【完結】ずっと好きだった

ユユ

文字の大きさ
84 / 173

兄に振られるミーシェ

しおりを挟む
休日、ライアンとミーシェは街に買い物に来ていた。

「ドレスは本人が選びたいと思うんだけど」

「どうかな」

「彼女に選ばせたら?好みがあるでしょう」

「ん~、遠慮するから駄目だ。似合う似合わない、好き嫌いなど考えず、一番安く済むドレスを選ぶはずだ。
だからミーシェに頼んでるんだ」

「もしかして茶色の髪と瞳の子?」

「そうだな」

「お金かけてもいい?」

「しっかりかけてくれ」

「お義姉様になるのかぁ」

「さあ。卒業パーティのパートナーしか確定していない」

「ライアンの色にしたいとか言わないよね?」

「今回はな。婚約でもすれば別だが」

「ねえ、ライアンは私とエヴァンをくっつけたいの?」

「エヴァンはお前を愛してる。それに一途だ。7年、見返りのない片思いをしている。
いい奴だと思うよ。

だからこの2年以上、エヴァンの短所を指摘して矯正してきたつもりだった。

だが卒業パーティーのパートナーに誘うときのエヴァンにはがっかりした。

私の一番大事なものはミーシェ。ミーシェを含むサルト家だ。そう思うとエヴァンはお前を預けるには力不足だ。

つまり、どちらかと言えば反対だ。

その反面、エスを失ったお前をあいつなりに支えたと思う。好きな女が、別の男に心を寄せて泣いている姿を見るのは辛かったはずだ。だけど一歩下がり見守った。

学園では、目の前にいるお前に直接話しかけることもせず、“ライアンの妹”としての扱いを徹底しながら過度な嫌がらせに対して周囲に悟られないよう助けた。

そこは評価していいんじゃないか?

エスへの気持ちを抱えたミーシェを受け入れてくれる男に今後巡り会えるか?

独身を貫く手もあるだろう。私はそれは向いていないと思うがな。

多分、今の国王陛下からシオン殿下に代替わりをして、次はエヴァンではなくエヴァンの息子が国王になる可能性がある。

エヴァンが国王になる可能性もある。
エヴァンの妻になれば王子妃になり、王妃になる可能性がある。その覚悟が必要だ。

何も孤高の王妃を目指せと言っていない。
有能な人材を置いて仕事を振ればいい。

だが公務があり表に出るし世継ぎ問題があって場合によっては別の令嬢も娶ることになる。その覚悟だ。

ミーシェの最優先は何か、二番目、三番目の優先は?自分が何を求めているのか、よく考えるんだ。

エヴァンは卒業したら直ぐに婚約者を決めなくてはならない。ミーシェがノーと言えば、直ぐ他の女と婚約することになる。王族の義務だから避けられない。

あまり時間がない。
王族との離縁も出来るが簡単ではない。
慎重に早めに結論を出した方がいい」

「ライアン」

「ん?」

「難しすぎる」

「だな。ごめんな。これにしろと言ってあげられたら楽だったか?」

「ライアンと離れたくない」

「私もミーシェと離れたくない。
私達以上の繋がりは他の人では得られないからな。
会う頻度が少なくなっても唯一無二だ」

「双子だもんね。

それで、何処に惚れたの?」

「穢れが無かった。そう感じたんだ。
変な欲や悪意が感じられなかった。
ただの勘だった。だけど関わったら勘は当たっていたと信じられた。

この気持ちは愛ではない。
だけどサルト家に迎えていいと思えた。
ミーシェにも害にならないと」

「好きな人が出来るまで待てば?」

「現れなかったときに困る」

「そっか」

「ところで、私達の見張っていた奴等はどうだ?」

「あまり近寄らないよね。私に影がついている、もしくはついているかもと知っているのね」

「私達の存在を知っているから調査を入れたはずだ。あとは何をしたいかだな。
執着が解けていないようだから母上達を困らせないか心配だ」

「こっちから仕掛けるという手もあるけど」

養子息子が接触してこないから波風を立てる可能性のあることは避けたい」

「お待たせいたしました。どうぞお入りください。
ドレスはお嬢様のドレスでしょうか」

「いえ、別の女性です。卒業パーティ用に贈ります。サイズはこちらです。
髪と瞳の色は茶色。容姿は平凡です」

「そ、そうですか。拝見いたします」

「(ちょっと、もっと違う言い回しはないの?デザイナーさんが引いちゃってるじゃない)」

「(遠回しに言って伝わらない方がマズイだろう。仕上がりに響く)」

「(そうだけど)」

「その女性のパートナーは私です。

ドレスに着せられているという浮いた感じにならず、品よく豪華にしてもらいたいのです」

「サルト様、“平凡”の度合いがわかりませんと何とも。お連れいただくことは可能でしょうか」

「来させますが、決定権を持たせたくないのです。遠慮して安いドレスを希望しそうなので」

「そうですか、では布地合わせをして色味や素材との相性の確認だけします。
後は誤魔化しますのでお任せください」

「お願いします。
できれば領地で着させる動きやすいドレスやワンピースも内緒で作ってもらえますか」

「どんな雰囲気にいたしましょう」

「シンプルで品がよく、可愛らしい感じがいいです。動きやすさや着やすさも大事です。半分は自分で着られるものにして、半分はあまり補助のいらない作りがいいですね。
パーティドレスもそうですが細さを求めませんので絞って着るようなものにはしないでください」

「かしこまりました。
追加の分は何着必要ですか」

「10着にしてください。パーティドレスを合わせて11着です」

「まあ!ありがとうございます!
精魂込めて作らせていただきますわ」


デザイナーが席を外すとミーシェが呆れ顔で呟いた。

「何が“愛かどうかはまだ分からない”よ。
愛情たっぷりじゃないの」

「……そうか?」

「そうよ。
気を付けないと妬まれて、“貴方には相応しくありません”とか、“恐れ多いです”とか言い出すかもよ」

「エヴァンじゃあるまいし」

「ライアンも彼女にとったら王子様よ。
私が妹じゃなかったらライアンと結婚したいもの」

「それは光栄だが、難しいな」

「酷い!」

「ミーシェは美し過ぎるし可愛いし、頭もいいし短剣も扱える。心配でたまらないから兄妹で頼む」

「何で振られるの!そこは“私もだよ”というところじゃないの!」

「怒った顔も可愛いから手に負えない」

「でも遠慮するんでしょ?」

「ハハッ」



そして店を出ると待ち構えていたのは。

「ライアン、ミーシェ!会いたかった」

「サックス侯爵」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは、聖女。 ――それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王によって侯爵領を奪われ、没落した姉妹。 誰からも愛される姉は聖女となり、私は“支援しかできない白魔導士”のまま。 王命により結成された勇者パーティ。 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い。 そして――“おまけ”の私。 前線に立つことも、敵を倒すこともできない。 けれど、戦場では支援が止まれば人が死ぬ。 魔王討伐の旅路の中で知る、 百年前の英雄譚に隠された真実。 勇者と騎士、弓使い、そして姉妹に絡みつく過去。 突きつけられる現実と、過酷な選択。 輝く姉と英雄たちのすぐ隣で、 「支えるだけ」が役割と思っていた少女は、何を選ぶのか。 これは、聖女の妹として生きてきた“おまけ”の白魔導士が、 やがて世界を支える“要”になるまでの物語。 ――どうやら、私がいないと世界が詰むようです。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー編 32話  第二章:討伐軍編 32話  第三章:魔王決戦編 36話 ※「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...