名探偵の条件

ヒロト

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11まわれ右

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彼は病室に入りある人物――もちろん僕じゃない――を見るなり顔を強ばらせ、「まわれ右」をして逃げ出そうとした。

しかし・・・それはもう手遅れというものだった。


「あらら、これはお久しぶりです、羽鳥刑事さん。珍しいところでお会いしますね。」

「何でお前がこんなところに・・・ついに刺されたか。」


(・・・ついに?)


「・・・どうして、すぐそういう失礼な発想にいくのかな。」
冬弥のこめかみがピクッと反応したのがわかった。

「それはお前、日頃の行い・・・」

「・・・羽鳥さん。
あなたには本当にお世話になっていますよね。
ぜひ暑中見舞をお宅に送ろうと思っていますが、写真はどんなのがよろしいですか。
例えばMさんと・・・」

「!!! わかった、わかった、わかったから。
・・・お前は風邪かなんかで入院、そうだろう?」

(Mさん? というか・・・)


「冬弥、お前ってもしかしてやばい人?」
「まさか。ちょっとした知り合いにも暑中見舞を出すくらい心の暖かい人。」

僕は冬弥の斜め後ろで、首をぶんぶん横に振っている刑事さんは、見なかったことにする。


世の中には・・・知らない方がよいことも、沢山あるのだろう。


そう、つまらない興味で首を突っ込み、気がついたら嵐の中なんてバカみたいではないか。
僕は冬弥にしっかり告げておく。


「僕は暑いのは好きだから、暑中見舞はいらないぞ。」
「それは残念。じゃあその分、弘幸宛の年賀状はめちゃくちゃにこったやつにしてあげるよ。」

「・・・普通のでいい。というか、普通のがいい。」
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