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後遺症
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その後、三ヶ月の間に、調理場では皮剥きとカットと混ぜるのと盛り付けとドレッシング作りを任された。
レヴィン様とは時々どちらかの家で食事をするにとどまっている。
ハヴィエル様には10日に一度手紙を出している。近況や仕事のことが殆どだけど。
その時に日持ちするお菓子を一緒に贈っている。お返事には使用人の皆さんも王都の菓子が食べられると喜んでくれていると書いてあった。
テオには遅れたけどマグカップとペーパーウエイトを贈った。
すごく喜んでくれたのだけと、テオの嬉しそうな顔を見たら涙が出てしまった。
テオは狼狽えて必死に私の頭を撫でて抱きしめてくれたけど、なかなか涙は止まらなかった。
やっぱり未だに私はテオが好きなんだ。そう実感してしまったら絶望感が襲ってきてしまったのだ。
側にいてはいけない。その言葉が頭の中を占めていた。
今日は団長の執務室の雑用係で、各部署に書類の配達をして戻る途中にトイレに寄った。
用を済ませて手を洗っていた時に誰かが入って来た。下を見るとドレスだったので令嬢なのは分かった。
「(あんたのせいで)」
何かを囁かれて振り返ると、手に瓶を持ったあの令嬢がいた。侍女の失禁を拭かせた令嬢だった。
「その綺麗な顔が溶けたらバトラーズ様は貴女を捨てるわね」
天井からアールが素早く降りて来て、令嬢を蹴り倒したが……
「ギャアアアアア!!」
「グッ!」
「痛い!!」
私は十字架の笛を吹いた。
アールも笛を吹いた。
二分くらいでエスが現れ私を抱き抱えた。
その後続々と近衛騎士団が集まって来た。
アールは女の背中に乗り、膝で押さえつけながら顔を歪めていた。
エスはそのまま私を医務室に運び込んだ。
「先生!!」
「どうし…アネット嬢!」
「多分薬品熱傷だ!後からもう一人来る!」
「こちらに運んでください。降ろして外に出てください」
「出ない。襲撃の規模が分からない」
「分かりました、アネット嬢、彼の前で治療してもいいですね」
痛みで私は頷くしかできなかった。
シャワールームのような場所で洗い流されながら服を脱がされ、水をかけ続けられた。
その後のことは覚えていない。
気を失った。
目が覚めると痛みが襲ってきた。
「ううっ」
「アネット、痛むんだね。少しスープを飲んで痛み止めを飲もう」
「ヒューゼル隊長……私、」
「ほら、飲んで」
痛み止めが効いてくると少し痛みがマシになった。
ヒューゼル隊長とバーンズ卿が側にいる。
「私はまた人に会えないような状況なのですね」
「そうだな」
「アール……」
「アールは調査に加わっている」
そう答えたのはエスだった。
「アールも怪我をしているはずなの」
「アールはお前を守れなかった」
「守ってくれた!アールが居なければあの液体を私は顔から浴びたはずなの!」
「アネット、落ち着きなさい。傷に響く」
「お願い、アールを任務から外して治療させて」
「治療はしてある」
「アールも私も同じ人間なの。アールが休めないなら私も休まないわ」
「そう言ったとしてもアールは休んだりしない」
「ううっ…」
「分かったから大人しく寝てろ」
エスが笛を吹くと一人現れ指示を出した。
「休むよう命令をだしたから休め」
「ありがとうございます」
「アネット、ご両親と王女殿下とバトラーズ副隊長が面会を求めているがどうする?」
「両親とステファニーだけお願いします」
「分かった。バーンズ、呼んできてくれ」
「すぐに」
その後、泣き腫らしたステファニーと両親が入室してきた。そのまま医師からの説明が始まった。
「アネット嬢のかけられたものは酸性の薬品で皮膚や肉を溶かす物です。
左肩から二の腕と脇にかかりました。
薬品熱傷は残ります。見た目も手触りも変わってしまいます。それと可動範囲も変わるでしょう」
「どの程度ですか」
父が医師に問いかけた。
「まだ分かりません。引き攣れてしまうのです。場合によっては腕を高く上げられません。例えば自分の頭に触れる事が困難になるほど上がらない可能性があります」
「そんな!」
「先生、方法はないの!?」
「ございません」
母とステファニーの声が聞こえてはいるが、もう私は何も考えたくなかった。
「ステファニー、バトラーズ副隊長と交代してくれる?話があるの」
「アネット、」
「お願い」
「分かったわ」
ステファニーが退出し、代わりに入室したレヴィン様を加えて、両親、隊長たちの前ではっきりと告げた。
「レヴィン様、婚約を解消します」
「アネット!」
「後遺症が残ります。場合によってはダンスも踊れません。もう公爵夫人にはなれません」
「そんな事はどうでもいい!アネットさえ居てくれたら、」
「もう、解放してください。お願いします」
「アネット……」
「解消してくださらないのであれば破棄の訴訟を起こします」
「っ!!」
「お父様、お願いします」
「分かった」
「お母様も私を解放してください」
「アネット!?」
「貴族令嬢の義務は果たせません。除籍でもしてくだされば私は本望ですわ」
「アネット、どうしてそんなことを言うの!」
「ヒューゼル隊長、バーンズ卿。退職させてください」
「辞めなくても、」
「どの道、長期療養が必要そうです。
新しい雑用係が必要です」
「……」
「お父様、一般の病院へ移してください」
「駄目です!」
「その通り、駄目だ」
そう言いながらカーテンを開けたのは国王陛下だった。
レヴィン様とは時々どちらかの家で食事をするにとどまっている。
ハヴィエル様には10日に一度手紙を出している。近況や仕事のことが殆どだけど。
その時に日持ちするお菓子を一緒に贈っている。お返事には使用人の皆さんも王都の菓子が食べられると喜んでくれていると書いてあった。
テオには遅れたけどマグカップとペーパーウエイトを贈った。
すごく喜んでくれたのだけと、テオの嬉しそうな顔を見たら涙が出てしまった。
テオは狼狽えて必死に私の頭を撫でて抱きしめてくれたけど、なかなか涙は止まらなかった。
やっぱり未だに私はテオが好きなんだ。そう実感してしまったら絶望感が襲ってきてしまったのだ。
側にいてはいけない。その言葉が頭の中を占めていた。
今日は団長の執務室の雑用係で、各部署に書類の配達をして戻る途中にトイレに寄った。
用を済ませて手を洗っていた時に誰かが入って来た。下を見るとドレスだったので令嬢なのは分かった。
「(あんたのせいで)」
何かを囁かれて振り返ると、手に瓶を持ったあの令嬢がいた。侍女の失禁を拭かせた令嬢だった。
「その綺麗な顔が溶けたらバトラーズ様は貴女を捨てるわね」
天井からアールが素早く降りて来て、令嬢を蹴り倒したが……
「ギャアアアアア!!」
「グッ!」
「痛い!!」
私は十字架の笛を吹いた。
アールも笛を吹いた。
二分くらいでエスが現れ私を抱き抱えた。
その後続々と近衛騎士団が集まって来た。
アールは女の背中に乗り、膝で押さえつけながら顔を歪めていた。
エスはそのまま私を医務室に運び込んだ。
「先生!!」
「どうし…アネット嬢!」
「多分薬品熱傷だ!後からもう一人来る!」
「こちらに運んでください。降ろして外に出てください」
「出ない。襲撃の規模が分からない」
「分かりました、アネット嬢、彼の前で治療してもいいですね」
痛みで私は頷くしかできなかった。
シャワールームのような場所で洗い流されながら服を脱がされ、水をかけ続けられた。
その後のことは覚えていない。
気を失った。
目が覚めると痛みが襲ってきた。
「ううっ」
「アネット、痛むんだね。少しスープを飲んで痛み止めを飲もう」
「ヒューゼル隊長……私、」
「ほら、飲んで」
痛み止めが効いてくると少し痛みがマシになった。
ヒューゼル隊長とバーンズ卿が側にいる。
「私はまた人に会えないような状況なのですね」
「そうだな」
「アール……」
「アールは調査に加わっている」
そう答えたのはエスだった。
「アールも怪我をしているはずなの」
「アールはお前を守れなかった」
「守ってくれた!アールが居なければあの液体を私は顔から浴びたはずなの!」
「アネット、落ち着きなさい。傷に響く」
「お願い、アールを任務から外して治療させて」
「治療はしてある」
「アールも私も同じ人間なの。アールが休めないなら私も休まないわ」
「そう言ったとしてもアールは休んだりしない」
「ううっ…」
「分かったから大人しく寝てろ」
エスが笛を吹くと一人現れ指示を出した。
「休むよう命令をだしたから休め」
「ありがとうございます」
「アネット、ご両親と王女殿下とバトラーズ副隊長が面会を求めているがどうする?」
「両親とステファニーだけお願いします」
「分かった。バーンズ、呼んできてくれ」
「すぐに」
その後、泣き腫らしたステファニーと両親が入室してきた。そのまま医師からの説明が始まった。
「アネット嬢のかけられたものは酸性の薬品で皮膚や肉を溶かす物です。
左肩から二の腕と脇にかかりました。
薬品熱傷は残ります。見た目も手触りも変わってしまいます。それと可動範囲も変わるでしょう」
「どの程度ですか」
父が医師に問いかけた。
「まだ分かりません。引き攣れてしまうのです。場合によっては腕を高く上げられません。例えば自分の頭に触れる事が困難になるほど上がらない可能性があります」
「そんな!」
「先生、方法はないの!?」
「ございません」
母とステファニーの声が聞こえてはいるが、もう私は何も考えたくなかった。
「ステファニー、バトラーズ副隊長と交代してくれる?話があるの」
「アネット、」
「お願い」
「分かったわ」
ステファニーが退出し、代わりに入室したレヴィン様を加えて、両親、隊長たちの前ではっきりと告げた。
「レヴィン様、婚約を解消します」
「アネット!」
「後遺症が残ります。場合によってはダンスも踊れません。もう公爵夫人にはなれません」
「そんな事はどうでもいい!アネットさえ居てくれたら、」
「もう、解放してください。お願いします」
「アネット……」
「解消してくださらないのであれば破棄の訴訟を起こします」
「っ!!」
「お父様、お願いします」
「分かった」
「お母様も私を解放してください」
「アネット!?」
「貴族令嬢の義務は果たせません。除籍でもしてくだされば私は本望ですわ」
「アネット、どうしてそんなことを言うの!」
「ヒューゼル隊長、バーンズ卿。退職させてください」
「辞めなくても、」
「どの道、長期療養が必要そうです。
新しい雑用係が必要です」
「……」
「お父様、一般の病院へ移してください」
「駄目です!」
「その通り、駄目だ」
そう言いながらカーテンを開けたのは国王陛下だった。
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