Arrive 0

黒文鳥

文字の大きさ
202 / 217
10章

3

しおりを挟む

「ーーーーっ、ぁ」

 脳を直接引っ叩かれたような感覚で、視界がさぁっと白くなった。
 窒息しそうだ。
 これは絶頂と呼ぶにはあまりに暴力的過ぎる。
 アトリの反応に、ラルフは首を傾げて「苦しいみたいですね」と呟く。
 何故まだ意識が飛ばないのか。
 古いフィルムのように乱れる視界。
 眼前の彼は可哀想にと言いたげに緩く首を振った。
 
「脳に近いからでしょうか。慣れるまではやめておきましょうね」

 これ、一体いつまで続くんだ。
 あっさりと口内から抜けて行った指は肌をなぞるようにして下へと降りて行く。
 本当に、今の一瞬で落ちてしまえば良かった。
 嫌な予感は外れてくれないもので、ラルフの手は鼠蹊部を辿ってアトリの性器を握る。
 びくりと仰け反ると、「大丈夫です」と彼は囁いた。
 何が、大丈夫なのか。
 殆ど反応していなかったそれは数回擦り上げられただけで、あっという間に白濁を垂らした。

「う゛、あっ! い、やだ……ぁッ!」
 
 夢中で首を振っても、その手は止まる気配がない。
 わざと音を立てるように執拗にそこを責め立てて、ラルフは「ほら、ここはちゃんと気持ち良いみたいですよ」と微笑んだ。
 分類をするのなら、それは確かに快感ではあるだろう。
 けれど感情の伴わない絶頂がどれほどの苦痛であるのか、この人はきっと理解していない。
 身の内を侵食するような波が幾重も押し寄せて来る。
 暴虐に晒される理性の糸は、多分もう堪え切れずにふつりと切れてしまうだろう。
 いくら歯を食い縛っても、声を堪え切れない。
 明確な果てがわからないまま、気付いたら少なくない量の欲を吐き出していた。
 心臓の音が酷く耳障りだ。

「ユーグレイさんが夢中になるのも、良くわかります。随分可愛らしい顔をされてイくんですね、アトリさんは」 

 柔らかく笑ったラルフは、濡れた性器の先端を執拗に捏ねた。
 嫌にはっきりと聞こえる水音。
 薄くなった白濁を拭った彼の親指に力が入るのがわかる。
 背筋を走ったのは純粋な恐怖だった。
 いや、だって、そんなとこに、魔力を。

「い、っ……! も、やめ……!」
 
 制止など、意味がない。
 ぱんと何かが弾けるような幻聴。
 とろとろと溢れるそれを逆流するように、ラルフの魔力が雪崩れ込んで来る。
 何もかもが溶け落ちるような凄烈な絶頂だった。
 自身の悲鳴は、聞き取れない。
 ずっと、ずっと、達したまま。
 何秒、何分?
 ああ、もう本当に、駄目かもしれない。

「はッ、あ……、は、ッーーーー、ぅっ、く」

 息が苦しい。
 何度も瞬きをすると、ふわふわと揺れていた視界がようやく形を取り戻す。
 意識はないまま随分と暴れたようだ。
 首筋は攣ったような痛みがあり、拘束されたままの両腕はベルトが擦れて血が滲んでいた。

「ーーーーは、ぁ……、う、ぅ」

 不規則に震える身体は、もうアトリの意思とは切り離されたもののようだ。
 ぼんやりと自身に覆い被さったラルフを見上げる。
 彼は少し身体を起こして、アトリの脚を持ち上げたところだった。
 自由になったはずなのに爪先は小さく跳ねるばかりで、まともには動かない。
 ぐっと膝裏を押されて、脚を開かれる。

「アトリさんの中、触りますね。聞こえていますか?」

 聞こえて、いる。
 
「セルとエルが概念的に男女の相を持つように、魔術の構築と行使は所謂性行為と出産に当たります。ですから、アトリさんのここに魔力を注ぎ込むのが最も効率が良いんです」

「………………」

 後孔の縁をラルフの指がするするとなぞって行く。
 爪の先がゆっくりと中に押し込まれる。
 観察するようにそれを眺めていたラルフは、不意に顔を上げてアトリを見た。
 行為とは裏腹に案ずるように様子を窺って、彼は「舌を噛まないように気を付けて下さいね」と言う。
 
 そこは触られたくない。
 
 受け入れたいと思ったのはユーグレイだけだ。
 防衛反応を言い訳にしたって、この人に中を暴かれて善がりたくはない。
 無理だ。

「ーーーーッ!」

 麻痺しかけた思考を埋めた拒否感が、止めようもない速さで魔術を紡ぎ上げる。
 火がついたように身体が熱い。
 溢れかえるほどの魔力を得て放つそれは、容易く目の前の人の命を奪うものだと思った。
 それでも、もう無理だった。
 受け入れられない。
 許容出来ない。
 
「おや、まだ駄目ですよ。アトリさん」

 諭すようなラルフの声に、緊張感はない。
 思い留まるだけの理性は残っていなかった。
 構わない、撃て。
 アトリは目を瞑って、紡いだ魔術を一気に放った。
 
 
                                                                                     
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...