母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第六章 故郷の村へ

6ー2 ハレニシアの上空にて

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 マルコは、万が一の場合であって、最速でハレニシアに到達せねばならない場合の筋書きも一応考えました。
 サザンポール亜大陸の東端の港であるイタロールから、オズモール大陸の西端の港カヴァレロまでは海路で半月程度ですので、一応20日も見ておけば十分でしょう。

 イタロールで冒険者ギルのクエストは実施済みですので、これから半年までは放置していても冒険者ギルドの登録証は有効なのです。
 ただ、オズモール大陸を陸路で横断するとなれば、直線距離で概ね2万里(略14800㎞)、道なりの経路だと3万2千里(略2万4千㎞)ほどになるのじゃないかと思っています。

 仮に、この距離を自分の足で歩くとなれば、約600日程度、2年ほどは間違いなくかかることになるでしょうね。
 一方で、馬車の旅の場合、人の歩く速さの倍の速度を長時間続けることは結構難しいのです。

 馬車の移動速度が人の足の5割増しとしたなら、オズモール大陸を横断するだけで400日ほどになるでしょうか?
 天候に左右されて動けない場合や、自然災害で道路が使えない等の状況もあり得ますので、それよりも遅くなるのが普通です。

 勿論、駅馬車のような急ぎ旅を助ける乗り物が有って、なおかつ、次から次へと連絡をしてくれるような交通機関が整備されていれば別ですけれど、さほど急いで移動する必要のないこの世界では、そうした公共交通機関があるはずもありません。
 その点、海難という大きなリスクはありますけれど、一番早いのは海路の船旅なんです。

 船旅の場合、風さえ良ければ一日に600里ほどの移動は可能なのです。
 仮にオズモール大陸を北回りで回った場合、おおよそでエルドリッジ大陸までは3万里ほどの距離になるはずです。

 つまりは海路であれば最短50日程度での移動も可能だという事です。
 生憎とこの世界ではそんな長距離を一度に動く船はありません。

 そもそもが沿岸航法と云って、陸岸を見ながら昼間に航海するのが普通の船旅なのです。
 ですからこの世界の船旅ならば、仮にうまいこと中継港が有ったにしても、最速でも百日前後はかかることになるでしょう。

 海の場合、時化の日もありますから、百日もの間無事に航行できる方がむしろ異常なのです。
 無論、大陸間の大海原(例えば、マイジロン大陸からサザンポール大陸間や、サザンポール大陸からオズモール大陸間)では夜だからと言って船を止めるわけには行きませんから、基本的に昼夜兼行で走りっぱなしです。

 但し、これは何もないとわかっているからこそできることで、暗夜に岩礁の多い沿岸を船を走らせる愚か者はいません。
 マルコの造ったグリモルデ号ならば、センサーも積んでいますので、闇夜の航海も十分に可能なわけですが、その場合は、12歳になったばかりのマルコが船のオーナーであることは常識的に難しいでしょう

 従って、マルコではない大人のオーナーを立てる必要がありそうです。
 執事のセバスでも十分に貫禄はありそうですが、個人で船を所有するのですから、当然に富裕層であって、それなりの執事等の従者も確保している必要がありますので、ここは全く別のオーナーを立てるべきなのでしょうね。

 要すれば、マルコはその船の護衛の一人としてでも乗船していることにしておけばよいでしょう。
 うーん、ついでに歳の近い子供をその家族に入れておけば、話し相手として雇ったという建前は通りそうですね。

 そんなわけで、マルコは、オーナー家族の人型アンドロイドを作ってみました。
 グリモルデ号の仮想オーナーは、某国の子爵令息であるレイチャーズ・ベリングストン34歳、その奥様がレナ・ベリングストン32歳、娘がアンナ・ベリングストン11歳としました。

 この船の所有者登録は偽物ですけれど、見破られる心配はありません。
 某国の登録所にはちゃんと記録を残してあるのです。

 やるなら徹底的にと云うことで、某国まで飛行艇で飛んで、役所等の記録を内緒で調べてベリングストン子爵の消息不明となった子息を選び、関連の偽書類も作ってこそっと関連する船の役所の保管庫に入れてあるのです。
 因みにベリングストン子爵の住まいは、海岸から遠く離れた内陸部ですので、この登録に気づく恐れはないでしょう。

 登録には登録料が必要なのですが、一旦納入すると以後は不要とされていますので、この辺も船を単なる動産と見做みなしている中途半端な法制の欠点ですね。
 本来は大きな価値があるわけなので、登録制度としてはその権利を守るために毎年登録料を徴収すべきなのです。

 法制の不備を指摘しても仕方のないことですけれど・・・。
 何せ某国は、サザンポール亜大陸の中央域北部にある国ですので、当該国へ船の所有権について確認をしようと思えば最低でも一年や二年はかかることになりますから、誰もそんなことはしないはずなのです。

 ベリングストン子爵は実際に某国に実在する人物ですし、レイチャーズ氏は妾腹の子で20年ほど前に家出をして消息不明になった人物ですから、それ以上の確認の仕様もないはずです。
 仮に、レイチャーズ氏を知っている人物が居ても、20年前の顔から現在の顔を推測できる人は少ないでしょう。

 因みにレイチャーズ氏は、顔に大怪我をしために常時仮面を付けているという想定なのです。
 歌劇に出て来る「ファントム」を思い起こせばよいかもしれませんね。

 そんな設定で、グリモルデ号は、僕のダミーであるアンドロイドをも乗せて、イタロールから出港、取り敢えずカヴァレロに入港させることにしています。
 カヴァレロ入港時には、冒険者ギルドでマルコが簡単な依頼を受け、その後に出航させる予定です。

 グリモルデ号の次の入港予定地は、エルドリッジ大陸の北西端の港町で、その次がハレニシアのある入江の予定にしています。
 傍目からは色々と疑われる可能性の高い海路コースではありますが、これが一番早く到着する方法ですね。

 さもなければ一年が350日弱のこの世界で最低二年、長ければ三年待たねば、親子の対面ができなくなってしまうのです。
 ですからここでマルコはずるをしちゃうのです。

 この計画を遂行した場合、オズモール大陸の拠点で必要なのは、カヴァレロ一つだけになりますね。
 一応、念のため内陸部の町を含めて10カ所もの中継地点を選定はしているのですが、そちらは今後に役立てることもあるかも知れません。

 カヴァレロを出港した後の寄港地は、いきなりエルドリッジ大陸北西の港町になります。
 実は今のところマルコもその町が何という港町なのかも知りません。

 そのうちに調べておくつもりではいますけれど、四か月ほども先の話の話になりますので、取り敢えずは放置ですね。
 その港町で冒険者ギルドのクエストを受けておけばその後半年は有効期間が伸ばせます。

 因みにハレニシアには冒険者ギルドはありません。
 小さな村ですからね。

 ギルドは近隣の大きな町に行かねば無いようです。
 グリモルデ号については、それぞれの港の出港時や入港時には必要な人員を載せますけれど、そもそもグリモルデ号は出港したなら、すぐに人目のないところで回収してしまいます。

 そうして到着予定日にその近辺に現れて、再度航行を始めることになるわけです。
 従って、アンドロイドのスタッフについては、今現在は全員僕の亜空間で待機中です。

 但し、コックのアッシュ、執事のセバスとメイドのエマがしょっちゅう出て来ては、僕の世話を焼きたがるので好きなようにさせています。
 いずれにしろグリモルデ号がイタロールを出港してから14日は、僕もハレニシア上空の飛行艇で待機なのです

 妹二人にも念のために虫型のゴーレムを張り付けています。
 心配性と言われようが僕の家族の安全は絶対に守るつもりでいます

 お昼時になって二人の妹の名が分かりました。
 僕のすぐ下の妹がアニカ10歳です

 そうしてその下の妹が、ミア8歳です。
 どちらもすぐ近くにある幼年学校に通っているようですね。

 幼年学校は、ハレニシア地区の児童で8歳から11歳までの教育をするところのようです。
 但し、困ったことに学校では多少いじめに遭っているような雰囲気です。

 長年不在であったお兄ちゃんですけれど、こんな時に家族を守れなくては何のための家族かわかりません。
 影からこそっと闇魔法でいじめっ子の心理をいじりました。

 この子達には虐めに対する忌避感を植え付けたのです。
 どうも彼らには、エルフ族の優越感からハーフエルフやヒト族を見下しているようです。

 僕から言わせたら、エルフ族に優越性などありません。
 ヒト族もハーフエルフも、エルフ族もその能力においては、さほど差が無いのです。

 まぁ、彼らから見たなら多少の能力の違いはあるのでしょうけれど、では力のあるマルコが彼ら全てを見下して隷属れいぞくさせてよいのかと言うとそうではないでしょう?
 種族による差別も、能力による差別もさほど根拠のないものなんです。

 だから植え付けられた彼らの先入観を壊してやりました。
 これでエルフの社会に何らかのきしみが生まれるかもしれませんが、有ってはならないいびつであるならば早いうちに取り去るべきです。

 但し、マルコの母の両親については、どうでしょう?
 母の両親は、少なくともよわい200歳を超えているはずです。

 それほど長い間人族を嫌悪していた感情が今更簡単にくつがえるとは思えません。
 マルコの能力ならば無理やりに偏向へんこうさせることも可能ですが、ある意味でその人の個性を奪うことにもなりかねません。

 従って、マルコとしては老成のエルフに対してはよほどのことが無い限り、強制的手段はとらないでおこうと考えています。
 但し、家族に対して明白な危害が及ぶ恐れがある場合には、その限りではありません。

 マルコはハレニシアに戻り、家族と一緒に幸せな生活を送るのが目標なので、そのためにはできる限りのことをする覚悟もしています。
 但し、場合によっては、ハレニシアから家族みんなで出奔しゅっぽんすることも考えています。

 ハレニシアは、夢にまで見た生まれ故郷ですけれど、そこが家族をうとんじているのならそこに留まろうとは思いません。
 マルコは12歳に過ぎませんが、六人もの先人の記憶と知恵があり、先人の残した財も、この世界に来てから生み出した経済力もありますし、必要に応じて稼ぐことも可能です。

 但し、社会的に認められた存在ではないだけに、今のところは表に出しにくいという部分はありますね。
 一応の一人前という年齢ではありますが、社会的に大人と同様に信用されているわけでは無いのです。

 まぁ、いざとなればアンドロイド型の自立ゴーレムを前面に押し立てれば、誰も文句は言えないだろうとは思いますけれどね。
 但し、エルフ族を真似たゴーレムはまだありませんね。

 マルコ自身は、必ずしもそんなゴーレムが必要とは考えていませんけれど・・・。

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 7月14日、一部の字句修正を行いました。

  By サクラ近衛将監
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