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サックス邸の滞在
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「ソラル~! ミミ~!」
サックス邸のドアが開くとミーシェが大声で呼んだ。
「ミーシェ!猫を呼ぶように俺を呼ぶな!」
文句を言いながら階段を降り始めたソラルは帝国の王族を見て慌てて降りきり礼をとった。
「ようこそサックス邸にお越しくださいました」
「君がミーシェに振り回されているソラルと…」
「ミャー」
「猫のミミか」
「義弟のソラルと申します。どうぞ応接間へ。義父もすぐ参ります」
ミーシェはミミを抱き上げるとそのままレオンに渡した。
「はい、ミミです」
「えっ?、えっ!、」
「さあ、行きましょう」
猫を抱えたまま侯爵と前侯爵に挨拶を交わす不思議な絵面となった。
「プッ」
「クッ」
アクエリアスとライアンが笑っている。
レオンの横でミミにちょっかいを出すミーシェにテオドールが咳払いをした。
「ミーシェ、お客様は高貴なお方だ」
「そうですが、レオン殿下だって人間です。猫に癒されたくてきたのです。見なかったことにして猫と戯れさせてあげるのが人の情けですわ」
「ん~」
「なんか尤もらしく言ってるけどミーシェが言うと疑いたくなるな」
「酷い、ソラル」
「ミミは大人しいな」
「ソラルとは真逆なんです」
「誰がだ」
仰向けに抱っこされている猫に向かってメイドから渡された猫のおもちゃで猫釣りをしようとミーシェが動かす。
「ミーシェ、止めなさい」
「いいんだ。猫と遊びに来たようなものだから」
「うちでは帝王が嫌がって城内に猫などは入れません。もし見かけたら追い払ってしまうのでこういうことは出来ませんでしたから。
兄上の顔、嬉しそうですよ」
「猫とはこんなに体がグニャッとするものなのだな」
「柔らかいし脇に手を添えて抱き上げると伸びますよ」
「ミーシェ、アクエリアスにも抱かせてやってくれ」
ミーシェは猫をアクエリアスに移した。
「兄上、野良猫は逃げて行きますが、この猫は逃げません!」
「飼い猫だからな……なあ、ミーシェ。この猫の腹……」
「あっ!」
「どうしたミーシェ」
「お父様、どうやらミミは太ったかおめでたです」
「………」
「増えるのか……ミーシェが面倒みろよ」
「? ソラルの猫じゃない。ソラルに懐いてるんだから。父親は?」
「知るか!」
「ソラル、姉に向かって何だ」
「も、申し訳ありません」
「ソラル、数日後に獣医さん呼んで診せて」
「ミーシェが、」
「私はちょっとサルト領に行ってくるから」
「は?」
「サルト領!」
「何で」
「何でって」
「もう帰って来ないつもりか」
「何言ってるの。観光案内よ」
「……ならいい」
「ミャー」
ミミはアクエリオンの腕からすり抜けてライアンの足にしがみついた。
「………」
「ライアン殿はミミと親しいので?」
「いえ、初対面です」
「ミミにはライアンの優しさが分かるのよ」
「ミーシェ、ミミの爪が痛い」
ソラルが立ち上り猫をライアンから離した。
すると猫はテオドールの膝の上に乗り甘え始めた。
「そういえば、昨日お母様が領地の屋敷にお母様の面倒を見てくれた犬がいるって言っていました」
「ああ、ルーだな。慣らし無しでは誰にでも飛び掛かり噛み付く猛犬だった。犬の世話係が屋敷に働く者はまず犬と対面させて慣らすんだ。
だけどアネットは慣らし無しでルーを従えて面倒をみさせたよ。
随分前のことで、既に天に召されたんだ。
ルーの孫がいるよ」
「会いたい」
「会いに行くか?私はそろそろ領地に戻らねば」
「お祖父様」
「先に領地で待ってるよ。卒業したらおいで」
「お父様、いいですか?」
「勿論だ。ゲラン邸にも遊びに行かなくては」
「ソラルも行くわよ。ソラルが観光案内するんだからね」
ソラルはチラリとライアンを見るが、
「妹とはそういう生き物だ」
と、すまして茶を飲んでいる。
「ククッ、見事に馴染んでるな」
レオンがミーシェの頭を撫でながら笑っていた。
その頃、城では。
エ「ミーシェが王太子殿下達と!?」
シ「まあ、外交だな」
エ「父上!」
陛「ライアンもいるし問題ない」
エ「何故、夜襲われたことを知らせてくれなかったのですか!」
陛「来国の打診の際にその可能性は分かっていたことだろう。ミーシェの安全に気を配らなければいけなかったのに、エヴァンは馬鹿なことを口にしてミーシェから避けられた。
知らせを受ける資格があると思うか?」
エ「私は婚約者ですよ!」
ス「それが悪かったのね。
婚約の内定の前まではまともに見えたのに、残念だわ」
エ「母上?」
ス「ミーシェとの婚約内定は一度取り消しの申し入れをするわ。貴方には早過ぎた」
エ「そんな勝手な!」
ス「勝手?
内定を許可するときに内定は簡単に覆ると忠告したし、泣かせたら婚約していても解消の可能性があることを伝えたはずよ、
貴方は妻を迎えるには幼すぎる。ずっと喚いているじゃないの。そんな夫を心から迎えたい女はいないわ」
エ「止めてください、母上」
ス「ライアンにも申し訳ないことをしたわ。
態々一年遅らせて実力を落とさせて貴方に付けて、ずっと導いてきたのにね。
この先は複数の指導者を付けることにするわ。貴方が大人になれるように」
エ「私からミーシェを取り上げないでください」
ス「ミーシェが可哀想だもの。本当はミーシェは責任なんて取らなくても良かったのに」
エ「母上、お願いです」
シ「残念だが、私もステファニーも陛下も同じ意見だ」
エ「お仕置きなら受けます、指導も受けますから」
シ「婚約者といっても内定の段階でまだ資格が無い。正式な婚約者ではないんだよ」
ス「サックス家でミーシェは問題ないようだからこのまま暮らしてもらうわ。家から離れたり侯爵家の人間から離れている間は除外されるけど、365日間の実績を得るようには言うわ。
途中で止めるかもしれないし、資格を得ても婚約しないと言うかもしれない。
無理矢理婚姻させる気はないから、貴方はミーシェが惚れるような大人の男になりなさい。
女はね、情け無い男の子供など産みたくないのが普通なのよ。
貴方は内定の取り消しを受け入れて努力する道しか残されていない。
廃嫡でもされたら絶対にミーシェは娶れないもの」
「うぐっ」
バタバタバタバタ………
エヴァンは洗面室に駆け込んで嘔吐した。
「ゲホッ、ゲホッ」
コンコンコンコン
「エヴァン!エヴァン!」
「ううっ……」
「開けるぞ!」
ガチャ
「大丈夫か」
「大丈夫なわけない!ミーシェを取り上げるなんて!」
「だが、正式な婚約前に泣かせたのはお前だ」
「だからって……父上」
「お前の発言は、それほど言ってはならない言葉だった。特にミーシェには。
サルト家、ゲラン家以外の令嬢なら叱責で許されただろう。だがミーシェは家族同然の子だ。
ずっと好きな男が外国で孤独に死んで、ミーシェは心を閉した。
やっとエスを迎えに行きミーシェに会わせることができて、ミーシェは前を向いたばかりだったはずだ。
彼女の心の悲鳴を聞いてきたお前が、彼女を傷つけた。
何を見てきた エヴァン」
「何で私はあんなことを……」
「それにステファニーはアネットが悲しむことを嫌うのは知っているだろう。
アネットそっくりのミーシェを傷付ければステファニーは容赦しない。例え息子でもだ。
それも知っていただろう?」
「ミーシェを取り上げないで」
「ミーシェは物じゃない。生きて感情のある人間なんだ。エヴァンは与えられた人形を愛たわけじゃないだろう?
尊敬されて頼られるような男にならなきゃ駄目だ。例え結婚できても、失望されたら捨てられるぞ。ミーシェは婚歴があったとしても娶りたい男は少なくない。
部屋へ行って休もう」
エヴァンを従者達に連れて行かせてシオンは応接間に戻った。
陛「エヴァンは」
シ「嘔吐して酷く動揺しています。落ち着かせる薬湯を飲ませるよう指示をしました」
陛「厳しすぎるか」
ス「ロランといい、エヴァンといい。誰に似たのかしら」
陛「母親だろう」
ス「え?」
陛「ステファニーもアネットのことで泣いたり食事が喉を通らなかったり寝込んだりしていただろう」
ス「そうでした」
陛「エヴァンは耐えられるか?」
シ「耐えてもらわないとなりません」
ス「ミーシェに判断を委ねましょう。
そもそもお酒を飲ませたのはエヴァンなのだから、ミーシェが責任をとることはなかったのよ」
サックス邸のドアが開くとミーシェが大声で呼んだ。
「ミーシェ!猫を呼ぶように俺を呼ぶな!」
文句を言いながら階段を降り始めたソラルは帝国の王族を見て慌てて降りきり礼をとった。
「ようこそサックス邸にお越しくださいました」
「君がミーシェに振り回されているソラルと…」
「ミャー」
「猫のミミか」
「義弟のソラルと申します。どうぞ応接間へ。義父もすぐ参ります」
ミーシェはミミを抱き上げるとそのままレオンに渡した。
「はい、ミミです」
「えっ?、えっ!、」
「さあ、行きましょう」
猫を抱えたまま侯爵と前侯爵に挨拶を交わす不思議な絵面となった。
「プッ」
「クッ」
アクエリアスとライアンが笑っている。
レオンの横でミミにちょっかいを出すミーシェにテオドールが咳払いをした。
「ミーシェ、お客様は高貴なお方だ」
「そうですが、レオン殿下だって人間です。猫に癒されたくてきたのです。見なかったことにして猫と戯れさせてあげるのが人の情けですわ」
「ん~」
「なんか尤もらしく言ってるけどミーシェが言うと疑いたくなるな」
「酷い、ソラル」
「ミミは大人しいな」
「ソラルとは真逆なんです」
「誰がだ」
仰向けに抱っこされている猫に向かってメイドから渡された猫のおもちゃで猫釣りをしようとミーシェが動かす。
「ミーシェ、止めなさい」
「いいんだ。猫と遊びに来たようなものだから」
「うちでは帝王が嫌がって城内に猫などは入れません。もし見かけたら追い払ってしまうのでこういうことは出来ませんでしたから。
兄上の顔、嬉しそうですよ」
「猫とはこんなに体がグニャッとするものなのだな」
「柔らかいし脇に手を添えて抱き上げると伸びますよ」
「ミーシェ、アクエリアスにも抱かせてやってくれ」
ミーシェは猫をアクエリアスに移した。
「兄上、野良猫は逃げて行きますが、この猫は逃げません!」
「飼い猫だからな……なあ、ミーシェ。この猫の腹……」
「あっ!」
「どうしたミーシェ」
「お父様、どうやらミミは太ったかおめでたです」
「………」
「増えるのか……ミーシェが面倒みろよ」
「? ソラルの猫じゃない。ソラルに懐いてるんだから。父親は?」
「知るか!」
「ソラル、姉に向かって何だ」
「も、申し訳ありません」
「ソラル、数日後に獣医さん呼んで診せて」
「ミーシェが、」
「私はちょっとサルト領に行ってくるから」
「は?」
「サルト領!」
「何で」
「何でって」
「もう帰って来ないつもりか」
「何言ってるの。観光案内よ」
「……ならいい」
「ミャー」
ミミはアクエリオンの腕からすり抜けてライアンの足にしがみついた。
「………」
「ライアン殿はミミと親しいので?」
「いえ、初対面です」
「ミミにはライアンの優しさが分かるのよ」
「ミーシェ、ミミの爪が痛い」
ソラルが立ち上り猫をライアンから離した。
すると猫はテオドールの膝の上に乗り甘え始めた。
「そういえば、昨日お母様が領地の屋敷にお母様の面倒を見てくれた犬がいるって言っていました」
「ああ、ルーだな。慣らし無しでは誰にでも飛び掛かり噛み付く猛犬だった。犬の世話係が屋敷に働く者はまず犬と対面させて慣らすんだ。
だけどアネットは慣らし無しでルーを従えて面倒をみさせたよ。
随分前のことで、既に天に召されたんだ。
ルーの孫がいるよ」
「会いたい」
「会いに行くか?私はそろそろ領地に戻らねば」
「お祖父様」
「先に領地で待ってるよ。卒業したらおいで」
「お父様、いいですか?」
「勿論だ。ゲラン邸にも遊びに行かなくては」
「ソラルも行くわよ。ソラルが観光案内するんだからね」
ソラルはチラリとライアンを見るが、
「妹とはそういう生き物だ」
と、すまして茶を飲んでいる。
「ククッ、見事に馴染んでるな」
レオンがミーシェの頭を撫でながら笑っていた。
その頃、城では。
エ「ミーシェが王太子殿下達と!?」
シ「まあ、外交だな」
エ「父上!」
陛「ライアンもいるし問題ない」
エ「何故、夜襲われたことを知らせてくれなかったのですか!」
陛「来国の打診の際にその可能性は分かっていたことだろう。ミーシェの安全に気を配らなければいけなかったのに、エヴァンは馬鹿なことを口にしてミーシェから避けられた。
知らせを受ける資格があると思うか?」
エ「私は婚約者ですよ!」
ス「それが悪かったのね。
婚約の内定の前まではまともに見えたのに、残念だわ」
エ「母上?」
ス「ミーシェとの婚約内定は一度取り消しの申し入れをするわ。貴方には早過ぎた」
エ「そんな勝手な!」
ス「勝手?
内定を許可するときに内定は簡単に覆ると忠告したし、泣かせたら婚約していても解消の可能性があることを伝えたはずよ、
貴方は妻を迎えるには幼すぎる。ずっと喚いているじゃないの。そんな夫を心から迎えたい女はいないわ」
エ「止めてください、母上」
ス「ライアンにも申し訳ないことをしたわ。
態々一年遅らせて実力を落とさせて貴方に付けて、ずっと導いてきたのにね。
この先は複数の指導者を付けることにするわ。貴方が大人になれるように」
エ「私からミーシェを取り上げないでください」
ス「ミーシェが可哀想だもの。本当はミーシェは責任なんて取らなくても良かったのに」
エ「母上、お願いです」
シ「残念だが、私もステファニーも陛下も同じ意見だ」
エ「お仕置きなら受けます、指導も受けますから」
シ「婚約者といっても内定の段階でまだ資格が無い。正式な婚約者ではないんだよ」
ス「サックス家でミーシェは問題ないようだからこのまま暮らしてもらうわ。家から離れたり侯爵家の人間から離れている間は除外されるけど、365日間の実績を得るようには言うわ。
途中で止めるかもしれないし、資格を得ても婚約しないと言うかもしれない。
無理矢理婚姻させる気はないから、貴方はミーシェが惚れるような大人の男になりなさい。
女はね、情け無い男の子供など産みたくないのが普通なのよ。
貴方は内定の取り消しを受け入れて努力する道しか残されていない。
廃嫡でもされたら絶対にミーシェは娶れないもの」
「うぐっ」
バタバタバタバタ………
エヴァンは洗面室に駆け込んで嘔吐した。
「ゲホッ、ゲホッ」
コンコンコンコン
「エヴァン!エヴァン!」
「ううっ……」
「開けるぞ!」
ガチャ
「大丈夫か」
「大丈夫なわけない!ミーシェを取り上げるなんて!」
「だが、正式な婚約前に泣かせたのはお前だ」
「だからって……父上」
「お前の発言は、それほど言ってはならない言葉だった。特にミーシェには。
サルト家、ゲラン家以外の令嬢なら叱責で許されただろう。だがミーシェは家族同然の子だ。
ずっと好きな男が外国で孤独に死んで、ミーシェは心を閉した。
やっとエスを迎えに行きミーシェに会わせることができて、ミーシェは前を向いたばかりだったはずだ。
彼女の心の悲鳴を聞いてきたお前が、彼女を傷つけた。
何を見てきた エヴァン」
「何で私はあんなことを……」
「それにステファニーはアネットが悲しむことを嫌うのは知っているだろう。
アネットそっくりのミーシェを傷付ければステファニーは容赦しない。例え息子でもだ。
それも知っていただろう?」
「ミーシェを取り上げないで」
「ミーシェは物じゃない。生きて感情のある人間なんだ。エヴァンは与えられた人形を愛たわけじゃないだろう?
尊敬されて頼られるような男にならなきゃ駄目だ。例え結婚できても、失望されたら捨てられるぞ。ミーシェは婚歴があったとしても娶りたい男は少なくない。
部屋へ行って休もう」
エヴァンを従者達に連れて行かせてシオンは応接間に戻った。
陛「エヴァンは」
シ「嘔吐して酷く動揺しています。落ち着かせる薬湯を飲ませるよう指示をしました」
陛「厳しすぎるか」
ス「ロランといい、エヴァンといい。誰に似たのかしら」
陛「母親だろう」
ス「え?」
陛「ステファニーもアネットのことで泣いたり食事が喉を通らなかったり寝込んだりしていただろう」
ス「そうでした」
陛「エヴァンは耐えられるか?」
シ「耐えてもらわないとなりません」
ス「ミーシェに判断を委ねましょう。
そもそもお酒を飲ませたのはエヴァンなのだから、ミーシェが責任をとることはなかったのよ」
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