白雪姫の姉は辺境で静かに暮らしたい〜毒親魔女とゾンビ妹が騒がしいので、怠け者公爵との激甘スイーツ生活を死守します!〜

けんゆう

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18 白雪姫の姉ですが革命軍軍報のお時間です

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王妃軍八万が、王都を出発した。その知らせは、スノーホワイトたちが駐屯する村にもすぐに届いた。

「まさか、野戦に打って出てくるとはね。王都で大人しく震えてると思ってた。数十万の民衆で押しかけて無血革命とかやれたら、カッコいいなとか考えてたのに」 

 スノーホワイトは、顔をしかめた。

「甘いぞ。公爵軍を味方に付けたのが、かえってマズかった。王妃は、公爵軍が我々を討伐すると思ってただろうからな」 

 王妃側の大軍出撃が、まるでジョンとアップルのせいであるかのように、ハンターは語る。

「そんなこと、今さら言っても仕方ないじゃない」 

 スノーホワイトは、ふくれっ面をしてみせながら、ハンターを見つめる。しかし盲目のハンターには、その表情の機微は分からない。

「ここで引いたら、負けだもん。私は、もう逃げたくないの!」

 その日の夕刻、スノーホワイトは村の広場に民衆を集め、演説を始めた。

「革命軍、軍報ーっ!」

 いつもの明るく勢いのある第一声に、農民たちはどっと笑い、拍手と歓声が沸いた。しかしその熱気を切り裂くように、彼女の表情はスッと引き締まる。

「皆さんに、正直にお伝えしたいことがあります」

 ざわついていた人々の空気が、少しずつ、静まり始めた。

「王妃軍が、王都からこっちに向かっています。総勢、八万人の大軍です。この私を、そして皆さんを、反逆者として討伐するつもりです」

 聴衆がどよめいた。子どもの泣き声も、あちこちから聞こえてくる。

 スノーホワイトは言葉を続けた。

「このままでは、象がアリを踏みつぶすように、あっという間にやられてしまうでしょう。私たちは家族ともども皆殺しにされ、畑も家も、全部焼かれます」

 悲惨な予測を聞いて、聴衆がシーンと静まり返る。

「あの人は――王妃サニーは、手加減というものを知らない人です。民を守る気持ちなど、最初から彼女にはないのです。彼女は私たちのことを、単なる自分の所有物としか思っていません。生かすも殺すも、彼女にとっては遊び半分。それだけです」
 
 スノーホワイトの声が、静かに、しかし鋭く問うように、広場へ投げかけられる。

「皆さん、どうしますか? ここで、黙って滅ぼされるのを待ちますか? あの狂った魔女の下で、命と自由を奪われながら、このまま『生きてるふり』を続けますか?」

 震える老人の手を、子どもが握る。若い農夫たちが、互いの顔を見つめる。

「断じて、違う!」

 スノーホワイトは力強く拳を握った。

「私は、生きるために戦う! 奪われたものを、奪い返す! 屈辱にまみれた過去を、誇りある未来に変えてみせる! そのために、私は剣を取る。魔力を解き放つ。命をかけて、戦ってみせる!」

 その瞳には、狂おしいまでの輝きがあった。

「どうか皆さん……どうか、力を貸してください。私はあなたたちの同志です! サムライ族から七人の戦士、そしてモンストラン公爵家が力を貸してくれています。一緒に戦ってくれるなら、私は最後まで、前線に立ち続けます!」

 スノーホワイトは、さらに一段と声を張り上げる。

「この地に生まれ、この地に生き、この地を愛したすべての者たちよ! 立て! 今こそ剣を取れ! 鍬を振れ! 叫べ! 私たちは、王妃の奴隷ではない! 奴隷の命より、誇りある死を!」

 最後の一喝と同時に、群衆から歓声が上がった。農民たちが拳を振り上げ、少年たちが叫び、大人たちは涙を流しながら、その名を呼んだ。

「スノーホワイト殿下!」

「我らが女王!」

「革命軍ばんざーい!」

 その光景の中で、ひとり、アップルは群衆の後方に立ち、じっとスノーホワイトを見つめていた。

(すごい……。さすが、本物のお姫様。こんなに人の心を動かす力が、あの子にあったなんて)

 誇らしさと、驚きと、そして――

(でも……)

 アップルは、腕を抱きながら、かすかに震えた。

(あの子、まるで「死ぬ覚悟」しかないみたい……)

 スノーホワイトの言葉には、確かに熱があった。燃える理想があり、不退転の決意があった。

 けれどそれが、あまりに真っ直ぐすぎて、アップルは少し怖くなった。

 スノーホワイトにとって、死は恐怖ではなかった。死んで、蘇ったから、もはや、ただの通過点に過ぎない。

 なぜ、あの子は民衆に、迷いもなく言えるのだろう、とアップルは疑問に思った。

「命をかけろ」と。

「戦って死ね」と。

 それは、穏やかな日常の中で暮らしてきた民衆にとって、どれほど恐ろしい扇動だろうか。

 アップルはサニーの娘として、スノーホワイトに申し訳ない思いを抱いてきた。サニーから人形のように扱われ、許婚まで取り上げられた彼女を、ずっと気にかけてきた。

 だから、たとえ義理でも姉として、真剣に彼女を応援し、幸せを願いながら見守ろうと努めて来た。

 だが、この時アップルは、スノーホワイトとの間には越えがたい壁があると気づいて、少し寂しい気持ちになった。何とも言い表しようのない寒気を、肌で感じていた。

 スノーホワイトは恐らく、もう自分の手の届かない場所にいる。いや、出会った時からそうだったのかもしれない。
 
 そして近いうちに、さらに遠いところへ行ってしまうのだろう、と。
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