二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた

サクラ近衛将監

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第一章 与えられし異能

1-13 報道と調剤

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 翌日俺の名が新聞の朝刊に載ってしまった。
 地方紙だったし、一面じゃなく後ろから数えて三枚目の22面、ここは地域で起きた事案を紹介する紙面だな。

 それとネットにも少しだけ記事が載っていたが、そこに事故のあらましと、救助者として俺ともう一人の男性会社員で高島たかしま紘一こういちさんという男性の名が載せられていた。
 同級生がどれだけこの記事を見ているかわからないけれど、梓ちゃんからは朝の9時に電話が来たよ。

「今朝の新聞見たよ。
 車が爆発炎上、直前に救助ってなっているけど、大丈夫だったの?
 怪我は無い?」

 梓ちゃん、普段の口調の倍ほども早くしゃべっている。

「心配するのはわかるけど、そんなに早口にならないの。
 僕には何の怪我も無いよ。
 事故の一部始終を見てたから、目撃者として警察の事情聴取で帰りが遅くなったぐらいかな。
 帰った途端、お袋に帰るのが遅いって叱られた。
 電話しておけばよかったんだけれど、忘れてた。
 家から近い場所だったしね。」

「そうなんだ。
 でも良かったぁ。
 英一郎さんが無事でいてくれて。
 私を家まで送ってくれた帰り道で事故になんかあったら申し訳ないもの。
 でも、これ、明日学校で評判になりそうな気がする。」

「えーっ?
 でも皆が新聞見てるとは限らないでしょう。」

「うん、・・・。
 でもね、本人が見てなくても家族が教えてくれる。
 私もお父さんが、これお前の高校の子だろうって教えてくれた。」

「あちゃぁ、そんなことがあるのかよ。
 なんだかこっぱずかしいよな。」

「別に悪いことしたわけじゃないんだから、恥ずかしがる必要ないじゃない。
 胸を張っていたらいいのよ。」

「いや、そうは言っても、俺はそういう柄じゃない
 目立つのはどっちかと言うと苦手なんだよ。」

「あら、そうなの。
 私をかばってくれた時だって、物凄く目立ってたじゃない。」

「あれは特別、ああでもしなければ梓ちゃんを守れなかったからな。」

「ありがとう。
 お陰で今は何のストレスも無く学校生活が楽しいですよ。」

 梓ちゃん以外にも、この件で俺に電話やメールを送ってきたのが二人いた。
 中学時代の男友達だ。

 うん、やっぱり新聞の力って大きいね。
 滅多に会えない奴からも連絡が来るんだから。

 22日(日曜日)は、出がけに続けて電話が来たお陰でT山には行きそびれた。
 従って、予定を変えて、今日は家の中で訓練をすることにした。

 事故の処理で反省点が一つ、ガソリンが漏れているのがわかっていながら、延焼を抑制・遅延させていたのを急に解除したことだ。
 幸いにして蒸気が上昇していたために、爆発的な燃焼は火球になって上にエネルギーが向かっていたから良かったが、あれがトンネル内などの閉鎖空間であれば、間違いなく被救助者の怪我人も、手伝ってくれた高島さんとやらも怪我を負っていた可能性が高い。

 もうちょっと念入りに予測をして危険を避けなければいけないなと思ったよ。
 それはともかく、今日は、調をやってみようと思っている。

 材料は、庭にあるものと納屋にあるもの、それに俺の不用品だな。
 地中から有用物を抽出できるんだから、それ以外の物でも試してみようということだ。

 こいつにはある程度化学の知識が要るので、親父の書斎から化学の本と、お袋の持っている家庭医学事典を借り、なおかつネットを開いて少しお勉強だ。
 俺の不要物品の中に期限切れの風邪薬やら、胃腸薬、目薬などの残り物があったし、使い古した電池もあった。

 納屋にあった固形肥料と液体肥料を一部拝借して大枠の素材が揃ったかな。
 後は必要なら、庭で雑草や地中から必要な成分を抽出するつもりだ。

 因みに俺は調剤のスキルはあるんだが、生憎と薬剤師の知識に乏しい。
 だからこれから勉強をしなけりゃならないんだが、下手に物を作ると危険物になりかねないから十分に注意する必要がある。

 色々考えて、取り敢えず読むことのできる書籍を観てから、安全と思われるセルロースを造ろうと思い立った。
 飽くまで実験的な検証だよ。

 セルロースも硝酸系化合物になると爆薬だからね。
 そんなものは危なくて作れない。

 でもセルロースならば、炭素と水素と酸素の炭水化物で所謂多糖体と呼ばれる代物だから、通常状態では危険性が無いはず。
 分子式では「(C6H10O5)n」で表わされ、絵図面ならぬ構造式とにらめっこしながらC6H10O5の単体を製造してみた。

 実は小さすぎて50~120倍のポケット顕微鏡でも良く見えないんだが、これを複数つないでゆけば所謂セルロースの繊維ができるはず。
 そう思って頭の中で順次作業を繰り返す。

 厚みを持たせ、幅を増やし、長さを増して、幅2ミリ、厚さ0.5ミリ、長さは15ミリの薄片を造ったよ。
 小さいけれどこいつは、まぁ、だな。

 素材は樹木の繊維じゃなくって、空気中の二酸化炭素と水から作ったんだが。
 これって良くわからんけれど錬金術になるのかな?

 別に鉛から金を造ったわけじゃないけれど、形の無いモノから形あるモノを造ったんだからほぼ魔法だよね。
 結構、製作に時間はかかるから商業生産には向いてないけれど、少なくとも化合物なら色々造れそうな気がしたよ。

 但し、この調剤能力を使うには、いろいろ考えてから作らないと危なさそうだ。
 本来は、「薬の調剤」の意味合いなんだろうけれど、毒物とか簡単に作ってしまえる可能性があるし、知らない間に妙な化合物を作って周囲に迷惑をかけるのは避けたいよね。

 セルロースの製造後は、爆発の危険性のあるものや引火点の低いものは極力避けて、なおかつ、人体にとって有害ではないものに限定して色々造ってみた。
 試験的な意味合いなので大量生産はしていない。

 結論から言うと既にあるものなら間違いなく造れるようだ。
 もう一つ言うと、恐らく普通には無いものも生みだせた。

 所謂同位体という奴だな。
 炭素は元素の周期律表で見ると原子量が12.0106。

 こいつは自然界にある炭素の平均を現わしているんだが、中性子の数が12,13,14の者が自然に存在している。
 このうち12と13は安定性が高いんだ。

 炭素14は放射性年代測定に使われているので良く知られている。
 炭素12と13を除くと自然界にはあまり多くない、実は、炭素8から炭素22まで15種類があるらしい。

 実験しているうちに俺は、炭素8から炭素11、それに炭素15から炭素22も生み出すことができたよ。
 但し、物凄く微量だからね。

 仮にあっても放射線量は少ないんで被ばく量は問題が無い筈だった。
 更に炭素7を作り出そうとして、何となく危険を察知して無意識に実験は取りやめたよ。

 虫の知らせじゃないんだが、背中に物凄い寒さを感じたんだ。
 何と言えばいいか、ギンギンに冷やした日本刀を首の延髄から背骨にかけてくっつけられたように感じた。

 俺は本能に従って、すぐさま中断した。
 自然に無いということはそもそも存在しちゃいけない代物なのだろうと思う。

 その意味では炭素8も炭素22も似たようなものなのかもしれないが、微量ながら自然界に存在しているということは、その存在が許されていると思うことにした。
 因みに俺が作り出した炭素8から炭素11、炭素14から炭素22までの生成物は、炭素12に戻しておいた。

 次いで試したものが、二酸化炭素のをやってみた。
 俺の『採掘』に伴う抽出の能力は、混合物或いは化合物から一定の元素を抽出できることだと理解している。

 ならば二酸化炭素から炭素を抽出すれば酸素と分離できるんじゃないかと思ったんだ。
 心配なのは分離した酸素が急激に反応して他の元素と結びついたりしないかどうかなんだが、・・・。

 一応念のため庭に出て実験をした。
 親父の飲んだ日本酒5合瓶にスーパーで貰ったドライアイスを詰め込んで、内部を二酸化炭素で埋め尽くし栓をしてからしっかりと鉛と蝋で封印し、内部の二酸化炭素から炭素を分離してみた。

 実験は成功したんだが、びっくりしたのは日本酒の瓶が割れたことだった。
 最初は理由がよくわからなかったんだが、二酸化炭素から炭素を分離すると断熱膨張の様に周囲から温度を奪うことになるようだ。

 炭素を燃やすことで二酸化炭素ができるんだがその際は熱を出している。
 元に戻そうとすれば熱を吸収するのかもしれん。

 割れたガラス瓶が物凄く冷えていてその周囲が真っ白になっていたから最初は入れたドライアイスの所為せいかと思ったんだが、ドライアイスの量以上に周辺が冷えていることがわかった。
 だからマイナス100度まで測れる電子温度計を引っ張り出してもう一度確認したら、ビンが割れる直前にはマイナス98度まで瓶の表面温度が下がっていた。

 多分ガラスの厚みで内部と外部の温度差で割れたんだろうと思う。
 ドライアイスはマイナス79度だから、それ以下の温度に下がる原因は、二酸化炭素からの分離以外にないと思う。

 そもそも、ドライアイスは欠片が三つで、すべて昇華するまで待ってから封をしたから、抽出を始める時点ではマイナス40度ぐらいにまで瓶の温度は上がっていた。
 それなのに分離するとすぐに瓶が割れて、その破片の温度がマイナス98度だったわけだ。

 念のため、三回目の実験ではドライアイスが残っている状態で封印し、三時間置いてから実験をしてみたが、同じ結果を得たので、化学反応をさせずに二酸化炭素を炭素と酸素に分離させると周囲の温度を下げることが確定した。
 今のところ俺しかできないことだから論文で発表するわけにも行かないけれど、これってエントロピー保存の法則に反していないかなぁ?

 まぁ、今は難しいことを考えるのは止めておこう。
 取り敢えずはそういう現象が起きることを知っておくだけでいい。

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