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黒い闇 クロード
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【 クロードの視点 】
エレナは有能な上に視点がいい。貴族なのにどこか平民的な部分を持ち、時には無慈悲な面も持つ。
「調査報告書です。調停の報告書も入っています。こっそり手に入れたからには態度に出したりしないようにしてください」
私がエレナの合意無しに触れた夜から悩むこと数日後に、エレナの過去を調べて欲しいとユーグに頼んでいた。
「読んだか?」
「はい」
そこには 父親との確執や、婚約者の浮気が綴ってあり、初夜の前の自殺未遂という文字に目を止めた。
不誠実な男との婚姻が嫌で、ついには抱かれたくないと死を望んだほどだった。
だが、死の淵を彷徨って腹を括ったのかどうでもよくなったのか、閨事を受け入れている。
夫マルクは婚姻後も不貞を止めず、エレナは黙認を選んだ。
屋敷の客間、もしくは夫婦の寝室で若い女と不貞を繰り返し続けた。
エレナは男児を一人産むと夫が種を撒けないようにした。
生まれた子は夫似で、エレナには葛藤があったようだと乳母が証言をしている。心から愛せない我が子にできるだけのことをしていたようだ。
息子自身も大きくなると、何故、母とどこか距離があるのか理解したようだ。
父親の不貞三昧を知って、鏡を見て呟いた。“クソ親父と顔を合わせているみたいだ”。絶対に心から愛してもらえないと涙を流していた。
だが乳母から、“アルフ様が病気の時は、奥様が毎度付きっきりで看病なさるではありませんか。それを愛と呼ばずして何と呼ぶのでしょう”と言われ彼なりに理解したようだ。
アルフは先代から跡継ぎ指名を受けた数日後、父マルクと母エレナが不在の中、使用人を集めて宣言した。
“暫く母に代理権を渡す。成人して卒業して子爵として活動できるようになったその時には父を追い出す。あんなモノは父でもなんでもない。腐った貴族…ヒモだ。追い出したら母孝行をしようと思う”
使用人達も同意した。
だが、先に事を起こしたのはエレナだった。
「こちらがお借りしてきました証拠の不貞の記録です」
いつ、どこで、誰と不貞をしたのかを記した記録だった。記した人の名前と立場も書いてある。
メイド、家令、乳母、時には浮気相手本人の署名まであった。そして最後は“本邸ダイニングテーブル”
調停の記録には、その時マルクがどのような暴言を口にしながら悪友の連れて来た若い女を抱いていたのかが書いてあった。
エレナの身体や閨事について散々な事を口にしたようだ。
私を嫌がるわけだ。せっかくクズから逃れたのに、不誠実なやり方で迫ってしまった私も同類に見えたのだろう。
「はぁ~」
領法の改革については領内の貴族が一部大反発したが、出て行って構わないと告げたらしい。
その中で、領主の権限で与えた爵位の場合は返してもらう。出て行った後には、有能な平民に爵位を与えるだけだと説明すると黙って従ったようだ。
「エレナ様は怒らせてはなりません」
「そのようだな」
「彼女は勤勉で勤務態度も良く、我々にない視点を持っています。相変わらずロバートとは敵対していますが、屈服したカンタンには普通に接しています」
「ロバートの代わりの募集を急いでかけてくれ」
「かしこまりました」
そしてやって来たのはエレナの息子の友人パトリックだった。里心がついては困ると2人が一緒にならないようにした。
封鎖前の最後の夜会。こっそり作らせていた水色のドレスに身を包み、グラソンの象徴ブルーサファイアの最上級品を首に耳に手首につけさせた。
過去の2人の妻にもしたことのない事をして牽制をする。エレナは独身で大人だ。誘われたら受けるも受けないも自由だ。出会いがあって恋に落ちるかもしれない。
ティファーナ・カリフォン。
この地に住む貴族の一人で公爵夫人の座を狙っていた。
だが、女なら誰でもいいわけではない。彼女は使用人に対して横柄だった。半年以上引き篭らなくてはならないのに、内部で腐敗物を抱えたくない。だから断ってきた。
なのに乙女だとか21歳だとか子を産むとかエレナに視線を向けて言う。
何と愚かだろう。彼女の内面から滲み出る美しさに抗おうと爪を立てるなんて。
だから、嫁の貰い手に困っているエヴリー男爵令息の元に嫁がせようとしたのに、エレナが興味を示してしまった。しかもレオまで頬を染めてエレナに求婚しようとしていた。慌てて婚姻を命じたが、保留となった。エヴリー夫人は悟ったようで、レオに耳打ちをするとレオはがっかりした顔をした。
夜会の間もエレナへのダンスの申し込みが止まらない。
「グラソンではエレナのような女性は貴重ですからね。私も婚姻していなければ口説いたはずです」
「ユーグに勝てそうもないから止めてくれ」
「さっきの通り、エレナが求めているのは公爵夫人の座でもカッコいい男でも金持ちでもありません」
「そうだな」
一生懸命で誠実で、使用人達にも優しく“人間同士として対応してくれる”と支持が高い。
残る懸念は このグラソンの雪の世界に嫌気が差さないか……。
そんな中に事件は起こった。
「公爵様!大変です!!」
私兵が慌てて執務室へ駆けつけた。
「どうした」
「見周りの途中でこれが落ちているのを見つけました!」
それはエレナの札だった。
外の建物へ繋ぐ渡り廊下を使う時、どれを使うか札をかけておく決まりがある。宿舎や厩舎などへ続く渡り廊下はトンネル状になっているが、雪の季節に滅多に向かうことのない倉庫などに続く渡り廊下は、屋根と柱とガイドロープだけ。
「何処に落ちていた!」
「屋根だけの渡り廊下の前で どれを通ったのか…」
「ケヴィン、念のため屋敷内を捜索させろ!
君は札が落ちていた場所に案内してくれ!」
エレナは有能な上に視点がいい。貴族なのにどこか平民的な部分を持ち、時には無慈悲な面も持つ。
「調査報告書です。調停の報告書も入っています。こっそり手に入れたからには態度に出したりしないようにしてください」
私がエレナの合意無しに触れた夜から悩むこと数日後に、エレナの過去を調べて欲しいとユーグに頼んでいた。
「読んだか?」
「はい」
そこには 父親との確執や、婚約者の浮気が綴ってあり、初夜の前の自殺未遂という文字に目を止めた。
不誠実な男との婚姻が嫌で、ついには抱かれたくないと死を望んだほどだった。
だが、死の淵を彷徨って腹を括ったのかどうでもよくなったのか、閨事を受け入れている。
夫マルクは婚姻後も不貞を止めず、エレナは黙認を選んだ。
屋敷の客間、もしくは夫婦の寝室で若い女と不貞を繰り返し続けた。
エレナは男児を一人産むと夫が種を撒けないようにした。
生まれた子は夫似で、エレナには葛藤があったようだと乳母が証言をしている。心から愛せない我が子にできるだけのことをしていたようだ。
息子自身も大きくなると、何故、母とどこか距離があるのか理解したようだ。
父親の不貞三昧を知って、鏡を見て呟いた。“クソ親父と顔を合わせているみたいだ”。絶対に心から愛してもらえないと涙を流していた。
だが乳母から、“アルフ様が病気の時は、奥様が毎度付きっきりで看病なさるではありませんか。それを愛と呼ばずして何と呼ぶのでしょう”と言われ彼なりに理解したようだ。
アルフは先代から跡継ぎ指名を受けた数日後、父マルクと母エレナが不在の中、使用人を集めて宣言した。
“暫く母に代理権を渡す。成人して卒業して子爵として活動できるようになったその時には父を追い出す。あんなモノは父でもなんでもない。腐った貴族…ヒモだ。追い出したら母孝行をしようと思う”
使用人達も同意した。
だが、先に事を起こしたのはエレナだった。
「こちらがお借りしてきました証拠の不貞の記録です」
いつ、どこで、誰と不貞をしたのかを記した記録だった。記した人の名前と立場も書いてある。
メイド、家令、乳母、時には浮気相手本人の署名まであった。そして最後は“本邸ダイニングテーブル”
調停の記録には、その時マルクがどのような暴言を口にしながら悪友の連れて来た若い女を抱いていたのかが書いてあった。
エレナの身体や閨事について散々な事を口にしたようだ。
私を嫌がるわけだ。せっかくクズから逃れたのに、不誠実なやり方で迫ってしまった私も同類に見えたのだろう。
「はぁ~」
領法の改革については領内の貴族が一部大反発したが、出て行って構わないと告げたらしい。
その中で、領主の権限で与えた爵位の場合は返してもらう。出て行った後には、有能な平民に爵位を与えるだけだと説明すると黙って従ったようだ。
「エレナ様は怒らせてはなりません」
「そのようだな」
「彼女は勤勉で勤務態度も良く、我々にない視点を持っています。相変わらずロバートとは敵対していますが、屈服したカンタンには普通に接しています」
「ロバートの代わりの募集を急いでかけてくれ」
「かしこまりました」
そしてやって来たのはエレナの息子の友人パトリックだった。里心がついては困ると2人が一緒にならないようにした。
封鎖前の最後の夜会。こっそり作らせていた水色のドレスに身を包み、グラソンの象徴ブルーサファイアの最上級品を首に耳に手首につけさせた。
過去の2人の妻にもしたことのない事をして牽制をする。エレナは独身で大人だ。誘われたら受けるも受けないも自由だ。出会いがあって恋に落ちるかもしれない。
ティファーナ・カリフォン。
この地に住む貴族の一人で公爵夫人の座を狙っていた。
だが、女なら誰でもいいわけではない。彼女は使用人に対して横柄だった。半年以上引き篭らなくてはならないのに、内部で腐敗物を抱えたくない。だから断ってきた。
なのに乙女だとか21歳だとか子を産むとかエレナに視線を向けて言う。
何と愚かだろう。彼女の内面から滲み出る美しさに抗おうと爪を立てるなんて。
だから、嫁の貰い手に困っているエヴリー男爵令息の元に嫁がせようとしたのに、エレナが興味を示してしまった。しかもレオまで頬を染めてエレナに求婚しようとしていた。慌てて婚姻を命じたが、保留となった。エヴリー夫人は悟ったようで、レオに耳打ちをするとレオはがっかりした顔をした。
夜会の間もエレナへのダンスの申し込みが止まらない。
「グラソンではエレナのような女性は貴重ですからね。私も婚姻していなければ口説いたはずです」
「ユーグに勝てそうもないから止めてくれ」
「さっきの通り、エレナが求めているのは公爵夫人の座でもカッコいい男でも金持ちでもありません」
「そうだな」
一生懸命で誠実で、使用人達にも優しく“人間同士として対応してくれる”と支持が高い。
残る懸念は このグラソンの雪の世界に嫌気が差さないか……。
そんな中に事件は起こった。
「公爵様!大変です!!」
私兵が慌てて執務室へ駆けつけた。
「どうした」
「見周りの途中でこれが落ちているのを見つけました!」
それはエレナの札だった。
外の建物へ繋ぐ渡り廊下を使う時、どれを使うか札をかけておく決まりがある。宿舎や厩舎などへ続く渡り廊下はトンネル状になっているが、雪の季節に滅多に向かうことのない倉庫などに続く渡り廊下は、屋根と柱とガイドロープだけ。
「何処に落ちていた!」
「屋根だけの渡り廊下の前で どれを通ったのか…」
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