Arrive 0

黒文鳥

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9章

13

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 もっと手酷く抱かれるかと思ったが、案外普通だなと思った。
 中途半端に脱がされた服に額を押し付けて、アトリは息を吐く。
 ちゃんと寝室まで行きたいという要求こそ拒否されてしまったが、ソファを汚したくないと訴えたら床に脱いだ上着を敷いてくれるくらいの配慮はしてくれた。
 背後から少し性急に挿入されたものの、行為自体は普段とそう変わらない。
 腰を支える手も時折首筋に触れる唇も、苦痛を与えようという気配は欠片もなかった。
 ただ、純粋に気持ち良い。
 何ならもっとキツイことをした経験もあるのだが、これで済むのなら何よりである。
 
「…………っん、く」

 身体の奥で、熱が弾けるのがわかる。
 その感覚できちんと達してしまう自身に若干の羞恥はあれ、我慢など出来るものではない。
 あやすような優しい手つきで吐精を促されて思考が蕩けた。
 堪らない。
 何度目かわからない絶頂のはずが、ずっと我慢をしていたかのように鋭い快感が襲って来る。

「ーーーーぁ、あ、う」

 視界が滲む。
 名残惜しそうにゆるゆると中を擦りながら、ユーグレイはようやく腰を引いた。
 それが抜けていくのと同時に、中から溢れ出したものが内腿を濡らす。
 抜かずに数回されたところで最早抵抗感はないのだが、体力的にはまあそこそこ辛いものがある。
 いくら呼吸を繰り返したところでなかなか楽にはならない。
 アトリは重い頭を持ち上げて、ユーグレイを振り返った。
 いつもは大体涼しい顔をしている彼も、行為の最中は熱に浮かされたような表情をする。
 乱れた銀髪を直すこともなく、静かに目を細めたユーグレイが唇を舐めるのが見えた。
 卑猥だなと苦笑したかったが、そこまでの余裕はまだない。
 とはいえ流石のユーグレイも満足しただろう。
 腰を支えていた手が離れると、アトリはぐったりと床に横たわった。
 何だ。
 ちょっと回数が多いくらいで、この程度であれば寧ろご褒美だ。

「ん、いっ……!?」

 いや、もうこれで終わりだと思ったのに。
 不意に膝裏を押し上げられて、緩んだ後孔に指を差し込まれる。
 慣らす手間は勿論必要ないけれど、それでもいきなり三本とか割と酷いのでは。
 止めようと伸ばしかけた手は、脱ぎかけの服に絡まって上手く動かなかった。
 
「あ、うっ、ちょ……ッと」

 遠慮のないユーグレイの指に肌が粟立つ。
 腹が立つほどに的確に感じやすい所を撫でられて、腰が跳ねた。
 身体の下に敷かれた服を握り締めて、アトリは必死に首を振る。
 まだしたいのならそれでも良い。
 でもユーグレイだって一旦は抜いたのだから、少しくらいは休ませてくれたって良いだろう。
 大体幾らでもイけるのは防衛反応が起きている時だけだ。
 そうとわかっていてやっているのなら、相当である。
 喉元まで出かかった暴言は、結局声にならなかった。
 
「ーーーーッ、え、う゛!」

 ぎゅうっと中の一部を指先で挟まれて、押し潰される。
 痙攣する身体をユーグレイが押さえ込んだ。
 そんなに何度もなんて無理だ。
 それをするのなら魔力が欲しい。
 防衛反応で滅茶苦茶になってしまえば、何度だってちゃんとイッてやるのに。
 
「落ち着け、アトリ。ちゃんと触っているだろう」

 宥めるようなユーグレイの声に嘲笑の気配はまるでなかった。
 仕方ないとばかりにそう言われると、アトリ自身が欲しいと訴えたかのような気分になる。
 そんなことは、ない。
 違うと言いたいのに。

「つッ! う、あぅ……ッ、や、うぅ」

 結局言葉はどろどろの快感に溶けて、死にかけの獲物のように不規則に身体を揺らすことしか出来ない。
 要はこれが約束を破ったことに対する制裁なのか。
 それとも本当にわかっていないのか。
 胎の奥をかき混ぜる音がする。
 真っ白な波に呑まれて、放り出されるような感覚。
 床に爪を立てて身を捩ったところで、抵抗にすら見えなかったのだろう。
 ああ、またそこを。

「そんなに締め付けるな」

 微かにユーグレイが笑う気配がする。
 ちょっとで良いから休ませて欲しいと訴えようにも、縋るような喘ぎしか出て来ない。
 
「ーーーー君は、本当に」
 
 中を押し拡げながら、ずるりと指が抜けて行く。
 ユーグレイの顔が見たいと思った。
 約束を破ったからなんて、結局はただの建前だ。
 そうまでして、何を、隠そうとしているのか。
 酷く馴染みのある熱が押し当てられて、アトリは唾を飲み込んだ。
 揺れた腰をユーグレイが掴み直す。

「ん゛、あッーーーー、っ!」

 確かに閉じたままだった最奥まで、一気に貫かれる。
 刹那飛んだ意識は、叩きつけるような鮮烈な感覚で引き戻された。
 隙間などないほどにユーグレイに抱き込まれて、繰り返し奥を突かれる。
 悲鳴を上げたのも、這いずって逃げようとしたのも、殆ど無意識だった。
 防衛反応もないのに、無茶苦茶し過ぎだろう。
 
「アトリ」

 柔らかな声だけはやけに鮮明に鼓膜を揺らす。
 ユーグ、と泣きながら彼の名前を呼んだ。
 回された手が悪戯に胸を撫で、震える下腹部をぐっと押す。
 その間もずっと割り拓かれたそこを責められて、もう訳がわからなくなる。
 濡れた床の感覚。
 少し苦しそうなユーグレイの息遣い。
 ゆらゆらと揺れる不明瞭な視界。
 それらを塗り潰していく果てのない絶頂は、確かに罰には相応しいのかもしれない。
 でも好きなようにと言ってこれなら、まあ、思ったよりは。
 すぅっと思考が解けていく。
 落ちる。
 ようやく訪れた限界に、アトリはさっさと目を閉じた。
 

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