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本編

おまけ sideレン

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 最初は、気付かなかった。スズキがアイツだなんて。だって、そうだろう?人間は転生する、って知ってたが、まさかその転生体に召喚されるなんて。
(……どんな確率だよ……マジ、あり得ねぇ)
 気付いた時には、心底そう思った。
 嘗て俺が愛していた相手。遙かな昔、寿命を全うして天に消えたアイツ。死に際の言葉は、また俺と結ばれたい、なんてロマンティックな物で。その言葉に柄にもなく大泣きしてしまった事を、昨日の事のように思い出せる。
 それから何百年も抜け殻のように過ごして。久々に悪魔らしい事でもするか、と気紛れに召喚に応じたのがあの日だった。
 童貞を卒業したいと願いつつ、処女を卒業するための魔法陣で俺を喚んだ大間抜け。それが、今世のアイツだ。名前は、スズキって言うらしい。偽名か本名かは解らねぇけど。
(顔が悪いとか性格が悪いとかが原因じゃねぇのに、まだ童貞だったんだな……)
 奥手だった前世のアイツを思い出して、何だか可愛いと思ってしまった。スズキは三十路も近いおっさんなのに。
(あぁ……解ってるんだ。コイツがアイツじゃない事なんて。魂が一緒でも、別人なんだって。なのに、俺は……)
 どうしようもなく、スズキに惹かれて。たかがビール一本で童貞を卒業させてやる、という出血大サービスをしてしまっていた。……悪魔としては失格だとは思ったけれど、誰も俺を咎める事など出来はしない。何せ俺が頂点なのだから。俺が法で、俺が白を黒と言えば黒になる。其れ位には同族への影響がある存在。それが俺という悪魔だった。一柱とも呼ばれる俺は、場所によっては神と崇められる事もある。
 そんな俺には、大抵の事が出来るが……死者の魂を喚び戻すことは出来なかった。そして、アイツもそれを望まなかったから……ただ、見送ったのだ。
「●●●……」
 アイツの名前を呼ぶ。もう久しく呼んでいないその名を。
(……あぁ、解ってるさ……。別人さ、スズキは。だけど、どうしても惹かれちまうんだ……。このままじゃ、また前と同じになると解ってるのにそれでも俺は……)
 人間を悪魔にする方法だって、もう知っている。けれど、スズキがそれを望んでくれるか解らない。何も知らないまま俺のフェロモンで俺に惹かれて。普通の人間よりは耐性があるみたいだったが、それでも俺に呆気なく魅了されてしまった彼を思うと、前世のこと等は何があってもスズキには伝えられない。そう思って、俺は契約完了後すぐに戻って来たのだ。彼を忘れる為に。なのに。
(……何でコイツ、二回も俺を召喚するかな……)
 どんな天文学的な確率だ。無数に居る悪魔の中から、ピンポイントに俺をピックアップ出来るとか……マジ、あり得ねぇよ。
 しかも、魅了は解けていないっぽいし、何か恋人になれとか口説かれるし。正直、訳が解らねぇ、ってのが本音だ。だが。
(……悪い気分じゃねぇのが、大問題だよなぁ……)
 既にすっかりと絆されて。好意を伝えられる度に喜びを感じてしまう自身に戸惑う。何だかんだ言って、このままスズキと過ごすことになりそうな気がして。俺は自然と口元が緩むのを感じていたのだった。
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