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女嫌いの騎士 E
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【 エリアスの視点 】
何故コレが届いたのか。
「一般的に騎士は除外されがちだが、昨年に指名があったから足りなくなったのだろう」
「でも実子が産まれるのよ。嬉しい限りだわ」
騎士になったのは強制婚の指名を避けるためだった。国に仕える騎士は重要な存在で、階級が上がるほど価値が上がる。一中隊を任されるまでになったのにこの有様だ。
母上は養子ではなく実子を望んでいたので顔から喜びが滲み出ていた。
「シャルロット・オッセン…侯爵家だな」
「うちの子爵家で大丈夫かしら」
「だが国が決めたことだから大丈夫じゃなくても仕方ないだろう」
「ダミアン様とはお別れしなくてはなりませんよ」
「子を成せば離縁も可能ですよね。その時はダミアンと復縁します」
「侯爵家のご令嬢だから相手次第だな」
「侯爵家の令嬢だからこそ離縁に同意しますよ」
自由の国と言うが自由ではない。一部の犠牲の上で成り立たせようとしている自由だ。
何代も昔の王子が同性しか愛せない男だったことを隠したまま婚姻した。妃との初夜は薬を使った。
だがそれ以上は閨を拒否し、弟王子を代役にした。
そして王冠を手にすると同性婚を認める法律を作った。
そのうち出生率が下がり問題になった。
あれこれと対策を講じているうちに今の制度に行き着いた。
翌日、ダミアンを屋敷に呼んだ。
「どうして婚姻なんか!」
「王命だ。拒否すれば俺もバロー家も無事では済まないんだ」
「僕はどうなるの!」
「子が産まれたら離縁を申し出る。別れたらダミーを正夫として婚姻を、…もしも無理なら愛人として屋敷で大事にしよう」
「僕を正夫にしてくれるって言ったじゃないか!」
「国が決めたことなんだ、仕方ないだろう。ダミーも習ったはずだ」
「だけど愛人なんて」
「子を成したら令嬢と寝る必要はない。その後はずっとダミーだけだ。愛人とはいえ正夫と同じじゃないか」
「……」
「愛してる」
可愛いダミアンは不服そうだった。
きっと名門侯爵家の令嬢は新興貴族のバロー家に嫁ぐのも嫌だろう。離縁に応じる可能性は高い。
そうすればダミアンの機嫌もなおる。そう信じていた。
後日、決定通知書が届いた。相手の令嬢が合意した。つまりおよそ3ヶ月後…に婚姻する。
ここで初めて釣書を見た。
父上達は見ていたが 俺は決まってから見ることにしていた。
金髪に薄緑の瞳。いかにも侯爵家の令嬢といった気品があるが平凡な顔だ。産まれる子は俺に似てほしいものだ。
19歳、伯爵令嬢の恋人ありか。
いくら寛容な国でもよく侯爵夫妻は許したな。
バロー子爵家は元は平民の商家だった。
先祖が大きくして国に貢献したという功績で爵位を賜った。男爵家になると苦労したという。
そして2代前に子爵に昇格した。
貴族の集まりに行くと、平民扱いで嫌な顔をされるか、金蔓として寄ってくるか、容姿に興味を持つか。そんな令嬢達に辟易して女嫌いになった。元々はそうではなかった。
いつの間にか男と付き合うようになった。男の方が気が楽だった。その中で甘え上手なダミアンと出会った。彼と婚姻し必要なら養子をもらうつもりだった。
今更 女なんて。
侯爵家なら、俺をハエのように蔑むのだろうな。
懇親会の通知が届き王城へ足を運ぶと庭園に10テーブルが用意されていた。
名前を呼ばれて行くと、シャルロット・オッセンと呼ばれた令嬢は……姿絵と違った。
色は同じだったが 現物の方が何倍も美しかった。
顔はどれだけ遠目で描いたんだよと言いたくなるくらい凡人的な仕上がりに描かれていたが、実物は王宮に飾られた絵画の少女のように可愛い。
他のテーブルの男達が、どうせ異性婚をするならそっちがいいとシャルロットを舐め回すように視姦する。不快な気持ちが込み上げてきた。
『あの、睨まないでもらえませんか。
本意ではないのは皆同じですからね』
『……』
え?何で?睨んでなんかないのに。
『え?まさかの無視ですか』
『……』
『はぁ』
小さな口から溜息が漏れた。
『睨んでいない。こういう顔だ』
『ふうん。そういうことにしておきます』
何で俺は責められているんだ!?
メイドが茶を注ぎ、その後でテーブルの中央に菓子やケーキを置いた。
他のテーブルを見ると令嬢が手を伸ばしているが、この子は…届かずに腕をプルプルとさせている。
頑張っても伸びることはない。
『プッ』
『嫌な人』
『…どれが食べたいんだ?』
『全部……でも食べきれないから赤いケーキとナッツの焼き菓子にします』
『……』
ケーキを3種取り、3分の1をカットして皿に移して渡した。
『いいのですか?』
『無理して食べなくていいからな』
『ありがとうございます!』
なんて愛くるしい笑顔を振り撒くんだ!
他のテーブルの男どもが頬を染めた。
ケーキを食べ終えると焼き菓子に手を伸ばした。
『そちらのケーキは?』
『好きな物を食べればいい』
『そのケーキをいただきます』
『どうして』
『失礼な食べ方になります』
『俺が食べるからいい』
『食べていないじゃないですか』
『もっと食べると言い出すかもしれないから様子を見ただけだ』
焼き菓子を割って皿に移してシャルロットの前に置いた。残りのケーキを食べ始めると安心して焼き菓子に手を付けた。
『美味しい』
『そうか』
甘いものはあまり好きではない。だから残す気でいた。
ダミアンは甘いものが好きだが少食だ。いつもこういう時は半分にして皿に移してやった。だけど残った皿を気にしたことは無く、いつも残していた。
カップが空になりかけてメイドが近寄るが、制してポットを手に取り注いだ。
『ありがとうございます』
『食事で嫌いなものはあるか?』
『辛い物や脂っこい物は苦手です。内臓系も嫌です』
本当に嬉しそうに食べるな。
『意外と美味いな』
ナッツの焼き菓子を食べたら甘さが抑えられていて美味かった。
シャルロットはこちらを見るとニッコリ微笑んだ。
屋敷に帰り両親に質問攻めにあった。
「どうだったの?」
「思っていたより幼い感じがします」
「うちで暮らせそうか」
「多分。
普通に話しかけてきます」
「そうか」
「では、お部屋を用意しましょう。貴方の部屋と近くない方がいいのよね?」
「…その前に調査を入れてもらえませんか」
「令嬢のか?」
「はい。シャルロットの専属メイドを寄越してもらってどんな部屋にしたらいいのか助言をもらいませんか。改装し直すのは手間ですから」
「そうね。そうしましょう」
「あと、シャルロットの姿絵を描いた絵描きにだけは肖像画を任せないでください」
「ん? 分かった」
何故コレが届いたのか。
「一般的に騎士は除外されがちだが、昨年に指名があったから足りなくなったのだろう」
「でも実子が産まれるのよ。嬉しい限りだわ」
騎士になったのは強制婚の指名を避けるためだった。国に仕える騎士は重要な存在で、階級が上がるほど価値が上がる。一中隊を任されるまでになったのにこの有様だ。
母上は養子ではなく実子を望んでいたので顔から喜びが滲み出ていた。
「シャルロット・オッセン…侯爵家だな」
「うちの子爵家で大丈夫かしら」
「だが国が決めたことだから大丈夫じゃなくても仕方ないだろう」
「ダミアン様とはお別れしなくてはなりませんよ」
「子を成せば離縁も可能ですよね。その時はダミアンと復縁します」
「侯爵家のご令嬢だから相手次第だな」
「侯爵家の令嬢だからこそ離縁に同意しますよ」
自由の国と言うが自由ではない。一部の犠牲の上で成り立たせようとしている自由だ。
何代も昔の王子が同性しか愛せない男だったことを隠したまま婚姻した。妃との初夜は薬を使った。
だがそれ以上は閨を拒否し、弟王子を代役にした。
そして王冠を手にすると同性婚を認める法律を作った。
そのうち出生率が下がり問題になった。
あれこれと対策を講じているうちに今の制度に行き着いた。
翌日、ダミアンを屋敷に呼んだ。
「どうして婚姻なんか!」
「王命だ。拒否すれば俺もバロー家も無事では済まないんだ」
「僕はどうなるの!」
「子が産まれたら離縁を申し出る。別れたらダミーを正夫として婚姻を、…もしも無理なら愛人として屋敷で大事にしよう」
「僕を正夫にしてくれるって言ったじゃないか!」
「国が決めたことなんだ、仕方ないだろう。ダミーも習ったはずだ」
「だけど愛人なんて」
「子を成したら令嬢と寝る必要はない。その後はずっとダミーだけだ。愛人とはいえ正夫と同じじゃないか」
「……」
「愛してる」
可愛いダミアンは不服そうだった。
きっと名門侯爵家の令嬢は新興貴族のバロー家に嫁ぐのも嫌だろう。離縁に応じる可能性は高い。
そうすればダミアンの機嫌もなおる。そう信じていた。
後日、決定通知書が届いた。相手の令嬢が合意した。つまりおよそ3ヶ月後…に婚姻する。
ここで初めて釣書を見た。
父上達は見ていたが 俺は決まってから見ることにしていた。
金髪に薄緑の瞳。いかにも侯爵家の令嬢といった気品があるが平凡な顔だ。産まれる子は俺に似てほしいものだ。
19歳、伯爵令嬢の恋人ありか。
いくら寛容な国でもよく侯爵夫妻は許したな。
バロー子爵家は元は平民の商家だった。
先祖が大きくして国に貢献したという功績で爵位を賜った。男爵家になると苦労したという。
そして2代前に子爵に昇格した。
貴族の集まりに行くと、平民扱いで嫌な顔をされるか、金蔓として寄ってくるか、容姿に興味を持つか。そんな令嬢達に辟易して女嫌いになった。元々はそうではなかった。
いつの間にか男と付き合うようになった。男の方が気が楽だった。その中で甘え上手なダミアンと出会った。彼と婚姻し必要なら養子をもらうつもりだった。
今更 女なんて。
侯爵家なら、俺をハエのように蔑むのだろうな。
懇親会の通知が届き王城へ足を運ぶと庭園に10テーブルが用意されていた。
名前を呼ばれて行くと、シャルロット・オッセンと呼ばれた令嬢は……姿絵と違った。
色は同じだったが 現物の方が何倍も美しかった。
顔はどれだけ遠目で描いたんだよと言いたくなるくらい凡人的な仕上がりに描かれていたが、実物は王宮に飾られた絵画の少女のように可愛い。
他のテーブルの男達が、どうせ異性婚をするならそっちがいいとシャルロットを舐め回すように視姦する。不快な気持ちが込み上げてきた。
『あの、睨まないでもらえませんか。
本意ではないのは皆同じですからね』
『……』
え?何で?睨んでなんかないのに。
『え?まさかの無視ですか』
『……』
『はぁ』
小さな口から溜息が漏れた。
『睨んでいない。こういう顔だ』
『ふうん。そういうことにしておきます』
何で俺は責められているんだ!?
メイドが茶を注ぎ、その後でテーブルの中央に菓子やケーキを置いた。
他のテーブルを見ると令嬢が手を伸ばしているが、この子は…届かずに腕をプルプルとさせている。
頑張っても伸びることはない。
『プッ』
『嫌な人』
『…どれが食べたいんだ?』
『全部……でも食べきれないから赤いケーキとナッツの焼き菓子にします』
『……』
ケーキを3種取り、3分の1をカットして皿に移して渡した。
『いいのですか?』
『無理して食べなくていいからな』
『ありがとうございます!』
なんて愛くるしい笑顔を振り撒くんだ!
他のテーブルの男どもが頬を染めた。
ケーキを食べ終えると焼き菓子に手を伸ばした。
『そちらのケーキは?』
『好きな物を食べればいい』
『そのケーキをいただきます』
『どうして』
『失礼な食べ方になります』
『俺が食べるからいい』
『食べていないじゃないですか』
『もっと食べると言い出すかもしれないから様子を見ただけだ』
焼き菓子を割って皿に移してシャルロットの前に置いた。残りのケーキを食べ始めると安心して焼き菓子に手を付けた。
『美味しい』
『そうか』
甘いものはあまり好きではない。だから残す気でいた。
ダミアンは甘いものが好きだが少食だ。いつもこういう時は半分にして皿に移してやった。だけど残った皿を気にしたことは無く、いつも残していた。
カップが空になりかけてメイドが近寄るが、制してポットを手に取り注いだ。
『ありがとうございます』
『食事で嫌いなものはあるか?』
『辛い物や脂っこい物は苦手です。内臓系も嫌です』
本当に嬉しそうに食べるな。
『意外と美味いな』
ナッツの焼き菓子を食べたら甘さが抑えられていて美味かった。
シャルロットはこちらを見るとニッコリ微笑んだ。
屋敷に帰り両親に質問攻めにあった。
「どうだったの?」
「思っていたより幼い感じがします」
「うちで暮らせそうか」
「多分。
普通に話しかけてきます」
「そうか」
「では、お部屋を用意しましょう。貴方の部屋と近くない方がいいのよね?」
「…その前に調査を入れてもらえませんか」
「令嬢のか?」
「はい。シャルロットの専属メイドを寄越してもらってどんな部屋にしたらいいのか助言をもらいませんか。改装し直すのは手間ですから」
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