3 / 173
テオドール・サックス(従妹という幼馴染)
しおりを挟む
【 テオドール視点 】
俺の隣で美味そうにデザートを口に運ぶ生き物はアネット・ゲラン伯爵令嬢。
父の妹のひとり娘で、俺にとっては従妹だ。
家も近く、家族ぐるみの交流が頻繁だったのでアネットとはよく会っていた。
「いいかテオドール。同い歳でもアネットは女の子だ。兄としてお前が守ってやれ」
「はい父上」
自分より少し小さなアネットは好奇心旺盛でちょっと目を離すと消えている。
庭園で迷子になっていたり、木に登って降りられなくなっていたり、門の隙間を通り抜けようとしていたりする。
時には総出で探しても見つからないことがあり、番犬が隙間で寝ているアネットを見つけたこともあった。
アネットは動物にも無防備に近付きヒヤッとさせられる。うちの番犬はかなり獰猛で俺でも騎士や調教師無しには近寄れない。屋敷の者を覚えさせ攻撃しないように躾はするが余所者へは違う。
来客予定があると犬舎に戻すか鎖に繋ぐかリードをつける。
ある時、アネットが見当たらなかった時、芝の上で座り込んでいるアネットの側に番犬がいた。まだ匂いを覚えさせていないのでアネットが襲われると思った。
距離的に間に合わないと思ったが走り寄った。番犬はアネットにピッタリくっつくように座り匂いを嗅いで舐めた。
「きゃははっ!くすぐったい!」
アネットより3倍も大きな番犬はこの日からアネットの面倒を見るようになった。
「守るべき者と認識したようだな」
父は笑っていたが、あの時の俺は絶望を感じた。アネットを失うと思ったのだ。
それからは居なくなってから探していた俺は居なくならないようにした。番犬と協力して常に視界に入れ面倒を見て、手を繋いだ。
10歳を過ぎると他家の茶会に呼ばれるようになった。見渡してもアネットはいない。
「母上、アネットは?」
「侯爵家以上のお茶会だから今日は居ないのよ」
途端に景色が色褪せる。つまらない茶会よりゲラン家との交流の方が楽しかった。
そんな茶会に時間を取られるのが不服だった。
「貴方は次期侯爵なのだから気乗りしなくても必要な時間なのよ」
退屈だという気持ちが出ていたのだろう。
仕方なく令息達と交流を始めた。
令嬢達は気持ち悪い目で俺達に纏わりつく。
ある令嬢は公爵令息に冷たくあしらわれると俺のところに来て甘えるようにくっ付いてくる。
女達が汚れたもののように見えた。
そして学園の入学式にアネットの姿を見つけた。そこで気が付いた。アネットは他の令嬢達とは別格だということを。
アネットはいつの間にか女らしくなっていてキラキラ輝いていた。俺を見つけると綻ぶように微笑んで手を振る。
「テオ!」
走って俺の側に来ると腕に絡み付いた。
「良かった~3年間テオと一緒なのね!」
「当たり前だろう」
「もしかしたら騎士学校に行っちゃうのかなと思っていたから」
俺は従妹を守るために屋敷で剣術を習っていた。深くは考えていなかったが父上の言葉を忠実に守っているつもりだった。
「跡継ぎだから学園だな」
「テオ、すごく大きくなったのね」
「お前は相変わらずだな」
そう言いながらアネットの頭を撫でる。
クラスは別れてしまったが隣だ。
男共は俺に話しかけてきた。
「さっきの令嬢とはどういう関係なの?」
「天使だな」
「女神だろう」
「可愛いけど相手にしてもらえなさそうだな」
「王女も美人だったな」
「高嶺の花が隣のクラスに2人も居るとは」
昼休みにアネットを誘いに行くとアネットは王女と仲良くなっていた。
アネットは3人で食堂に行こうと言った。
最初は警戒心を見せていた王女は俺がアネットの従兄で守りに徹していることが分かると警戒心を解いた。
日々令息達の関心を集めるアネットに敵意を向ける令嬢達の盾となる王女はアネットの虜のようだ。
俺と王女は何も言わずとも同士として目線だけで会話ができるようになっていた。
15歳になるとデビュータントのエスコートをゲラン家から頼まれた。
当時、ゲラン邸に迎えに行きアネットが降りてくるのを待っていた。
「テオ!お待たせ!」
アネットの声の方へ振り向くとそこには美の女神がいた。
衝撃的だった。
ずっと制服で分からなかったが、官能的な成長を遂げていた。
程よい大きさに実った胸は柔らかさを体現するように揺れ、細いくびれに続く臀部は小さいが綺麗な丸みがあるのが分かった。
俺の側に来て見上げるアネットに欲情した。
「テオドール、アネットをよろしくね」
叔母の声に我に返る。
「お任せください」
両親達は別の馬車で会場へ向かう。
俺は日が暮れ始めた薄暗い馬車の中で景色を眺めるアネットを見つめていた。
会場では男の視線が容赦なく降り注いだ。
同い歳の令息は高嶺の花として、歳上の男共からは“女”として。
視姦に近いものも多くあった。こいつらは頭の中でドレスを脱がせアネットを穢しているのだ。
腹が立って仕方がない。
ダンスが終わると男共がアネットに代わる代わる声を掛ける。人数が多いが故に笑顔で挨拶するだけで済んでいたが、トイレの為に別れた時に待ち構えていた既婚者であろう男にしつこく言い寄られていた。
割って入ると男は会場に戻って行った。
アネットは初めての出来事に顔がこわばっていた。
「アネット、夜会や茶会は俺かステファニー様が側に付き添えないものは参加するな」
「テオ?」
「怖い思いをしたくないだろう」
そう言ってアネットを抱きしめた。
ああ、駄目だ。こんなに華奢では簡単に組み伏せてしまえる。
「テオ、いつもごめんね」
「アネット?」
「私のせいでいつもテオは面倒を見させられているから」
「従妹なんだから当たり前だ」
アネットは俺の背中に腕を回して体を預けた。
「ありがとう」
俺はアネットを愛している。やっとはっきりと分かった。
俺の隣で美味そうにデザートを口に運ぶ生き物はアネット・ゲラン伯爵令嬢。
父の妹のひとり娘で、俺にとっては従妹だ。
家も近く、家族ぐるみの交流が頻繁だったのでアネットとはよく会っていた。
「いいかテオドール。同い歳でもアネットは女の子だ。兄としてお前が守ってやれ」
「はい父上」
自分より少し小さなアネットは好奇心旺盛でちょっと目を離すと消えている。
庭園で迷子になっていたり、木に登って降りられなくなっていたり、門の隙間を通り抜けようとしていたりする。
時には総出で探しても見つからないことがあり、番犬が隙間で寝ているアネットを見つけたこともあった。
アネットは動物にも無防備に近付きヒヤッとさせられる。うちの番犬はかなり獰猛で俺でも騎士や調教師無しには近寄れない。屋敷の者を覚えさせ攻撃しないように躾はするが余所者へは違う。
来客予定があると犬舎に戻すか鎖に繋ぐかリードをつける。
ある時、アネットが見当たらなかった時、芝の上で座り込んでいるアネットの側に番犬がいた。まだ匂いを覚えさせていないのでアネットが襲われると思った。
距離的に間に合わないと思ったが走り寄った。番犬はアネットにピッタリくっつくように座り匂いを嗅いで舐めた。
「きゃははっ!くすぐったい!」
アネットより3倍も大きな番犬はこの日からアネットの面倒を見るようになった。
「守るべき者と認識したようだな」
父は笑っていたが、あの時の俺は絶望を感じた。アネットを失うと思ったのだ。
それからは居なくなってから探していた俺は居なくならないようにした。番犬と協力して常に視界に入れ面倒を見て、手を繋いだ。
10歳を過ぎると他家の茶会に呼ばれるようになった。見渡してもアネットはいない。
「母上、アネットは?」
「侯爵家以上のお茶会だから今日は居ないのよ」
途端に景色が色褪せる。つまらない茶会よりゲラン家との交流の方が楽しかった。
そんな茶会に時間を取られるのが不服だった。
「貴方は次期侯爵なのだから気乗りしなくても必要な時間なのよ」
退屈だという気持ちが出ていたのだろう。
仕方なく令息達と交流を始めた。
令嬢達は気持ち悪い目で俺達に纏わりつく。
ある令嬢は公爵令息に冷たくあしらわれると俺のところに来て甘えるようにくっ付いてくる。
女達が汚れたもののように見えた。
そして学園の入学式にアネットの姿を見つけた。そこで気が付いた。アネットは他の令嬢達とは別格だということを。
アネットはいつの間にか女らしくなっていてキラキラ輝いていた。俺を見つけると綻ぶように微笑んで手を振る。
「テオ!」
走って俺の側に来ると腕に絡み付いた。
「良かった~3年間テオと一緒なのね!」
「当たり前だろう」
「もしかしたら騎士学校に行っちゃうのかなと思っていたから」
俺は従妹を守るために屋敷で剣術を習っていた。深くは考えていなかったが父上の言葉を忠実に守っているつもりだった。
「跡継ぎだから学園だな」
「テオ、すごく大きくなったのね」
「お前は相変わらずだな」
そう言いながらアネットの頭を撫でる。
クラスは別れてしまったが隣だ。
男共は俺に話しかけてきた。
「さっきの令嬢とはどういう関係なの?」
「天使だな」
「女神だろう」
「可愛いけど相手にしてもらえなさそうだな」
「王女も美人だったな」
「高嶺の花が隣のクラスに2人も居るとは」
昼休みにアネットを誘いに行くとアネットは王女と仲良くなっていた。
アネットは3人で食堂に行こうと言った。
最初は警戒心を見せていた王女は俺がアネットの従兄で守りに徹していることが分かると警戒心を解いた。
日々令息達の関心を集めるアネットに敵意を向ける令嬢達の盾となる王女はアネットの虜のようだ。
俺と王女は何も言わずとも同士として目線だけで会話ができるようになっていた。
15歳になるとデビュータントのエスコートをゲラン家から頼まれた。
当時、ゲラン邸に迎えに行きアネットが降りてくるのを待っていた。
「テオ!お待たせ!」
アネットの声の方へ振り向くとそこには美の女神がいた。
衝撃的だった。
ずっと制服で分からなかったが、官能的な成長を遂げていた。
程よい大きさに実った胸は柔らかさを体現するように揺れ、細いくびれに続く臀部は小さいが綺麗な丸みがあるのが分かった。
俺の側に来て見上げるアネットに欲情した。
「テオドール、アネットをよろしくね」
叔母の声に我に返る。
「お任せください」
両親達は別の馬車で会場へ向かう。
俺は日が暮れ始めた薄暗い馬車の中で景色を眺めるアネットを見つめていた。
会場では男の視線が容赦なく降り注いだ。
同い歳の令息は高嶺の花として、歳上の男共からは“女”として。
視姦に近いものも多くあった。こいつらは頭の中でドレスを脱がせアネットを穢しているのだ。
腹が立って仕方がない。
ダンスが終わると男共がアネットに代わる代わる声を掛ける。人数が多いが故に笑顔で挨拶するだけで済んでいたが、トイレの為に別れた時に待ち構えていた既婚者であろう男にしつこく言い寄られていた。
割って入ると男は会場に戻って行った。
アネットは初めての出来事に顔がこわばっていた。
「アネット、夜会や茶会は俺かステファニー様が側に付き添えないものは参加するな」
「テオ?」
「怖い思いをしたくないだろう」
そう言ってアネットを抱きしめた。
ああ、駄目だ。こんなに華奢では簡単に組み伏せてしまえる。
「テオ、いつもごめんね」
「アネット?」
「私のせいでいつもテオは面倒を見させられているから」
「従妹なんだから当たり前だ」
アネットは俺の背中に腕を回して体を預けた。
「ありがとう」
俺はアネットを愛している。やっとはっきりと分かった。
284
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは、聖女。
――それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王によって侯爵領を奪われ、没落した姉妹。
誰からも愛される姉は聖女となり、私は“支援しかできない白魔導士”のまま。
王命により結成された勇者パーティ。
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い。
そして――“おまけ”の私。
前線に立つことも、敵を倒すこともできない。
けれど、戦場では支援が止まれば人が死ぬ。
魔王討伐の旅路の中で知る、
百年前の英雄譚に隠された真実。
勇者と騎士、弓使い、そして姉妹に絡みつく過去。
突きつけられる現実と、過酷な選択。
輝く姉と英雄たちのすぐ隣で、
「支えるだけ」が役割と思っていた少女は、何を選ぶのか。
これは、聖女の妹として生きてきた“おまけ”の白魔導士が、
やがて世界を支える“要”になるまでの物語。
――どうやら、私がいないと世界が詰むようです。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編 32話
第二章:討伐軍編 32話
第三章:魔王決戦編 36話
※「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる