ではありませんから」

侯「息子は手を出そうなどと思っていませんよ」

私がチラッと見ると微笑みを浮かべていた。

私「ジュエル、駄目でしょう」

ジュ「ご夫妻のご子息ならかなり美男子のはずです。油断はできません。しかもアイリーンが心を許すカトリス家ですから」

夫人「まあまあ、お世辞がお上手ですこと」

侯「ジュエル殿には敵いませんよ」




【 オベールの視点 】

コンドラー港に滞在したとき、許して受け入れてくれたのだと思っていた。
だがアイリーンは許してくれてはいなかった。
アイリーンに気がある公子の元に置いて帰るのは断腸の思いだったが、父との約束で長居は出来なかったため帰国した。

そう時間はかからず帰ってきて、機嫌を直したアイリーンと寄りを戻せると楽観視していた。

今度は父上達がコンドラー港に向けて出発した。
アイリーンと帰ってくるだろうと思っていたが、父上だけが帰ってきた。

『オベール。離縁の手続きをする』

『父上?』

『向こうでアイリーンと話し合ってきたが意思は変わらなかった』

『アイリーンはもうすぐ戻るはずです。もう一度よく話し合って、』

『アイリーンは暫く帰らない。ペルランに向かうことになった。そこで本当の血縁と過ごす』

『待ちます』

『決まったことだ』

『父上!』

『無理にしがみ付けば、もうベロノワ邸に足を踏み入れないだろう。私にとっては娘なんだ。そんな風にはしたくない』

『愛しているんです』

『オベールが同意しなくても手続きを進めるし、新しい妻を探し始めるぞ』

『私は、』

『終わったんだ』

『っ!』

『終わってしまったんだ』

『アイリーン…』


数日後、私とアイリーンは離縁した。
もしものために指輪を引き出しに保管した。
もしかしたらと僅かな望みを持っていた。

次々と釣書が届くが見る気がしない。
だが母上に叱られて中身を確認し、書類選考を終わらせた。

『オベール。アイリーン達がこっちに向かっているみたい』

『本当ですか!?』

『レナード王太子殿下とリアム殿下も一緒だと書いてあるわ』

『カトリス家にも行くと書いてあるわね。こっちにいらしてくださるといいのだけど』

カトリス家の名が出てきたときに嫌な予感がした。
それは的中した。

アイリーンは自身で開いた店を手放し、ペルランへ移住すると言い出した。
ジュエルとアイリーンは交際していて、ジュエルも一緒に移住するという。

やり直せないか聞いても、無理だと言う。

夜に父上に、跡継ぎをジュエルにして自分がアイリーンとペルランへ行くのでは駄目なのかと聞いた。

『オベール。いい加減に諦めろ。無理なものは無理なんだ。
そもそも、ジュエルはリアム殿下を救ったからアイリーンとの関係を可能にしているんだ。お前にジュエルほどの剣の才は無い。

そんなに簡単に跡継ぎの座を捨てるのなら、望み通り別の者に継がせてもいいんだ。その時 ベロノワに残るなら補佐としての待遇にする。部屋だって今の部屋は使わせられないし、給金で生活しなくてはならない。今の補佐達の下につき雑用も引き受けなければならない。使用人と同じ生活が待っている。
それが嫌ならベロノワから出てどこかに就職することになるぞ』

『いつも父上は私達よりもアイリーンを優先させましたね』

『理不尽なことは無かったはずだ。今回は止めようがないだろう。しがみ付けば許してもらえると?
そんな性格だったらウィンター夫人のまま隣国にいただろう。

お前との婚姻の始まりは情だった。元に戻れないと言われたら縛り付けることは無理なんだ。
ウィンター公爵が無理強いした結果、隙を見て国を出た。そんなアイリーンはどの国へ行くだろうか。サルフェトか…いや無理強いしなくても結局ペルランに決まってしまった。無理強いしていたら縁を完全に切ってもっと遠くへ行くだろう。

それにアイリーンは二国の王族の血筋を引く王女でもある。無理強いなどできないんだ。
オベール。アイリーンを避けた判断も間違っているし今も間違っている。しっかりしてくれないと跡継ぎから外さなくてはならないぞ』


部屋へ戻る途中でジュエルを見かけて声をかけた。

『アイリーンは私の妻だったのに平気なのか』

『俺は、跡継ぎで歳上の兄上の方がアイリーンを守って幸せにしてくれると思ったから弟に徹したと言ったはずです。好きな女が同じ屋根の下で男に抱かれていたのを どんな思いで沈黙してきたかご存知ないでしょう。なのに兄上はアイリーンを傷付けた。周りを責めたり求めたりするのは止めて、自身へ向けたらどうですか』


そしてレナード王太子殿下はアイリーンとジュエルを連れて去ってしまった。

母上はペルランへの旅を楽しみにしていて、道中の町などを調べ始めたり、ペルランの観光案内を見たりしていた。

避妊薬など飲ませずに、さっさと孕ませれば良かった。

目の前の釣書の山に溜息しか出なかった。











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