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2人の娘、ルルーナ編
結婚
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学園復帰まで転落から5ヶ月弱かかってしまった。
足の方がただの捻挫ではなかったようで、歩行訓練が必要だった。
歩くことは出来るが、階段は慎重にしないといけない。
だけど必ず頼りになるエレノアと不器用なシリウス様が付き添ってくれる。
本当に素晴らしい友人を作れた。
時々、ギュゼール侯爵家で勉強会を開くようにした。進級テストでは私とシリウス様が同点同位の1位を取ると、侯爵は私達を大歓迎し、シリウス様に対しても優しく接するようになった。
「ルルーナ。全て君のお陰だ。感謝している」
「私もシリウス様とエレノアに助けてもらっているわ。本当にありがたいと思っているの。私は幸運だわ。2人に出会えて仲良くなれて」
「一問以外、正解だなんて奇跡だ」
「わたしも。本当は二問不正解のはずだったんだけど、一問はサイコロで決めたものが当たったの」
「は?」
「補助紙でサイコロを作って数字を書いて転がして、戦争終結の年を書いたら当たったの!」
「…まさか入試もか」
「そう。外れたけどね」
「監督官は何も言わなかったのか」
「自分でその場で作ったサイコロを転がしているだけよ。
一番前だったからジッと見られていたわ。憐れみの目を向けられたけど、登校初日の順位発表で驚愕の顔をしていたわ」
「まぁ、そうだろうな」
「何でおぼえられないのかしらね」
「そうなのよ。不思議でしょう。犬の生まれた年は覚えているわ」
「最近じゃないの」
「ふふっ」
「みなさん、お茶の時間にしましょう。
主人が先日開店したケーキ屋さんに行って買ってきたのよ」
「えっ!あそこ、すごく並ぶお店なのに」
「そうなの?詳しいわね」
「…行ってきたから」
「シリウス様とデートね」
「バカっ!歩いていたら行き着いただけだ!」
「赤くなってたら誤魔化せないわよ?」
「ぐうっ」
「嬉しいの!素敵な2人が結ばれるなんて最高だわ!卒業したら結婚するの?」
「っ! これから求婚するんだ!」
「シリウス様…」
「あっ…」
「今、求婚したようなものね」
「お前!ずっと、どうしたら喜ぶか考えていたのに台無しじゃないか!」
「例えば?」
「景気のいい場所とか、綺麗なレストランとか、夜会の庭園とかいろいろ悩んでいたんだ!」
「ふ~ん。子供は何人にするの?」
「何人でもいいが、エレノアに似た女の子がいい!」
「ふふっ。だって。エレノア」
「…」
「っ!! ルルーナ!わざと喋らせたな!」
「2人とも真っ赤!」
「くそーっ!可愛い」
「私、帰ろうかしら」
「ケーキがあるだろう!行くぞ!」
「ふふっ」
エリアス様は公爵位を賜われるよう多くの公務をこなしている。
「兄上。話があるそうですね」
「…単刀直入に聞く。王になりたいのか」
「? 嫌です」
「えっ!?」
「王になどなりたくありません」
「では、何故それほど頑張って公務をこなすんだ。必要以上に受けているようだが」
「誰にも文句を言わせず公爵になるためですよ。
王子だから公爵になれるんだなんて言われたら公爵夫人になるルルーナが可哀想ですからね」
「何故なりたくないんだ」
「ルルーナと過ごす時間が激減するからに決まっているじゃないですか。
王になれば時には何日も離れなくてはならない。跡継ぎの義務も発生してしまう。
公爵ならずっとルルーナといられるし、子ができなくても何も言われないし、言わせない。
私が自ら作った契約書には、他の女に手を出したら離縁してもいいと明記しました。
だから、絶対ルルーナ以外の女に触れません」
「ルルーナ嬢が王妃になりたいと言ったら?」
「万が一、彼女が望めば考えますが、あり得ませんね。
勿論能力はありますが、強い子ではありません。大きな責任を背負える強さは無いのです」
「そうか。確認したかっただけだ」
「兄上、ルルーナに出会う前から王位は望んでいません。
ひとつだけ、お願いがあります」
「何だ」
「ルルーナに害を成す者を容赦はしません。そこだけは、兄上の力をお借りしたい」
「約束しよう。表立てなければ影を使う」
「やっぱりもう一つ」
「…何だ」
「ルルーナとの間に子が生まれた場合、誰が相手でも公爵家が拒否すれば、婚約をお認めにならないでください。例え他国の王族が相手でも」
「努力しよう」
「それが元でもめたら移住しますからご安心ください」
「ならば縁のある国の王族と偽装婚約をしておけばいい。アルシュとかな」
「ありがとうございます。
でも、私が王位を望んだらどうするつもりだったのですか」
「退くだけだ」
「…分かりました」
エリアス殿下はその足で国王の所へ行き、継承権放棄の意を伝えた。
「次期国王の憂いを取り除きたいのです。
そもそも私にその気はありません。
兄上には男児が生まれていますから問題ないでしょう」
「後悔しないか?」
「私はルルーナと片時も離れたくないのです」
「王になったら不可能だな。
…わかった。明日の朝、署名をしに来てくれ」
「ありがとうございます」
兄王子は後から聞かされ驚いた。
弟の部屋を訪ねると嬉しそうにルルーナの勉強をみていた。
納得して執務に戻った。
処刑以来、エリアス殿下にもルルーナにも手を出す者はいなかった。
ひとりを除いては。
ウィリアムは時々やってきて、エリアス殿下に不満はないか聞きに来る。
「チッ 隙のないヤツだ」
そしてルルーナは卒業を迎えた。
卒業試験の結果は、シリウスが1位、ルルーナは2位だった。3回振る羽目になったサイコロの数字はしっかりと外れてしまったのだ。
4位にエレノアが入るという快挙もあった。
ギュゼール侯爵は大喜びでエレノアとの縁談を進め、ルルーナにお礼の贈り物をした。
どうやら孫の家庭教師をしてほしいらしい。
「ルナ、改めて言うけど、私と結婚してほしい」
「はい」
「いいの?」
「はい。婚前契約書は必要ですけど」
「いつ式をあげたい」
「暑くも寒くもない時がいいです」
「どんな式がいいか希望を聞きたい」
「豪華にしないでください。小規模で、食事会みたいにして欲しいです。美味しいものを出してください」
「でも、国王夫妻と王太子夫婦を呼ぶから…」
「何故希望を聞いたのですか?
お任せしますね」
「ルルーナ…」
ルルーナが帰ってしまい、困ったエリアス殿下は王太子妃に相談に行った。
「…まぁ、憂鬱よね。花嫁の誰しもが結婚式を喜んでいるわけじゃないのよ」
「えっ!?」
「興味のない花嫁にとって苦行でしかないもの。
何ヶ月も準備をして、招いた数だけの招待状を書くの。皆同じ文じゃないのよ?
席決めも大変だし、使用するものは何から何まで厳選しなくてはならないの。
遠くから呼べば、屋敷に何日か泊まっていただかなくてはならないわ。
そうなれば準備をしながら接待もしなくてはならないの。
ドレスの打ち合わせだって何度もして、合わせるんだから。
コルセットギュウギュウにしてドレス着て、足は痛くて、美味しいものを自由に飲み食いできなくて、ずっと愛想笑いよ?
楽しい訳ないじゃない」
「……」
「殿方はほとんど女性任せだからいいわよね。
当日だって、痛みや過度な締め付けを強いられる衣装ではないし、呑気にお酒飲んで食べることができるんだもの」
「……」
「そんな疲れ果てた後に初夜とかいうのよ?
殿方はいいわよね。少しの手間と少しの気遣いで気持ち良くスッキリして寝るんだもの。
女性は恥ずかしさに耐え、終わるまで痛みに耐え、殿方がいいと言うまで身体を休めることができないもの。
終わった後も何日か下腹部や触れ合った部分が痛むこともあるわ。
なのにまた翌日も自分が望めば出来ると思っているのよ。
人によっては裂傷があったりして、傷が塞がらないのにまたしなくちゃいけないのよ?
二度目だからと遠慮が無くなってくるけど傷を負ったのは前日ですからね?」
「すみませんでした」
「機会があれば女性物の靴を履いて敷地内を隅々まで歩いてみるといいわ。
朝から寝るまで、コルセットをギュウギュウに巻き付けて過ごしてみるといいわ。来客対応とか食事会などしたくなくなるから」
「許してください」
「で、ルルーナが何て希望を口にすれば満足だったの?」
「助けてください!」
「結婚しないとか言い出されるわよ。
ウィリアム王太子殿下がまだ狙っているそうじゃない。
話を聞いたら、つけ込まれるわよ」
「公爵家にいってきます!!戻ってきません!!」
「陛下に相談なさい」
「はい」
王太子妃に促され、国王夫妻に相談しに行った。
「まぁ、そうね。
希望を聞いておいて、すぐ拒否されたら、聞くなよって思っても仕方がないわね」
「「……」」
「式に興味のない花嫁の気持ちは、その通りね」
「「……」」
「貴方は婚姻と同時に公爵になるのだから、豪華にする必要はないわ。
小ホールで晩餐会にすればいいじゃない。
私はかまわないわ。
服装も指定すればいいのよ。“締め付け禁止”とか。たくさん食べてもらいたいからって。
会場も少し薄暗くしておけば大丈夫よ。
教会は身内だけにしたら?」
「いいのですか?」
「逃げられるよりはマシだろう」
「父上…」
「何故そこで弱気になるんだ。
ルルーナを幸せにすると決めたなら、こんなことで躓くな」
「はい。ありがとうございます」
コーディネーターを雇い、準備は全てエリアス殿下が行った。
身内だけで教会で式を挙げ、食事会は昼にした。
会場を薄暗くして照明を工夫した。
招待状には、締め付けの少ないドレスで参加して欲しいと書いた。
参考までに、胸の下辺りで切り替えるコルセット不要のドレスの絵を入れた。
ただ食事を楽しむことを重視した披露宴に女性招待客とルルーナから大好評だった。
初夜も今夜でなくていいとエリアスは申し出た。
ルルーナは様子をみたが本当に抱きしめて寝るだけだった。
翌朝、ルルーナは一度腕を解き、ナイトドレスを脱いで眠るエリアスにしがみついた。
「ルルーナ?おはよう」
「おはよう」
ギュッ
「えっ!!??」
「エリアス、ありがとう。嬉しかったわ」
「ルルーナ」
「エリアスと繋がりたい。
初めてだから優しくしてね」
「…無理してない?」
「キスもして欲しい。手も繋ぎたい。抱きしめて撫でて欲しい」
「私もそうしたい。ずっとそう思ってきた。
痛かったら我慢せずに言って」
結局、部屋から出てきたのは5日後だった。
王太子に扉越しに怒られたからだ。
「エリアス!いい加減にルルーナを離して出てこい!!
続きは来月の引越し以降にしろ!!」
屋敷自体はあまり大きくないが敷地は広い。
大金をかけて楽しめる庭園に仕上げた。
犬達を放せば駆け回われるようになっている。池も橋もあり、花垣は迷路のようだ。
石造りの噴水は犬が水浴びをできるようにしてある。
ルルーナは幸せだった。
公爵邸に移って3年経とうとしていた。
「エリアス」
「ん?」
「子供が欲しい」
「…」
「子供が欲しい」
「子供ができても私を放置しないか?」
「…たぶん」
「止めておこう」
「え~」
エリアスは男性用避妊薬を服用していたが、その日以来服用を止めた。
それをルルーナが知るのは2ヶ月後、体調不良を訴えて診察を受けたときだった。
「おめでとうございます。ご懐妊です」
「はあ!?」
「ひっ!すみません!」
「あ、すみません。何でもありません」
後からエリアスはルルーナの怒りをひたすら受け止めた。
ルルーナの怒りが収まってくると
「もし、孕めなかったとき、避妊をしていると思えば私のせいにできると思ったんだ」
「…怒ってごめんなさい」
「安静にして。君に何かあったら困るから」
「はい」
生まれたのはエリアスに瓜二つの男児だった。
エリアスは息子とルルーナの争奪戦を毎日繰り広げている。
エリアスは早くも隣国の寄宿学校の資料を取り寄せて、ルルーナに怒られていた。
だけど息子はエリアスの反応が面白くてやっていただけだった。
それを知るのは息子の結婚式だった。
完結
読者の皆様、お付き合いいただきありがとうございました。
足の方がただの捻挫ではなかったようで、歩行訓練が必要だった。
歩くことは出来るが、階段は慎重にしないといけない。
だけど必ず頼りになるエレノアと不器用なシリウス様が付き添ってくれる。
本当に素晴らしい友人を作れた。
時々、ギュゼール侯爵家で勉強会を開くようにした。進級テストでは私とシリウス様が同点同位の1位を取ると、侯爵は私達を大歓迎し、シリウス様に対しても優しく接するようになった。
「ルルーナ。全て君のお陰だ。感謝している」
「私もシリウス様とエレノアに助けてもらっているわ。本当にありがたいと思っているの。私は幸運だわ。2人に出会えて仲良くなれて」
「一問以外、正解だなんて奇跡だ」
「わたしも。本当は二問不正解のはずだったんだけど、一問はサイコロで決めたものが当たったの」
「は?」
「補助紙でサイコロを作って数字を書いて転がして、戦争終結の年を書いたら当たったの!」
「…まさか入試もか」
「そう。外れたけどね」
「監督官は何も言わなかったのか」
「自分でその場で作ったサイコロを転がしているだけよ。
一番前だったからジッと見られていたわ。憐れみの目を向けられたけど、登校初日の順位発表で驚愕の顔をしていたわ」
「まぁ、そうだろうな」
「何でおぼえられないのかしらね」
「そうなのよ。不思議でしょう。犬の生まれた年は覚えているわ」
「最近じゃないの」
「ふふっ」
「みなさん、お茶の時間にしましょう。
主人が先日開店したケーキ屋さんに行って買ってきたのよ」
「えっ!あそこ、すごく並ぶお店なのに」
「そうなの?詳しいわね」
「…行ってきたから」
「シリウス様とデートね」
「バカっ!歩いていたら行き着いただけだ!」
「赤くなってたら誤魔化せないわよ?」
「ぐうっ」
「嬉しいの!素敵な2人が結ばれるなんて最高だわ!卒業したら結婚するの?」
「っ! これから求婚するんだ!」
「シリウス様…」
「あっ…」
「今、求婚したようなものね」
「お前!ずっと、どうしたら喜ぶか考えていたのに台無しじゃないか!」
「例えば?」
「景気のいい場所とか、綺麗なレストランとか、夜会の庭園とかいろいろ悩んでいたんだ!」
「ふ~ん。子供は何人にするの?」
「何人でもいいが、エレノアに似た女の子がいい!」
「ふふっ。だって。エレノア」
「…」
「っ!! ルルーナ!わざと喋らせたな!」
「2人とも真っ赤!」
「くそーっ!可愛い」
「私、帰ろうかしら」
「ケーキがあるだろう!行くぞ!」
「ふふっ」
エリアス様は公爵位を賜われるよう多くの公務をこなしている。
「兄上。話があるそうですね」
「…単刀直入に聞く。王になりたいのか」
「? 嫌です」
「えっ!?」
「王になどなりたくありません」
「では、何故それほど頑張って公務をこなすんだ。必要以上に受けているようだが」
「誰にも文句を言わせず公爵になるためですよ。
王子だから公爵になれるんだなんて言われたら公爵夫人になるルルーナが可哀想ですからね」
「何故なりたくないんだ」
「ルルーナと過ごす時間が激減するからに決まっているじゃないですか。
王になれば時には何日も離れなくてはならない。跡継ぎの義務も発生してしまう。
公爵ならずっとルルーナといられるし、子ができなくても何も言われないし、言わせない。
私が自ら作った契約書には、他の女に手を出したら離縁してもいいと明記しました。
だから、絶対ルルーナ以外の女に触れません」
「ルルーナ嬢が王妃になりたいと言ったら?」
「万が一、彼女が望めば考えますが、あり得ませんね。
勿論能力はありますが、強い子ではありません。大きな責任を背負える強さは無いのです」
「そうか。確認したかっただけだ」
「兄上、ルルーナに出会う前から王位は望んでいません。
ひとつだけ、お願いがあります」
「何だ」
「ルルーナに害を成す者を容赦はしません。そこだけは、兄上の力をお借りしたい」
「約束しよう。表立てなければ影を使う」
「やっぱりもう一つ」
「…何だ」
「ルルーナとの間に子が生まれた場合、誰が相手でも公爵家が拒否すれば、婚約をお認めにならないでください。例え他国の王族が相手でも」
「努力しよう」
「それが元でもめたら移住しますからご安心ください」
「ならば縁のある国の王族と偽装婚約をしておけばいい。アルシュとかな」
「ありがとうございます。
でも、私が王位を望んだらどうするつもりだったのですか」
「退くだけだ」
「…分かりました」
エリアス殿下はその足で国王の所へ行き、継承権放棄の意を伝えた。
「次期国王の憂いを取り除きたいのです。
そもそも私にその気はありません。
兄上には男児が生まれていますから問題ないでしょう」
「後悔しないか?」
「私はルルーナと片時も離れたくないのです」
「王になったら不可能だな。
…わかった。明日の朝、署名をしに来てくれ」
「ありがとうございます」
兄王子は後から聞かされ驚いた。
弟の部屋を訪ねると嬉しそうにルルーナの勉強をみていた。
納得して執務に戻った。
処刑以来、エリアス殿下にもルルーナにも手を出す者はいなかった。
ひとりを除いては。
ウィリアムは時々やってきて、エリアス殿下に不満はないか聞きに来る。
「チッ 隙のないヤツだ」
そしてルルーナは卒業を迎えた。
卒業試験の結果は、シリウスが1位、ルルーナは2位だった。3回振る羽目になったサイコロの数字はしっかりと外れてしまったのだ。
4位にエレノアが入るという快挙もあった。
ギュゼール侯爵は大喜びでエレノアとの縁談を進め、ルルーナにお礼の贈り物をした。
どうやら孫の家庭教師をしてほしいらしい。
「ルナ、改めて言うけど、私と結婚してほしい」
「はい」
「いいの?」
「はい。婚前契約書は必要ですけど」
「いつ式をあげたい」
「暑くも寒くもない時がいいです」
「どんな式がいいか希望を聞きたい」
「豪華にしないでください。小規模で、食事会みたいにして欲しいです。美味しいものを出してください」
「でも、国王夫妻と王太子夫婦を呼ぶから…」
「何故希望を聞いたのですか?
お任せしますね」
「ルルーナ…」
ルルーナが帰ってしまい、困ったエリアス殿下は王太子妃に相談に行った。
「…まぁ、憂鬱よね。花嫁の誰しもが結婚式を喜んでいるわけじゃないのよ」
「えっ!?」
「興味のない花嫁にとって苦行でしかないもの。
何ヶ月も準備をして、招いた数だけの招待状を書くの。皆同じ文じゃないのよ?
席決めも大変だし、使用するものは何から何まで厳選しなくてはならないの。
遠くから呼べば、屋敷に何日か泊まっていただかなくてはならないわ。
そうなれば準備をしながら接待もしなくてはならないの。
ドレスの打ち合わせだって何度もして、合わせるんだから。
コルセットギュウギュウにしてドレス着て、足は痛くて、美味しいものを自由に飲み食いできなくて、ずっと愛想笑いよ?
楽しい訳ないじゃない」
「……」
「殿方はほとんど女性任せだからいいわよね。
当日だって、痛みや過度な締め付けを強いられる衣装ではないし、呑気にお酒飲んで食べることができるんだもの」
「……」
「そんな疲れ果てた後に初夜とかいうのよ?
殿方はいいわよね。少しの手間と少しの気遣いで気持ち良くスッキリして寝るんだもの。
女性は恥ずかしさに耐え、終わるまで痛みに耐え、殿方がいいと言うまで身体を休めることができないもの。
終わった後も何日か下腹部や触れ合った部分が痛むこともあるわ。
なのにまた翌日も自分が望めば出来ると思っているのよ。
人によっては裂傷があったりして、傷が塞がらないのにまたしなくちゃいけないのよ?
二度目だからと遠慮が無くなってくるけど傷を負ったのは前日ですからね?」
「すみませんでした」
「機会があれば女性物の靴を履いて敷地内を隅々まで歩いてみるといいわ。
朝から寝るまで、コルセットをギュウギュウに巻き付けて過ごしてみるといいわ。来客対応とか食事会などしたくなくなるから」
「許してください」
「で、ルルーナが何て希望を口にすれば満足だったの?」
「助けてください!」
「結婚しないとか言い出されるわよ。
ウィリアム王太子殿下がまだ狙っているそうじゃない。
話を聞いたら、つけ込まれるわよ」
「公爵家にいってきます!!戻ってきません!!」
「陛下に相談なさい」
「はい」
王太子妃に促され、国王夫妻に相談しに行った。
「まぁ、そうね。
希望を聞いておいて、すぐ拒否されたら、聞くなよって思っても仕方がないわね」
「「……」」
「式に興味のない花嫁の気持ちは、その通りね」
「「……」」
「貴方は婚姻と同時に公爵になるのだから、豪華にする必要はないわ。
小ホールで晩餐会にすればいいじゃない。
私はかまわないわ。
服装も指定すればいいのよ。“締め付け禁止”とか。たくさん食べてもらいたいからって。
会場も少し薄暗くしておけば大丈夫よ。
教会は身内だけにしたら?」
「いいのですか?」
「逃げられるよりはマシだろう」
「父上…」
「何故そこで弱気になるんだ。
ルルーナを幸せにすると決めたなら、こんなことで躓くな」
「はい。ありがとうございます」
コーディネーターを雇い、準備は全てエリアス殿下が行った。
身内だけで教会で式を挙げ、食事会は昼にした。
会場を薄暗くして照明を工夫した。
招待状には、締め付けの少ないドレスで参加して欲しいと書いた。
参考までに、胸の下辺りで切り替えるコルセット不要のドレスの絵を入れた。
ただ食事を楽しむことを重視した披露宴に女性招待客とルルーナから大好評だった。
初夜も今夜でなくていいとエリアスは申し出た。
ルルーナは様子をみたが本当に抱きしめて寝るだけだった。
翌朝、ルルーナは一度腕を解き、ナイトドレスを脱いで眠るエリアスにしがみついた。
「ルルーナ?おはよう」
「おはよう」
ギュッ
「えっ!!??」
「エリアス、ありがとう。嬉しかったわ」
「ルルーナ」
「エリアスと繋がりたい。
初めてだから優しくしてね」
「…無理してない?」
「キスもして欲しい。手も繋ぎたい。抱きしめて撫でて欲しい」
「私もそうしたい。ずっとそう思ってきた。
痛かったら我慢せずに言って」
結局、部屋から出てきたのは5日後だった。
王太子に扉越しに怒られたからだ。
「エリアス!いい加減にルルーナを離して出てこい!!
続きは来月の引越し以降にしろ!!」
屋敷自体はあまり大きくないが敷地は広い。
大金をかけて楽しめる庭園に仕上げた。
犬達を放せば駆け回われるようになっている。池も橋もあり、花垣は迷路のようだ。
石造りの噴水は犬が水浴びをできるようにしてある。
ルルーナは幸せだった。
公爵邸に移って3年経とうとしていた。
「エリアス」
「ん?」
「子供が欲しい」
「…」
「子供が欲しい」
「子供ができても私を放置しないか?」
「…たぶん」
「止めておこう」
「え~」
エリアスは男性用避妊薬を服用していたが、その日以来服用を止めた。
それをルルーナが知るのは2ヶ月後、体調不良を訴えて診察を受けたときだった。
「おめでとうございます。ご懐妊です」
「はあ!?」
「ひっ!すみません!」
「あ、すみません。何でもありません」
後からエリアスはルルーナの怒りをひたすら受け止めた。
ルルーナの怒りが収まってくると
「もし、孕めなかったとき、避妊をしていると思えば私のせいにできると思ったんだ」
「…怒ってごめんなさい」
「安静にして。君に何かあったら困るから」
「はい」
生まれたのはエリアスに瓜二つの男児だった。
エリアスは息子とルルーナの争奪戦を毎日繰り広げている。
エリアスは早くも隣国の寄宿学校の資料を取り寄せて、ルルーナに怒られていた。
だけど息子はエリアスの反応が面白くてやっていただけだった。
それを知るのは息子の結婚式だった。
完結
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