【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ハヴィエルの思い

三日目の朝食後、全員を呼び集めた。

「皆にも聞いてもらいたい。
ハヴィエル・サルトは次期サルト男爵にライアンを指名する。

本格的な領主教育は卒業後に始める。
皆ライアンの助けになって欲しい。以上」


ハヴィエルが解散をさせ使用人は持ち場に戻る。

「お祖父様、よろしくお願いします」

「サルトは安泰だな。よろしく頼むよ」

前男爵の祖父は笑いながらライアンの肩に手を置いた。

「兄様」

「シーナ」

「学園に行かなきゃ駄目?」

「それは父上に相談しないと」

「兄様はどう思う?」

「入学するまでに学園で学ぶことを終了していれば行かなくても構わないと思うぞ。
淑女教育もな。
でもシーナは今からでは遅過ぎるだろう」

「お勉強してるのに」

「あとは父上と話し合って決めることだよ」

「兄様、僕も相談が」

「いいぞ、ロラン」

「……二人きりでお願いします」


ロランを連れて温室に来た。

「兄様、もし僕とシーナが結婚できたら、サルト領に置いてもらえますか」

「王都に帰らないのか」

「僕はここが好きですし、シーナだってここにいたいと思います。

普通は爵位や持参金のようなものを持たされて王宮から出るのでしょうけど、どんな扱いになるのか分かりません。
ずっとここにいて、王族としては役立たずなので何もなく放り出されるかもしれません」

「サルト領で働くという意味か」

「はい」

「学園は」

「シーナに合わせたいです」

「まあ、ご両親がお許しになるかは分からないが、そんなにシーナを基準にしていて大丈夫か?もしシーナが他の男を、」

「兄様!シーナは僕の天使です!絶対!」

「ロラン」

「兄様、味方になってください。僕はお薦めですよ」

「シーナの気持ちが大事だ」

「そんなこといっても、別の男を選んで浮気されたり蔑ろにされたり困窮したりしたら気持ちなんか無くなりますよ。

それより一途な僕の方が絶対いいです!
しかも兄様に従順じゃないですか!」

「お祖父様、父上、国王陛下、王女夫妻から許しを得ないとシーナと離れてロランは王宮暮らしになるだろう。

今の私は学生でしかない」

「兄様としてはどうですか」

「猫か犬を被ってる蛇のような気もするが、ロランのことは可愛いよ」

「酷いです。もし蛇でも兄様の前では腹を見せますから」

「蛇が腹見せてたら死んでるんじゃないか」

「兄様ぁ、僕を可愛がってください」
 
「……ロラン、ドレスでも着るか?」

「もう似合いませんよ」

ロランが来たばかりの頃、シーナに近寄る縁戚の令息を威圧して泣かせた罰で一日ドレスを着させたことがあった。

「まだ間に合うぞ」

「何がですか!僕はずっと男です!」

基本的にロランはシーナにべったりくっついているが、ライアンにもよく懐いていた。

教えを乞う時はライアン。相談事もまずライアン。怖い夢を見た時も枕を持ってライアン。

学園が始まると、長期休暇でライアンが帰ってくれば、主人を待っていた犬のようにライアンを出迎え付き纏う。

最初は警戒したロランに対しすっかり絆されてしまったのだ。



どうなるか分からないミーシェを中心に大人達は長期休暇を過ごし、残り一週間となっていた。

「旦那様、お客様が門を通過しました」

「来たか。アネットを呼んでくれ。出迎える」


サルト男爵夫妻が招いたのはサックス侯爵の父だった。

「サルト男爵、お招きいただき感謝申し上げます」

「遠い所までようこそお越しくださいました」

「叔父様、お久しぶりです」

「美しさに磨きがかかったなアネット。
男爵に愛されているんだな」

「はい。大事にしていただいています」

「そうか。安心した」

「どうぞ中へ」



奥の応接間に前侯爵を案内して用を済ませたメイドを退がらせ、代わりに人払いをしながら入室したのは双子だった。

「ライアンとミーシェです。サックス様」

「なんてことだ……似ている。確かに孫だ。
アネット、すまなかった。一人で大変だっただろう」

「それが、妊娠が分かる前は一人で生きていこうと思っていましたし、分かっても子供と生きていこうと思っていました。

ですかハヴィエル様が気にかけてくださり、子供達も勘違いをしてハヴィエル様をパパと呼ぶほど可愛がってくださいました。

私は一人ではありませんでした」

「私は病で視力のほとんどを失い恋愛結婚だと思っていた妻も逃げました。もう誰も娶ることはないだろうと思っていました。目が不自由なことで聴覚や嗅覚が敏感になり、嘘や悪意などが感じ取れるようになってしまったのです。

十年後、偶然アネットに出会った時に彼女から感じたのは優しさと心配でした。
目の不自由な私がベンチを探せずに困っていたところに声をかけてくれたのです。

そのまま話をしていると彼女からは多くの感情が伝わって、助けてあげたいと思いました。そのまま文通を始めて助けられたのは私の方でした。

明日が来るのが楽しみに感じたのです。
明日こそはアネットから手紙が届くと。

怪我を負ったアネットが心配で堪らなくて、やっと会えた時に私に光が差したのです。
私は他人を愛せるようになったのだと。

話を聞いてドロドロとした感情が沸きました。アネットに男を近付けたくないと強く思いました。

サルト領に来てもらえてとても嬉しかった。だけど彼女の心には別の男がいて、その男の子を身籠っていたのです。

身体中が煮えたぎるような苦しみが私を襲いました。でもアネットと離れることだけはできなかった。
思えばこれが本当の恋心なのだと思いました。恋愛小説の中の人物のように愛する人に一喜一憂していたのです。

そう思うと前妻とは恋愛の真似事に過ぎず、逃げるのも当たり前かと恨みも消えました。

今となっては逃げてくれて良かったです。
アネットを妻にできたのですから」

不安そうに見つめるアネットの頬を優しく撫でながらハヴィエルは笑った。

「では、父上は私達のことは苦痛でしたね」

「そう思っていた。産まれたら疎ましく思うのではないかと。

産まれた時は不思議な感じだ。見たことのない生き物に接している感じだった。
私と前妻との間に子はいなかったし、私は潔癖気味で他人の赤子と触れ合う機会なんてなかったから。

それがいつの間にか瞳をパッチリとあけて私を見つめ、私の指を握る。
這うようになれば向かってくるし、歩けるようになれば追いかけてくる。

当然のように私の膝に乗り、食べさせてと口を開ける。膝の上でお漏らしされても吐き戻されても、くしゃみで鼻水が飛んできても、膝に乗せないという判断には至らなかった。

泣き疲れて私の腕の中で眠ったり、本を読んでくれとせがまれたり、熱を出して呼ばれたりしても煩わしいなどと思わなかった。

ある時、乳母に聞いてみた。
私はどうしてしまったのかと。

乳母は大笑いしながら言った。

『いやですわ、おぼっちゃま。
分かっていらっしゃらなかったのですか?
双子に接する時はいつも満面の笑みですよ?

おぼっちゃまにとって血の繋がりなど関係ないのですよ。ご自身が証明しているではありませんか。

涎を垂らされることも、手汗を顔に付けられることも、膝の上でお菓子を食べこぼされることも、おぼっちゃまにとって嫌悪することのはずなのに、毎回膝の上に乗せるのは愛しているからですよ』

その言葉を聞いて自覚した。
神の悪戯か分からないがライアンもミーシェも苦痛などではなかった。

その代わり不安はあった。いつか実の父親の存在を知って彼の方がいいと言われるのではないかと。

アネットの為かもしれないがライアンはサルトを選んでくれた。嬉しかった」

「何でライアンだけ!?酷い!」

「ミーシェ、愛しているよ」

「なんで!止めて!まさか私だけ渡すつもりなの!?」

「これからする話は可能性の話だ。冷静に聞きなさい、ミーシェ」







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