親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-18 軍縮会議とお召し船

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 皇太子裕人親王の欧州訪問は、国内の様々な言論の混乱を招いたものの、最終的に1921年3月から実施されることとなりました。
 その際にお召し船として戦艦「香取」、随伴船に戦艦「鹿島」が候補として挙がったのですが、いずれも竣工は10年以上も前の戦艦であって旧式艦であったことから、海軍首脳がまたも見栄を張ったのです。

 まぁ、見栄と言うよりは、端的に言えば「香取」も「鹿島」も同型艦で乗り心地が余り良くなかったのです。
 それまで「鹿島」はお召し艦として行幸啓に利用されていましたから、それでも十分な筈だったのですが、大洋を超えて欧州まで行くとなるとこれまでの国内航海のようには行きません。

 嵐も来るでしょうし、何より大洋における揺れが心配なのです。
 まして戦艦金剛(全長約215m、排水量2万6千トン余)と見比べるといかにも小さな艦(全長約139m、排水量約1万6千トン)であって、凄く頼りなく見えるようです。

 そうかといって新鋭艦である扶桑型戦艦(全長205m余、排水量3万トン余)を諸外国にお目見えさせるわけには行かず、外国にも知られている金剛型戦艦よりも小さく、鹿島よりも大きな艦型で、36センチ主砲が搭載できるような船を作って欲しいと言う依頼が来たのは1920年の秋でした。

 本来は半年かそこらで戦艦タイプの大型船を作るのは無茶な話ではあるのですが、長月型駆逐艦を短期間で建造している実績を知っている海軍は飛鳥造船にごり押しの依頼をしてきたのでした。
 まぁ、表向き海防艦として公表されている長月型駆逐艦に同乗してその快適さを知っている者からすれば、次代の主上になる皇太子殿下には気持ちよく過ごしてもらいたいと思うのは当たり前でしょうか。

 そのあおりが飛鳥造船にやって来ちゃったわけですね。
 結局軽量艦にバラストで若干吃水を水増しした長月型より大きな艦型の若狭型戦艦二隻をお召し艦として建造したのです。

 若狭型戦艦の要目は、全長180m、全幅27m、排水量1万5千トン、36センチ連装砲二基、15センチ連装高角砲六基搭載で、長月が装備している様な垂直発射セルの装備はありません。
 実際の排水量は、1万2千トン程度なのですが、吃水8.1mから見ると金剛(8.3m)に匹敵するような排水量に見えるのです。

 兵装はある意味で貧弱なので、万が一の場合用に、対潜弾投射装置とレーザー砲1基は化粧煙突内に隠しています。
 また、偽装艦橋の航海計器は旧態然としたものながら、下甲板に巧妙に隠された指令室には新型の航海計器が装備されているほか、海中の見えない部分にフィンスタビライザーと船首及び船尾にスラスターを装備しています(残念ながらフィンスタビライザーとスラスターは機密情報のため寄港地ではほとんど使えません。)

 船内は勿論冷暖房完備ですが、対外的に外国人が乗艦するような場合には冷房を停止するようにお願いしています。
 36センチ主砲は、フェーズド・アレイ・レーダーとの連動が可能なので従前の主砲と比べると数十年は進んだものですが、ちょっと見にはその性能はわからない筈です。

 最終的にお召し艦が「若狭」、随伴艦が「越後」と名付けられ、2月上旬には海軍に引き渡されました。
 操艦については、長月型乗員を半数乗り組ませて対応するようです。

 確かに古手の将校や下士官では新型船を動かすのは難しそうですからね。
 速度は巡航で25ノットと早いですから、旅程が少し早まるはずです。

 最大速力は45ノット以上ですが、今回その速力を出すことはまず無いでしょう。
 主兵装は、36センチ砲4門、15センチ高角砲12門ですから、ある意味で戦艦としては少ないのですが、お召し艦という性格からすると逆に訪問国に脅威を与えるような装備を持たない方がいいわけです。

 戦艦金剛は英国で造られ、45口径35.6cm連装砲4基、50口径15.2cm単装砲16基を装備していますので、それに比べるとかなり大人しい兵装と言えますが、まぁ、諸外国になめられない程度の装備でもあるわけです。
 因みに香取ならば、30cm砲 4門、25cm砲 4門、15cm砲 12門です。

 皇太子殿下の欧州訪問は予定通り3月3日に出立となりました。
 新造艦二隻は、埋め立てで造成された品川お台場埠頭から無事に旅立って行きました。

 この二艦であればこそ、少々の時化に遭っても問題なく乗り切り、英国、フランス、ベルギー、イタリアを歴訪して、六ケ月後に無事に帰国してきました。
 史実では、往路随伴艦「鹿島」に機関室事故があって死傷者が出たのですが、「若狭」と「越後」には何の支障もありませんでした。

 皇太子殿下の欧州歴訪はそれだけで結構な話題に事欠かないのですが、ここは主題ではないので省きます。


 ◇◇◇◇ 軍縮会議 ◇◇◇◇

 ワシントンの軍縮会議は、1921年(大正10年)11月から1922年(大正11年)2月まで開催されましたが、帝国は軍縮対象国から外され、オブザーバーとして参加しました。
 実際のところ、軍縮会議への招請はあったのですが、私が裏工作をした結果、オブザーバーとしての参加が決まったのです。

 従って、この軍縮会議では、米英仏伊の四か国が集まって、主として弩級戦艦の建造自粛を求めて協議がなされたのです。
 第一次世界大戦後、戦勝国となった連合国は海軍力の中でも特に戦艦の増強計画を進めていました。
 各国の軍備拡張計画の内、代表的なものは、アメリカのダニエルズ・プラン(別途三年艦隊計画と呼称される場合もあります。)です。

 史実では、帝国の八八艦隊計画も非常に問題視されていたのですが、今世では長門型戦艦の大きさや兵装が金剛型戦艦と同程度のものとされたことから列強からさほどの脅威とはみなされませんでした。
 また、飛鳥造船所で建造する軍艦の建造費が予想以上に安価であったことも列挙諸国からその軍事力が軽視された大きな要因であり、建造費が安いのは当然に能力的に劣るものとみなされたようで、帝国も戦勝五か国のひとつでありながら軍縮対象から外されていたのです。

 そもそも軍縮会議の提唱は、軍備拡張に伴う経済負担が各国の国家予算を圧迫していたことに端を発し、アメリカ合衆国大統領ウォレン・ハーディングの提案で海軍大国4か国の軍縮を協議することになったのです。
 帝国は五大海軍国と言われながらある意味で蚊帳の外ではあったのですが、軍縮の縛りに拘束されないと言う大きな利点がありましたし、当時の内閣も大きな予算を伴わない海軍の建艦計画に理解を示しており予算上の不安が無かったのです。

 「韋駄天」を始めとする工業力の違いを、国内限りとは言いながら諸外国に見せつけているのですから、当然に帝国の軍事力を警戒すべきであったのに、それを表面的な排水量と兵装のみで弱小艦隊と見誤ったのは列強諸国の軍関係者と為政者の大きなミスでしょう。
 いずれにせよ、ワシントン軍縮会議では、主力戦艦群の排水量の総量規制と主砲の口径制限だけにとどまりました。

 補助艦艇である空母についても若干の規制がありましたが、オブザーバーとしての帝国からのコメントにより、空母に5インチ未満の砲を装備する場合は、戦力外として対象から除外するものとされました。
 これは空母と欺瞞しつつ大砲を搭載可能な戦闘艦を建造する恐れに対処する意味合いがあったのであり、武装を有しない航空母艦は実戦において未だ脅威とみなされていなかったからです。

 史実では、軍縮会議中に建造中であったのは英国のハーミーズと帝国の鳳翔だけで、稼働できる航空母艦はそもそも無かったのです。
 なお、今世では帝国の航空母艦は飛鳥造船で建造し、既に運用を開始していますが、表面上30ミリ連装機関砲を12基搭載するだけの武装であり、長さ180m未満、排水量1万トン未満の小型空母でした。

 表向き複葉機を10基程度搭載している航空母艦ですが、実際には秘密裏にVTOLやヘリコプターを搭載しており、打撃力も十分にある攻撃型軽空母です。
 このため列強からは依然として同空母を戦力外のものと見做されていました。
 
 英国も喫緊の第一次大戦が終わった段階では、未だ完成もしていない空母の運用については模索中であり、同じく規制の必要性をあまり感じていなかったようです。
 米国は主として予算上の問題もあって空母の実用性を疑っていました。

 それよりも会議で紛糾したのは、潜水艦の問題でした。
 ドイツの潜水艦に悩まされた連合国でしたが、潜水艦の能力を有効活用しようとする仏伊と、規制しようとする英米が対立し、協議はまとまりませんでした。

 帝国は既に多くの潜水艦が稼働を始めていますが、国際的には一切公表されていません。
 四国宿毛湾の大藤島と桐島に建造された海底秘密基地だけで運用しているために、対外的には一切人目に触れていないのです。

 当初宿毛湾の大島を建設予定地にしていましたが、民家が多いことと対岸の宿毛町が近いので同地を断念、無人島である大藤島と桐島の海底に造船所と基地を建造したのです。
 資材や食料の搬入は宿毛町西方の深浦にある海軍基地を目隠しに使っています。

 「こくりゅう」型潜水艦は、基準排水量3100トン、水中排水量5200トン、全長は85m、最大幅は10m、モーター出力は5万馬力で水中速力は最大45ノット程度です。

 速力が速いのは、涙滴型ということも有りますが、チタン合金という特殊素材と表面の特殊コーティングにあります。
 水中での粘性抵抗を最小限にしてくれているからですね。

 乗員は機関部関係機器が簡素化される事と兵装がほとんど自動化されていますので32名で済んでいます。
 兵装は53センチの魚雷発射管6門、魚雷若しくは水中発射型噴進弾48本搭載で、最大潜航深度は千mを超えています。

 もちろんパラチウム電池と地脈発電機搭載艦ですので、食糧が尽きない限り航続距離は無制限ですし、北極の氷塊の下を抜けて太平洋から大西洋への往復をする秘密の試験航行も無事にこなしています。
 因みにソナー対策も万全で、低速の無音航行も可能な艦です。

 1922年初春の段階では、24隻が配備・稼働中ですね。
 因みに1万トン以下の艦艇については、搭載砲の口径以外に建造制限はありませんでした。

 このために長月型駆逐艦は、当然に対象から外れていますし、そもそも海防艦と公表されているのでジェーン年鑑にも戦力外の補助艦艇で掲載されています。
 しかしながら、これらの結果では必ずしも軍縮に歯止めがかからず、1927年のジュネーブ海軍軍縮会議、1930年のロンドン軍縮会議に火種が持ち越されました。
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