【完結】ずっと好きだった

ユユ

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テオドール・サックス(従妹という幼馴染)

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【 テオドール視点 】

俺の隣で美味そうにデザートを口に運ぶ生き物はアネット・ゲラン伯爵令嬢。

父の妹のひとり娘で、俺にとっては従妹だ。

家も近く、家族ぐるみの交流が頻繁だったのでアネットとはよく会っていた。

「いいかテオドール。同い歳でもアネットは女の子だ。兄としてお前が守ってやれ」

「はい父上」

自分より少し小さなアネットは好奇心旺盛でちょっと目を離すと消えている。

庭園で迷子になっていたり、木に登って降りられなくなっていたり、門の隙間を通り抜けようとしていたりする。

時には総出で探しても見つからないことがあり、番犬が隙間で寝ているアネットを見つけたこともあった。

アネットは動物にも無防備に近付きヒヤッとさせられる。うちの番犬はかなり獰猛で俺でも騎士や調教師無しには近寄れない。屋敷の者を覚えさせ攻撃しないように躾はするが余所者へは違う。

来客予定があると犬舎に戻すか鎖に繋ぐかリードをつける。

ある時、アネットが見当たらなかった時、芝の上で座り込んでいるアネットの側に番犬がいた。まだ匂いを覚えさせていないのでアネットが襲われると思った。

距離的に間に合わないと思ったが走り寄った。番犬はアネットにピッタリくっつくように座り匂いを嗅いで舐めた。

「きゃははっ!くすぐったい!」

アネットより3倍も大きな番犬はこの日からアネットの面倒を見るようになった。

「守るべき者と認識したようだな」

父は笑っていたが、あの時の俺は絶望を感じた。アネットを失うと思ったのだ。

それからは居なくなってから探していた俺は居なくならないようにした。番犬と協力して常に視界に入れ面倒を見て、手を繋いだ。

10歳を過ぎると他家の茶会に呼ばれるようになった。見渡してもアネットはいない。

「母上、アネットは?」

「侯爵家以上のお茶会だから今日は居ないのよ」

途端に景色が色褪せる。つまらない茶会よりゲラン家との交流の方が楽しかった。
そんな茶会に時間を取られるのが不服だった。

「貴方は次期侯爵なのだから気乗りしなくても必要な時間なのよ」

退屈だという気持ちが出ていたのだろう。
仕方なく令息達と交流を始めた。

令嬢達は気持ち悪い目で俺達に纏わりつく。
ある令嬢は公爵令息に冷たくあしらわれると俺のところに来て甘えるようにくっ付いてくる。

女達が汚れたもののように見えた。


そして学園の入学式にアネットの姿を見つけた。そこで気が付いた。アネットは他の令嬢達とは別格だということを。

アネットはいつの間にか女らしくなっていてキラキラ輝いていた。俺を見つけると綻ぶように微笑んで手を振る。

「テオ!」

走って俺の側に来ると腕に絡み付いた。

「良かった~3年間テオと一緒なのね!」

「当たり前だろう」

「もしかしたら騎士学校に行っちゃうのかなと思っていたから」

俺は従妹を守るために屋敷で剣術を習っていた。深くは考えていなかったが父上の言葉を忠実に守っているつもりだった。

「跡継ぎだから学園こっちだな」

「テオ、すごく大きくなったのね」

「お前は相変わらずだな」

そう言いながらアネットの頭を撫でる。


クラスは別れてしまったが隣だ。

男共は俺に話しかけてきた。

「さっきの令嬢とはどういう関係なの?」

「天使だな」

「女神だろう」

「可愛いけど相手にしてもらえなさそうだな」

「王女も美人だったな」

「高嶺の花が隣のクラスに2人も居るとは」


昼休みにアネットを誘いに行くとアネットは王女と仲良くなっていた。

アネットは3人で食堂に行こうと言った。

最初は警戒心を見せていた王女は俺がアネットの従兄で守りに徹していることが分かると警戒心を解いた。

日々令息達の関心を集めるアネットに敵意を向ける令嬢達の盾となる王女はアネットの虜のようだ。

俺と王女は何も言わずとも同士として目線だけで会話ができるようになっていた。



15歳になるとデビュータントのエスコートをゲラン家から頼まれた。

当時、ゲラン邸に迎えに行きアネットが降りてくるのを待っていた。

「テオ!お待たせ!」

アネットの声の方へ振り向くとそこには美の女神がいた。

衝撃的だった。

ずっと制服で分からなかったが、官能的な成長を遂げていた。

程よい大きさに実った胸は柔らかさを体現するように揺れ、細いくびれに続く臀部は小さいが綺麗な丸みがあるのが分かった。

俺の側に来て見上げるアネットに欲情した。

「テオドール、アネットをよろしくね」

叔母の声に我に返る。

「お任せください」

両親達は別の馬車で会場へ向かう。
俺は日が暮れ始めた薄暗い馬車の中で景色を眺めるアネットを見つめていた。


会場では男の視線が容赦なく降り注いだ。
同い歳の令息は高嶺の花として、歳上の男共からは“女”として。

視姦に近いものも多くあった。こいつらは頭の中でドレスを脱がせアネットを穢しているのだ。

腹が立って仕方がない。

ダンスが終わると男共がアネットに代わる代わる声を掛ける。人数が多いが故に笑顔で挨拶するだけで済んでいたが、トイレの為に別れた時に待ち構えていた既婚者であろう男にしつこく言い寄られていた。

割って入ると男は会場に戻って行った。

アネットは初めての出来事に顔がこわばっていた。

「アネット、夜会や茶会は俺かステファニー様が側に付き添えないものは参加するな」

「テオ?」

「怖い思いをしたくないだろう」

そう言ってアネットを抱きしめた。

ああ、駄目だ。こんなに華奢では簡単に組み伏せてしまえる。

「テオ、いつもごめんね」

「アネット?」

「私のせいでいつもテオは面倒を見させられているから」

従妹いもうとなんだから当たり前だ」

アネットは俺の背中に腕を回して体を預けた。

「ありがとう」

俺はアネットを愛している。やっとはっきりと分かった。
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