113 / 217
5章
0.4
しおりを挟む「お前、流石に、あれはどうかと思う」
水で満たされたカップをほぼ一息で空にして、アトリはそれをベッド脇のチェストの上に置いた。
まだ要るのならもう一度持って来ようと思ったが、一応は喉を潤せたらしい。
あちこち痛いらしくアトリは時折顔を顰めながら、のろのろと毛布の中に戻ってくる。
掠れた声にはまだどこか熱に浮かされたような響きが残っていた。
「あれ、とは」
文句を口にする癖に、ちゃんとユーグレイの隣に横になるのは自覚があってやっていることなのだろうか。
その黒髪に指を潜らせて、するすると梳く。
アトリは呆れたようにユーグレイを見て、溜息を吐いた。
さて、『あれ』とは何を指すのか。
部屋に入ってすぐの廊下で長い前戯の後数回交わり、寝室に移動して行為を再開した。
アトリは最中何度か失神したが、防衛反応は緩やかに収まっていったようではある。
途中からきちんと白濁を溢していたから、苦痛ばかりの行為だったはずはない。
確かに、ずっと中で達していたからと健気に興奮を訴える性器を常より執拗に責め立てた記憶はある。
或いは時間だろうか。
チェストの上の時計はすでに午前十時を示している。
ほんの数時間前までアトリの中にいたことを考えると、少し長かったのかもしれない。
「……君、嫌がらなかっただろう。快感を得ていたのなら何も問題はないと思うが?」
「い、やがった、っつーの!」
アトリの手がユーグレイの背をばしりと叩く。
ああ、嫌がったことならば一つだけだ。
「記憶があるのか?」
あれほど前後不覚になっていたのだから当然意識は殆ど飛んでいるものと思っていた。
耐え難い飢えを癒そうとそこに触れた舌。
次はいつ機会があるだろうか。
多少嫌がられても、もっと奥まで味わっておくべきだったと後悔していたのだが。
アトリは問われて、納得が行ったかのように眉を下げる。
「ないと思ってたんかよ。どーりで、随分と好き勝手すんなって」
「文句の一つも言わないのだから、勘違いもするだろう」
いや、それならば明確に拒否をしたこと以外は許容されていたということか。
アトリは疲れたように「油断も隙もねぇのな」と呟いた。
毛布の中で少し身体を折るようにして、彼は自身の下腹部に手をやったようだ。
「ほんとに、奥、溶けるかと思った」
「……………………」
何の含みもない感想のつもりだったのだろうが、今のは確実にアトリが悪い。
ユーグレイはアトリを抱き寄せるようにして、腹部を押さえていた彼の手に自身の手を重ねた。
ふぉ、と驚いたように声を上げたアトリは慌てて首を振る。
「何、いや、ちょっと待て! ユーグ!」
「何だ?」
自身の形を覚え込ませるように、奥まで散々に突き入れたからだろう。
行為が終わる頃アトリの内はぐずぐずに蕩けてユーグレイを包み、最奥は縋るように先端に吸い付いてきた。
何度も抜くのを躊躇うほどの快感。
思い返しただけで、重く痺れるような欲が身体に満ちて行く。
アトリはユーグレイの手から胎を守るようにして背を丸める。
「お、前っ、何でまだヤる気なんだよ!」
浅ましいのは自覚の上だ。
獣のように、その身体に触れて挿れて揺さぶりたくて仕方がない。
あれほど長く繋がっていたのにもう渇いている。
後頭部を引き寄せるようにして、唇を重ねた。
繰り返し触れるだけの幼い口付けを、アトリは何の抵抗もなく受け入れてくれる。
「君だけだ。アトリ」
腰に手を回し、後ろからゆっくりと指を伸ばした。
ひくと腕の中の身体が震える。
まだ柔らかな後孔が、ユーグレイの指を素直に飲み込んだ。
「ん、ぐ……っ、待っ! 俺もう、出ない、からっ!」
「君、出せなくてもイけるだろう」
お前、と怒ったような表情をするが、アトリはユーグレイを突き飛ばすことも殴ることもしない。
このまま抱いても恐らくは許してくれるだろう。
敏感なままの粘膜を丁寧に擦りながら、今度は深く舌を絡ませるようにして口を塞いだ。
「低俗な人間だと思われても仕方がないが、君、だけだ。すまない」
これほどに焦がれて、求めてしまうのは。
偽りのない謝意を、アトリはどう聴いたのか。
ただ言葉もなくユーグレイを見つめた彼は、僅かな沈黙の後「もー、いいよ」と苦笑した。
下腹部を押さえていた手が、ユーグレイの額を撫でる。
その手を取った。
もう一度。
熱を分け合う行為の最中、アトリは幾度も「ユーグ」と名前を呼んだ。
その呼びかけに続く言葉があるような気がして、呼ばれる度にどうしたと問い返す。
アトリは泣きそうな表情をしたまま首を振って。
ただ、「気持ち良い」とだけ答えた。
22
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる