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2.敗北
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(なんでこんな事になったんだろう…)
居酒屋のカウンター席に座りながら、那智は眉間に皺を寄せる。
東藤とコンビ打ちを始めてから、二週間が過ぎた。その間、二人は全く負けることがなく、最早無敵状態だ。
東藤は毎回、家の近くまで送ると言ってきかない。最近では断るのも面倒になってきて、彼の好きにさせていた。
今日も、いつも通り二人で帰路についた。
那智は勝利の余韻か、少しぼーっとしていて、東藤の話に適当に相槌を打っていたのだ。
「腹減ったな。どっか食べに行こうか」
「うん…え?」
「今うんって言ったな」
「言ってない! え、ちょっ…手放せって!」
二週間経っても、那智にとって東藤は相変わらず得体が知れない。何を考えているのか、笑顔の下に隠された素顔はわからないままだ。
彼の麻雀の腕は認める。確かに強い。麻雀は美しさを競うゲームだ。美しい役ほど難易度が高く、得点も高い。東藤と一緒に打つと、それを再認識させられた。彼の力には憧れる。だが、麻雀以外ではあまり関わり合いたくなかった。
そんな那智の思いを東藤が知るはずもなく、強引に腕を引かれ、静止も聞かず連れ込まれてしまったのだ。
「好きなもの頼んでいいよ。俺の奢りだから」
「…まあいいか」
「うん?」
「なんでもない」
せっかく奢ってくれると言うのだし、外で食べることなんて滅多にないのだから、この際高いものを食べ尽くしてやろう。
(食事に誘ったこと、後悔させてやる)
那智は、普段麻雀を打っている時の、何か企んでいるような笑みを浮かべた。
✦✦✦
「東藤さんって、普段はなにやってるの?」
久しぶりに満腹になるまで食べて、すっかり機嫌が良くなった那智は、ウーロン茶の氷をストローでからからと回しながら訊ねる。
東藤は、那智がどれだけ注文しても、嫌な顔一つしなかった。それどころか、遠慮するなとばかりに色々勧めてくるのだ。
「んー…エリートサラリーマン」
「は?」
(自分でエリートって言うか? 普通)
涼しい顔でさらりとそんなことを言う東藤を、那智は冷めた瞳で見つめる。
「なんだよ。信じてないな?」
「だって、そしたらこんなに暇なのはおかしいじゃん」
この二週間、毎日のように二人は夕方から夜まで麻雀を打っているのだ。会社勤務のサラリーマンにそんなこと出来るはずがない。
「別に信じてくれなくてもいいけど」
「もうちょっとマシな嘘つきなよ」
那智が毒付くと彼は、はは、と乾いた笑いを漏らす。何杯目かのビールを空にし、コトンと音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「そういえば、最近あの人来てないんだな」
「あの人って?」
唐突な話題転換に、那智は首を傾げる。
「陣内とか言ったっけ」
「ああ。確かに」
確かに最近、陣内の姿を見ていない。言われるまで那智はすっかり忘れていた。
陣内は、那智が打っている時間帯はあの店に来ていることが多い。しかし彼は、あちこちの雀荘を転々としているので、最近はきっと他の店に行っているのだろう。
「まさか、あの人の入れ知恵じゃないよな?」
「なにが?」
(そういえば、コンビ打ちの事、陣さんには話してなかったな)
とっくに気付いているだろうから今更言う必要もないのだろうが。
「身体を賭けて、とか」
「まさか」
あまりに突拍子もないことを言われて、那智はありえないと笑い飛ばす。東藤が真剣な表情をしているのが、逆におかしくてならない。
「陣さんがそんなこと言うわけないじゃん。あの人は、むしろやめさせたいみたいだけど」
「…へえ」
納得したのかしていないのか、曖昧に頷いて難しい顔をしている。
彼は時々、妙に陣内を意識しているような節がある。陣内をというよりも、那智と陣内の関係をと言う方が正しいのかもしれないが。
ちらりと隣を見ると、彼は内ポケットから煙草を取り出し、咥えて火を点けていた。
「一本ちょうだい」
那智は、銀色のシガーケースを顎で示して言う。
「未成年だろ」
「雀荘に行くのは止めないくせに」
唇を尖らせて拗ねた顔をすると、東藤は溜息を吐いて苦笑する。分けてくれるのかと期待して見つめていると、彼は自分の吸っていたものを那智の前に差し出してきた。
「……」
火を点けたばかりで、まだ長いそれを那智は無言で受け取り口に咥える。
ちらりと窺い見た東藤は、いったい何が面白いのか、興味津々といった様子で那智の顔を覗いていた。
「…もういい」
数口吸って那智が同じように突き返すと、くすりと笑ってそれを受け取る。何事もなかったかのようにその煙草を咥える東藤を見て、なぜか頬が熱くなるのを感じた。
(あ…間接キ…)
何を考えているのかと、那智はぶんぶんと顔を横に振って考えを打ち消す。
隣から視線を感じた。見なくても勝ち誇った表情をしているであろう東藤の顔が想像出来る。それだけに、わざわざそれを確認するような真似はしたくなかった。
那智は普段、煙草なんて吸わない。さっきだって本当は、煙草が吸いたくてあんな事を言ったのではないのだ。ただなんとなく、彼と同じ事がしてみたかっただけで。そうすれば、相変わらず何を考えているのかわからないことが多い東藤と、少しでも距離が近くなる気がしたから。
「出ようか」
「…うん」
外に出ると、冷たい空気が火照った頬を醒ましてくれる。今日は、ここ最近では一番の冷え込みではないだろうか。
那智は、はぁーっと息を吐いてみたけれど、まだ白く見える程ではなかった。
会計を終えて外に出てきた東藤に、ぺこりと頭を下げる。
「あの、ごちそうさまでした」
「なんだ。さっきまでとずいぶん態度が違うじゃないか」
東藤は楽しそうにくくっと笑う。その笑顔に見惚れそうになって、那智は慌てて顔を逸らして歩き出す。当たり前のようについて来た彼と二人で、並んで夜道を歩いた。いつも別れる丁字路まで来ると、那智はくるりと振り返って言う。
「じゃあ」
「またね」
いつもと同じ、短いやりとり。
東藤は決しておしゃべりな方ではないし、那智も他人と話すのは得意ではない。だから、いつも一緒に帰ってはいても、二人とも無言でいる時間も多かった。
そんな普段の日々と比べれば、今日はお互いかなり話した方だ。だからなのか、なんとなくこのまま別れてしまうのが惜しい気がする。
名残惜しげに東藤の顔を見つめると、彼もまた、まっすぐに視線を向けてくる。けれどそれは、いつものような甘く優しい眼差しではなかった。
「那智」
「はい?」
真剣な表情に目が離せなくなる。
彼の纏った、普段とは全く違う冷たい空気に、那智は怯える様に瞳を揺らめかせた。
「あんまり、油断しない方がいい」
「えっ?」
「そろそろ、俺も我慢の限界みたいだからな」
「なに、言って…」
一歩、また一歩と東藤が間合いを詰めてくる。それに合わせて那智も一歩ずつ後退する。背中が電柱に当たり、追い込まれた兎のように小さく震えた。
「俺は別に、わざわざ麻雀で稼がなくったって、金なら腐る程あるんだ」
自嘲するように東藤はふっと笑う。いつもなら、そんなことを言う奴には少なからず腹を立てていたのに、今は全く怒りも湧かず、ただ目が離せなかった。
顎に手をかけられ上向かされる。間近で見た東藤の瞳には、怯えた自分の顔が映っていた。
「だから、勝つことに意味なんてない。むしろ今は、負ける方がメリットがある」
「負ける、メリットって…、っ!」
彼の言うメリットの意味がわかって、那智は頬を染めた。
東藤は手を離すと、那智の胸元から臍の辺りまでをツーっと人差し指でなぞる。
くすりと微笑むその瞳には、明らかな欲望の色が窺えた。
「だからこれからは…勝つことに協力はしない」
じゃあねと言って、東藤は去っていった。いつもは那智の姿が見えなくなるまで、その場で見送っているくせに。
一度も振り返ることのないその背中を、那智の方が見送ることになる。だんだん小さくなりそして見えなくなってからも、那智はしばらくの間、その場から動くことが出来なかった。
居酒屋のカウンター席に座りながら、那智は眉間に皺を寄せる。
東藤とコンビ打ちを始めてから、二週間が過ぎた。その間、二人は全く負けることがなく、最早無敵状態だ。
東藤は毎回、家の近くまで送ると言ってきかない。最近では断るのも面倒になってきて、彼の好きにさせていた。
今日も、いつも通り二人で帰路についた。
那智は勝利の余韻か、少しぼーっとしていて、東藤の話に適当に相槌を打っていたのだ。
「腹減ったな。どっか食べに行こうか」
「うん…え?」
「今うんって言ったな」
「言ってない! え、ちょっ…手放せって!」
二週間経っても、那智にとって東藤は相変わらず得体が知れない。何を考えているのか、笑顔の下に隠された素顔はわからないままだ。
彼の麻雀の腕は認める。確かに強い。麻雀は美しさを競うゲームだ。美しい役ほど難易度が高く、得点も高い。東藤と一緒に打つと、それを再認識させられた。彼の力には憧れる。だが、麻雀以外ではあまり関わり合いたくなかった。
そんな那智の思いを東藤が知るはずもなく、強引に腕を引かれ、静止も聞かず連れ込まれてしまったのだ。
「好きなもの頼んでいいよ。俺の奢りだから」
「…まあいいか」
「うん?」
「なんでもない」
せっかく奢ってくれると言うのだし、外で食べることなんて滅多にないのだから、この際高いものを食べ尽くしてやろう。
(食事に誘ったこと、後悔させてやる)
那智は、普段麻雀を打っている時の、何か企んでいるような笑みを浮かべた。
✦✦✦
「東藤さんって、普段はなにやってるの?」
久しぶりに満腹になるまで食べて、すっかり機嫌が良くなった那智は、ウーロン茶の氷をストローでからからと回しながら訊ねる。
東藤は、那智がどれだけ注文しても、嫌な顔一つしなかった。それどころか、遠慮するなとばかりに色々勧めてくるのだ。
「んー…エリートサラリーマン」
「は?」
(自分でエリートって言うか? 普通)
涼しい顔でさらりとそんなことを言う東藤を、那智は冷めた瞳で見つめる。
「なんだよ。信じてないな?」
「だって、そしたらこんなに暇なのはおかしいじゃん」
この二週間、毎日のように二人は夕方から夜まで麻雀を打っているのだ。会社勤務のサラリーマンにそんなこと出来るはずがない。
「別に信じてくれなくてもいいけど」
「もうちょっとマシな嘘つきなよ」
那智が毒付くと彼は、はは、と乾いた笑いを漏らす。何杯目かのビールを空にし、コトンと音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「そういえば、最近あの人来てないんだな」
「あの人って?」
唐突な話題転換に、那智は首を傾げる。
「陣内とか言ったっけ」
「ああ。確かに」
確かに最近、陣内の姿を見ていない。言われるまで那智はすっかり忘れていた。
陣内は、那智が打っている時間帯はあの店に来ていることが多い。しかし彼は、あちこちの雀荘を転々としているので、最近はきっと他の店に行っているのだろう。
「まさか、あの人の入れ知恵じゃないよな?」
「なにが?」
(そういえば、コンビ打ちの事、陣さんには話してなかったな)
とっくに気付いているだろうから今更言う必要もないのだろうが。
「身体を賭けて、とか」
「まさか」
あまりに突拍子もないことを言われて、那智はありえないと笑い飛ばす。東藤が真剣な表情をしているのが、逆におかしくてならない。
「陣さんがそんなこと言うわけないじゃん。あの人は、むしろやめさせたいみたいだけど」
「…へえ」
納得したのかしていないのか、曖昧に頷いて難しい顔をしている。
彼は時々、妙に陣内を意識しているような節がある。陣内をというよりも、那智と陣内の関係をと言う方が正しいのかもしれないが。
ちらりと隣を見ると、彼は内ポケットから煙草を取り出し、咥えて火を点けていた。
「一本ちょうだい」
那智は、銀色のシガーケースを顎で示して言う。
「未成年だろ」
「雀荘に行くのは止めないくせに」
唇を尖らせて拗ねた顔をすると、東藤は溜息を吐いて苦笑する。分けてくれるのかと期待して見つめていると、彼は自分の吸っていたものを那智の前に差し出してきた。
「……」
火を点けたばかりで、まだ長いそれを那智は無言で受け取り口に咥える。
ちらりと窺い見た東藤は、いったい何が面白いのか、興味津々といった様子で那智の顔を覗いていた。
「…もういい」
数口吸って那智が同じように突き返すと、くすりと笑ってそれを受け取る。何事もなかったかのようにその煙草を咥える東藤を見て、なぜか頬が熱くなるのを感じた。
(あ…間接キ…)
何を考えているのかと、那智はぶんぶんと顔を横に振って考えを打ち消す。
隣から視線を感じた。見なくても勝ち誇った表情をしているであろう東藤の顔が想像出来る。それだけに、わざわざそれを確認するような真似はしたくなかった。
那智は普段、煙草なんて吸わない。さっきだって本当は、煙草が吸いたくてあんな事を言ったのではないのだ。ただなんとなく、彼と同じ事がしてみたかっただけで。そうすれば、相変わらず何を考えているのかわからないことが多い東藤と、少しでも距離が近くなる気がしたから。
「出ようか」
「…うん」
外に出ると、冷たい空気が火照った頬を醒ましてくれる。今日は、ここ最近では一番の冷え込みではないだろうか。
那智は、はぁーっと息を吐いてみたけれど、まだ白く見える程ではなかった。
会計を終えて外に出てきた東藤に、ぺこりと頭を下げる。
「あの、ごちそうさまでした」
「なんだ。さっきまでとずいぶん態度が違うじゃないか」
東藤は楽しそうにくくっと笑う。その笑顔に見惚れそうになって、那智は慌てて顔を逸らして歩き出す。当たり前のようについて来た彼と二人で、並んで夜道を歩いた。いつも別れる丁字路まで来ると、那智はくるりと振り返って言う。
「じゃあ」
「またね」
いつもと同じ、短いやりとり。
東藤は決しておしゃべりな方ではないし、那智も他人と話すのは得意ではない。だから、いつも一緒に帰ってはいても、二人とも無言でいる時間も多かった。
そんな普段の日々と比べれば、今日はお互いかなり話した方だ。だからなのか、なんとなくこのまま別れてしまうのが惜しい気がする。
名残惜しげに東藤の顔を見つめると、彼もまた、まっすぐに視線を向けてくる。けれどそれは、いつものような甘く優しい眼差しではなかった。
「那智」
「はい?」
真剣な表情に目が離せなくなる。
彼の纏った、普段とは全く違う冷たい空気に、那智は怯える様に瞳を揺らめかせた。
「あんまり、油断しない方がいい」
「えっ?」
「そろそろ、俺も我慢の限界みたいだからな」
「なに、言って…」
一歩、また一歩と東藤が間合いを詰めてくる。それに合わせて那智も一歩ずつ後退する。背中が電柱に当たり、追い込まれた兎のように小さく震えた。
「俺は別に、わざわざ麻雀で稼がなくったって、金なら腐る程あるんだ」
自嘲するように東藤はふっと笑う。いつもなら、そんなことを言う奴には少なからず腹を立てていたのに、今は全く怒りも湧かず、ただ目が離せなかった。
顎に手をかけられ上向かされる。間近で見た東藤の瞳には、怯えた自分の顔が映っていた。
「だから、勝つことに意味なんてない。むしろ今は、負ける方がメリットがある」
「負ける、メリットって…、っ!」
彼の言うメリットの意味がわかって、那智は頬を染めた。
東藤は手を離すと、那智の胸元から臍の辺りまでをツーっと人差し指でなぞる。
くすりと微笑むその瞳には、明らかな欲望の色が窺えた。
「だからこれからは…勝つことに協力はしない」
じゃあねと言って、東藤は去っていった。いつもは那智の姿が見えなくなるまで、その場で見送っているくせに。
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