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渦巻く独占欲《Side遊人》
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しおりを挟む駐車場に車を止めて、ちらりと助手席を伺う。七月に入り、じりじりとした日差しが肌を焼くような暑さなのに、左隣に大人しく座っている彼女は青白い顔をしている。
インテリアのデザインと販売を請け負っている株式会社スパークル。約2ヶ月前に俺が新規で契約を取り付けた企業だ。
そこまで大きな会社じゃないものの、本社があの大企業、水瀬ハウス工業の自社ビルに入っていることも有り、そちらとの繋がりを期待して掛けた営業先だった。
以前は他の病院と契約していて、スパークルの社員が病院まで足を運び健診を受ける形をとっていたが、受診率が悪く総務部のお偉いさんが頭を悩ませていたらしい。秋からはうちで出張健診をすることになった。
今日はその打ち合わせでこうして出向いている。
出張健診は設備の整った医療施設で行うわけではないので、円滑に進めるためには念入りな準備が必要となる。
まずは大きなレントゲン車を社内の敷地内のどこに停めるのか。邪魔にならない場所で、かつ電源を引かなくてはならないので、導線との兼ね合いが重要になる。
そして社内のどの部屋で健診を行うのか。
大きなホールさえあれば、そこをパーテーションで区切って順番に回って行く学校の体育館で行うようなスタイルで話は早い。
しかしそんなものがある企業はほんの一部。大体は小さな会議室を四つ程借りて、そこに検査を振り分けて順路を作る。
そんな話を担当営業と事務の課長あたりが一緒に出向いて、相手先の担当者に説明をする。
本来なら俺と小柴部長が行くはずだったのだが、昨日『僕ちょっとプライオリティ高めの案件が入っちゃったから。中原さんをアサインするよ』と相変わらずの小柴節で突然告げられこうして彼女とふたり、十分程車を走らせてやってきたのだ。
しかし、どうやら彼女の様子がおかしい。
いつもなら『ドライブデートだね』なんて軽口を叩けば氷点下の冷たい視線が返ってくるところだが、小柴部長から引き継いだ顧客データを見て呆然としていた。
どうかしたのかと尋ねても「いえ、大丈夫です」としか返ってこない。
こんな時、普段信頼がないというのはもどかしい。どれだけ辛くても、きっとその胸のうちを俺に打ち明けようとはしないだろう。
そう考えるとなぜかツキリと胸が痛んだ。
「朱音ちゃん?着いたよ」
静かに声を掛けると、ハッとした表情で窓の外を見る。キュッと下唇を噛みしめるその表情は、初めて先方で打ち合わせをする緊張からくるものでないのは明らかだった。
「大丈夫? 打ち合わせなら俺ひとりでも平気だから、車で休んでてもいいよ」
昨日ここに打ち合わせに来ると知ったときから、あまりにも顔色が悪い。体調が悪いのか、この会社に何かあるのか。
そう思って車で待っててもいいと言ったものの、朱音ちゃんは首を横に振って「大丈夫です」と言うばかり。
結局、大丈夫というものを無理に置き去りにすることも出来ず、営業車から降りて正面玄関から二十一階建てのビルに入った。
一階から四階は水瀬ハウスのショールームになっているらしく、大きなガラス張りの窓から燦々と太陽光が入りとても明るい。程よく冷房が効いているエントランスを進み、横に長い受付のカウンターで来訪を告げた。
「お世話になっております。健康推進会中央健診センターの友藤と申します。八階スパークルの佐藤様と十一時のお約束で参りました」
にこやかに挨拶をすると、以前来たときにも顔を合わせた柳(やなぎ)という可愛らしい受付嬢が対応してくれる。
「はい、では右手奥のエレベーターでお上がり下さい」
「ありがとう」
小さく会釈だけして奥へ進む。以前の俺ならきっとこの可愛らしい受付嬢の誘うような視線に乗って、連絡先くらいは貰ったのかもしれない。
清楚に振る舞っている子に限って肉食であることを身を持って知っているし、そんな子達を来るもの拒まずで頂いてきた。
しかし、今はなぜかそんな気が起きない。
その原因が、俯きがちにエレベーターに乗り込む彼女であると、否が応でも自覚し始めていた。
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