バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

文字の大きさ
77 / 79
-epilogue-

68『彼女達の再構築計画』

しおりを挟む
 「…どうして、ここに…」
エンキドゥの箱庭から離れた南花達は、気が付くと…見覚えのある古び錆びた木造校舎の廊下に立っていた。
そして、南花の目の前には以前、訪れた工作室の扉がある。

「南花、入りましょう。」
「うん…ってあれ?アリサだけなの?サクラやヨハンナさん達は…」
南花は背後に立つアリサに声を掛けられ、振り返るがそこには…さっきまで一緒にいた筈のサクラ達は居ない。

「きっとこの部屋の主は、私と南花だけに話をしたい事があるのじゃないのかしら…」
少し考える様子を見せたアリサが答える。
「そっか…入るよ。」
納得し短く返事をした南花が、木製の古びた引き戸に手をかけ…ゆっくりと開ける。

「おっ、来たね…好きな所に座ってよ。」
南花とアリサに気付いた、この木造校舎の主であり生徒会長ドミニウムでもある【エレシュキガル】が歓迎する。

「さっきまでエンキドゥさんの箱庭にいた筈なのに、どうしてエレシュキガルさんの工作室に…」
木造の椅子に座った南花が、真っ先に抱いた疑問を投げ掛ける。

「あぁ…それはね、私がエンキドゥに頼んで南花君とアリサ君の意識を、ここに転移して貰ったんだよ。」
黒板を背にして立つエレシュキガルが答える。

「転移…それは【アヌの使徒】としての能力という事かしら?」
南花の隣に座ったアリサが質問する。
「まぁ、私も原理は聞かされていないけど…多分そうだと思うよ。」
曖昧な回答をしたエレシュキガルが本題に移る。

「今回の『再構築計画リビルド・コード』を実行してくれた事に対して、南花君とアリサ君達に改めて感謝するよ、ありがとう。」
エレシュキガルの口角が僅かに上がる。

「はい、こちらこそありがとうございます。私も父さんの意思を引き継ぐ事が出来て良かったです。」
南花が軽く頭を下げて、感謝を伝える。

「私もエレシュキガル様に出会った事で、父が残した意思と…そして、帝国の真実に関して知れた事に関しては感謝します。」
感謝を伝えたアリサが続ける。

「ですが…あなたの計画に賛同したのは利益が一致した点が大きいので。」
アリサが一言、付け加える。
「まぁ、アリサ君のそういうところも嫌いじゃないよ…」
苦笑したエレシュキガルが話を進める。

「それで、今回の『再構築計画リビルド・コード』によって世界を書き換え…いや…更に世界を分岐させたと言う表現の方がしっくり来るかな…」
考える素振りを見せつつも、エレシュキガルが続ける。

「まぁ、どっちでも良いか…2人は世界を分岐させた事で大きな『権利ノブレス』と『責務オブリージュ』を課せられた訳だけれど、これからどうするのか教えて欲しいな。」
そう問い掛けたエレシュキガルは、南花、アリサの順番で視線を送る。

問われた南花は、ポケットから『アトラの懐中時計』を取り出し、視線を落とす。
時計の蓋に刻まれた『この時計を持つ者に、権利ノブレス責務オブリージュを与える。』の文字を再び見る。

そして、エレシュキガルへ視線を戻し…深呼吸した南花が口を開く。

「私はバビロニア帝国の外の世界については知らない事が多いし…見識を深める為にも世界を旅したいと思います。モルガーナさんやギルガメッシュ王と同じように…その上で、これからの私に何が出来るのか考えて行きます。」
南花が、エレシュキガルに対して面と向かって決意の言葉を述べる。

「南花…」
南花の方を見ながら思わず名前を漏らしたアリサは、エレシュキガルの方を見て決意を述べる。

「私も南花と同じく、先ずは視野を広める事に徹するわ…モルガーナ様との契約で得た知識だけでは見えない世界もあるだろうし…」
そう答えたアリサは、工作室の窓際にある地球儀と望遠鏡を一瞥する。

「アリサもそうだと思ったよ…これからもよろしくね。」
「えぇ、そうね…南花もよろしく。」
2人は顔を見合わせて、僅かに微笑む。

「そっか…聞かせてくれてありがとう…次はこれからの私について話す番かな。」
2人の決意に対して頷いたエレシュキガルが続ける。

「私は『再構築計画リビルド・コード』によって生まれ変わったこの帝国に残って、引き続き統括長ドミニウムとしての役割に徹するよ…イシュタルの為にもね…」
そう答えたエレシュキガルの表情が僅かに曇る。

生徒会長ドミニウムの曇った気持ちを払拭するかの様に、木造校舎のチャイムが鳴り響く…

「うん…どうやら、そろそろ別れの時間みたいだね…2人にとって実りのある旅路になる事と安全を心から祈るよ…そして、いつの日か2人ともこの世界に導かれる時を、気長に待っているよ…あぁ、勘違いしないでよ!滅茶苦茶ゆっくりで良いからね。」
明るい調子で別れの挨拶を述べたエレシュキガルは、右手を差し出す。

「はい、エレシュキガルさんにはお世話になりました。まだ先の話だと思いますが、その時はよろしくお願いしますね。」
南花が先に、握手を交わす。

「私も色んな面で助かりました…また会う日まで、さようなら。」
アリサも、続いて握手を交わす。

2人と握手を交わした生徒会長ドミニウムのエレシュキガルは踵を返し、長いスカートをなびかせながら黒板の方に向く。

そして、太股に装着している革製のチョーク入れから取り出したチョークで、黒板に門を描く。
エレシュキガルが手にしているチョークを折ると、門が開いていき、黒板全体が光に包まれていく…

その光の眩しさのあまり、南花とアリサは瞳を閉じ…暗転する。

ーーー

「…南花さん…南花さん…聞いてます?」
隣からアオイの声が聞こえた南花が振り向く。

「あっ…ごめんね、アオイちゃん…それでなんだっけ?」
上の空だった南花が聞き直す。
「もう、油を使っているんですし…ボーっとしないで下さいね…それで、牛海老ブラックタイガーから揚げますね。」
注意したアオイが恐る恐る、油が温まった鍋に食材の一つを投入する。

次の瞬間…牛海老ブラックタイガーの水気がバチバチっと音を立てながら、蒸発する。
そして、アオイが短くヒィ!っと驚きの声を上げる。

「ふっ…アオイはビビりだな。」
「ちょとコマチ、また見に来たの!まだ出来ていないから向こうに行っててよね。」
調理の様子を見に来たコマチに対して、アオイが照れ隠しの様に追い返す。

「そうか…まだなのか…」
腹の虫を鳴かせながら、シュンとした表情を見せつつコマチは去っていく…
「ふっふふ…これも天丼ね。」
そのやり取りを見た南花は、思わず笑う。

「天丼?…もう、南花さんまでからかわないで下さいよ…それよりも、土鍋の火加減はどうかな?」
アオイの言う通り、油の鍋の隣で加熱されている、土鍋では赤子が泣いている。

調理場を去ったコマチは…アリサ、サクラ、ユキノが海図を広げて話合いをしている一室に向かう…

「一先ず、アトラさんの家があると聞いてる【祇園精舎】に向かうのはどうかな?」
サクラが、アリサとユキノに提案する。
「うん…それが良いかもね。」
その隣に立つユキノが頷く。

「確か…祇園精舎は東の方角にあるってエレシュキガル様が言っていたわね。」
アリサが、地球儀を回しながら答える。
「その祇園精舎の地域には、スパイシーな食べ物が沢山あるとも王様から聞いたぞ!またしてもアリサに奢って貰おうかな。」
コマチにたかられた、アリサは涙目になる。

「ふっ…ふふ」
サクラとユキノが、ほぼ同時に笑みを見せる。

「ほら、お昼の準備が出来たし一先ず中断してね。」
アオイが天丼を乗せたトレーを持って部屋に入ってくる。
「へぇ…これが南花さんの一族の故郷に伝わる天丼かぁ…」
初めて見る黄金の衣に、ユキノの目も輝く。

「ユキノさん、楽しみにしていましたもんね…って、あれ?ヨハンナさん達は?」
アオイの次に入って来た南花が、ヨハンナとハンムラビについて聞く。

「確か外で風に当たっていたはず…」
アリサが答える。
「そっか…呼んで来るよ。」
南花がその2人を探しに行く。

外へ出た南花の耳に穏やかな波と風の音が届く…

「らぁんちょう(団長)!ぜぇんぜぇん飲んでいないじゃあねぇか!いつもよりもお酒が薄くなぁいですか?体のどこか悪いんですか?」
普段とは異なり、ハンムラビの方が泥酔している。

「いや、ほらぁ…海の上だし、悪酔いしちゃうからね。」
ヨハンナが隣でウィスキーを控えめに飲んでいる。
「2人とも、お昼の準備が出来ましたよ。」
南花が、若干引き気味に伝える。

「おっ、待ってまぁした!…うっ…」
吐き気に襲われたハンムラビの口から、海に向けて虹色が放たれる。
「ほら、言ったそばから…」
溜め息混じりにぼやいたヨハンナに支えられて、ハンムラビが去っていく…

誰も居なくなった甲板上で、南花は快晴の空を少しのあいだ見上げた後に…船内に戻っていく。

そして、南花達が舵を取る帆船は、バビロニアの地から遠退いていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党
ファンタジー
人類が滅亡した後の世界に、俺はバンパイアとして蘇った。 常識外れの怪力と不死身の肉体を持った俺だが、戦闘にはあまり興味がない。 俺は狼の魔物たちを従えて、安全圏を拡大していく。 好奇心旺盛なホビットたち、技術屋のドワーフたち、脳筋女騎士に魔術師の少女も仲間に加わった。 迷惑なエルフに悩まされつつも、俺たちは便利で快適な生活を目指して奮闘するのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...