6 / 24
レオナルド王太子殿下(入角礼桜)
しおりを挟む【 レオナルド(礼桜)視点 】
熱い!身体中が熱い!
『レオナルド!レオナルド!』
『ミュゲールの薬は飲ませたのであろう!』
『危篤状態ですので、間に合わなかったかもしれません。私が早く気付けていれば…』
『兄様!目を開けて!』
身体がだるい。
『陛下、もう大丈夫でしょう。
かなり消耗なさっておいでですので、ゆっくり回復させます。病人食から徐々に普通食に切り替え、建物内の散歩から始めましょう』
『良かった!ではミュゲールの病で確定か』
『はい』
目を開けると見知らぬ外国人に囲まれていた。
大昔の貴族?医者?メイド??
『おお!レオナルド!』
『良かったわレオ!』
『其方はミュゲールの病にかかり、生死を彷徨った。クロエの婚約者の妹、ニーナ・イリスが救ってくれた』
『か、鏡を…』
鏡を見て強烈な刺激が全身を駆け抜ける。
電気が走ったような。そこで意識を失った。
翌日、専属侍従に全てを聞き確信した。
ここは乙女ゲームの世界でニーナは新奈だ!
私は新奈を殺したのに、私を救ってくれた。
新奈に会うと乙ゲーのニーナが現れた。
とても可愛い子だ。ゲームの絵が実物になるとこうなるのか…。
陛下に説明する新奈が可愛いな。
そもそも私が病に倒れ、青熱病の治療を受けていることを伯爵令嬢が知る術はない。
クロエも話していないだろう。
2人きりになり『新奈』と呼ぶと桃花色の瞳が大きく見開かれた。あの時は神も自分も呪ったが、再び会わせてくれたことに心から神に感謝をした。
中身が新奈じゃなければ交際を申し込みたい程の可愛い容姿だ。
縁を繋げたくて手紙や週一の登城を約束させた。
国王陛下も伯爵も驚いていたが新奈以外はどうでもいい。
1時間後。
エリオットが部屋に訪ねてきたが、早々に人払いをさせた。
「兄上、正直に答えてください」
「なんだ」
「兄上はニーナ嬢をどうなさるおつもりですか」
「は?」
「ニーナ嬢の卒業を待って第二妃に召し上げるおつもりですか」
「その気はない」
「純粋に妹のように慕うと?」
「ニナは命の恩人だ。賢くて可愛い。当然だろう」
「…もう愛称で呼んでいるのですか。
レイノルズ公爵令息の婚約者ですよ」
「だからなんだ。あんなクズ!
ニナを泣かせたら殺してやる!」
「兄上…」
「大丈夫。婚約は解消させる。ニナ自身がそう動いているはずだ」
「義姉上には?
政略結婚とはいえ、複雑でしょう」
「いいか、私はニナを守ると決めた。
ニナが将来結婚したい男が現れたらしっかり躾けようと思っているし、結婚を望まなければ私が娶って自由にさせ、私の庇護下置く」
「自由にですか」
「そうだ。正妃にはこれから話す」
「もし、私が…娶ると言ったら兄上は私をどうなさいますか」
「ニナ次第だ。
ニナがエリオットを望めば考える。
だが、エリオットがニナを泣かせたり、他の女に手を出せば、その命をもって償わせることになるだろう。
ニナが望み、エリオットがニナを大事にすれば、ニナごとお前も大事に守る」
「女に狂ったと指を刺されます」
「ハッ!それは独裁者だけだ。
私はニナが生きやすいように国を整える。
私は令嬢達の人権を守りたい」
「人権?」
「貴族令嬢としての義務もわかるが、娘にだって人権はある。無理矢理嫁がされては性奴隷と同じではないか。主人が飽きるまで続く強姦に耐えなくてはならない。
そして男児を2人ほど産めと強要される」
「それは…」
「エリオット、お前がその身で体験するか?
色狂いの年増を探して婿にやろうか?お前と婚姻しても複数の男と関係をもち、女が望むまま、自由に其方を閨に呼べる。飽きるまで…いや、性欲が無くなるまで」
「!!」
「女の方が大変だぞ?男は何度か果てれば終わりだが、女は疲れるか気を失うまで出来るからな。口で奉仕もさせられるぞ?」
「兄上…」
「女に強いていることだろう」
「……」
「何故、誰もおかしいと思わない。誰も変えようと思わない。女に犠牲を強いて成り立たせる貴族など、貴族とは呼ばない」
「……」
「はぁ、下がれ」
「兄上…」
「下がれ!」
「失礼します」
紅茶を飲んで、落ち着かせた後。
「レオナルド様」
「人払いを」
正妃か。乙ゲーで細かな情報はなかったからレオナルドの記憶だけが頼りだな。
「…第二妃のお話ですか」
「可能性はなくもない。だが、迎える時は白い結婚となるだろう」
「は?
……失礼いたしました」
「ジャンヌ。これから私は奇妙な事を話す。
其方が信じても信じなくても誰にも口外しないと誓ってくれ。其方に危害を加えたくない」
「!!
……かしこまりました」
俺は全てを話した。これから味方につけなければならないのは一番に正妃だからだ。
「……別の世界での兄妹ですか」
「そうだ。確かにこの世界の彼女は血も繋がっていないし似てもいない。可愛いとも思うし、私が望めば娶るのは簡単だ。
だが、中身は別の世界で血のつながった兄妹だったんだ。彼女は受け入れない」
「ニーナ様はご存じなのですか」
「私が兄の礼桜だということは教えた。死んでもなお私の心配をしてくれた。優しくて可愛い妹だ。
レイノルズのクソとの婚約があるから、手紙で報告させるようにした。
あと週に一度の登城も。礼桜にとってたったひとりの肉親だ。私からは気軽に会いに行けないからな」
「では、ニーナ様が人生において結婚というものを望まない時は第二妃として迎えるということは伝えていないのですね」
「そうだ。最終手段でしかない」
「…もう少しお気をつけてくださいませ。
城内はレオナルド様とニーナ様の話で持ちきりですわ」
「どうだっていい。大事だと知らしめられたらそれでいい」
「……」
「ジャンヌ。今から言う話は二度と口に出さない話だ。聞いたら忘れてくれていい」
「はい」
「別の世界でニナが死んだのは私のせいだ。
私が殺した」
「!!」
「こちらの世界で言えば、私がニナを乗せて馬車を操縦中に居眠りをして崖に落ちた」
「っ!」
「ニナは即死だ。なのに俺は生き残った」
「えっ?」
「父も母も泣きくれて、長女で妹の茉由奈は拳を握りしめて耐えていた。
大怪我を負った俺は病室で動けるようになるのを待った。
事故から1か月と数日後、首を吊った」
「!!」
「遺書にはこう書いた。
“新奈は自分が死んだことに気付いていないかもしれない。新奈の魂を迎えにいって一生面倒をみることにした。
もしかしたら天国へ行っているのかもしれない。
俺は天国へは行けないから、数十年後に2人が新奈に会ったら、謝っていたと伝えて欲しい。
茉由奈、ごめんな。
礼桜”
だから、ここでの俺の目的はニナの幸せだけだ。俺の命よりも大事だ。邪魔する者や危害を加える者には容赦はしない。
ニナに救ってもらったこのレオナルドの命はニナに使う」
「レオナルド様…」
「ジャンヌには申し訳ないが」
「分かりましたわ。
ですが、私とレオナルド様は婚姻をして世継ぎを残さねばなりません」
「私は無理強いしたくない。血は大事かもしれないが、ジャンヌに辛い思いをさせてまで残すものではない。ジャンヌが心から望むのであればそうしよう。
私のせいで子ができないと発表すればいいだけだ」
「……かしこまりました」
658
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
【完結】よりを戻したいですって? ごめんなさい、そんなつもりはありません
ノエル
恋愛
ある日、サイラス宛に同級生より手紙が届く。中には、婚約破棄の原因となった事件の驚くべき真相が書かれていた。
かつて侯爵令嬢アナスタシアは、誠実に婚約者サイラスを愛していた。だが、サイラスは男爵令嬢ユリアに心を移していた、
卒業パーティーの夜、ユリアに無実の罪を着せられてしまったアナスタシア。怒ったサイラスに婚約破棄されてしまう。
ユリアの主張を疑いもせず受け入れ、アナスタシアを糾弾したサイラス。
後で真実を知ったからと言って、今さら現れて「結婚しよう」と言われても、答えは一つ。
「 ごめんなさい、そんなつもりはありません」
アナスタシアは失った名誉も、未来も、自分の手で取り戻す。一方サイラスは……。
【完結】真実の愛に気付いたと言われてしまったのですが
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済みです!!!】
かつて王国の誇りとされた名家の令嬢レティシア。王太子の婚約者として誰もが認める存在だった彼女は、ある日、突然の“婚約破棄”を言い渡される。
――理由は、「真実の愛に気づいてしまった」。
その一言と共に、王家との長年の絆は踏みにじられ、彼女の名誉は地に落ちる。だが、沈黙の奥底に宿っていたのは、誇り高き家の決意と、彼女自身の冷ややかな覚悟だった。
動揺する貴族たち、混乱する政権。やがて、ノーグレイブ家は“ある宣言”をもって王政と決別し、秩序と理念を掲げて、新たな自治の道を歩み出す。
一方、王宮では裏切りの余波が波紋を広げ、王太子は“責任”という言葉の意味と向き合わざるを得なくなる。崩れゆく信頼と、見限られる権威。
そして、動き出したノーグレイブ家の中心には、再び立ち上がったレティシアの姿があった。
※日常パートとシリアスパートを交互に挟む予定です。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる