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夫婦の決まり

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「奥様、旦那様の予定変更がございます」

「ありがとう。アルナ。月間予定に赤インクで直しておいて」

「かしこまりました」

本邸の左右に渡り廊下を繋いで別棟が建っている。

ひとつはカイゼル・フェリング侯爵が愛人を住まわせている。

もうひとつはアリエル・フェリング侯爵夫人である私の住まいだ。

私と夫の侯爵は敷地内別居をしている。

互いに14歳の時に婚約した。
フェリング侯爵家と私の生家のラクロワ侯爵家の政略結婚だった。

両家共に裕福で何の問題も無いと思われていた。

だが私達は不仲だった。

夫は同い歳の準男爵の娘メリンダを愛人として囲っている。学生の頃からの付き合いだ。

私は囲うことはない。基本的に恋人との情事は外で済ます。
恋人が私の住まいに来ることもあるがせいぜい食事程度。



夫婦間の決まり事はこうだ。

お金は別。但しフェリング侯爵夫人としての活動費用はフェリング侯爵家持ち。

財産分与はなし。

夫婦で参加しなくてはならないものには参加をする。

束縛も干渉もせず閨も無し。

世継ぎは夫と夫の愛人の間でつくる。

離婚は双方の同意が必要。

互いの家族のことはそれぞれで解決する。

月間予定を互いに提出し、変更があり次第直ちに連絡をする。

本邸には愛人などは立ち入らせない。

互いの別棟には許可なく入らない。



お金の件は夫が全部出すと言ったのだが私が断った。

かかる費用は自分で出すし、離縁の場合も財産分与はしなくていい。夫が先に死んだ場合は全てを放棄してフェリング侯爵家を去ると宣言した。

話し合いの末、フェリング侯爵夫人としての活動費だけ夫側負担と言うことで妥協した。

私の住む別棟はラクロワ家が建てた。

結婚してすぐ母方の祖母の個人資産を遺言で私が受け継いだ。

お金はかなりあってそれだけでも一生困らない。宝石のコレクションも凄かった。
王都にいくつか物件を持っていて賃貸収入がある。投資もしていて配当もある。

子爵位と領地もあった。
この国では子爵以下は女性も継ぐ事ができるのでこれも受け継いだ。

しかも結婚して1年経たないうちに領地で幸運が起きた。

ひとつは希少鉱石の鉱脈が発見されたこと。
もうひとつはその付近に生える植物で麻酔薬の開発が出来たことだ。
この植物は受け継いだ子爵領の限られた場所でしか見つかっていない。

しかも採取してすぐ劣てしまうので盗んでも意味がないし、土ごと持っていっても枯れるらしい。
何故だかは解明しない。情報漏れを防ぐために敢えて謎のままにしたのだ。

ラクロワ家も富豪だが、私個人も富豪なのだ。だからフェリング家に頼る必要が全く無い。



18歳で身内だけの結婚式を挙げ、初夜も無し。
食事ももてなさなくてはならない客が居なければ共にしない。

そうやって私達は22歳になっていた。


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