【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

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Dの男

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「朱音ちゃんが『そうだ!DTにしよう!』って資料室で叫んでたの忘れられないよ」

クスッと笑い、サラダを口にしながら上目遣いに私を見た。友藤さんが私に構うようになったきっかけを思い出してげんなりする。

「忘れて下さい」
「無理だね。初対面以上にインパクトあったもん」
「それこそ無理があるでしょう。私の心の叫びなんて、真っ最中だった友藤さんに比べれば全然」

あの初対面を超えるインパクトなんて、ルー部長がカタカナ英語を使わずに武家言葉で喋るようになったくらいじゃないと。

「……たまに思うんだけど、朱音ちゃんて男と下ネタ話せる子?」
「常々思うんですけど、あんな初対面かましておいて私に恥じらいを持てと?」

一体どの口が?という一言を言わないのは私のなけなしの温情だ。

そしてわりと下ネタが話せてしまうのは、間違いなく奈美の影響だった。女同士の下ネタほどえげつないものはない。もちろんここで披露する気もない。

「冷たいなぁ。俺は朱音ちゃん気に入ってるのに」
「じゃあ私にDT見分ける方法教えて下さいよ」
「だから言い方」
「……『Dの男』の見分け方。どうしたらわかりますかね? むしろどこで出会えるのかな」

友藤さんはあんなにだらしない貞操観念の自分を棚に上げて、私が『童貞』とか『DT』とか『真っ最中』とか、あけすけに発言すると眉をひそめる。ほんとによくわからない人だ。

「見分け方って。きっとこのくらいの年齢になれば男は隠したいもんじゃない? わかんないと思うよ」
「隠したいものですか」
「まぁ、俺は違うからなんとも言えないけど」

それならどうやってDの男を探したらいいんだろう。

「そもそも何でそこまでしてDの男に拘ってんの?」

『Dの男』という隠語が定着しているのがバカバカしくて笑えてくる。

今まで友藤さんに何度も聞かれてきたこの質問。毎回面倒くさくて敢えて答えてこなかった。

いっそ『あなたみたいなクズに引っかからないためです』と冗談か本音かわからない返しをしてみようかと思ったこともある。どうしてだか言えなかったけど。

そもそもいつも可笑しそうに笑いながら聞いてくるのも気に入らなかった。バカバカしいとは理解しつつ、私は至極真面目に考えてこの結論に至ったというのに。

私がここまでして拘るのは、自分の独占欲の強さにある。

もし相手が経験豊富な人じゃなければ、少なくとも過去の彼女たちに嫉妬してしまうことはなくなる。

『彼の唯一』になれる。

それだけで私の心の平穏が保たれる気がするから。

女友達なら、自分も奈美以外にちゃんと仲の良い友達を作ったら、奈美が誰と遊んでいたって平気になった。その間、私は別の友達と遊ぶことだって出来る。合流してみんなで一緒に遊ぶことだって出来た。

でも恋愛はそういうわけにいかない。

恋人に仲の良い女友達がいるから、浮気したからといって、自分も男友達と遊びます、浮気しますとはならないし、なれない。そんな爛れた恋愛、私にはまず無理。

いくら友達とは言え女性とふたりで会うなんて許せないし、そもそも仕事以外で彼が女性がいる場に行くのだって本当は嫌だ。それならあまり女性と関わってこなかったような人がいい。

そう考えていった結果、友藤さんのようなクズとは正反対の、未経験の男性とお付き合いするのが私にとって一番いいのではという考えに辿り着いた。

もちろんDTなら誰でもいいというわけではない。自分がその人のことを好きになれて、相手からも思ってもらえることが大前提。

恋愛相手を探す条件に、きっと普通の人は顔とか年収とか性格を挙げるんだろうけど、私の場合DTというだけのこと。

「きっと友藤さんにはない感覚ですよね、嫉妬とか独占欲って」

食後に出されたデザートは秋らしく渋皮栗のモンブラン。下のタルト生地とマロンクリームが絶妙にマッチしていてとても美味しい。

聞かれた質問に嫌味っぽく答えるつもりが、デザートの美味しさに負けて表情が緩んでしまう。あっという間に食べきってしまった。

友藤さんは自分で頼んだフォンダンショコラが乗ったお皿を私の方に押し出した。

「……一口どうぞ的な?」
「いや、食べていいよ。これと迷ってたんでしょ?」
「え、でも」
「俺甘いもの食べないから」

食事のメニューをあっさりドリアに決めたものの、セットに付けるデザートを何にするか真剣に悩んだのを、なぜ見抜かれているのか。そして毎回なぜ食べもしないのにデザートセットを頼むのか。

しかも小ぶりとはいえふたつもケーキを食べるなんて。連日連れ出されたランチで友藤さんが頼んだ分のデザートを食べている。この前は抹茶アイスとカスタードプリンだった。でも目の前の誘惑に逆らえそうにない。帰りは一駅手前で降りて歩こうと心に決めた。

「美味しく食べてくれる子に食べられる方がケーキも幸せだよ」
「……イタダキマス」
「はは、召し上がれ」

このセリフに女の子たちはうっとりするんだろうか。私は鳥肌が立ちそうなんだけど。

食後のタイミングで運ばれてきたフォンダンショコラはまだちゃんと温かい。フォークを入れると中からとろりとした濃厚そうなチョコレートが溢れてくる。

「わぁー!」

美味しそうな光景に堪えきれずに声が出た。

しっとりとしたケーキに溢れ出たチョコレートを纏わせながら口に運ぶ。あまりの美味しさに「くぅー」と呻いて目を閉じた。

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