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決闘
しおりを挟む【 ユリウスの視点 】
ティーティアが呼び鈴を鳴らしてメイドを呼んだ。
『チェルシー、紙とペンを持ってきて。
あと、騎士に練習で使うベスト二つと練習用のサーベルを庭に用意させて仮の線を引かせて。
そして両家の夫妻を30分後に庭に連れて来てちょうだい』
『かしこまりました』
『父上達にバラすのか!』
『はぁ。本当バカね。伯爵家の一人娘を性の玩具として公爵家に囲うのに内緒にできるわけないでしょう。どこまで自由に育ったのよ。まさか家庭教師を付けてもらえなかったの?』
『侮辱するな!うちは公爵家だぞ!』
『それだけは知っているのね。
それに契約を必ず守ってもらうには保護者の同意も必要なの。
卑怯者と勝負するのだから無かったことにされかねないもの』
メイドが紙とペンを持ってきた。
どうやらティーティアは約束の内容を書類として残すようだ。
『ティーティア、私は大丈夫だから、こんな勝負は止めよう。危険だし君と兄は5歳も違うんだよ!?』
『私が大丈夫じゃないの!絶対負けないから』
庭に集められた両親と伯爵夫妻が、三人が署名した紙を見て恐ろしい顔になった。
『公爵様、ご叱責は屋敷に戻ってからお願いします。今は勝負を見守ってくださいませ』
『だが……』
『ティーティア、勝てるのか』
『お父様、ヴェリテ家の名にかけてここは譲れませんわ』
『分かった。後のことは任せなさい』
『ありがとうございます』
両家の両親達はガゼボで観戦した。。
そして心臓部分に的の絵が書いてあるベストをダリウスとティーティアが着て、練習用のサーベルを持った。
『この線を越えて後ろに下がっても失格です。ベストの的に先に当てた方の勝ちです。簡単です。わからないことはありますか』
『ない、始めよう』
『開始の合図は笛です。ゼヴラン様、吹いてください。短くピッと』
『分かった』
ズボンに履き替え髪をひとつに結ったティーティアは、さらに小柄に見えた。
大人と子供の決闘だ。しかも子供は女の子。
段々と自分が情けなくなってきた。何故自分は体当たりでもして抗わなかったのだろう。
ピッ
ビュン
『グッ』
瞬殺だった。
『勝者ティーティア様!』
ヴェリテの護衛騎士が誇らしげに大声で告げた。
ダリウスは唖然としていた。ゼヴランも父上も母上も。
伯爵家側はニコニコしている。
ティーティアの実力を知っていたのだろう。
『椅子を持ってきて』
ティーティアが命じるとメイドが椅子を持ってきた。
『さあ、ユリウス様、座ってください』
『えっ?』
『一時間の謝罪は長いですわ』
そう言って手を引いて座らせた。
『公爵夫人とお母様は屋敷に戻ってください。公爵様とお父様は当主として見届けてください』
ティーティアはガゼボの伯爵の隣に座った。
『ダリウス、ゼヴラン。一時間、地に額をつけてユリウスに謝罪の言葉を口にしろ』
『父上……』
『お前達は凡人だと言っただろう』
『……』
『しかも“不義の子”と言ったようだな』
二人はビクッと肩を振るわせた。
ダリウスとゼヴランは土下座をして謝罪の言葉を口にし続けた。
だが、私は知っている。屋敷に戻ったらきっとまた何かしら仕返しがあるかもしれないと。
10分程でガゼボに向いて聞いてみた。
『もういいのでは…』
それを先に拒否したのはティーティアだった。
『それはなりませんわ。私が負ければどうなっていたか。
それに、彼らは自分は公爵令息だと叫んでいたではありませんか。10歳の子供、しかも女の子に負けたのに罰を減らしては彼らの沽券に関わります。
時には温情が人を傷付けることもあるのです』
『コケン?』
『と、とにかく全うさせることが大事ですわ』
伯爵は苦笑い。父上は目を輝かせていた。
長い一時間だった。
父上が終了と伝えると、二人は倒れ込んだ。
立てなかったようだ。
その時、ダリウスの顔はとても反省した顔ではなかった。
いつの間にかダリウスの顔を覗き込んでいたティーティアはぼそっと呟いた。
『(なるほど)』
そして私の手を引くとガゼボに戻り人格を変えた。
『パパ!私、お兄様が欲しいの!』
『ティーティア?』
『公爵様、ユリウス様は跡継ぎですか?』
『いや、』
『なら、婚姻か就職か自立できるまでヴェリテ伯爵家に預けてください!私、お兄様が欲しいのです!私なら大事にしますわ』
『だが、』
『ユリウス兄様、お母様に私が言い出していることを伝えて来てくださるかしら』
『私も行こう』
伯爵が私の肩に手を乗せて本館へ歩き出した。
その後ティーティアが来て替わりに母上がガゼボに向かった。
私はそのまま伯爵家に預けられた。
【オーギュスト・ウィルソン公爵の視点】
それはまさに瞬殺だった。
一秒でさえかかっていない。
天才がここにいる。鳥肌が立った。
是非、公爵家に迎えたいがダリウスとゼヴランは嫌われただろう。ユリウスを後継にするか……いや、そもそもヴェリテ家がティーティアを手放すはずがない。
ティーティアが上手く人払いをした。
『公爵様、ご無礼をお許しください。
こうする他にも方法があったのかもしれませんが、瞬時に浮かんだ方法をとらせていただきました。
ユリウス様は間違いなく公爵様の実子です。
ですがダリウス様とゼヴラン様は根強く違うと思っておられます。
きっと大人の誰かが吹き込んだのでしょう。
使用人か親族か分かりませんが。
謝罪の後のダリウス様の表情から仕返しが待っているのは間違いありません。
このままではユリウス様の身が危険です。
伯爵家に預けないのであればユリウス様に24時間の護衛をつけた方がいいでしょう』
『兄弟でもか』
『上のお二人は兄弟だと思っていないのです。
既に暴力や暴言があったのですよね。
次は事故を装うかもしれません。
事故を装うなら何だと思いますか?
溺れる、落ちる、誤飲するなどです。
どれも間違えれば死んだり重症を負います。
その時、ご子息全員を失うかもしれません』
『分かった。妻を説得しよう』
『では、私は母を説得しますわ』
そう言ってティーティアは走っていった。
ガゼボに戻ってきた妻に事情を話すと涙を流し了承してもらえた。
客間に戻ると伯爵夫妻と私の息子三人の前でティーティアが泣き叫んでいた。
『いやだ~!!
ユリウス様を兄様にするの~!!』
『そんなの駄目に決まっているわ!』
『いいじゃないか。ティアが欲しいと言うのだから』
『あなた!』
『ユリウス様が兄様にならないなら家出してやる~!!うわぁ~ん!!』
妻の涙は止まり、息子達は唖然とし、私は笑いが止まらない。
『ハハハハハッ!』
『うわぁ~ん!!』
『ハハハハハッ!』
その後ユリウスを残して公爵家に戻り、使用人にユリウスの荷物を纏めさせた。
そして二人の息子に語りかけた。
『“不義の子”か。お前達はそれがどれだけお前達の母を侮辱し傷付ける言葉か分かっているのか』
『『 えっ 』』
『当主の私もお前達を命懸けで産んだ母も、公爵家も侮辱しているのが分からないのか』
『そんなつもりは』
『その言葉はとても危険な言葉だ。時には誰かの命を奪うほどに。
ダリウス、お前の命が代償かもしれない』
『父上…』
『その言葉をお前達に教えたのは誰だろうな。その者はお前達の敵であり公爵家の敵なんだ』
『叔父上が……』
『私の弟か』
『はい』
『あいつは公爵になりたがっていたからな』
『ユリウスは黒です』
『ユリウスの瞳は強い光を当てると紫になる。私と同じ濃い紫だ。顔も似てるぞ。
失敗して色をのせていないユリウスの肖像画がある。ユリウスの髪色と目の色を私と同じ色で塗り、私の子供の頃の絵と比べてみろ』
『………』
『肖像画と道具を部屋に用意させる』
二人を退がらせ酒を口にした。
『あの子は何者なんだ…』
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