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2年1ヶ月ぶりの一時帰還
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【 イザークの視点 】
サボデュール王国はうちに次ぐ領土があり、統治に苦労していた。特に俺はプリュム王国の警備に尽力した。プリュムには移住希望者も多くいるために選別に時間がかかる。それでも通したサボデュール民の一部がプリュム王国の町で騒ぎを起こしたり事件を起こす。
だから独断でサボデュール民の立ち入りを禁じ、商人は荷物や装備を確認し、武器になるものは没収し、いくつか一纏めにして見張りとして兵士を付き添わせた。商人には指示に従わなかったり失踪者が出れば全員躊躇いなく殺すと告げておいた。
こちらやプリュム兵の安全が最優先だ。少人数の兵士しか付けられないのだから、様子見などする余裕はない。
そんな中の2年1ヶ月ぶりの一時帰還だった。
また戻らねばならない。
陛下と宰相に報告を上げ、軍部に情報を共有させてやっと紅鷲の宮に帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「疲れた。湯浴みをして食事をしたい」
「かしこまりました」
汚れを落として食事をした後、紅鷲の宮の報告を聞いた。
「で、別棟の女達は?」
「エマ様は待機なさっています。カリマ様はお辞めになりました」
「妻の座を狙っていた女か。新しいのを用意してくれ。また任務に戻らねばならないから、臨時採用で構わない」
「かしこまりました」
「離れのポールを呼んで報告をさせてくれ」
「直ぐお呼びします」
現れたポールは目が泳いでいた。
「お帰りなさいませ、イザーク殿下」
「問題があるのだな?」
「見方によります」
「不在中の事を教えてくれ」
ポールは目を逸らしながら淡々と説明を続けた。
カリマが騒いだのをきっかけに、クリステルがカリマを住まわせて、一緒に俺の敷地を出て兵士達の手当ての手伝いをしていると。
夕方、戻って来たクリステルとカリマをつかまえさせて連れて来させた。
クリステルは随分と成長していて幼さが少しずつ変化していた。体付きも大分女らしくなった。
カリマは初めて入った紅鷲の宮の応接間を見渡していた。
「クリステル。約束を破ったな」
「破っていません」
「女達のいる別棟の敷地に入ってはいけないと言っただろう」
「入っていません」
「だってカリマを、」
「イザーク殿下、クリステル様は一歩も入っておりません。柵越しに話しました」
「……散歩は紅鷲の宮だけにしろと言ったはずだ」
「そうですね」
「西の病棟に外出してるだろう」
「散歩は紅鷲の宮の敷地内です。西側には仕事をしに行っています。怪我人の処置は花見とは違います。それに城壁内の移動は“外出”とは呼びません。皆様、外出届を出しているのですか?」
「っ!」
「長期不在時についてカリマ達に事前説明をなさらないから妻である私が対応しました。感謝されることはあっても責め立てられる覚えはありません」
「離れへの来客は許可がいると言ったぞ」
「カリマは私が使用人として雇いました。お客様ではありません」
ガシャン!
ついカッとなってティーカップを払い床に落としてしまった。
カリマは怯えた顔をしたがクリステルは無表情だった。
「帰還したばかりでお疲れのようですね。
落ち着いたらお呼びください。
私達は失礼します」
「カリマは別棟に戻れ」
「将軍。カリマは愛人を辞めました。
もう私が雇っている医療助手です。
それにカリマは婚約しました。これからはカリマ嬢と呼んでください」
「は!?」
「失礼します」
クリステルはカリマの手を引いて出て行ってしまった。
何が起きているんだ!?
「レイを呼び止めて連れて来てくれ」
クリステルの専属護衛騎士レイを呼び止めさせて事情を聞いた。
「報告の前に殿下に確認させてください。イザーク殿下はクリステル様のことをどうなさるおつもりですか」
「どうって、陛下の命令だぞ」
「例えば心を通わせて、成人したら改めて求婚するおつもりは」
「無いな」
言葉足らずだった…
「では、このまま放っておくのですね?」
「不自由させてないだろう」
婚姻したときの契約の話をすればよかった…
「かしこまりました。大して先程の話とは違う部分はございません。カリマ様が別棟どころか紅鷲の宮を出て、イザーク殿下がいつ帰るのか聞いて回ろうとしていたのです。柵の出入口でメイドが止めているところに、庭を散歩していたクリステル様が鉢合わせしてしまいました。
主人が不在のため、妻であるクリステル様が対応なさったのです。
事情を聞いたクリステル様は、別棟の部屋で閉じ込められるように殿下を待つのではなく、過去に裏切ったり見下した者達のことを引き摺るのではなく、本当の幸せをみつけろと言って、医療助手の仕事を教えたのです。
カリマ様は見事に仕事を覚えて信頼を勝ち取り、そんな姿を見た1人の騎士が彼女に求婚しました。
もちろん紅鷲の宮から出る前に国王陛下に承認をいただいてから行動なさいました。つまりイザーク殿下では止めることは叶いません」
疲れていて、夜伽の女がクリステルと親しくなっていて、彼女が俺の腕の中にいないのが腹立たしくて…
「陛下が許可した事を俺がどうこう言えないということか……どうせまた向こうに戻らねばならない。好きにするといい」
「仰せのままに」
クリステルの専属護衛騎士レイが冷たい目をしていたことも気付かず…。
何事もなかったかのように夕食の席に現れるクリステルにどこか安堵し…
裏の別棟でエマを抱いて不要な感情を吐き出し、湯浴みで洗い流し…
深夜にクリステルのベッドで彼女を抱きしめても抵抗しないことに安心してしまった。
そして直ぐに女が2人、臨時採用されて別棟に迎え入れられた。
また不在にするまでの1ヶ月弱で十分に使った後、出発翌日の日付けで臨時契約の満了をさせた。
サボデュール王国はうちに次ぐ領土があり、統治に苦労していた。特に俺はプリュム王国の警備に尽力した。プリュムには移住希望者も多くいるために選別に時間がかかる。それでも通したサボデュール民の一部がプリュム王国の町で騒ぎを起こしたり事件を起こす。
だから独断でサボデュール民の立ち入りを禁じ、商人は荷物や装備を確認し、武器になるものは没収し、いくつか一纏めにして見張りとして兵士を付き添わせた。商人には指示に従わなかったり失踪者が出れば全員躊躇いなく殺すと告げておいた。
こちらやプリュム兵の安全が最優先だ。少人数の兵士しか付けられないのだから、様子見などする余裕はない。
そんな中の2年1ヶ月ぶりの一時帰還だった。
また戻らねばならない。
陛下と宰相に報告を上げ、軍部に情報を共有させてやっと紅鷲の宮に帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「疲れた。湯浴みをして食事をしたい」
「かしこまりました」
汚れを落として食事をした後、紅鷲の宮の報告を聞いた。
「で、別棟の女達は?」
「エマ様は待機なさっています。カリマ様はお辞めになりました」
「妻の座を狙っていた女か。新しいのを用意してくれ。また任務に戻らねばならないから、臨時採用で構わない」
「かしこまりました」
「離れのポールを呼んで報告をさせてくれ」
「直ぐお呼びします」
現れたポールは目が泳いでいた。
「お帰りなさいませ、イザーク殿下」
「問題があるのだな?」
「見方によります」
「不在中の事を教えてくれ」
ポールは目を逸らしながら淡々と説明を続けた。
カリマが騒いだのをきっかけに、クリステルがカリマを住まわせて、一緒に俺の敷地を出て兵士達の手当ての手伝いをしていると。
夕方、戻って来たクリステルとカリマをつかまえさせて連れて来させた。
クリステルは随分と成長していて幼さが少しずつ変化していた。体付きも大分女らしくなった。
カリマは初めて入った紅鷲の宮の応接間を見渡していた。
「クリステル。約束を破ったな」
「破っていません」
「女達のいる別棟の敷地に入ってはいけないと言っただろう」
「入っていません」
「だってカリマを、」
「イザーク殿下、クリステル様は一歩も入っておりません。柵越しに話しました」
「……散歩は紅鷲の宮だけにしろと言ったはずだ」
「そうですね」
「西の病棟に外出してるだろう」
「散歩は紅鷲の宮の敷地内です。西側には仕事をしに行っています。怪我人の処置は花見とは違います。それに城壁内の移動は“外出”とは呼びません。皆様、外出届を出しているのですか?」
「っ!」
「長期不在時についてカリマ達に事前説明をなさらないから妻である私が対応しました。感謝されることはあっても責め立てられる覚えはありません」
「離れへの来客は許可がいると言ったぞ」
「カリマは私が使用人として雇いました。お客様ではありません」
ガシャン!
ついカッとなってティーカップを払い床に落としてしまった。
カリマは怯えた顔をしたがクリステルは無表情だった。
「帰還したばかりでお疲れのようですね。
落ち着いたらお呼びください。
私達は失礼します」
「カリマは別棟に戻れ」
「将軍。カリマは愛人を辞めました。
もう私が雇っている医療助手です。
それにカリマは婚約しました。これからはカリマ嬢と呼んでください」
「は!?」
「失礼します」
クリステルはカリマの手を引いて出て行ってしまった。
何が起きているんだ!?
「レイを呼び止めて連れて来てくれ」
クリステルの専属護衛騎士レイを呼び止めさせて事情を聞いた。
「報告の前に殿下に確認させてください。イザーク殿下はクリステル様のことをどうなさるおつもりですか」
「どうって、陛下の命令だぞ」
「例えば心を通わせて、成人したら改めて求婚するおつもりは」
「無いな」
言葉足らずだった…
「では、このまま放っておくのですね?」
「不自由させてないだろう」
婚姻したときの契約の話をすればよかった…
「かしこまりました。大して先程の話とは違う部分はございません。カリマ様が別棟どころか紅鷲の宮を出て、イザーク殿下がいつ帰るのか聞いて回ろうとしていたのです。柵の出入口でメイドが止めているところに、庭を散歩していたクリステル様が鉢合わせしてしまいました。
主人が不在のため、妻であるクリステル様が対応なさったのです。
事情を聞いたクリステル様は、別棟の部屋で閉じ込められるように殿下を待つのではなく、過去に裏切ったり見下した者達のことを引き摺るのではなく、本当の幸せをみつけろと言って、医療助手の仕事を教えたのです。
カリマ様は見事に仕事を覚えて信頼を勝ち取り、そんな姿を見た1人の騎士が彼女に求婚しました。
もちろん紅鷲の宮から出る前に国王陛下に承認をいただいてから行動なさいました。つまりイザーク殿下では止めることは叶いません」
疲れていて、夜伽の女がクリステルと親しくなっていて、彼女が俺の腕の中にいないのが腹立たしくて…
「陛下が許可した事を俺がどうこう言えないということか……どうせまた向こうに戻らねばならない。好きにするといい」
「仰せのままに」
クリステルの専属護衛騎士レイが冷たい目をしていたことも気付かず…。
何事もなかったかのように夕食の席に現れるクリステルにどこか安堵し…
裏の別棟でエマを抱いて不要な感情を吐き出し、湯浴みで洗い流し…
深夜にクリステルのベッドで彼女を抱きしめても抵抗しないことに安心してしまった。
そして直ぐに女が2人、臨時採用されて別棟に迎え入れられた。
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