【完結】ずっと好きだった

帝国（側妃ユゲットとミーシェ）

【 帝王の側妃ユゲットの視点 】


帝王を焚き付けたダイアナは研究棟送りになった。

ダイアナの娘のジョアンナは午前中は教師が付き淑女教育と法律、貴族について学び、午後は裁縫部門で見習いとなった。

息子のマリオットも午前中は勉強、午後は武術の基礎を学びながら馬の世話や武具の手入れをしている。

二人は王位継承権を剥奪され王族籍も抜かれて、王太子殿下の実母の縁戚の子爵家の籍に移された。

王太子殿下の実子といえど、側妃の子とはこのような扱いになるのだと分かった。



帝王は兵を連れて王太子妃宮に強行侵入し、国賓を襲うという暴挙に出てその場で殺された。公表は病死だった。

普通ならお手付きで済み殺されるなど有り得ないことだが、入国前に亡くなった帝王が生死問わずの正当防衛の行使を許可し署名をしていたらしい。

優秀で忠誠心のある護衛が付いているのだと思った。


戴冠式ではレオン新帝王と令嬢がダンスをしていた時に、帝王という支援者が亡くなり没落の未来が確定した伯爵一家が新帝王を襲撃したが、見事に令嬢が始末し、彼女の兄や護衛も襲撃者を捕えたり始末したりしたようだ。

つまり亡くなった帝王を殺したのは令嬢なのだと分かった。


普通の令嬢ではない。



そして今、令嬢の要望で後宮で茶会をしている。

「側妃のユゲット、長男のボドワン、次男のベンジャミンだ。

彼女はミーシェ。サックス侯爵家の令嬢だ。
彼はライアン。双子の兄でサルト男爵家の令息だ」

少し不機嫌に、そしてミーシェ嬢の機嫌を伺いながら紹介をするのはレオン帝王だ。

「ミーシェと申します」

「ライアンと申します」

「ユゲットと申します」

「ボ、ボドワンと申します」

「……ベンジャミンと申します」

ミ「側妃様と王子様方にお会いできて光栄でございます」

ユ「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ」

遠目でしか見たことが無かった。
馬に乗っていた時はほとんど顔が見えなかった。
こんなに美しい娘が存在するとは思わなかった。スタイルもとても良く若い。
妻に欲しいと思う訳ね。

一体この令嬢は何をしに来たのか。
寵愛は自分にあると牽制したいのだろうか。

ベ「双子はそっくりだと聞いていました」

ユ「ベンジャミン」

ラ「似ない双子もいるのですよ、ベンジャミン王子殿下」

ベ「どちら似ですか」

ユ「ベンジャミン」

ラ「構いません、側妃様。

ミーシェは母にそっくりです。
私はどちらかと言えば父寄りです。父の色を受け継ぎました。

ベンジャミン王子殿下は陛下に似たのですね」

ベ「本当ですか？嬉しいです」

ミ「ボドワン王子殿下はどちらにも似ていらっしゃるのですね」

ボ「母似だと言われます」

ラ「あと数年でどちらかというと陛下に似てくると思いますよ。よく食べて、しっかり運動をなさると良いでしょう」

ボ「はい！頑張ります！」

ベ「ミーシェ様、このお菓子、美味しいですよ」

ミ「ありがとうございます。いただきますね」

不思議な子だわ。所作が王族の様だし美しい容姿で側にいる私が気後れしそうなのに、少女のように映るわ。

美味しそうに食べるからかしら。
令嬢の兄がチラチラと妹の様子を伺っているからかしら。

ベ「ミーシェ様は美味しそうに食べますね」

ミ「美味しいからですよ。
美味しいという気持ちを表にだして不快に思う人は、それを作った料理人のライバルくらいでしょうね」

レ「ハハッ、確かにな」

ボ・ベ「……」

ベ「あっ」

ベンジャミンが菓子をこぼしてしまった。陛下は客人の前での粗相を嫌う。
謝罪をしなくては！

ユ「申しわ、」

令嬢が立ち上がり、ベンジャミンの側でしゃがむと膝の上のこぼれた菓子を拾い、席に戻った。

ミ「まだ7歳ですもの、これから嫌でもこぼさなくなりますわ」

ラ「ミーシェは今でも緊張しているとこぼす時がありますからね」

ベ「本当ですか？」

ミ「はい。何を話すか考えてしまって。田舎の領地で暮らしておりましたので社交もほとんどございませんでしたので」

ベ「意外です」

ラ「ミーシェはベンジャミン王子殿下の頃は木登りも狩りもしていました。外で食事にする時はカトラリーではなく、狩り用のナイフをフォーク代わりにして食べていました。

ボドワン王子殿下の頃には、末妹に怪我をさせた侯爵夫人にナイフを投げていました。
もちろん外して、髪を切り落とした程度です。

今では、王宮の外壁を、」

ミ「ライアン酷い」

ボ「ミーシェ様もライアン様も優しくて気さくな方ですね」

側妃の子だからと下に見ようとしない。
この令嬢となら何とかやれるかもしれない。


その後、ライアン様が子供達を。私とミーシェ様は庭園に来ていた。
陛下もミーシェ様について来ようとなさったけどミーシェ様が“男同士で遊んできてください”と言ったので渋々別行動になった。

「ミーシェ様はいつ頃嫁いていらっしゃいますか」

「え？」

「陛下の正妃におなりになるのではありませんか」

「その予定はございませんわ」

「そんなはずは……」

「あ、もしかして研究棟のことですか？
誤解を招く様なことをして申し訳ございません。あれはレオン様がダイアナ様にストレスをかけたいから演技をして欲しいと言われて仲の良い振りをしていたのです」

「……今はそうだとしても、時間の問題だと思いますわ。
ミーシェ様に仲良くしていただけたらと思っております」

「私、自国に男女の関係になっている幼馴染がいるのです」

「ええっ！」

「頼りないし子供っぽいのですが、何故か落ち着くのです」

「婚約なさっていらっしゃるのですか」

「婚約内定を白紙に戻しました。喧嘩をしてしまいまして。今再構築の期間なのです」

「婚約の内定ならば高位貴族か王族ですか」

「はい。王子殿下なのです」

「そうですか。でももし陛下に求婚されたらどうなさいますか？」

「帝王の正妃は私など不相応ですわ。今申し込まれたら無理だとお返事いたします。

この様な話を聞かれてしまったら怒られてしまいますわ。そんなつもりはないのに振られたことになるってるって。

それに、そろそろ帰ろうと思います。
役目は終わりましたし、戴冠式も終わりました。

治療も進んで大分良くなりましたので、いいタイミングだと思います」

「古い怪我だと伺いました」

「今まではほとんど片手で彼の部屋に忍び込んでいましたが、両腕でもっと早く登れそうです」

「登る？」

「はい、外から忍び込んでいます。
でも、もう彼のお母様にバレしまったので廊下からにしなさいと言われると思います」

「それは……凄いわ」

「エヴァンも喜んでいます」

貴女も嬉しそうな顔をしているわ。

帝王の正妃の座に靡くような方ではないのね。

「いつまでいらっしゃるのですか？
またお話ししたいですわ」

「帰国の件はこれから相談します。
滞在中、呼んでくださるのならライアンもよろしいでしょうか」

「もちろんですわ」