名探偵の条件

ヒロト

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31哀愁

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・・・悔しい。
自分のたどり着いた場所が、冬弥の遙か下だった事が悔しい。


・・・しかし
冬弥はもう一度ヒントをくれたのだ。
ショックだろうと何だろうと・・・いまさら考えるのを止めるわけにはいかない。
『よく考えたらわかったのに』なんて後悔するのは、絶対に嫌だ。


「・・・冬弥。」
「何だい?」

「犯人には時間があったのか、なかったのか・・・。
そこから考えを進めていけば、必ず答えまでたどり着けるんだな。」

まだあきらめない・・・そんな僕の表情を見て、冬弥が軽く微笑む。


「・・・あぁ。筋道立てて考えていけば、必ずね。
でもまあ・・・ちょっとだけ休憩しようよ。」

「何でだよ。」


「あと少しで羽鳥さんが来る。羽鳥さんの情報を聞いてからの方が、弘幸も考えやすいだろう?
それに、俺だって自分の考えの裏づけがほしい。
忘れてもらっちゃ困るけど、俺の考えが正解だという保障は特にないんだからね。」
肩をすくめて、冬弥がうそぶく。

「・・・自信満々のくせに、よく言うよ。
でもまあ・・・少し頭を休めるのも悪くはないか。
冬弥、羽鳥刑事はいつごろ来るんだい?」

「ん~。約束通りだと30分後かな。
まあ、それ以上待つことはないと思うよ。
なにしろ、1秒でも俺との待ち合わせに遅れたら・・・羽鳥さんの平和な人生は終わりだからね。」

「さらっと怖いこというな!」

「いや~。ほら、やっぱり刑事さんって時間には几帳面じゃないとね。」

「・・・羽鳥刑事も気の毒に。こんなやつに目をつけられちゃって・・・」

「ん? 弘幸が代わりになる?」

「・・・絶対イヤだ。」

「弘幸、おまえ冷たいな~。」

「冬弥に言われたくないわ!!」

そんな馬鹿話をしていると、まだ約束の時間20分前にも関わらず、羽鳥刑事が息をきらし必死の形相で部屋に駆け込んできた。


かわいそうに。
相当冬弥におどかされているんだろうな・・・


失礼だとは思うが、ちょっと同情の目で羽鳥さんを見てしまった。

「明日は我が身」なんて言葉が一瞬頭をよぎったが、首を振ってその考えを強引に打ち消す。

よほど急いできたのだろう。
部屋に入ってからも1分近く、羽鳥刑事は言葉も出せず膝に手を置き大きく肩で息をしていた。

「羽鳥さん、遅いなあ。約束のもう20分前だよ。」
そんな羽鳥刑事に、冬弥が冷たく言い放つ。

つくづく・・・羽鳥刑事、かわいそうに・・・


「しかも、部屋に入るとき『失礼します』の一言がなかった。
・・・やり直し。」

・・・羽鳥刑事の目に殺気がこもる。


その視線の先には、笑顔で手帳をひらひらさせている冬弥。

・・・羽鳥刑事はしばらく冬弥の顔を睨み付けていたが、やがて肩を落とし、とぼとぼと部屋から出て行った。


背中に哀愁がただよう。


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