母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第四章 東への旅

4ー19 サザンポール亜大陸に向けて

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 マルコ達一行を乗せたグリモルデ号は、リーベンの都ツロンを出港すると一旦南下します。
 リーベンの中でも最大の島であるアラタ島の南端ブーラ岬をかわし、ラハン海峡を通って東へと進路を取るコースなのです。

 アラタ島は南北に細長い島であり、ツロンから380ケイリ(約560㎞)ほども南下しないと東に向けるコースを取れないのです。
 ブーラ岬に行く途中にカラガンダ翁と初めて出遭った商港バクホウがありますけれど、今回は立ち寄りません。

 バクホウもいくつかあるカラガンダ翁の交易地ではあったのですけれど、カラガンダ翁は敢えてバクホウを訪問しないことで、マルコ達一行の足取りを隠そうとしたのです。
 ニオルカンを旅立ってから既に一年余りの歳月が過ぎておりますし、マーモット王国の東にあるいくつかの国を飛ばして転移してきましたので、その逃走ルートは手繰れないはずなのです。

 但し、アルビラの港ではカラガンダ翁の知人と会っているために、少なくともアルビラに到達したことはいずれマーモット王国に漏れる恐れがあるのです。
 マルコを狙ったマーモット王国の貴族の手も流石に遠く離れたアルビラまでは手が出せないとは思うのですけれど、念のために、リーベン以降の行く先を知らせないようにするための方策なんです。

 ツロンまでの足取りは捕まえられても、その先が分からなければ、流石に追いかけるのは難しいでしょう。
 ですからツロンではカラガンダ翁も知人にはどこに行くとは知らせていないのです。

 ツロンを出港する予定は伝えましたが、相手がマイジロン大陸へ戻るものと勝手に思い込んでくれるための小細工です。
 誰も小舟とも思えるような帆船で、荒れやすいリーベンの東の海を渡ってサザンポール大陸へ向かうとは思っていないはずなのです。

 アルビラからリーベンまでの間には、いくつかの島嶼群からなる寄港地がありますので、日和を見つつ島嶼群に立ち寄りながらリーベンまで来訪することはそう難しいことではありません。
 一方で、リーベンからサザンポール亜大陸までの直線距離は、マイジロン大陸からリーベンまでの距離の二十分の一程しかないのですけれど,途中に寄港できるような島嶼が無く、また北側に大きな海洋があるために、大きな波浪が起きやすい海域であることから、小型船での往来は難しいとされているのです。

 特にアラタ島南端のブーラ岬の東北東300ケイリ(約500㎞)付近の海域は、昔から海の怪物が出没する危険海域として知られており、大型船でも当該海域は避けるのです。
 当面の目的地であるサザンポール亜大陸北西部の商港都市ケサンドラスに向かうには、ブーラ岬をかわした後で、略東北東方面に針路を向けなければなりませんが、その進路上に危険海域が存在します。

 巨大な海洋に生息する生物については、噂だけであまりよく知られておらず、どのような怪物なのかは定かではないのですけれど、噂では地球世界で言うところのクラーケンのような触手を持った怪物らしく、大型船でも海底に引きずり込まれるという言い伝えが昔から残っているのです。
 マルコとグリモルデ号ならば、少々の怪物が出てきたところで対処はできると思いますが、『君子危うきに近寄らず』ですよね。

 ブーラ岬の南ラハン海峡を通過して、リーベンの岸から20けいり(約35㎞)ほども離れた海域を2日程は北上することにより当該危険地帯を回避する予定なのです。
 2日間で北上した距離はおよそ300ケイリ(約520㎞)ほどになります。

 ここから略北東方向に針路をとって危険海域をかわした後で、東へ針路を変える予定でした。
 ツロンでは、サザンポール亜大陸に関わる水路誌、地図、地誌などの書籍や情報を入手しており、サザンポール亜大陸での旅程も概ねは決めているのですけれど、この航海中にサザンポール大陸での詳細旅程を詰めることになっています。

 グリモルデ号の速力を上げて、航海時間を短縮することはできますけれど、ツロンを出港した時間が日誌には記載されていますので、余り早くに着くと港湾管理の官憲等に余計な疑いを持たれます。
 従って、ツロンからケサンドラスまでの航海は、大型商船の航海日数に準じた日数をかけることになります。

 アラタ島からの直線距離なら一千浬(ケイリ)未満なのですが、迂回路を取るために4割増しの千三百浬(ケイリ)を超える行程になり、通常の大型船であれば概ね7日から9日ほどかかることになります。
 そうして迂回したはずの危険海域でしたが、ブーラ岬航過から数えて5日目の夜に異変が起きました。

 センサーに海底から浮上してくる気配を察知したのです。
 凄く大きいですね。

 直径が400ブーツ(約290m)ほどもあるやや扁平な胴体?頭部?に百本を超える触手をもったクモヒトデをイメージすればよいかもしれませんね。
 触手の長さは胴体部の5倍の2000ブーツ(約1500m)ほどもありそうです。

 グリモルデ号が航行している海域の水深は、およそ7千ブーツ(約5000m)ほどですが、その海底部分からかなりの速さで浮上してくるのです。
 この怪物が浮上してくる際には、触手が海底方向を向いていましたけれど、水深が千mを切ったあたりで、本体浮上の速度がやや落ちて、その代わりに触手が一斉に上に向かって浮上してくるのが分かりました。

 グリモルデ号の速力を上げ、若しくは空間転移で逃げるのは簡単ですけれど、この怪物はどうも生息海域を拡げているようですので、放置すると他の交易船が危ないですよね。
 小さな島のような本体を持ち、長い触手を無数に持つ化け物ですから、大型船と言えどもこれに対抗するのは難しいでしょう。

 この種を絶やすことは難しいかもしれませんが、このデカ物を一体倒しておくだけでも交易船の安全性が増すことになりますよね。
 従って、戦闘態勢(グリモルデ号を潜行できるような状態に変化させて、待機するだけ)に移行して待ち構えました。

 生身の身体を持つ、マルコやカラガンダ夫妻は居間で待機です。
 居間でならば、グリモルデ号が振り回されても影響を受けませんからね。

 グリモルデ号の剛性は非常に高いので、破壊される心配はまずありません。
 但し、今回の戦闘の主力はマルコになりそうです。

 搭乗しているゴーレムも非常に強力なんですが、如何せん相手がデカすぎます。
 触手の太さだって先端の円周が4ブーツ(約3m)から5ブーツ(約3.6m)ほどもありそうで、それが百本もあれば、数体のゴーレムでは対応しかねるかもしれません。

 一応、ゴーレムが扱えるような大剣も準備はしているのですけれど、刃渡りが精々1m程度の大剣では、触手の一本を切断するのも中々苦労しそうです。
 そうして海中からグリモルデ号を包み込むように触手が無数に林立して襲い掛かってきました。

 マルコが最初に対応したのは電撃でした。
 雷は一般的に1億ボルト程度と言われていますが、その三倍約3億ボルトの電撃を放ちました。

 水に濡れている触手ですし、海中にも勿論電撃が及びます。
 グリモルデ号の至近にあった触手は一瞬にして黒焦げになりましたけれど、流石にモンスター、再生能力も高いようで、徐々に触手が再生して行きますが、浮上中の本体の動きが止まりました。

 そこで二の手を繰り出します。
 どんな化け物であれ命ある存在である限り、生体が生きてゆくための活動があります。

 陸上の生物の場合、適度の温度、水、空気や生活空間が必要なわけですが、この化け物は暗く寒い海底に潜んでいる様子ですので温度変化や圧力変化にも強いのでしょう。
 でもそんな怪物でも新陳代謝に必要な酸素が無ければ生きて行けません。

 鑑定分析によれば、体液にはイカと同じような銅を含むヘモシニアンがあるようです。
 このヘモシニアンが体内の末端まで酸素を送り届けているようで、このほかにも大きな魔石からの魔力回路のルートが魔力を伝えて、生体組織全体を強化しているようですね。

 マルコは、このヘモシニアンを変性させて酸素と反応させないようにしましたし、体内の魔力回路を封じて、このデカ物の動きを完全に止めたのです。
 荒れ狂っていた触手が一斉にしなびたように海中に沈み、胴体から垂れ下がっています。

 このデカ物が完全に死に絶えるまでその場で丸一日漂泊しましたが、ようやく死んだものと判断してその場を離れることにしました。
 魔石を持つ魔物は食用になることも多いのですが、この化け物は食用にはなりそうにありません。

 地球に居たダイオウイカと同様にアンモニアを含んだ細胞が多数存在しているために、食用にはならないし、死ぬとすぐに腐敗を始めます。
 最終的に海を汚しそうな気がしたので、空気中に持ち上げて大火力で焼却処分としました。

 焼却処分の前に魔石だけは取り除いてインベントリに保管してあります。
 因みにこの魔石、直径が2m程もあるすごく大きなものなんですよ。

 この為に予定の航海が丸一日遅れてしまいましたね。
 特段急ぐ必要も無かったのでそのまま普通に帆走を続けましたよ。

 多少の荒天はありましたけれど、グリモルデ号の航行には支障がありませんでした。
 ツロンを出て10日目の昼過ぎに、グリモルデ号は無事にサザンポール亜大陸の商港都市ケサンドラスに入港することができました。

 途中で、クラーケン擬きの怪物を討伐した話は勿論内緒ですね。

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