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サクラ近衛将監

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第三章 学院生活編

3ー24 夏休み その二

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 ヴィオラで~す。
 待ちに待った夏休みが始まる予定だったのですけれど、少し予定外のことが起きました。

 エルグンド家の馬車でお兄様、お姉さまとご一緒にロデアルへ旅するはずが、急遽変更になりました。
 私(ヴィオラ)は、今、別の馬車に乗ってロデアルに向けて移動しています。

 そうして私の隣では、エミリア様がニコニコしながら私に話しかけたり、周囲の景色の変化を楽しんだりしています。
 私の向かいの席にはローナが緊張しまくって座っており、その隣には王家の女官が静かに座っています。

 そうです。
 何の因果なんでしょうかねぇ・・・。

 あろうことか第三王女のエミリア様が、私の実家を訪ねてみたいと言い出したのが発端なのです。
 あれよあれよという間に周囲が動き、夏休みの帰省に合わせて、エミリア王女様がロデアルへ行くことになってしまったのです。

 王女様が動くとなればたとえ側室の娘であっても、警護や従者が大勢つきます。
 今回は、近衛騎士が20名、従者が8名にその他が4名と合わせて32名もの人間がエミリア様とともに旅をすることになります。

 従って、今、私(ヴィオラ)が乗っているのは王家の家紋がついた立派な馬車なのです。
 私としては、ロデアルまでの馬車の旅ならば、サスペンションやスプリングの効きが良くない王家の馬車よりも、我が家の改良馬車の方が良かったのですけれど、王女様のたってのお望みとあって、泣く泣く話し相手とガイド役を兼ねて一緒に乗っているわけです。

 因みにお兄様とお姉さまの乗った我が家の馬車は一日早くロデアルに向かって出発しており、ロデアルでお出迎えをすることになっているのです。
 その馬車で私の荷物の半分を運んでもらっていますから、手持ちの荷物は大きなトランクがひとつだけで、これは別途王家差し回しの荷馬車に載せられています。

 旅の間も着替えなど身の回りは要るので、そうしたものが収められているトランクです。
 ローナも同じく大きなトランク一つに荷を収めて、荷馬車に収容してもらっているのです。

 エルグンド家の本宅には高貴な人が訪問された際にお泊めする貴賓館が別棟でありますので、王女様一行をお迎えしても泊まるところに問題はありません。
 きっと、我が家では第三王女様をお向かえするにあたっての準備で大忙しのことでしょう。

 王女様のロデアル滞在は九泊十日の予定なのです。
 別にエミリア王女を嫌っているわけではないのですけれど、当初の夏休みの予定が大幅に変更になってしまいました。

 夏休みの期間は概ね60日間、そのうち少なくとも十二日から十四日ほどは王都とロデアルの往復に取られてしまいますので、実質46日前後しか無いのに、そのうち十日間をエミリア王女とのおつきあいに費やさねばならないのです。
 本来であれば余裕を見て45日分程度のスケジュールを35日程度に圧縮するのはかなり難しいでのです。

 でもまぁ、予定というものは飽くまで予定であって、突発的に変えざるを得ないこともままあるものです。
 今回の場合は、人の命や安全が脅かされるような事態にはなりませんので、その分、ましかと思えますし、私(ヴィオラ)も重要な予定があったわけではないので変更も受け入れやすいのです。

 エミリア様が王都から出られるのは非常に稀であり、これまでは近郊への日帰り旅しか経験が無いということで、今回の旅を随分と楽しみにしておられたみたいです。
 その所為か、初日に興奮しすぎて最初の宿に着いた折にはかなりお疲れ気味でした。

 二日目以降には、少しお尻が痛そうにしていましたので、特別なクッションをお渡しして床からの衝撃を和らげるようにしました。
 我が家の馬車には不要なのですけれど、王家の馬車はじかに尾てい骨に伝わりそうな衝撃が来ますから、馬車の旅も大変なのです。

 それもあって一日の移動距離は、エルグンド家の馬車に比べると少ないようで、ロデアルまでは六泊七日の予定なのです。
 20人もの近衛騎士が護衛をしている四台の車列(うち三台は人用、一台は荷馬車)ですから、とても周囲には目立ちます。

 従って、結果から言うと盗賊などは最初からこの車列を避けていますし、魔物の襲撃なんかも無かったので、七日間の旅は無事に終わりましたよ。
 二日目は少し元気がなさそうなエミリア様でしたが、三日目からはとても元気にされていましたね。

 その分、私のお仕事が増えました。
 お仕事?

 もちろんエミリア様の御守に決まっています。
 別に守役を拝命したわけではありませんけれど、友人として同じ馬車に乗り合わせている以上それも仕方がないことです。

 また、道中でわからないことが有るとエミリア様は決まって私に尋ねるんです。
 アカシックレコードにも通じているルテナが傍にいる所為もあって、ほとんどすべての問いに答えてあげますのでお付きの女官さんの方が目を丸くして驚いていましたね。

 まぁ、普通の8歳程度の貴族の子女が左程物事を知っているはずもないのに、学院の教師のように懇切丁寧に王女様に教えてあげるのですから、確かに驚くかもしれません。
 女官さんとしては、私(ヴィオラ)の面倒も見てあげなくてはならないと思っていたのでしょうけれど、少し当てが外れたかもしれません。

 馬車の旅は退屈なものですが、物珍しさもあって、見たもの全てにエミリア様が反応し、興味を抱いたようですね。
 エミリア様に訊かれたことには的確にお答えしましたけれど、多少の教養的知識も加味しましたから、女官さんも十分に満足していたように思います。

 それでも三日目になるとエミリア様の質問も少なくなりました。
 街中はともかく、街と町との間の風景は左程変わりがありません。

 畑か原野のいずれかなのです。
 街道沿いはどうしても畑が多いのですけれど、少し丘陵じみたところではただの原野が多いのです。

 それでも前世のアンネ先生に教えられたことのある外国の岩山や砂漠のような殺風景な風景はありません。
 溢れんばかりの緑の植生に覆われた原生林が多いのです。

 そうした場所では魔物の出現も多いのですが、今回の旅に限って言えば、魔物の襲撃は一度もありませんでした。
 多分、先頭を走っている小荷駄隊の馬車と、そのほかの3台の馬車のいずれもが装備している魔物除けの香料によるものだと思います。

 我が家の馬車にも似たようなものが装備されていますけれど、王家の車列のそれは非常に効力の強いものじゃないかと思われます。
 シッカリと匂いを覚え、成分の分析もしましたので、今度、私の錬金術で類似品が造れないか試してみることといたしましょう。

 王家が使っているモノはきっとお高いのだと思います。
 私(ヴィオラ)自身は魔物が出現しても瞬殺できてしまいますけれど、普通の旅人ならばそうはできませんよね。

 魔物除けとして効果が高いものがあれば便利ではないかと思うのです。
 場合によっては、ロデアルの特産品にできるかもしれません。

 それとなくエミリア様に魔物除けの香料について尋ねてみましたが、エミリア様はそもそもそのような香料があることを知らないご様子です。
 お付きの女官様はその存在と効能自体は知っているようですけれど、入手先等は知らない様子でした。

 四日目以降はどうしても原生林の景色が多くなり、エミリア様も風景を見るのに少々飽きたご様子でしたので、馬車の中でもできる遊びを披露しました。
 生前知っていたトランプを、タロット風に変えて遊べるようにしたのです。

 そうですねぇ、生前に知っていたトランプよりは寸法が大きいように思います。
 もっと小さくもできなくはなかったのですけれど、精緻な絵柄を楽しむには大きめのカードが望ましいと思ったのです。

 カード自体は綺麗に彩色されていて、四系統の図柄と色合いで1から13までの数を現したカード52枚と、魔法の世界らしく特別な魔法効果をゲーム内で活用できる天使カードが8枚、同じく妖精カードが8枚、それに様々なゲームの場面で負の効果や障害を引き起こす役割を持った魔物カードが8枚あり、全部で四種類76枚のカードを用いて遊べるものなのです。
 実は、全てのカードを使うゲームでは、難解なルールが適用されるますので、ルールを覚えるのが一苦労なのです。

 それで、最初は数を表すカードのみでのゲームをしました。
 一応、このカードを使って遊べる数々のゲームの『ルール』も書面に書き上げています。

 勿論、この『ルール』も飾り文字を使って丁寧に仕上げていますので、王家を始め高貴な人にお見せするのにも問題はないと思います。
 まぁ、こんなこともあろうかと以前から準備してはいたものですけれど、最初のお披露目に立ち会ったのがエミリア様になるとは予想してもいませんでした。

 私としては、今回の帰省の旅でお兄様やお姉さまと馬車の中で遊ぶのに使うつもりでいたのです。

 前世のいわゆるカードゲームですね。
 魔物カードを一枚加えて『ババ抜き』をしましたよ。

 同じ馬車に乗っているのは四人ですから、小さな折り畳みテーブルに向き合って『ババ抜き』をするのが一番簡単なのです。
 『ババ抜き』は、簡単なルールですからすぐにルールを覚えてくれました。

 これ以外にも『七並べ』、『ダウト』、『豚のしっぽ』、『神経衰弱』、『大富豪』なんかのルールも教えちゃいました。
 その所為でロデアルに着くまでずっとカード遊びに興じていたのです。

 恥ずかしながら、私もトランプでこんなに長い時間遊ぶのは初めてなんです。
 前世でアンナ先生から青び方を教えてはもらいましたが、二人でやるカードゲームは少ないですし、あまり長い時間はドクターストップがかかってできませんでした。

 特に手足の動きが不自由になってからはカードを持つこと自体ができませんでしたからね。
 ですから今の年齢相応に楽しめたと思います。

 このカードは、エミリア様にプレゼントしましたよ。
 私(ヴィオラ)は何時でも複製は作れます。

 お兄様やお姉さまにも少し図柄を変えたものを作って差し上げようと思っています。
 お父様やお母様は、希望があったならその時考えることにいたしましょう。

 特に、『ポーカー』や「ブラックジャック」、それに『ブリッジ』なんかは、どちらかと言うと賭博で有名ですからあまりお父様たちにはまってほしくはありません。
 因みにカード遊びのルールからはわざと外してあります。

 でも、どんなことでも賭博にしてしまうのが大人たちですので、いずれ、別のルールで似たようなものができると思いますけれどね。
 子供の遊びであるうちは良いのですけれど・・・・。
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