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第四章 東への旅
4ー6 アルビラ港にて
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5ビセットの下旬、マルコの馬車はアルビラ商港まで二日の距離に到達していた。
明日は、アルビラの隣にある宿場タシナムに泊まる予定であるが、今日は野営地のモセリでの宿営である。
生憎と夜中に二度も野党が襲撃して来たが、マルコが出るまでもなく、御者、執事、メイドの三体のアンドロイド型ゴーレムがその全てを排除していた。
早朝にその遺体をマルコが処理しなければならなかった以外は、特段の異常もない。
南部の脇往還から隊商路となる主往還に入ると、襲撃してくる盗賊の類は多くなった。
特にマルコの馬車は、護衛の無い二頭立ての馬車と見えるから、〇キブリ〇イホイのように小集団の盗賊が襲撃してくるのだった。
うざったいことに、この連中に時間の制約なんてものはない。
日中であれ、夜間であれ、獲物と見ると見境なく襲って来るのだった。
50名以上の集団になると船員予定のアンドロイド型ゴーレムなども繰り出し、それでも間に合わないような大集団の場合はマルコが出撃して殲滅していた。
この為にこの半月ほどの間に討伐した野盗・山賊の類は、優に200名を超えるはずである。
中には懸賞首が居たかも知れないけれど、役人に報告すると、どうやって討伐したかなどを詮索され、後々の手続きが面倒なので、生かして捕縛した場合以外は、全て山中や人の通らない原野に埋めてきているのである。
遺骸を放置するとアンデッドになったりする恐れもあるので、原則的に火葬にしてから埋めている。
マルコの浄化魔法の一種である「葬送の火」を放つと、遺体は青い炎に包まれ、僅かの間に白い灰に変わるのである。
これで、野盗の遺骸がアンデッドに変わる心配はない。
5ビセットの26日、マルコとモンテネグロ夫妻は、アルビラ商港に辿り着いていた。
ニオルカンを発ったのが8ビセットの10日であるので、240日余りでマイジロン大陸を横断してきたことになるが、そのうちの三分の二は魔法による転移である。
カラガンダ老が率いた隊商とともに、ニオルカンに向けてアルビラ港を発ってから既に三年余りになる。
カラガンダ翁にしては久方ぶりのアルビラ港であるが、ステラ媼にとっては数十年も昔に夫とともに訪れたことのある港であり、二度と訪れることはあるまいと思っていた大陸東端の港であった。
ステラにとっては若き日の思い出の地であり、カラガンダにとっては古くからの馴染みの多い土地である。
門衛が知己の者であったので、カラガンダ翁が馬車の窓から顔を見せて挨拶を交わした。
そのおかげでアルビラ入域の許可が簡単に降りたようだ。
当初の予定は、ここでマルコの10歳の誕生日を迎え、それから冒険者ギルドへの登録を済ませる予定である。
マルコの誕生日は、6ビセットの9日であり、もう十数日で10歳になる。
取り敢えず、モンテネグロ商会の支店に顔を出し、それから宿を決める予定であるが、場合により馬車の置き馬車さえ確定すれば、馬車での寝泊まりでも一向に差し支えない。
下手な宿に泊まるぐらいならば馬車の中の方が余程快適に過ごせるからである。
あれから船旅用にアンドロイド型ゴーレムのコックも造ったので、現状でアンドロイド型ゴーレムは、御者、執事、メイドが各一体、船員三体にコック一体の合計7体も有る。
これらのゴーレムは、一騎当千の戦闘力を持っており、一国の軍をも相手にできるほどの過剰戦力である。
従って、マルコの馬車は、下手な高級宿屋よりも安全な宿泊所になっているのである。
モンテネグロ商会の前に馬車を止めて、カラガンダ翁が最初に馬車を出ると、それを目ざとく見つけた番頭格のランベルトさんが駆け寄ってきた。
どうやら馬車の側面につけてあるモンテネグロ家の小さな家紋に気づいていたようだ。
「会長、お久しぶりにございます。
ランベルトにございます。
今日は如何なされましたか?
前触れもなく来られるとは思いませんでしたが・・・。」
「あぁ、久しいのぉ。
前触れもなしに訪れたのは単なる遊興の旅じゃからだ。
儂はもう隠居しており、商会のことはボルトス達に任せておるでな。
此度は商用の旅ではない。
とはいいながらも、顔出ししておかねばフィリベルトに叱られよう。」
「ハイ、それは、勿論でございます。
モンテネグロ商会の顔でもあった会長がお見えになって、顔も見せずに帰られたでは、フィリベルト支店長以下の幹部の顔が立ちませぬ。
左程に会長に信用されておらぬのかと噂が立ちましょう。」
「勿論、左様なことはあるはずもないぞ。
遠く離れたニオルカンとアルビラのモンテネグロ商会がつながっておるのは、おぬしらの不断の努力の賜物じゃ。
儂も息子たちもおぬしたちの仕事ぶりに感謝しておるぞ。」
「もしや、後ろの女人はステラ様にございましょうか?
それに、その隣に居るのは数年前にここへ来られた際に連れていた幼子でございましょうか?」
「おう、そうじゃ。
妻のステラじゃ。
ステラは40数年ぶりのアルビラ訪問じゃ。
そうしてマルコは最後の商いの旅でリーベンより連れてきた我が養子じゃ。
マルコがモンテネグロ商会を継ぐことはあるまいでの、此度の遊興の旅に連れてまいったわ。」
ステラが上品な風情で微笑みながら目礼をなし、マルコは子供らしくぺこりとお辞儀をなした。
「左様にございましたか。
何にせよ、店先の路上でお話しするのも野暮というもの。
どうか奥へ入ってくださいませ。
馬車は、裏の隊商が待機する厩舎と広場に回しておきます。」
「クリシュ、店の者の指示に従い馬車を回しておくれ。
セバスとエマについてもそのまま馬車で待機じゃな。
後で身の置き所を知らせる。」
クリシュとは御者役のアンドロイド型ゴーレムの名前であり、セバスとエマはそれぞれ執事とメイド役のアンドロイド型ゴーレムの名前である。
モンテネグロ商会アルビラ支店は店を挙げての歓迎をしようとしたが、モンテネグロ夫妻とマルコは丁重に辞退した。
夫妻の気ままな旅での立ち寄りに店の仕事の邪魔はできないという表向きの理由を立てて、挨拶だけをすませてから、支店長のフィリベルトには宿の手配のみを頼んだのだ。
一行は、御者、執事、メイドを含めて6名であり、アルビラの中でも有名な宿の手配を頼んだのだった。
早速に、アルビラ支店から人が走り、アルビラ市内でも最も高級な宿として知られる「ボルドーメィの館」の宿泊が決まった。
隊商を率いての旅でこのような高級宿を利用することはほとんどない。
商人とは基本的に倹約家なのであり、仕事の上で無駄な金は使わないのだ。
従って、大金持ちのモンテネグロ夫妻にしても、アルビラの高級宿に宿泊するのは初めての経験であった。
これまでのアルビラ訪問では隊商を率いての旅だったから、安宿か若しくは支店が保有している仮宿舎で逗留するのが普通であったのだ
その日の夜は、その宿でモンテネグロ商会アルビラ支店の幹部や有志が集い、カラガンダ翁、ステラ媼、マルコの歓迎の宴が催された。
マルコは専ら大人同士の昔話の聞き役に回っていた。
このボルドーメィの館には当面半月ほどの逗留を予定している。
マルコの10歳の誕生日を期して、冒険者ギルドに登録し、身分証明を造ってもらうのが第一の目的であった。
その後の予定では、当初、アルビラの北側にある海岸で船を造る予定であったのだが、マルコが旅の途中でほぼ船を造り上げてしまっていたので、この予定はなくなった。
従って、マルコの身分証明ができた時点でいつでもマイジロン大陸を離れることができるのである。
尤も、それまでに更なる食料などの準備はするつもりでいる。
アルビラは貿易の重要な港であるため、諸国から色々な物資が集まってくる場所であり、街中で探すと色々と有益なものが見つかる可能性がある。
従って、アルビラ到着後の翌日からはアルビラ市内の散策と買い物が待っていた。
◇◇◇◇
マルコが10歳の誕生日を迎えた翌日、6ビセットの10日、モンテネグロ夫妻とマルコはアルビラ市内の西部にある冒険者ギルドのアルビラ支部に向かっていた。
マルコが一人でも行けなくはないのだが、保証人としてモンテネグロ夫妻もついていった方が良いだろうということで一緒に行くことになったのだ。
モンテネグロ夫妻が動くことになったので、執事役のセバスとメイド役のエマもついてくることになった。
マルコ一人でも大丈夫なのではあるが、この二体のアンドロイド型ゴーレムはモンテネグロ夫妻の警護役を兼ねている。
こうして五人連れは、その日の南中時の半時ほど前に冒険者ギルドに入ったのだった。
マルコはまっすぐに受付に向かった。
そのすぐ後ろにモンテネグロ夫妻とアンドロイド型ゴーレム二体が続く。
冒険者ギルドもこの時間になると受付はすいている。
朝方の一番混む時間帯は避けているので、受付のある大きなホールも閑散としており、右脇にある食堂兼酒場も数人の冒険者らしき姿があるだけで、閑散としている。
四人程居る受付嬢も手持無沙汰のようだ。
マルコは、右端の受付に正対した。
「うん?
坊や、もしかして用事なのかしら?」
そう受付嬢のナンシーが尋ねた。
少し離れて四人の大人が立っているものの、受付の前に来たのはマルコだけだったからだ。
少年の身なりは金のかかっている衣装のようなので、少なくとも貧乏人ではないし、風体からすると貴族でもない。
ナンシーの見るところ商人の子供と思えたのだ。
であればもしかして依頼の話なのかなと思ってそう聞いたのだ。
「はい、冒険者の登録をしたいのですけれど、こちらで登録はできますか?」
「あら、まぁ、登録だったのね。
ごめんなさい。
改めてご挨拶しますね。
冒険者ギルド、アルビラ支部へようこそ。
私は、受付のナンシーと言います。
で、冒険者への登録は10歳からなのですけれど、もう10歳になっているのかしら?」
「ハイ、僕は10歳になっています。
後ろに居るのは僕の義父様と義母様ですので、僕の年齢を保証してくれます。」
ナンシー嬢はにっこりしながら言った。
「わかりました。
でも実は保証人は必要ないんですよ。
登録の際に登録する人の基本的な情報が水晶で見えますからね。
嘘をついてもすぐにわかるんです。
但し、冒険者ギルドに登録するにはそれなりの条件が必要なんですよ。
主として体力があるかどうかや武器の扱いができるかどうかね。
その点は、登録する前の試験を行いますけれど、それで合格しなければ冒険者には登録できません。
それともう一つ、12歳までは半人前と見做されていて、冒険者見習いという立場になります。
冒険者には等級があって上級クラスの「金」と「銀」、中級クラスの「青銅」と「赤銅」、初級クラスの「重鉄」と「軽鉄」がありますけれど、冒険者見習いはさらにその下の「魔木」になるんです。
「魔木」クラスは、簡単に言うと街中でのお手伝いや、町の外での薬草採取などができますけれど、魔物の討伐などのクエストは単独では受けられません。
上位の冒険者のチームに加わった場合には、当該冒険者の階級の平均レベルでの仕事も受けられるようになってはいますが、ギルドとしては余りお勧めしていません。
魔物討伐は12歳以上になって見習いが取れた時点で始めるべきだと考えているからです。
ここまでで質問はありますか?」
「冒険者ギルドの身分証明は他国でも有効だと聞いていますが間違いありませんか?」
「ハイ、冒険者ギルドは世界規模で各大陸や各国の主要な地域に支部を置いています。
ギルド自体は一応国との協約に基づいて協約内容に従いますけれど、あくまで国とは異なる独立した機関であり、ギルドや会員の権益が侵害されるような場合には、国の権力からも組合員を守る義務があります。
例えば自らの意に反してギルド会員が戦争に駆り出されるようなことはありません。
但し、ギルドが必要とする場合には、その総力を挙げて街を守るような仕事に就く場合もあります。
例えば、スタンピードが発生したような場合ですね。
ギルドは国の安全については左程配慮しませんが、そこに住む住民の安全には配慮するのです。
この原則が守られる限り、冒険者ギルドの登録会員としての身分証明は、どこの国や地域に行っても有効です。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1月4日及び2月29日、ゴーレムの名前について訂正しました。
By サクラ近衛将監
明日は、アルビラの隣にある宿場タシナムに泊まる予定であるが、今日は野営地のモセリでの宿営である。
生憎と夜中に二度も野党が襲撃して来たが、マルコが出るまでもなく、御者、執事、メイドの三体のアンドロイド型ゴーレムがその全てを排除していた。
早朝にその遺体をマルコが処理しなければならなかった以外は、特段の異常もない。
南部の脇往還から隊商路となる主往還に入ると、襲撃してくる盗賊の類は多くなった。
特にマルコの馬車は、護衛の無い二頭立ての馬車と見えるから、〇キブリ〇イホイのように小集団の盗賊が襲撃してくるのだった。
うざったいことに、この連中に時間の制約なんてものはない。
日中であれ、夜間であれ、獲物と見ると見境なく襲って来るのだった。
50名以上の集団になると船員予定のアンドロイド型ゴーレムなども繰り出し、それでも間に合わないような大集団の場合はマルコが出撃して殲滅していた。
この為にこの半月ほどの間に討伐した野盗・山賊の類は、優に200名を超えるはずである。
中には懸賞首が居たかも知れないけれど、役人に報告すると、どうやって討伐したかなどを詮索され、後々の手続きが面倒なので、生かして捕縛した場合以外は、全て山中や人の通らない原野に埋めてきているのである。
遺骸を放置するとアンデッドになったりする恐れもあるので、原則的に火葬にしてから埋めている。
マルコの浄化魔法の一種である「葬送の火」を放つと、遺体は青い炎に包まれ、僅かの間に白い灰に変わるのである。
これで、野盗の遺骸がアンデッドに変わる心配はない。
5ビセットの26日、マルコとモンテネグロ夫妻は、アルビラ商港に辿り着いていた。
ニオルカンを発ったのが8ビセットの10日であるので、240日余りでマイジロン大陸を横断してきたことになるが、そのうちの三分の二は魔法による転移である。
カラガンダ老が率いた隊商とともに、ニオルカンに向けてアルビラ港を発ってから既に三年余りになる。
カラガンダ翁にしては久方ぶりのアルビラ港であるが、ステラ媼にとっては数十年も昔に夫とともに訪れたことのある港であり、二度と訪れることはあるまいと思っていた大陸東端の港であった。
ステラにとっては若き日の思い出の地であり、カラガンダにとっては古くからの馴染みの多い土地である。
門衛が知己の者であったので、カラガンダ翁が馬車の窓から顔を見せて挨拶を交わした。
そのおかげでアルビラ入域の許可が簡単に降りたようだ。
当初の予定は、ここでマルコの10歳の誕生日を迎え、それから冒険者ギルドへの登録を済ませる予定である。
マルコの誕生日は、6ビセットの9日であり、もう十数日で10歳になる。
取り敢えず、モンテネグロ商会の支店に顔を出し、それから宿を決める予定であるが、場合により馬車の置き馬車さえ確定すれば、馬車での寝泊まりでも一向に差し支えない。
下手な宿に泊まるぐらいならば馬車の中の方が余程快適に過ごせるからである。
あれから船旅用にアンドロイド型ゴーレムのコックも造ったので、現状でアンドロイド型ゴーレムは、御者、執事、メイドが各一体、船員三体にコック一体の合計7体も有る。
これらのゴーレムは、一騎当千の戦闘力を持っており、一国の軍をも相手にできるほどの過剰戦力である。
従って、マルコの馬車は、下手な高級宿屋よりも安全な宿泊所になっているのである。
モンテネグロ商会の前に馬車を止めて、カラガンダ翁が最初に馬車を出ると、それを目ざとく見つけた番頭格のランベルトさんが駆け寄ってきた。
どうやら馬車の側面につけてあるモンテネグロ家の小さな家紋に気づいていたようだ。
「会長、お久しぶりにございます。
ランベルトにございます。
今日は如何なされましたか?
前触れもなく来られるとは思いませんでしたが・・・。」
「あぁ、久しいのぉ。
前触れもなしに訪れたのは単なる遊興の旅じゃからだ。
儂はもう隠居しており、商会のことはボルトス達に任せておるでな。
此度は商用の旅ではない。
とはいいながらも、顔出ししておかねばフィリベルトに叱られよう。」
「ハイ、それは、勿論でございます。
モンテネグロ商会の顔でもあった会長がお見えになって、顔も見せずに帰られたでは、フィリベルト支店長以下の幹部の顔が立ちませぬ。
左程に会長に信用されておらぬのかと噂が立ちましょう。」
「勿論、左様なことはあるはずもないぞ。
遠く離れたニオルカンとアルビラのモンテネグロ商会がつながっておるのは、おぬしらの不断の努力の賜物じゃ。
儂も息子たちもおぬしたちの仕事ぶりに感謝しておるぞ。」
「もしや、後ろの女人はステラ様にございましょうか?
それに、その隣に居るのは数年前にここへ来られた際に連れていた幼子でございましょうか?」
「おう、そうじゃ。
妻のステラじゃ。
ステラは40数年ぶりのアルビラ訪問じゃ。
そうしてマルコは最後の商いの旅でリーベンより連れてきた我が養子じゃ。
マルコがモンテネグロ商会を継ぐことはあるまいでの、此度の遊興の旅に連れてまいったわ。」
ステラが上品な風情で微笑みながら目礼をなし、マルコは子供らしくぺこりとお辞儀をなした。
「左様にございましたか。
何にせよ、店先の路上でお話しするのも野暮というもの。
どうか奥へ入ってくださいませ。
馬車は、裏の隊商が待機する厩舎と広場に回しておきます。」
「クリシュ、店の者の指示に従い馬車を回しておくれ。
セバスとエマについてもそのまま馬車で待機じゃな。
後で身の置き所を知らせる。」
クリシュとは御者役のアンドロイド型ゴーレムの名前であり、セバスとエマはそれぞれ執事とメイド役のアンドロイド型ゴーレムの名前である。
モンテネグロ商会アルビラ支店は店を挙げての歓迎をしようとしたが、モンテネグロ夫妻とマルコは丁重に辞退した。
夫妻の気ままな旅での立ち寄りに店の仕事の邪魔はできないという表向きの理由を立てて、挨拶だけをすませてから、支店長のフィリベルトには宿の手配のみを頼んだのだ。
一行は、御者、執事、メイドを含めて6名であり、アルビラの中でも有名な宿の手配を頼んだのだった。
早速に、アルビラ支店から人が走り、アルビラ市内でも最も高級な宿として知られる「ボルドーメィの館」の宿泊が決まった。
隊商を率いての旅でこのような高級宿を利用することはほとんどない。
商人とは基本的に倹約家なのであり、仕事の上で無駄な金は使わないのだ。
従って、大金持ちのモンテネグロ夫妻にしても、アルビラの高級宿に宿泊するのは初めての経験であった。
これまでのアルビラ訪問では隊商を率いての旅だったから、安宿か若しくは支店が保有している仮宿舎で逗留するのが普通であったのだ
その日の夜は、その宿でモンテネグロ商会アルビラ支店の幹部や有志が集い、カラガンダ翁、ステラ媼、マルコの歓迎の宴が催された。
マルコは専ら大人同士の昔話の聞き役に回っていた。
このボルドーメィの館には当面半月ほどの逗留を予定している。
マルコの10歳の誕生日を期して、冒険者ギルドに登録し、身分証明を造ってもらうのが第一の目的であった。
その後の予定では、当初、アルビラの北側にある海岸で船を造る予定であったのだが、マルコが旅の途中でほぼ船を造り上げてしまっていたので、この予定はなくなった。
従って、マルコの身分証明ができた時点でいつでもマイジロン大陸を離れることができるのである。
尤も、それまでに更なる食料などの準備はするつもりでいる。
アルビラは貿易の重要な港であるため、諸国から色々な物資が集まってくる場所であり、街中で探すと色々と有益なものが見つかる可能性がある。
従って、アルビラ到着後の翌日からはアルビラ市内の散策と買い物が待っていた。
◇◇◇◇
マルコが10歳の誕生日を迎えた翌日、6ビセットの10日、モンテネグロ夫妻とマルコはアルビラ市内の西部にある冒険者ギルドのアルビラ支部に向かっていた。
マルコが一人でも行けなくはないのだが、保証人としてモンテネグロ夫妻もついていった方が良いだろうということで一緒に行くことになったのだ。
モンテネグロ夫妻が動くことになったので、執事役のセバスとメイド役のエマもついてくることになった。
マルコ一人でも大丈夫なのではあるが、この二体のアンドロイド型ゴーレムはモンテネグロ夫妻の警護役を兼ねている。
こうして五人連れは、その日の南中時の半時ほど前に冒険者ギルドに入ったのだった。
マルコはまっすぐに受付に向かった。
そのすぐ後ろにモンテネグロ夫妻とアンドロイド型ゴーレム二体が続く。
冒険者ギルドもこの時間になると受付はすいている。
朝方の一番混む時間帯は避けているので、受付のある大きなホールも閑散としており、右脇にある食堂兼酒場も数人の冒険者らしき姿があるだけで、閑散としている。
四人程居る受付嬢も手持無沙汰のようだ。
マルコは、右端の受付に正対した。
「うん?
坊や、もしかして用事なのかしら?」
そう受付嬢のナンシーが尋ねた。
少し離れて四人の大人が立っているものの、受付の前に来たのはマルコだけだったからだ。
少年の身なりは金のかかっている衣装のようなので、少なくとも貧乏人ではないし、風体からすると貴族でもない。
ナンシーの見るところ商人の子供と思えたのだ。
であればもしかして依頼の話なのかなと思ってそう聞いたのだ。
「はい、冒険者の登録をしたいのですけれど、こちらで登録はできますか?」
「あら、まぁ、登録だったのね。
ごめんなさい。
改めてご挨拶しますね。
冒険者ギルド、アルビラ支部へようこそ。
私は、受付のナンシーと言います。
で、冒険者への登録は10歳からなのですけれど、もう10歳になっているのかしら?」
「ハイ、僕は10歳になっています。
後ろに居るのは僕の義父様と義母様ですので、僕の年齢を保証してくれます。」
ナンシー嬢はにっこりしながら言った。
「わかりました。
でも実は保証人は必要ないんですよ。
登録の際に登録する人の基本的な情報が水晶で見えますからね。
嘘をついてもすぐにわかるんです。
但し、冒険者ギルドに登録するにはそれなりの条件が必要なんですよ。
主として体力があるかどうかや武器の扱いができるかどうかね。
その点は、登録する前の試験を行いますけれど、それで合格しなければ冒険者には登録できません。
それともう一つ、12歳までは半人前と見做されていて、冒険者見習いという立場になります。
冒険者には等級があって上級クラスの「金」と「銀」、中級クラスの「青銅」と「赤銅」、初級クラスの「重鉄」と「軽鉄」がありますけれど、冒険者見習いはさらにその下の「魔木」になるんです。
「魔木」クラスは、簡単に言うと街中でのお手伝いや、町の外での薬草採取などができますけれど、魔物の討伐などのクエストは単独では受けられません。
上位の冒険者のチームに加わった場合には、当該冒険者の階級の平均レベルでの仕事も受けられるようになってはいますが、ギルドとしては余りお勧めしていません。
魔物討伐は12歳以上になって見習いが取れた時点で始めるべきだと考えているからです。
ここまでで質問はありますか?」
「冒険者ギルドの身分証明は他国でも有効だと聞いていますが間違いありませんか?」
「ハイ、冒険者ギルドは世界規模で各大陸や各国の主要な地域に支部を置いています。
ギルド自体は一応国との協約に基づいて協約内容に従いますけれど、あくまで国とは異なる独立した機関であり、ギルドや会員の権益が侵害されるような場合には、国の権力からも組合員を守る義務があります。
例えば自らの意に反してギルド会員が戦争に駆り出されるようなことはありません。
但し、ギルドが必要とする場合には、その総力を挙げて街を守るような仕事に就く場合もあります。
例えば、スタンピードが発生したような場合ですね。
ギルドは国の安全については左程配慮しませんが、そこに住む住民の安全には配慮するのです。
この原則が守られる限り、冒険者ギルドの登録会員としての身分証明は、どこの国や地域に行っても有効です。」
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1月4日及び2月29日、ゴーレムの名前について訂正しました。
By サクラ近衛将監
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