【完結】ずっと好きだった

ユユ

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セーレン 王太子マクセル(苛立ち)

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【 マクセルの視点 】


妃達が会えて何故私が会えないのか。
もてなし担当を私にしてもらえたら……。

『寝不足なのか、眠そうになさるからピア様が膝枕をして差し上げましたのよ。
環境が変わって寝付けなかったのかしら』

エヴァン殿下のせいだろう。

“お二人は二時間は楽しまれておいででした”

セーレンの警護の騎士に報告させた内容だ。
翌夜からは配置が変わって何も聞こえませんと言われたが、メイドを呼んで聞いたら、

“大変仲がよろしいようです。あれほどお美しい方がお相手なら仕方ありません”

ニコニコと笑顔で答えられてしまった。



ジュリアスの宮で楽しんだようで、妃が興奮していた。

『凄かったわ!
ミーシェちゃんったら、力加減は手を抜いて貰ってるとはいえ、側近のファーズ様と剣を互角に合わせてましたわ!

短剣投げも凄くて驚きましたわ!
サルト様はもっと凄くて、』

ミーシェ嬢が?

『王子の服を着て現れた時は胸がキュンとしましたわ。とても良く似合っていらしたの』

見たかったな。




また今朝も、

“だいぶお疲れのようで、殿下に抱きしめられながらソファでウトウトなさっておられました ”


他所の国に来て、まだ候補なのに毎晩疲れるまで抱くか!?


「王太子殿下、ファーズ様より伝言です。
王女殿下からもお誘いがあるようで、個別に受けますと仰っておりました」

「そうか。では11時に、騎士団に連れて行く。ミーシェ嬢にも女性騎士服か何かを貸してやれ。動き易い服なら他の物でもいい」


ミーシェと側近のファーズが互角?きっとミーシェは令嬢の背伸びの域で、ファーズは文系なのだろう。

私が剣の相手をして手取り足取り教えてあげれば、いいきっかけになるはず。



時間になって貴賓室に前に行くと、扉が開いていて話し声が聞こえてきた。

「ミーシェ、君は強い男を好むから騎士団に出かけるのは心配だ」

「そういう訳じゃ無いけど」

「私が嗜む程度だからと乗り換えたりしないでくれよ?」

ミーシェは強い男が好みか!エヴァン殿下が嗜む程度ならば好機だ!


騎士団に案内して、副団長を紹介した。
急な事で団長は休日だった。

「彼が副団長のバジル・ドリューだ」

「セーレン王宮騎士団へようこそお越しくださいました。
可愛らしいレディ、ミーシェ嬢とお呼びしてもよろしいですか」

「はい、副団長様」

「どうかバジルとお呼びください。ミーシェ嬢」

何で団長は休日にしてるんだよ!
迂闊だった!副団長は女遊びの激しい男だった!しかも公爵家の次男で色気のある男だ!

「殿下、何故レディに訓練服を?」

「カーラからミーシェが剣を握ると聞いたので交流にはいいと思ってな」

「……左様でございますか。
ミーシェ嬢は剣を嗜むのですか?」

「少しだけ。腕力は無いので本格的にはやりませんでした」

それはそうだろう。その細腕では振り回すのは無理だからな。

「よし、手合わせをしよう。ミーシェ、私が手解きをしよう」

「王太子殿下、ミーシェは重い剣は受けられません。せめて力加減の出来る方でないと」

「大丈夫だ、ライアン殿。任せてくれ」

「しかし、」

「不服かな?」

「私はミーシェを守る義務がございます。
もし、危険と判断した場合は剣で割り入ることをお許しください。
模造剣で、力を入れないとお約束願います」

「勿論構わない。準備をしてくれ」




何故だ……全部防がれる!
どういうことなんだ!



「ライアン殿、妹君は嗜む程度だと」

「剣の師匠が嗜む程度に教えてやると言ったので」

「ライアン殿は?」

「そこそこ教わりました」

「そこそことは?」

「妹を守れる程度には。

副団長殿、王太子殿下の実力は大丈夫ですか?」

「騎士団に入れるレベルではありません」

「では、そろそろ5分経ちますので割り入る準備をします」

「割り入るなら今だったんじゃないのですか?」

「いえ、怖いのは素人やプライドの高い人が余裕を無くした時です」



ピピーッ

「攻守交代!」

クソっ結局一点も取れなかった。

「構え……始め!」

カン カン シュッ

「有効!ミーシェ嬢1点」



「エヴァン殿下、彼女は何者ですか?」

「母と双子の母が親友で家族絡みの付き合いなのです。母の方がミーシェにそっくりの親友が大好きで、王宮で働き出し次期公爵の婚約者になった親友の身を案じて王家の影を付けたのです。

結局、親友は大怪我を負って王都を離れ、サルト男爵に執着され結婚しました。
その親友に影が辞表を出して追いかけてしまったのです。

双子の子守が長期休暇中の王家の影なのです」

「ようやく分かりました。その影は王道の剣術を教えたのではなく、人を殺す剣を教えたのですね。

読めない剣筋、急所への寸止め。
もしもの時に殺して逃げられるように」

「私は一般の近衛から教わっていたので、どういうつもりで教えたのかは分かりませんが、私は手合わせをしたくないですね。
男が婚約者に負けたら情けないですから。

帰ったら本気で習うことにします」



「構え……始め!」

カン カン カン シュッ

「有効!ミーシェ嬢1点」

このままでは面子がっ!



「エヴァン殿下、そろそろ まずそうだ。
王太子殿下に余裕が全くありません。
私も昨日、段々追い詰められてライアン殿に待ったをかけられましたから」

「ファーズ殿がですか」

「これでも騎士団の剣大会で5位以内に入ったことがあるのですがね」

「ではファーズ殿は手加減を?」

「私は他国出身なので他国の剣大会ですが、昨日は加減したのは力を乗せないことだけ。
あの華奢な身体では重い剣は受け止められないでしょう。

だから本気でやり合う時はミーシェ嬢は攻撃の隙を与えずに手っ取り早く急所を突くでしょうね」



「構え……始め!」

カン カン 

駄目だ!駄目だ!負けたくない!!

「そこまで!!」

カーン


「どうして止めた!」

「約束をお忘れのようですね。剣に力を乗せ始められたのでお止めしました。

ミーシェ大丈夫か?」

「手が痛い」

「あ……」

「どうしても続きがしたければ私がお相手しましょう」

「いや、疲れたから休む」



「エヴァン殿下、サルト殿は……」

「大事な人を守り抜くように育てられましたから、とんでもないことになっています。

うちの影達は実力のない者は相手にしません。双子は小さな頃から受け入れてもらえていました。才能があるかどうか分かったんですかね。

私は王族だから口をきいてもらえますがね。

面子を保ちたい者はライアンと勝負しない方がいいでしょう」

「手合わせをしたいですが、副団長の私が皆の前で負けると辛いですね」

「ではこっそり早朝にでも手合わせをしたいと聞いてみたらどうでしょう。勿論、模造剣でお願いしますね」



どうしてこうなった……

「ミーシェ嬢もう一度、」

「マクセル、やりたければ相手を変えなさい」

「ち、父上」

全「国王陛下にご挨拶を申し上げます」

「ミーシェ嬢、手は大丈夫か?」

「はい、これ以上の手合わせ無理そうです」

「すまなかったな。もう滞在中に剣を握らなくていいぞ」

「ありがとうございます」

「ミーシェ嬢、明日にでも再戦を、」

「駄目だ。お前は力を乗せないという加減をしているがミーシェ嬢はができるように手加減してくれているのだ。

本来なら勝負は一瞬でついてしまう」

「そんなこと、」

「お前は命を狙われたことがないから分からないかもな。

先程一点も取れなかったのが答えだ。
これ以上は許さない」

「はい 」
  


結局あのまま関係を挽回出来ずに終わってしまった。

モノにしたくてもミーシェが全く一人にならない。

もうすぐ帰国してしまう……








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