Arrive 0

黒文鳥

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7章

1


「連絡がつかない?」

 思わず聞き返したアトリに、ベアは重く息を吐いて「正確には」と言い直した。

「定期連絡が途絶えて昨日で十日になる。うちの規定で言うなら、カグとニールは『緊急に保護が必要な行方不明者』ってことになるな」

 緊急に保護が必要な、行方不明者。
 アトリは無言のまま、傍の相棒と顔を見合わせた。


 ベアから呼び出しを受けたのは、ユーグレイのリハビリを終えて数日してからだった。
 もう現場にも復帰はしていたし、例の特殊個体の一件に関してはしつこいほどに聞き取りを受けた後である。
 何の話なんだか、と二人して首を傾げたものの。
 食堂ではなく第三管理員室にと指定されたことで、確かに嫌な予感はしていたのだ。
 まあだからと言って、仮にも管理員であるベアの呼び出しを無視する訳にもいかない。
 渋々顔を出したアトリとユーグレイに、ベアは若干疲れた顔をしながらも「おう、お疲れさん」と笑顔を見せた。
 けれど以前のように会議室に通され、あたたかいコーヒーを勧められてすぐ。
 開口一番、ベアは困りきった様子で言ったのだ。
 皇国に出向したカグたちと連絡がつかない、と。

「……その出向は、例の?」

 ユーグレイの問いかけに、ベアは勿体振ることなく早々に頷く。
 皇国で少々問題があったらしい、という話はユーグレイから聞いていた。
 問題解決のため構成員を派遣して欲しいと、彼の父から手紙が送られて来たと言っていたが。
 アトリは黙り込んだユーグレイの横顔を窺う。
 当初管理員に声をかけられた彼は、その出向依頼を断っている。

「お前さんに断られたんで、カグたちに行ってくれないか頼んでな。あいつらもここんとこは随分落ち着いてたし、問題ないだろうって思ったんだが」

 ベアは腕組みをして、肩を落とした。
 立て続けに起こる問題には慣れっこだろうが、それでも心労がない訳ではないだろう。
 そもそも構成員が出向先で連絡を絶ったなんて事態は、かなりの大事である。
 アトリは悪い想像を振り払うように軽く頭を振った。

「で、それって結局どーいう案件なんですか? 調査とかって話ならもっと適したペアがいそうですけど」

 カグとニールが出向任務にそぐわないという訳ではないが、あのペアはどちらかと言えば現場で活躍する方だろう。
 逆に交渉や調査などに秀でたペアもいる。
 そこを敢えて二人に声をかけたのだとすれば、皇国で起きている問題は解決に荒事が必要だと想定されている可能性が高い。
 ユーグレイが補足をしないところを見ると、彼もその詳細までは聞いていないようだ。
 ベアはお察しの通り、と苦笑した。

「領地内で、素養持ちが徒党を組んで困ってるそうだ。話し合いで解決する程度なら、そもそもうちに手紙なんぞ寄越さんだろう? 会議でも、集団を制圧出来る程度の構成員を送るべきだろうってことになってな」

 予想以上にガチめの戦闘案件だ。
 けれどそれならばカグとニールに声が掛かるのも理解出来る。
 勿論現地調査員からの報告で、街中で騒動が起こっている様子はなく現状危険性が非常に高い訳ではないと確認もしていたようだ。
 基本は調査。
 場合によっては実力行使に踏み切って良い。
 采配を丸投げするいつものスタイルである。
 管理員たちも、送り込んだ人員が即危険に晒されるとまでは思っていなかったのだろう。
 けれど実際は彼らの安否を確かめられないまま、もう十日も経っていることになる。
 
「いや、最後の連絡も特別なもんじゃなかったんだが……。調べちゃいるが進展はしてないって話でそれっきりよ。調査員も音沙汰なしで、どうしようもなくてな」

 ベアはまるで酒を呷るように、一気にコーヒーを飲み干した。
 すまん、と前置きのように謝罪をされる。
 ここまで状況を説明されて、何を求められるか予想がつかないはずもない。
 つまり、皇国に行けと言うのだろう。
 当然カグたちに何かあったのであれば、出来る限りのことはしたいと思う。
 アトリ個人としては断る理由はなかった。
 ただそれが、ユーグレイの苦痛になるのであれば話は別だ。
 考え込むように少し視線を落としたままの彼は、いつもと変わらない様子に見えた。
 ユーグ、とアトリは声をかける。
 ユーグレイは静かに微笑んで、「大丈夫だ」と頷く。
 大丈夫って、本当に?
 
「アトリ、ユーグレイ。悪いが、皇国出向任務を引き受けて欲しい」

 ベアは頭を下げて、そう言った。
 

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