白雪姫の姉は辺境で静かに暮らしたい〜毒親魔女とゾンビ妹が騒がしいので、怠け者公爵との激甘スイーツ生活を死守します!〜

けんゆう

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19 白雪姫の姉ですがリンゴ飴はいかがですか

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 スノーホワイトの演説は効果てきめんだった。農民たちは続々と、義勇兵に志願した。

 演説翌日の夜には、村外れの駐屯地全体が、ちょっとした祭りのような状態になっていた。兵士たちに酒やつまみを出す屋台が立ち並び、義勇兵と村人たちが焚き火を囲んでは、あちこちで盛り上がる。

「三宮ミョウガ、一曲歌いまーす! ホニャララララー♪  ……歌詞忘れちゃった」 

「おい! もっと迫力ある声出せよ! 戦場で声が小さいと、死ぬぜ!」 
 
 ホーチキは村の子どもたちを集め、謎の大声コンテストを開催していた。

「うぉぉぉぉ!」
 
「ドリャアアア!」 
 
「よし、いい声だ! もっと騒げよ」

 アップルも、食べ物の匂いにつられて駐屯地内をのんびり散策していた。背後から、彼女に声がかかる。

「奥様……。公爵夫人……。もしもーし、モンストラン公爵夫人!」

「わっ⁉ いきなり背後から不意討ちみたいなの、やめてね? その呼び方、慣れてないし。どうしたの、サムライ族の皆さん?」

「我らも公爵夫人と、ずっと話したかったのでござるよ。夫人はスイーツ道、免許皆伝の腕前とか。せっかくのお祭り。リンゴ飴は、作らんのでござるか?」 
 
「リンゴ飴?」
 
「せやで。ワイらの里では、お祭り屋台ゆーたら、リンゴ飴や!」
 
「うーん、キャラメルアップルみたいな感じのお菓子かな? あなたたちの里では、どういう風に作ってたの? そのリンゴ飴って」
 
「ふふ、良かろう。禁断の儀式を、今ここに明かそう……」

 六波羅ゲンシュウが、口を開いた。

「まず、赤き血の果実を、聖木の剣で貫くのだ……」
 
「リンゴに棒を刺すのね」

「甘き業火の鍋を、熱水で錬成せよ……」
 
「砂糖と水を火にかける、と」
 
「黄金の泡放たれし時、紅き運命の歯車は回る………世界から炎は消え、魂は速やかに呪液に包まれ、冷たい宝石へと身を隠すだろう……」
 
「飴状になったら火を止めて、リンゴを回し入れながら飴でコーティング。冷やして固めたら完成、ってことかな。美味しそうね! リンゴは山ほど持ってきてるし、トッピングにシナモンとかナッツとか、色々試しても面白そう」

 こうして、アップル公爵夫人の薬草入りリンゴ飴ショップが駐屯地に爆誕することになった。
 
「一人一個よ……あれ? ムサシさん、なんで分身してるの? 二個持ってかないで」

「あ、バレました? 自分、リンゴ飴大好きでして……じゃあ、この一本は、姫様に届けてきます」

 色鮮やかなリンゴ飴を手際良く作り上げ、サムライたちに手渡していく。
 
「メッチャうまいがな! 気泡がごっつ入って、ええリンゴ使つこうてるわあ」

「最っ高のリンゴ飴だぜ! こうやってスパッ、スパッ、スパッと斬ったら、さらに食べやすくなるぜ!」

 キョースケが舌鼓を打って大騒ぎし、ホーチキがカタナパフォーマンスしながらリンゴ飴を一口大に切り分けていると、だんだん子どもたちが群がってきた。リンゴ飴屋台に、長い行列ができる。

「はい、出来たよ!」 

 アップルが手渡すリンゴ飴に、子どもたちが次々と笑顔になる。

「甘ーい!」
 
「飴がパリパリで、おいしい!」

 そしていつの間にか、ジョン・モンストラン公爵も屋台に並んでいた。

「いらっしゃいませー。あれ、ジョン?」

「うっ……気づかれたか」

「当たり前でしょう。律儀に並ばなくても、あなたの分は取ってあったのに。はい、どうぞ」

「こういうことは、やはり公正フェアにしなくてはいかんと思ってな」

「ふふっ、偉いですね。名将の器ですよ、旦那様」

 アップルにそう言われ、ジョンは嬉しそうにリンゴ飴をかじる。

 そしてスノーホワイトも焚き火の前で、二刀ムサシから届けられたリンゴ飴を見つめていた。

「きれいね」

 ハンターの隣に座りながら、スノーホワイトは舌先で、リンゴ飴をチロチロと舐め始める。

「この星空の下に、王妃の軍勢を怖がってる人たちが、たくさんいる。だけど、今夜のこの盛り上がりを、私は忘れない。みんなの笑顔を見てたら、私、もう少しだけ、夢を見てもいいかなって思える」

「その夢は、きっと叶うだろう。私にはその飴の色も、星空も、民の笑顔も知ったことではない。だが、姫君は必ず、女王にしてみせよう」

「ありがとう、ハンターさん。でも戦争が終わった後で、この国を復興させるのは、私じゃないの。ジョンお義兄様と、アップルお姉様よ。食べる?」

 スノーホワイトは、ハンターの口元にリンゴ飴を近づけた。ハンターは歯を閉じて拒んだが、スノーホワイトは強引に、彼の唇へとリンゴ飴を押しつける。

「……甘いな」

 ハンターは眉をひそめながら、ボソリとつぶやいた。
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